協定書の書き方・締結の流れ
協定書が必要になるのは、従業員・会社の代表で締結される賃金や休暇関係の協定(36協定など)や、製造物やサービスの責任範囲・業務範囲など多岐にわたります。
それぞれシーンは違いますが、様式は似たような形になり、締結の流れも概ね同じになります。
本コラムでは、協定書を作成する目的や、書き方、作成の際の注意点などについて詳しく解説します。
協定書とは
協定書とは、企業間の取引や人材を雇い入れる際に双方で合意した内容を記す書面です。
行政書士に依頼することも可能ですが、自分たちで作ることもできます。両当事者が協議しながら決めていくこともできますが、通常は一方当事者が原案を作成し、その内容をもう一方の当事者が確認していく方法が一般的です。
協定書を作成する目的
協定書は主に3つの目的を持って作成されます。作成する時にはこの目的を意識してみるとよいでしょう。
合意内容を明確にする
協定書は双方の合意内容を記すものなので、どのような条件で合意したかをまとめておくことが大切です。共同で事業を始める事業者間であれば、利益の配分方法や出資割合などがこれにあたりますし、人材を雇い入れる場合であれば、賃金や労働時間、職務内容などがこれにあたります。
トラブルが発生した際のルールを決めておく
当事者間でトラブルが発生したときは、双方の解釈の違いによって争いが長期化してしまう可能性があります。あらかじめ協定書にルールを記しておけば、その内容にしたがって対処することになるため、スピーディかつ円滑に問題を解決することができます。
法令順守
内容によっては、協定書の締結が義務付けられている場合があります。代表的なものは雇い入れ側と労働者側で結ぶ労使協定ですが、この労使協定は労働基準法に基づいて締結する必要があります。後述しますが、法令によって必ず盛り込まなければならない項目もあるため、注意が必要です。
協定書と覚書・契約書との違い
協定書も覚書・契約書もともに、二人以上の当事者が、一定の事項につきお互いに合意した内容を後日の証拠とするために作成する文書をいい、内容に具体的な相違があるわけではありません。
あえて契約書ではなく、協定書とタイトルがついた文書が作成される場合を見ると、基本的な合意内容を定める場合、や基本的事項を定めている契約書の具体的な細目を定める場合、またはあえて契約書とするのは大げさな事項を定める場合に協定書とする場合が多いようです。
また覚書とするのは、契約書や協定書で規定しなかった事項や契約書や協定書の一部を変更する場合などに使われるのが通例です。したがって、協定書とするか契約書とするか、覚書とするかは慣例に従って使い分けているだけで当事者同士の合意を文書にまとめたものという点では違いはありません。
協定書の書き方
協定書はワード文書で作成され、様式は下記のようになります。まず協定書のタイトルの下に協定当事者を挙げ、協定の目的を記述したあと、協定の内容を逐条ごとに記述していきます。
分かりやすいタイトル・見出しを入れる
一目見て協定書の内容が分かるようなタイトル・見出しを入れます。何種類もの協定書がある場合に区別がつきやすくなります。
前文を入れる
前文とは、本文に入る前の要約のことです。鏡文・鑑文と呼ばれることもあります。協定書においては、次の項目を記載するのが一般的です。
- 当事者の事業者名や氏名
- 締結日
- 締結の目的
取り決める項目を第○条として挙げて説明を入れる
当事者の間で取り決めておくべき項目を箇条書きにして挙げ、項目ごとに第○条と条数を付して列記していくことになります。
締結する年月日を必ず入れる
これは作成日現在、署名捺印した者が企業を代表する権限があったか否か、未成年や破産宣告を受けていなかったか、協定内容にかかわる法律の有効期間であったか否かを判定する基準となります。
また、協定の効力発生日を協定の中に定めなかった場合には、協定締結日が効力の発生日となりますので必ず締結日を記載する必要があります。
締結にあたる双方の署名欄を入れる
当事者が自筆する署名は筆跡のうえからも証拠能力が高いのですが、日本では通例署名に加え押印をします。署名以外の記名、押印も認められています。
協定書を作成する際の注意点
協定書の内容によっては自社に不利益な内容となったりトラブルのもととなったりすることもあるため、慎重に作成していくことが必要です。以下のような点に注意しましょう。
合意内容が明確な条文で記載されていることを確認する
協定書に書いた内容が不明確だと、解釈によって異なる見解になることがあります。当事者が同じ内容を理解できるように、明確な文言で書くことを意識しましょう。
自分(自社)にとって不当に不利な条項が含まれていないことを確認する
相手方が作成した協定書は、相手方に有利に、自分に不利になっている可能性が考えられます。作成された協定書を提示されたら、まずは法律などを照らし合わせて、自社に不利な条項がないかを確認しましょう。
法令上規定が必要な内容が漏れてないか確認する
協定書の内容によっては、法令上記載しなければならない項目があります。必要とされている項目が漏れてしまうと法令違反となってしまうため、注意が必要です。とくに労使協定は労働基準法の規制があるので、綿密に確認し、繰り返し確認することが大切です。
労使協定とは
労使協定とは、雇用者と労働組合が、労働者との間で結ぶことが義務付けられている協定書のことです。労働者の権利を侵害するおそれがある制度などを取り決めるときには、労使協定を締結しなければなりません。
労働基準法では、フレックスタイム制や休憩時間、時間外労働、有給休暇などについて労使協定を締結することを義務付けています。
36協定書に規定すべき必要事項
36協定書とは、もっとも広く知られている労使協定のひとつです。労働基準法36条に定められているため、36協定と呼ばれます。記載すべき事項には次のものがあります。
- 時間外労働・休日労働をさせることができる労働者の範囲
- 時間外労働・休日労働をさせることができる期間(以下「対象期間」) ※1年以内
- 時間外労働・休日労働をさせることができる場合
- 対象期間における、1日・1か月・1年の各期間についての時間外労働の上限時間(通常予見される時間外労働の範囲内、かつ月45時間以内に限る。以下「限度時間」)及び休日労働の上限日数
- 36協定の有効期間
- 対象期間の起算日
- 1か月当たりの時間外労働及び休日労働の合計が100時間未満であること
- 2か月・3か月・4か月・5か月・6か月の時間外労働及び休日労働の合計の月平均時間が80時間以下であること
- 限度時間を超えて労働させることができる場合
- 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康・福祉確保措置
- 限度時間を超えた労働に係る割増賃金率
- 限度時間を超えて労働させる場合の手続
また、36協定は労働基準監督署への届出が義務付けられています。届出を怠ると労働基準法違反となるため、注意が必要です。
締結までの流れ
協定を締結することになった場合、どちらが原案をまず作るかは、自社に有利に締結交渉を行ううえで極めて重要です。それは自社に有利な協定書の原案を作れるからです。相手方がその原案をそのまま認めてくれれば自社に有利な協定を締結することができます。当然相手方は先方に不利な内容は修正を要求してきます。この時、自社としては、協定の内容を絶対譲れない点と譲っても構わない点を整理しておくことが重要です。お互いに修正要求と、拒否、譲歩を繰り返すなかでお互いの主張も明確になり、先方の絶対譲れない点、譲歩しても構わない点が見えてきます。最後は、自社に有利な形で妥協点を見出し、協定をまとめ、締結することになります。
まとめ
協定書は、主に2つのパターンがあります。ひとつは事業者間で結ばれる、取引に関するもの。もうひとつは、雇用者と労働者の間で結ばれるものです。
とくに雇用者と労働者の間で結ばれる労使協定は労働基準法によって記載する内容が厳密に定められています。うっかり知らなかった、ではすまない可能性もあるため、テンプレートを活用するなどして記載事項に漏れがないように気を付けましょう。