株主名簿とは? 作成義務や保管の方法について解説
会社法により、すべての株式会社に作成が求められている株主名簿。
氏名・名称や住所、所有株式の数といった株主の情報が記載された書面です。
作成・整備を怠ると、100万円以下の過料が科される可能性もある株主名簿は、作成することにどのような必要性があるのでしょうか。
この記事では、株主名簿の必要性と作成義務、株主リストとの違いなどをまとめました。
更新が必要なケースや押印、管理方法といった具体的な運用ノウハウも解説しているので、株主名簿の整備を検討している担当者はぜひ参考にしてみてください。
株主名簿とは?
株主名簿とは、企業の各株主に関する基本情報を記載した帳簿のことです。
譲渡や相続により株式が変動した場合には、名簿の記載情報を適宜更新する必要があります。
会社法に基づいてすべての株式会社が作成しなければならない書類であり、株主名簿の作成・整備がなされていないと、会社法により100万円以下の過料が科される可能性もあります。
株主名簿と株主リストの違い
株主名簿と株主リストは、いずれも企業の株主の情報が記載された書面であるという点で似た存在です。
しかし、以下の二つの点で異なっています。
- 記載事項
- 作成を定める目的・法律
それぞれ詳しく見ていきましょう。
【記載事項】
株主名簿と株主リストでは、類似点もありますが若干記載内容が異なります。
下表にそれぞれの記載事項をまとめました(※一部抜粋)。
株主名簿 |
株主の氏名または名称、住所 |
株主の有する株式の数 |
|
株式の取得日 |
|
株主リスト |
株主の氏名または名称、住所 |
株主の有する株式の数 |
|
議決権の数、割合 |
株主の氏名や所有する株式数などは共通ですが、株主名簿には株式の取得日、株主リストには議決権の数や割合の記載がそれぞれ求められます。
【作成を定める目的・法律】
株主名簿は前述の通り、会社法に基づき作成が定められている書面です。その目的は、企業の株主の情報管理と権利の保護となっています。
一方で、株主リストは商業登記法の商業登記規則において定められている書面になります。
作成目的は、商業・法人登記を悪用した犯罪や違法行為の未然防止とされており、株主総会議事録の偽造や虚偽の変更登記が行われるのを防ぐために作成されるものです。
株主名簿の必要性
株主名簿の作成には、以下の必要性があります。
- 自社の株主情報の管理
- 株主情報の開示がスムーズに行える
それぞれの必要性について詳しく見ていきましょう。
1.自社の株主情報の管理
経営上、株主の存在は非常に重要なもので、企業は必ず自社の株主を把握しておかなければなりません。
例えば、自身を株主と誤認している者や、悪意を持った者からの主張・要求が起こりうる可能性もあります。
そういったトラブルを未然に防ぐためにも、株主名簿を作成し、きちんと情報を管理しておくことが重要です。
2.株主情報の開示がスムーズに行える
企業は株主から株主情報の開示請求を受けた場合、株主へ情報を開示しなければなりません。
開示義務は会社法で定められており、拒否すれば100万円以下の過料が課せられる可能性があります。
情報開示を求められた際にも、株主名簿があ ることでスムーズに開示することができます。
株主側からすれば企業に情報開示を要求し、「整理ができていないから待ってくれ」という返事がきたら、情報管理がずさんな会社なのかと不信感が生まれてもおかしくありません。
基本的に株主は企業を信頼して株を持っているので、本業以外のところで信頼を損なわないように、日頃から株主情報の管理を徹底しておく必要があります。
株主名簿の作成義務
株主名簿の作成義務は、会社法で定められています。
以下に会社法976条の一部を引用します。
- 一 この法律の規程による登記をすることを怠ったとき。
- 二 この法律の規程による公告若しくは通知をすることを怠ったとき、又は不正の公告若しくは通知をしたとき
等々
会社法976条は、おもにペナルティについての条文になります。
要約すると、役員の変更があった時から、登記すべき期間内に登記を怠った場合、あるいは登記すべき期間後に登記申請をしたとしても、代表取締役に対して裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります。
株主名簿の整備がなされていない場合も、この処分対象になり得るのです。
会社法ではなく一般法人法になりますが、一般社団法人や一般財団法人の場合も同様です。
株主名簿の変更について
記載してある情報に変更が生じた場合、企業は速やかに株主名簿を更新しなければなりません。
株主名簿の更新が必要なケースと、株主名簿の情報を抜粋して記載する株主名簿記載事項証明書について解説します。
株主名簿の記載事項の変更・更新
株主名簿は、株主の情報が変更になった時に更新の必要があります。
具体的には、以下のようなタイミングになります。
- 株主の住所が変更された場合
- 株式の相続や譲渡が発生した場合
株主から住所変更の連絡があったり、相続や譲渡による株式の移動があった場合、企業は速やかに株主名簿の内容を変更しなければなりません。
変更事由が発生した時に慌てて名簿に目を通すのではなく、決算など事業年度更新の度に、こまめに株主名簿の内容をチェックしておくのがよいでしょう。
株主名簿 記載事項証明書の発行が必要な場合
株主名簿記載事項証明書は、株主の請求があれば、会社が株主名簿からその株主に関する記載事項を抜粋して、作成・交付しなければならないと会社法で規定されている書類です。
株式の譲渡を行う際には、この書類をもって譲受人に株式所有の証明を示します。
株式記載事項証明書には所定の様式などは存在しませんが、株主名簿に記載されている次の4点については記載必須事項となっています。
- 株主の氏名または名称及び住所
- 株主の有する株式の数
- 各株式の取得年月日
- 株券を発行している場合には株券の番号
上記を記載・記録をしたうえで、代表取締役が署名や記名押印をする必要があります。
株主名簿の原本はどこにあるべきか?
作成した株主名簿は、その原本を厳重に管理する必要があります。
機密性を守りながら、株主からの情報開示要求などにもスムーズに対応するために、オススメの管理方法を企業規模ごとにご紹介します。
大企業の管理方法
大企業は中小企業より事業規模が大きく、役員も多いため、より情報の機密性・重要性が高くなります。
そのため、株主名簿は自社内で保管するよりも、信託銀行などに委託するというのが一般的です。
外部に委託することにより、管理や閲覧請求の対応などの事務負担を削減することもできます。
中小企業の管理方法
大企業のように信託銀行に元本の保管などを委託すれば、確かに事務負担は減り、安全性は高まるかもしれません。
しかし、それと引き換えに管理費用等のコストがかかってきます。
中小企業の場合は、大企業に比べて株式発行数や株主数の規模も小さいため、株主名簿も自社での管理 で事足りるケースが多いです。鍵のかかったキャビネットに入れるなどの方法で管理しています。
もちろん、信託銀行に預けてもよいですが、コストパフォーマンスに見合うか、よく吟味しながら検討するのがオススメです。
株主名簿についてのまとめ
氏名・名称、住所や所有株式の数、取得日などの株主情報を記載した株主名簿は、すべての株式会社に作成が求められているものです。
株主名簿を作成することで、トラブルを避けられたり、株主からの情報開示請求にスムーズに対応が可能となります。
株主の住所変更や株式の譲渡があれば、更新も必要となる株主名簿。
さらに、株式の譲渡においては株主名簿の記載情報を抜粋して記載した株主名簿記載事項証明書の発行が求められるケースもあり、都度企業として対応しなければなりません。
株主名簿の必要性や作成義務、運用や管理のノウハウなどをよく知り、株主状況の把握に有効となる、適性な株主名簿の作成をめざしましょう。