懲戒解雇になる理由と普通退職との違い
「懲戒解雇」という言葉に、あまり良いイメージを持つ人はいないでしょう。
会社勤めをする以上、社員はその会社で決められたルールを守る義務があります。このルールに反した社員に下される処罰の一つが「懲戒解雇」です。
「一方的に辞めさせられる」という印象のある懲戒解雇ですが、実際のところはどのような理由で行われるのでしょうか。
ここでは、懲戒解雇の詳しい内容や懲戒解雇に該当する理由、比較されることの多い普通解雇との違いについて、順に解説をしていきましょう。
懲戒解雇とは?
懲戒解雇とは、雇用契約を会社と交わした社員が、実際に働くにあたり守らなければならない社内ルールに違反をした際に下される「懲戒処分」の一つです。
労働契約法15条では、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定められています。つまり、懲戒処分が認められるケースとしては、
・客観的かつ合理的な処分の理由があること
・社会通念上相当であると認められること
の2つの要件が求められます。
懲戒処分にはいくつかの種類があります。処分が軽い順から次の通りです。
① 戒告(かいこく):口頭で注意をすること
② 譴責(けんせき):始末書を提出させたり・ルール遵守の誓約を交わしたりすること
③ 減給:社員が起こした内容に応じて、給料の一部を控除すること
④ 出勤停止:必要とされる期間は出勤をさせず、自宅で待機させること
⑤ 降格:役職などを下の位に下げること
⑥ 普通解雇:①~⑤の処分でも勤務態度等が改善しなかった場合に下される解雇処分
⑦ 諭旨(ゆし)解雇:懲戒解雇に相当する内容ではあるものの、会社・社員間の話し合いの末、解雇という情状酌量の措置が下されること
⑧ 懲戒解雇:会社が社員を一方的に解雇すること
上記のように、懲戒解雇は懲戒処分の中で最も重い処分にあたり、話し合いの場を設ける余地もなく「即座に」解雇を言い渡すことになります。懲戒解雇は、よほどの重大な罪を犯した社員に対して行われることが予想できるでしょう。言い換えると、安易に懲戒解雇を行ってはいけないということにもなります。
懲戒解雇と普通解雇の違い
前述の通り、懲戒解雇と普通解雇では、内容や処分の重さが全く異なります。
普通解雇は、何らかの理由で労働契約を維持していくことが難しい事情がある場合に認められる解雇処分で、次のようなケースに該当した場合に限り、普通解雇の処分が行われることになります。
① 勤務態度に問題があり、上司が何度指導を行っても改善の兆しがみられない場合
② 身体的な問題により休職中で、当面の回復の見通しがつかない場合
③ 他の社員とのいざこざが絶えず、協調性に問題があることで業務に支障が生じており、改善の兆しがみられない場合
なお、普通解雇を実施する場合は、会社側は通例として解雇予告をしなければなりません。
解雇予告とは、解雇をする社員に対して解雇日時を伝えるもので、少なくとも30日前には行う必要があります。もし、30日前までに予告をしなかった場合、会社は解雇予告日から実際の解雇日までの期間で、30日に満たない日数分の解雇予告手当を支払わなければなりません。
一方、懲戒解雇は、社員が普通解雇と比較しても「極めて悪質な行為」を犯した場合に行われる解雇処分です。
ここで重要なのは、懲戒解雇に相当する「極めて悪質な行為」について、会社側はあらかじめ就業規則や雇用契約書などに定めておかなければならないということです。このルールがない状態で、会社が社員に懲戒解雇処分を下したとしても「権利の濫用」扱いとして無効になるケースがあります。
なお、懲戒解雇に相当する罪を社員が犯した場合、その罪の内容が「解雇予告除外認定基準」に該当する可能性があります。解雇予告除外認定基準とは、社員側に責任があり、会社側の解雇予告や解雇予告手当の支払いが必要ない事由として定められています。内容は以下の通りです。
① 会社内における窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
② 賭博や職場の風紀、規律を乱すような行為により、他の従業員に悪影響を及ぼす場合
③ 採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
④ 他の事業へ転職した場合
⑤ 2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
⑥ 遅刻、欠勤が多く、数回にわたって注意を受けても改めない場合
引用:東京労働局リーフレット「しっかりマスター労働基準法 解雇編」
この内容に相当する罪を社員が犯した場合は、解雇予告の手続きなしに即時解雇をすることが認められています。ただし、除外認定を受けるためには、会社側が労働基準監督署へ解雇予告除外認定申請を行い、認定を受ける必要がある点に注意が必要です。
どんな場合に懲戒解雇になりえる?
続いて懲戒解雇が認められるケースについて解説をしていきます。懲戒解雇に相当する理由としては、主に次の内容が挙げられます。先に述べた解雇予告除外認定基準の要件とリンクする部分があるので、気を付けながら見ていきましょう。
① 経理の不正改ざんや会社の資金持ち出しなどの窃盗行為
② 傷害事件など、刑事上で罰せられる行為
③ 経歴詐称、資格を要する職務で無資格のまま活動していた行為
④ 理由がないまま無断欠勤し、催促にも応じないまま2週間以上が経過した場合
⑤ 遅刻や無断欠席が相次ぎ、注意勧告や懲戒処分を重ねたにもかかわらず改善しない場合
⑥ 極めて悪質なセクハラ・パワハラ行為
⑦ その他懲戒処分を繰り返すものの、改善がみられない場合
上記の内容によれば、社員が犯した違反行為の中でも特に悪質で、故意なものに限られることが読み取れます。したがって、単に「仕事ができない」「態度が悪い」などの理由で懲戒解雇を行うことはできません。
懲戒解雇を宣告されたときの対処法
最後に、ここでは実際に懲戒解雇を受けてしまった場合の対処法について説明をしましょう。
実際に言い渡された場合は事前に覚悟をしていたか否かに関わらず、それなりのショックを受けることでしょう。しかし、ひとまず落ち着いてまずは、懲戒解雇の理由を確認するため、会社側に「解雇通知」を求めます。解雇通知とは、会社が社員との労働契約を解除することを通知する書面です。
≫【解雇通知の書き方と雛形】
解雇通知を受け取ったら、その内容が就業規則に実際に定められているかを確認します。
もしも内容に相違がある場合は不当解雇に該当する可能性がありますので、会社側に問い合わせましょう。
実際に解雇日が確定し、辞めることになった場合に覚えておくポイントとしては、まず保有している有給休暇の権利についてです。有給休暇は一定期間働いたことに対する権利であるため、解雇予告を受けた後でも退職日までの間ならば残日数を消化することができます。ただし、有給休暇を取得した日は出勤日扱いとなるため、解雇予告手当は支払われないことに注意が必要です。
また、退職金については会社の退職金の規程に従います。懲戒解雇を受けた社員に対する退職金の支払ルール(支払わない・減額して支払う)が存在する場合は、そのルールが適用となります。
まとめ
今回は、懲戒解雇についてさまざまな解説をしてきましたが、懲戒解雇は簡単に実施されるものではなく、法律や就業規則などに沿った厳正な形で行われます。
懲戒解雇を実際に行うためには、社内ルールの整備や社員の処分内容の事前検討、処分後の手続きなど、さまざまな対処が必要です。
たとえ適正な対応であっても社員が不服に思い、後に労使トラブルになるケースも少なくありません。会社と社員の将来に影響する可能性がある重大な処分であると理解した上で実施されることが何よりも重要となるでしょう。