委任状の基礎知識と活用シーン
不動産を売却するような重大な事柄を委任する場合には、極めて慎重に対応すべきことは言うまでもありません。
例えば、専門家である宅建業者さんに不動産の売却を委任するような場合であっても、以下のように多岐にわたる項目を宅建業法上、委任状に記載することが求められます。
- 売買物件の表示
- 売却条件(価格、手付金の額、手付解除期限、融資未承認の場合の解除期限、違約金の額、公租公課の分担起算日、金銭の取扱い、決済・引渡日、所有権移転登記申請手続)
- 禁止事項
- 有効期間
- 解除に関する事項
- 指定流通機構への登録等
- 業務報告
- 報酬
- その他の代理権限(領収書の発行、受領等)
これらはそのまま委任契約書の内容にもなるレベルですが、相手が専門家でも、このレベルの内容が求められるということを認識する必要があります。
ましてや、資格を持っている宅建業者や司法書士、弁護士のような専門家ではない第三者に売却を委任するような場合には、十分注意を払って委任状を作成する必要があります。
それらの視点を持って、参考書式を見てみましょう。
物件の表示は登記簿謄本を見て正確に!
どのような取引でも、その目的物は極めて重要です。
ですから、この書式でも対象となる物件(目的物)については、きちんと登記簿に記載されている項目が列挙され、厳密に物件が特定される形で表示されています。
取引の要素の部分ですので、ここは丁寧に、正確に登記簿謄本を見て写しましょう。
尚、この部分を省略して白紙の状態で第三者に交付すると、依頼してもいない物件を売却されたり、購入されたりするのに使われるという恐れがでてきます。
このような無権代理行為に悪用される委任状の大半は、白紙委任の状態を利用したものです。
白紙委任状を交付し、第三者が悪用すれば、白紙委任状を交付した本人にも一定の責任が問われる可能性が出てくるなど、思いもよらないトラブルに巻き込まれることもありますので、十分注意してください。
各委任事項はできる限りわかりやすく、具体的に!しかも制限的に!!
今回ご紹介した書式では、委任者が物件を売りたいのか、買いたいのかといった点が読み取れない恐れがあります。
誰が見ても権限の内容が明らかになるようタイトルは「売買契約に関する権限」ではなく、「売却に関する権限」と絞るのが望ましいです。
また、第三者が完全に一任できる相手であるとか、既に売買の条件等が決まっていて手続だけを依頼するケースであればこの書式のままでもよいのでしょうが、一般的に、売却といっても“売買金額、手付、解除条項、違約金条項、解除に関する条項等”といった諸条件を決める必要がありますので、もう少し売却の条件を付加して代理権限を狭めないと何でも自由に処分されてしまうリスクがつきまといます。
つまり、各委任事項を制限的に記載することで、そのリスクを軽減させる必要があります。
委任事項の網羅性とのバランス
各委任事項を制限的に記載してリスクを回避すべきことは上述の通りですが、委任事項の項目数も制限的に記載したのでは、その目的を達成できないおそれがあります。
そこで、委任事項の項目には、その取引全体を考慮した網羅性が求められます。
例えば、この書式には、
①売買に関する権限
②登記に関する権限
③代金受領に関する権限
④その他の権限
が付与されていますが、これは“売買契約→代金の支払い→登記、その他書類に授受”といった不動産の取引全体を考慮した項目が網羅的に付与されています。
委任する以上、想像力を働かせてその取引全体に何が必要かを考え、項目を広めにすることでいちいち委任状を発行する手間(この方が悪用のリスクは軽減されます)を省くことが必要な場面もあります。
委任状を悪用されるリスクとなるべく委任状で全てが終わるようにするための利便性とのバランスということになります。それぞれの取引の重要性を考慮した、バランスの取れた委任状を作成することがポイントになります。
例えば、不動産のように高額な目的物の取引の場合には、リスクを回避するために、各委任事項も限定し、網羅性も犠牲にして複数枚の委任状を用意するということも十分あり得ます。しかし、それほど重要な取引ではない場合、手間を省くために一枚の委任状に複数の委任事項を盛り込むこともあり得るというわけです。
今回のポイント
ポイント(1)
不動産売却の委任状の記載内容は、登記簿謄本等を参照して正確に。
ポイント(2)
委任状には特に決まったフォーマットは無いが、盛り込む要素はある程度決まったものになる。
ポイント(3)
委任内容は限定的に与えることが重要。白紙委任は避ける。