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消費税のインボイス制度

消費税のインボイス制度

近年、消費税の大改正が進みました。そして2021年10月、改正の大本命ともいえる「インボイス制度」に向けた本格的な準備が始まります。

今回は消費税改正のこれまでの流れと、インボイス制度の概要について確認します。

インボイスをわかりやすく解説した特集はこちらです。


この記事の著者
  税理士 
消費税のインボイス制度を解説

消費税の概要について確認する

インボイス制度について理解するためには、まず消費税の概要を把握する必要があります。消費税には、間接税と呼ばれる仕組みが採用されています。

間接税:税金を負担する人と納税する人が別。具体的な税目としては消費税、酒税、タバコ税などがあります。

消費税の負担者は、私達消費者ひとりひとりです。一方、納税をするのは消費者からの税金を集めた事業者です。税金の負担者と納税者が異なるのが間接税の特徴です。

ここで問題になるのは、各事業者がどのように納税額を計算するのか?という点です。消費税の納税額計算は、大まかに以下のような仕組みとなっています。

計算例)ある法人A社の一年間の収益費用の状況は以下の通り(消費税率はすべて10%とする)。

売上:11,000万円(すべて課税売上)
費用:6,400万円(うち、人件費など消費税がかからない経費が2,000万円)

この事例の場合、A社は売上計上にあわせて、1,000万円の消費税を預かっています。
一方、経費側では消費税のかかっている経費が4,400万円、消費税のかかっていない経費が2,000万円ですので、経費と一緒に支払った消費税は400万円です。

そこで、A社が税務署に納める消費税は、以下のように計算します。

預かった消費税1,000万円 - 支払った消費税400万円 = 納税額600万円

これが消費税の納税額を計算する仕組みの概要です。なお、上記計算式には例外があり、小規模な事業者向けの「簡易課税」と呼ばれる制度があります。今回の記事では解説を省かせていただきます。

消費税対応の書式テンプレート


多段階税率の採用

ご存知の通り、ここ何年かをかけて、消費税率は5%→8%→10%と少しずつ引き上げられてきました。そして2019年10月、大きな改正が実施されました。それが軽減税率制度です。

ご存知の通り、軽減税率では食料品や新聞等に対して、本来の10%ではなく8%の軽減税率が適用されています。その結果、消費税を納める必要がある納税義務者(事業者)は、経理処理をする際にその区分をする必要が出てきました。

計算例)酒類を提供している飲食店B社。店内での飲食の他、テイクアウトにも注力している。

売上:10,940万円(10%課税で店内での売上7,700万円。8%課税でテイクアウト3,240万円)
経費:6,360万円(8%課税で食材仕入2,160万円。10%課税で酒類や消耗品2,200万円。人件費など課税外の経費が2,000万円)

このとき、B社の納税額を計算するとこのようになります。

預かった消費税=10%課税分で700万円。8%課税分で240万円。計940万円。
支払った消費税=10%課税分で200万円。8%課税分で160万円。計360万円。
納税額 = 940万円 ― 360万円 = 580万円

先程のA社の事例に比べると、かなり複雑に感じられるのではないでしょうか?多段階の税率が採用されたことにより、収益や費用について税率ごとに区分し、集計を取れるような仕組みを用意する必要が出てきました。そこで、2019年10月以降「区分記載請求書等保存方式」が採用されるようになりました。

参考:政府広報オンライン「区分記載請求書等保存方式(令和元年10月1日~令和5年9月30日)」

簡単にいうと、領収書や請求書に「税率ごとに区分された取引金額」を記載しなければならないのです。コンビニやスーパーで受け取るレシートも、区分記載がされています。

これが2021年5月時点での現状です。

区分記載方式の書式テンプレート


2023年10月からインボイス制度へ変更

ここまでの流れが理解できた上で、インボイス制度について改めて見てみましょう。

これまで、日本の消費税では「だれに経費(仕入れや消耗品、サービスを受ける等)を支払っても納税額計算に影響はない」という仕組みでした。上で紹介したA社もB社も、支払先の情報は特に取り上げていません。それが、2023年10月からは以下のように取り扱いが変わります。

計算例)食材を含めた小売をしているC社。仕入先は大手卸売から小さな個人事業主まで色々。2023年10月以降の取り扱いに準ずる。

売上:10,940万円(10%課税で売上7,700万円。8%課税で売上3,240万円)
経費:6,360万円(8%課税で食材仕入2,160万円。10%課税で酒類や消耗品2,200万円。そのうちインボイス不発行の小さな個人商店からの仕入れが550万円。人件費など課税外の経費が2,000万円)

B社の事例では、納税額は940万円 ― 360万円 = 580万円でした。しかし、インボイス制度開始以降、赤字で記載された部分の取り扱いが変わります。

納税額 = 940万円 ―(310万円※)= 630万円

※不発行者から仕入れた550万円は控除対象外。従って控除額は150万円(10%分)+ 160万円(8%分)で310万円。

B社よりC社の方が、納税額が50万円増えています。これは、仕入先がインボイスの不発行者であったことによります。インボイス(日本語では「適格請求書」といいます)には、以下のような情報が記載されます。

「区分記載請求書」に「登録番号」「適用税率」及び「消費税額等」の記載が追加された書類やデータ(国税庁サイトより転載)

登録番号が所持できるのは、消費税の課税事業者だけです。言い換えると、インボイスは「消費税の納めている、消費税用の登録番号を保有している事業者」が発行できます。つまりインボイス制度というのは、

事業者が納税額を計算するときに、消費税の登録番号を持たないインボイス不発行の人から仕入れた分については、納税額の計算から除外してください。

このような制度です。つまり、仕入先がインボイス発行業者か不発行者かによって、税額控除の金額が変わってしまい、納税額に影響が出ます。

※実際にはしばらくの間、インボイス不発行者からの仕入れについても一定割合で控除が適用されますが、今回の説明では割愛します。


この制度変更については、仕入れる側(上記例ならばC社)、売り上げる側(上記例ならばインボイス不発行の者)の両面から考察する必要があります。


C社:インボイス不発行の者から仕入れる分について、税額控除が適用できないので、その分の納税資金を確保しておかないといけない。場合によっては「不発行業者との取引」について整理することも検討が必要。

売り上げる側:インボイスが発行できないことで、取引先から不利な取り扱いを受ける可能性がある。現在が免税事業者であるならば、自主的に課税事業者になることを検討することも必要になるかもしれない。


インボイス制度の稼働に合わせ、小規模な事業者(建設の一人親方、理美容業、物流、スポーツインストラクター、ライター業その他諸々)に大きな影響が出ると言われています。

この辺りの基礎知識を持った上で、国税庁のサイトをお読み頂けると良いかと思います。

そして2021年10月から、インボイスを発行できるようになるために必要な消費税の登録番号についての申請が開始されます。ここまでの話を踏まえて、現時点で免税事業者の方は、登録番号の申請、つまり消費税の課税事業者になるか否かを検討する必要があります。

インボイス制度(適格方式)の書式テンプレート


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著者プロフィール

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髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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