粉飾決算とは? 手法や起きる原因・事例・罰則を解説
テレビのニュースや新聞などで、「粉飾決算」という言葉を見聞きすることは多いでしょう。
不正な経理処理によって企業の財務諸表を操作する粉飾決算は、顧客や株主だけでなく一般消費者を裏切る行為でもあり、決して許されるものではありません。
また、株式会社東京商工リサーチによると、2021年4月から2022年3月に「不適切な会計・経理」を開示した上場企業のケースは55社にのぼり、そのうち約半数にあたる26件は経理や会計処理ミスなどの誤りが原因で発生したものです。
この記事では、粉飾決算の手法や粉飾決算が起きる原因、事例、罰則などをわかりやすく解説します。粉飾決算を見抜く方法や、粉飾決算を防止するために企業ができることについても説明しますので、ぜひ参考にしてください。
粉飾決算とは
粉飾決算とは、会社の業績を実際よりも良く見せようとするために、売上を多く見せたり、経費を少なく見せたりする方法で、財務諸表を操作することをいいます。
一方で、会社の業績を少なく見せるために、売上を少なく見せたり、経費を多く見せたりすることを逆粉飾決算と呼びます。
どちらも決して望ましい行為ではなく、特に粉飾決算は重大な不正行為です。会社の信用を失墜させ、存続の危機に陥る原因にもなります。
粉飾決算・逆粉飾決算の手法
「粉飾決算」「逆粉飾決算」には、大きく分けてそれぞれ4種類の手法があります。
1.粉飾決算
循環取引
複数の会社が共謀して商品を順々に販売し、売上を大きく見せる手法です。利益率が低い場合でも売上が伸びていれば、成長している会社であるように装えます。
架空の売上を計上
架空の売上を計上し、売上を実際より多く見せる手法です。ただし、売上の回収がないため、売掛債権などが多く残ってきます。徐々に売上債権回転率が悪化し、決算書を分析すると取引先の信用不安が想像されるでしょう。
架空の在庫を計上
架空の在庫を計上し、粗利益を実際より多く見せる手法です。売上減少局面で行われることが多く、売り上げが減少しているにも関わらず粗利益が増えるため、売上高総利益率が大きくなります。在庫回転率が悪くなり、辻褄が合わなくなります。
融通手形を切る
複数社が共謀し、実体のない支払手形を発行する手法です。それぞれの会社は受け取った手形を架空売上とし、振り出した手形を一部は仕入に、一部は固定資産の取得などにして、資金繰りと粉飾決算を目的として行われることもあります。
2. 逆粉飾決算
人為的に在庫を減少
在庫を圧縮して計上することで売上高総利益率が下がり、利益そのものを圧縮できます。ただし、減らす方は最小でもゼロにしかできず、自ずと限界はあります。
架空仕入の計上
架空の仕入を計上することにより、売上高総利益率を下げることができ、利益そのものを圧縮できます。しかし、買掛金が多くなるため、買掛金の支払サイクルがおかしくなります。
架空の仕入を隠ぺいするために、買掛金から社長借入金に振り替えて、不自然な数字にならないように調整されている場合が多いでしょう。
売上を翌期に計上
売上計上を期ずれにして利益を少なく見せる方法です。売上の計上時期のみをごまかすため、比較的判明しづらい方法といえますが、逆粉飾決算できる金額は限定的になります。
複数の調整を同時に行う
粉飾決算にも逆粉飾決算にもいえることですが、単一の方法のみで調整するのではなく、複数の方法を採用していることが多いといえます。多くの手段を少しずつ採用することによって生じる決算書の矛盾は小さくなり、判明しづらくなります。
粉飾決算が行われる理由・原因
粉飾決算が行われる理由や原因には、どのようなものがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
1. 融資を受けるため
金融機関から融資を受ける際は決算書の提出を求められます。黒字決算の方が赤字決算よりも融資を受けやすくなるだけでなく、返済条件や金利にも影響することが考えられるため、粉飾決算につながるケースがあります。
決算書をきれいに見せたいと思う心情があっても、粉飾決済は決して行ってはいけません。
2. 税金を減額するため
会社に利益が出ていると、法人税の負担が生じます。利益を少なく見せることで、税金の支払いを免れようとするのも粉飾決済が行われる理由のひとつです。これも不正行為なのでやめましょう。
3. 上場を維持するため
上場会社の場合、業績の良し悪しが自社株価の上下動につながり、株式の価値に影響が出てしまいます。債務超過に陥った場合は上場廃止になる可能性もあり、自社株式が自由に売買できなくなることで株式の価値が大きく毀損します。
粉飾決算によって問われる罰則
粉飾決算によって問われる罰則には次のようなものがあります。
- 詐欺罪
- 違法配当罪
- 特別背任罪
- 有価証券報告書虚偽記載罪
- 計算書類等虚偽記載罪
粉飾決算は重大な犯罪です。次章で、粉飾決算の実例を見ていきましょう。
実際に起きた粉飾決算の事例
世間に名前が知られた大企業が粉飾決算を行っていた事例も、決して珍しいものではありません。ここでは、実際に起きた粉飾決算の事例を紹介します。
1. 株式会社東芝
株式会社東芝による粉飾決済は、企業の体面を保つためになりふり構わず利益の底上げをしたことが発端と考えられます。
在庫評価を多く見積もって利益を計上しただけでなく、各事業の評価を多く見積もったことにより、著しく実態とかけ離れた業績になってしまいました。
単独の処理というより、企業そのものの体質に問題があったと考えられます。
出典:日経BizGate
2. オリンパス株式会社
オリンパスによる粉飾決算は、発生していた損失をほかと付け替え、実現の時期を先延ばしすることにより、損失の発生を遅らせていたことが問題であるといえます。
このような手法は、「飛ばし」と呼ばれ、ほかの企業でも横行していましたが、オリンパスの場合は規模が大きかったことが問題視されました。
決算書から粉飾決算を見抜く方法
ここでは、決算書から粉飾決算を見抜く方法を解説します。
売上原価から確認
粉飾決算は架空の売上の計上や在庫の水増しなどによって、売上総利益を操作して実現させることが多いため、売上高総利益率の推移から見抜けると考えられます。
売上が変動するような要因がないにも関わらず大きく上下動が発生した場合には、不正が行われた可能性が否定できません。
売上回転率から確認
売上回転率の悪化はまず、得意先の信用不安による回収悪化が要因として考えられます。この場合、特定の得意先の数値が悪化していることが想像できますが、全体的に悪化している場合は粉飾決算を行っている可能性があります。
架空経理によって売掛金を不正に水増ししていても入金は起こらないため、売掛債権は減らず膨らんでいくことから、粉飾決済を見抜けます。
決算の矛盾性を見る
それぞれの会社の決算には、業界や会社の姿勢、経営者の考え方がもとになった特有の経営数値があります。経営環境に大きな変化がない限り、それらの大幅な変動は考えにくいといえるでしょう。
不正経理を行うことによって、財務諸表上、無理が出てくるため、しわ寄せが来ている部分から粉飾決算を見破ることができます。
粉飾決算を防ぐために企業ができる対策
ここでは、粉飾決算を防ぐために企業ができる対策を解説します。
社内の体制を強化する
会社のモニタリング機能を強化することによって、粉飾決算を未然に回避できます。
監査法人のチェックを受けた際に粉飾決算が判明したり、監査手続きの中で取引先に対して残高確認書を発送することによって矛盾が発覚したりすることもあります。
内部監査室が業務チェックを行う体制を作ることで、粉飾決算を行う余地を減らせます。
日々の資金繰りを可視化する
日々の資金繰りを可視化しておけば、粉飾決算が行われた際に資金繰りと経営成績が一致していないことが明確になります。
また、資金繰りの推移から利益の推移がある程度予想できるようになるため、不正経理をすることが非常に難しい状況が生まれます。
粉飾決算についてのまとめ
粉飾決算の手法や粉飾決算が起きる原因、事例、罰則などをわかりやすく解説しました。
粉飾決算は、たとえ過失であっても問題になることがあります。企業の担当者はモニタリング体制を整え、異変を速やかに察知できるようにすることが大切です。
財務状況を可能な限り「見える化」し、社内の監視を強化することで危機感を高めましょう。
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