第3回 免責事項の事例 その2:ダイビングスク ール
損失を回避する免責事項の書き方ガイド
【第1回、第2回、第3回、第4回】
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いろいろな業種の免責事項を見て学んでいきましょう
前回から3回にわけて書式の例をご紹介し、その書式に記載されている免責事項について解説を行なっています。今回取り上げるのは、ダイビングスクールの「免責同意書」です。ダイビングスクールでダイビングを学ぶにあたってどんなトラブルが発生するのか、そしてそれに対してどのような免責事項を設けることによってトラブルを回避しようとしているのか、そして今回はさらに、受講者が免責同意書に署名すればスクール側は何でも免責されてしまうのか、という点も取り上げています。それでは免責同意書を見ていくことにいたしましょう。
リスクも大きいサービスだからこそ免責事項が重要
ダイビングは、前回のエステサロンよりもさらに身体に対する危険度合いが高まります。同意書の記述を見てみると、「減圧症、塞栓症その他の高圧による傷害」「再圧チャンバーにおける治療を必要とする傷害」さらには「心臓発作、パニック状態、水死」など生命の危機に関するトラブルまでが考えられます。その結果、被害を受けた受講者またはその遺族がスクールに対して損害賠償請求訴訟を起こした場合、スクールに対して巨額の賠償額の支払いを命ずる可能性があります。ですので、スクールは免責事項をあらかじめお客様に提示し、ダイビングを行なうことのリスクを承知したということについて署名捺印することで保証してもらい、トラブルになることを回避しようとしています。
免責する内容を包括できる規定に
それでは実際に「ダイビング免責同意書」を見ていきましょう。この同意書では考えられるトラブルにつき含みを持たせる形で列挙し、いずれにおいてもスクール側は責任を負わないという形をとっています。たとえば、「コースへの参加が許可されたことを考慮して、学科講習、限定水域やオープンウォーターでのトレーニングなど、このコースに生徒ダイバーとして参加している間に私に生ずる可能性のあるいかなる傷害その他の損害」のように具体的でありながらも、「いかなる」という言葉を用いて、該当する可能性を広げています。このように免責事項を文書化する場合、提供するサービスを1つずつ順を追って振り返り、どんな危険性があるかを想像して記載するとともに、具体的な記載がなくとも包括できるような規定にすることが大切です。
免責事項自体の有効性も書面の中で確認
そして、前回のエステサロンの書面と同様に、「成年に達しており、この免責同意書に署名する資格があるか、または私の親権者、保護者の文書による同意を得ています。」と書かれており、未成年者であることを理由にした取消を避けています。また、次の段落では「ここに記載されている条件が契約であって単に注意書きにとどまるものではないことを理解しており、本書によって私の法的な権利を放棄することを承知のうえで私の自由意志でこの書式に署名するものです。」としており、前半では契約が成立していること自体を、後半ではスクール側が詐欺によって署名させたり無理やり署名させたものではないことを、それぞれ確認させています。なお、詐欺による署名や無理やり署名をさせた場合、署名した受講者は後で取り消すことができます。
署名があれば何でも免責されるとは限らない
しかし、この免責同意書には「死亡の一切の責任を免除することに同意いたします」という記述がありますが、その記述のある免責同意書に署名してあればたとえ何があってもスクール側は免責されるのでしょうか――。判例を見てみましょう。1人のインストラクターが6人の受講生を引率した際にそのうちの1人が死亡した事故について争われた裁判では、「人間の生命・身体のような極めて重大な法益に関し、一切の責任追及を予め放棄するという免責同意書は、少なくともその限度で公序良俗に反して無効」という判決が出されています。この場合はインストラクターが6人の受講生を監視し切れておらず、監視方法に問題があったとしております。免責同意書があれば何でも免責されるとは限らないのです。
<続く>
提供元:ドリームゲート