流動負債とは? 固定負債との違いや該当する勘定科目、活用できる経営指標
企業の財務状況は、貸借対照表上の資産・負債・純資産によって把握できます。
負債は「固定負債」と「流動負債」に分けることが可能で、それぞれの意味を把握することで、経営分析がスムーズかつ的確に行えるようになります。
この記事では、流動負債の意味や勘定科目の種類、活用できる経営指標などについて解説します。
流動負債とは
企業の負債は、固定負債と流動負債に分けられます。流動負債とは、企業の通常の営業活動によって生じた負債や、1年以内に支払いの期限が到来する債務のことです。
貸借対照表での位置付け
貸借対照表上、流動負債は「負債の部」に記載します。また、貸借対照表には、「流動性配列法」が適用され、流動性の高い項目を上から順に書くのが基本的なルールです。
短期間で支払いの期限を迎える、もしくは現金化または費用化する予定がある流動資産は、負債の部の上のほうに記載します。
固定負債との違いと区別する必要性
企業の負債を固定負債と流動負債に分けるのは、財務状況がわかりやすくなるからです。
流動負債は、通常の営業活動によって生じた負債や、1年以内に支払いの期限を迎える債務を指すことから、短期的なお金の動きが生じます。金額が大きくなると資産繰りに影響し、場合によっては支払いが難しくなることもあるでしょう。
対して固定負債は流動性が低く、支払期限までに余裕があるため、固定負債の割合が多いと企業の資金繰りが安定しやすくなります。
負債を固定負債と流動負債に分けることで、金融機関や取引先といった外部の機関が企業の財務状況を正確に把握できます。また、自社の事業戦略も策定しやすくなるメリットがあります。
流動負債と判断される2つの基準
ここでは、流動負債を判断するための2つの基準を解説します。
①正常営業循環基準
正常営業循環基準は、企業の資産・負債を「流動資産」と「流動負債」に区分するための基準の一つです。
営業活動では、商品が売れた段階で在庫がなくなり、その対価として現金や売掛金が増えるなどの動きが生じます。このように、仕入れ→販売→現金の獲得という通常の営業活動によって生じた資産・負債は、「流動資産」もしくは「流動負債」に区分します。
②1年基準
流動資産と流動負債を区分する方法には、1年以内に支払いの期限が到来する債務を流動負債とする「1年基準(ワン・イヤー・ルール)」もありますが、日本においては正常営業循環基準が優先されます。正常営業循環基準に該当しないものは、1年基準で判断します。
固定負債に区分された負債も、支払期限が1年以内になったものは流動負債に区分します。
流動負債に該当する主な勘定科目
ここでは、流動負債に分類される主な勘定科目を紹介します。
買掛金
買掛金は、仕入れた材料や商品・サービスの購入代金をあとから支払う場合に使用する勘定科目です。支払いまでの期間は、1か月から数か月と比較的短いのが特徴です。
短期借入金
短期借入金とは、返済期限が1年以内に設定された借入金のことです。借入金には、返済期限が1年以内の「短期借入金」と、1年を超える「長期借入金」があります。
長期借入金(1年以内に返済予定のもの)
長期借入金は固定負債に区分される勘定科目ですが、支払いを続けていくと時間の経過で返済期限が1年以内になります。1年以内に返済予定の長期借入金は、流動負債に区分します。
期間経過とともに1年以内になった返済金部分が、長期借入金から1年以内に返済予定の長期借入金に振り替えられるイメージです。
支払手形
手形とは、記載されている期日までに支払いを行うことを約束するために発行する証書のことを指します。手形で支払う債務を「支払手形」といい、支払いの期限を延ばすことが可能です。
支払手形は、企業の主たる営業活動において発行される手形のことをいい、それ以外の手形は「営業外支払手形」になります。
未払金
未払金は、本業の営業取引以外の非継続的な取引から生じる、一時的な債務を計上するための勘定科目です。
営業活動に直接関係しない物品などを後払いで購入した際に用います。有価証券などの購入代金、事務作業に使用する消耗品や工具などが該当します。
未払費用
未払費用は、継続的にサービスを受けており、その対価を支払っていない場合に用いる勘定科目です。
未払金と同様に、本業の営業取引以外で生じた債務を表しますが、未払金が「非継続的な」取引から生じるのに対して、未払費用はサービスを受けている最中に発生するのが特徴です。
具体的には、水道光熱費や保険料、従業員への給与などがあげられます。
前受金
前受金とは、商品やサービスを提供する前に販売先から受け取る代金のことです。
「内金」や「手付金」といわれるものが前受金になります。前受金によって、商品やサービスを提供する義務が生じることから、負債に区分されます。
前受収益
翌期に受け取る予定の利益を今期に受け取った場合、前受収益と呼ばれる勘定科目で計上します。
主に決算期に用いられる勘定科目で、まだ提供していない商品やサービスに対して、事前に受け取った代金を処理する科目です。
そのため、商品やサービスを提供するまでの間は負債に区分されます。
預り金
預り金とは、第三者への支払いのために、役員や従業員、取引先などから一時的に預かった金銭のことです。
将来的には現金が減少し、通常は1年以内に支払いが完了することから流動負債に区分されます。
賞与引当金
賞与引当金とは、翌期以降の賞与のうち、今期に起因する費用分を計上する引当金のことです。賞与の支給対象期間が決算日をまたぐ場合に計上します。
流動負債を活用できる経営・財務指標
流動負債から求められる経営指標には、どのようなものがあるのでしょうか。計算方法や分析方法とあわせて紹介します。
流動比率
流動比率とは、流動資産の額を流動負債の額で割ったものです。資産の額がどの程度負債をまかなえるかを示したもので、資金繰りの余力を判断するための指標といえます。
計算式は以下の通りです。
流動比率(%)= 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
流動資産の額が流動資産の額を超えている場合は100%以上になります。
1年以内に返済しなければならない流動負債よりも、流動資産の額のほうが大きいことがわかります。
流動比率は150%以上あることが望ましいとされており、経営の安全性を示す一つの基準です。流動負債の1.5倍以上の流動資産を確保することを目指しましょう。
当座比率
当座比率とは、当座資産の額を流動負債の額で割ったものです。すぐに現金化しやすい債権を当座資産といい、預貯金や売掛金、受取手形などが当座資産に該当します。
流動比率よりも、さらに短期的な債務の返済能力を示す指標です。
計算式は次のようになります。
当座比率(%)= 当座資産 ÷ 流動負債 × 100
当座比率が100%を超えていれば、資産を現金化することで短期的な負債をまかなえるため、財務面で安全性が高いと考えられます。
現金預金比率
現預金比率とは、現金預金の額を流動負債の額で割ったものです。比率が高いほど流動負債に対して現預金(現金と預金)が多いことを意味し、短期的な支払い能力を示す指標になります。
計算式は以下の通りです。
現金預金比率(%)= 現金預金 ÷ 流動負債 × 100
現金は、特に差し迫った支払いがある場合に役立ちます。緊急時の資金繰りの能力をはかるのに用いることが多く、通常時に現金預金比率を指標にすることは少ないでしょう。
預金が現金化しやすいかどうかも、現金預金比率を評価する際のポイントです。
なお、定期預金などの長期性貯金には、1年基準(ワン・イヤー・ルール)が適用されます。
流動負債についてのまとめ
流動負債は、通常の営業活動によって生じた負債や、1年以内に支払いの期限を迎える債務を指し、固定負債と区別して把握しておくことで短期的な資金繰りに役立ちます。
貸借対照表や損益計算書を、さまざまな経営指標で分析して、バランスのよい経営を目指しましょう。
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