残業代の計算方法は? 割増率や勤務体系ごとの正しい計算方法について解説
残業代は、時間外労働をする従業員に対して使用者が必ず支払わなければならない賃金です。
この記事では、残業代が発生するケースや残業代の種類を確認したうえで、深夜や休日に働かせた場合の残業代、勤務体系ごとの残業代の計算方法を解説します。
残業代とは
残業には「法定時間外残業」と「法定内残業」の2種類があります。残業代とは、これらの残業に対して支払う賃金のことです。
残業代の基本的な考え方
従業員が法律で定められた「法定労働時間」を超えて働く場合には、使用者は残業代として25%以上の割増率で計算した賃金を支給しなければなりません。
法定労働時間とは、労働基準法第32条で「1日8時間、週40時間」と定められている労働時間の上限のことです。
従業員が就業規則などで定めている「所定労働時間」を超えて働く場合にも、超えた時間に対して残業代が発生します。
ただし、法定労働時間内に収まっている部分は、通常の賃金を支払えば足り、割増賃金は不要です。
「法定時間外労働」と一般的な残業代の計算方法
法定時間外労働は「1日8時間、週40時間」を超えて働く残業のことです。
たとえば勤務時間が休憩1時間を挟み午前9時から午後6時までの会社のケースでは、午後6時を超えて働かせると割増賃金が生じます。
法定時間外労働に対する残業代は、
「1時間あたりの賃金×1.25(割増率)×残業時間」
で算出できます。
※1時間あたりの賃金=月給÷1年間における1か月平均所定労働時間
※1か月平均所定労働時間=(365日-年間所定休日数)×1日の所定労働時間÷12か月
【例】
月給32万円、年間所定休日数125日、1日の所定労働時間8時間、法定時間外労働が1時間のケース
- 1か月平均所定労働時間=(365日-125日)×8時間÷12か月=160時間
- 1時間あたりの賃金=32万円÷160時間=2,000円
- 残業代=2,000円×1.25×1時間=2,500円
「法定内残業」と一般的な残業代の計算方法
法定内残業は、会社が定めている所定労働時間を超え、かつ法定労働時間内で働く場合の残業のことです。
たとえば勤務時間が午前9時から午後6時まで、休憩1時間のケースでは、所定労働時間は1日8時間のため、基本的に法定内残業が生じることはありません。
一方、勤務時間が午前9時から午後5時まで、休憩1時間の場合には、所定労働時間が1日7時間です。
このケースでは、労働時間が8時間を超えない午後5時~午後6時までの間の残業が法定内残業に該当します。
就業規定や労働契約で割増賃金を規定しているケースもありますが、法律では法廷内残業には決まりがないため、残業した時間分だけ通常の賃金を支払えば足ります。
【例】
月給21万円、年間所定休日数125日、1日の所定労働時間7時間、法定内残業を1時間行ったケース
- 1か月の平均所定労働時間=(365日-125日)×7時間÷12か月=140時間
- 1時間あたりの賃金=21万円÷140時間=1,500円
- 残業代=1,500円×1時間=1,500円
割増率は労働の種類ごとに異なる
残業代を計算する際には、労働の種類ごとに異なる割増率を適用させなければなりません。
労働の種類は時間外労働のほかに、深夜労働と休日労働があります。
深夜労働の計算方法
深夜労働とは「午後10時から翌午前5時まで」の時間帯に働くことです(労働基準法第37条4項)。
深夜労働の割増率は25%以上です。また、深夜労働が時間外労働にも該当している場合は、時間外の25%と深夜の25%を足して50%以上の率で算出します。
【例】
勤務時間が午前9時~午後6時(休憩1時間)、ある日の労働が午後11時までおよんだケースで見てみましょう。1時間あたりの賃金は2,000円とします。
午後6時~午後10時の4時間は時間外労働の割増率(25%増)で計算します。
- 2,000円×1.25×4時間=1万円
一方、午後10時~午後11時の1時間は、時間外労働(25%増)+深夜労働(25%増)で計算します。
- 2,000円×1.5×1時間=3,000円
なお、1か月の時間外労働が60時間を超える場合には、時間外労働に対する割増率が50%以上に引き上げられます。
それが深夜労働だった場合はさらに25%増となり、75%増の残業代を支給しなければなりません。
上記のケースで午後10時~午後11時にした残業が月60時間を超過していた場合、1時間分の残業代は「2,000円×1.75×1時間=3,500円」となります。
休日労働の計算方法
休日には「法定休日」と「法定外休日」の2種類があります。
どちらの休日に出勤したかによって残業代にも違いが出るため計算には注意が必要です。
法定休日
法定休日は、労働基準法第35条に定められている休日のことです。
原則として、使用者は従業員に週1回以上の休日を与えなければなりません。変形週休制を採用している会社の場合は、4週間以内に4日以上の休日を与えることが義務付けられています。
法定休日の割増率は35%以上です。
また、法定休日の深夜時間帯に働かせた場合には、休日労働35%+深夜労働25%=60%以上の割増率で計算した残業代を支給する必要があります。
法定休日の残業代は、「1時間あたりの賃金×割増率×残業時間」で算出できます。
【例】
法定休日に午前9時~午後11時まで(休憩1時間)働いたケースで見てみましょう。1時間あたりの賃金は2,000円とします。
午前9時~午後10時までの12時間は、35%以上の割増率で計算します。
- 2,000×1.35×12時間=3万2,400円
午後10時~午後11時までの1時間は休日労働+深夜労働なので、60%以上の割増率で計算します。
- 2,000円×1.6×1時間=3,200円
法定外休日
法定外休日は、法律で定められていない休日のことです。典型的には週休二日制の会社が関係しますが、労働基準法で定められている最低限の休日は週1日なので、それ以外の休日は法定外休日として扱われます。
賃金については、同じ「休日労働」でも、法定休日は35%増の賃金を支払う必要がありますが、法定外休日は通常の賃金を支払えば足ります。
ただし、法定外休日の賃金を算出する際に注意が必要なのが、「週40時間」の法定労働時間です。1週間の労働時間の累積が40時間以内に収まっている部分は通常の賃金を支払えば問題ありませんが、週40時間を超えた部分については25%以上の割増率で計算した賃金を支払う必要があります。
【例】
1日の所定労働時間が7時間、週休二日制(法定休日は日曜日)の会社で、月曜日から金曜日までは残業なしのケースで見てみましょう。1時間あたりの賃金は2,000円とします。
(土曜日に5時間働かせた場合)
月曜日から金曜日までの5日間の労働時間は7時間×5日=35時間です。
法定外休日の土曜日に5時間働かせても週40時間内に収まるため、土曜日は5時間分の通常の賃金を支払います。2,000円×5時間=1万円です。
(土曜日に7時間働かせた場合)
同じ条件で土曜日に7時間働かせた場合は、このうち5時間分が法定内残業、週40時間を超える2時間分は法定時間外労働として計算します。
- 法定内残業(5時間):2,000円×5時間=1万円
- 法定時間外労働(2時間):2,000円×1.25×2時間=5,000円
勤務体系ごとの残業代
フレックスタイム制や変形労働時間制、裁量労働制(みなし労働時間制)など、さまざまな勤務体系があります。勤務体系によって残業代の算出方法にも違いが生じます。
フレックスタイム制や変形労働時間制
フレックスタイム制は、日々の始業時刻や終業時刻、労働時間を従業員が自分で決められる制度です。
労使協定で3か月以内の「清算期間」と「清算期間における総労働時間」を設定し、従業員は総労働時間の範囲で自由にスケジュールを立てて働きます。そのため1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えても、ただちには残業代が発生しません。
ただし、あらかじめ定めた総労働時間を超えた分については残業代の支払いが必要です。
【例】
1時間あたりの賃金1,500円、清算期間1週間・総労働時間40時間、1週間の勤務時間:月曜10時間、火曜9時間、水曜8時間、木曜10時間、金曜5時間のケース
- 残業時間=(10+9+8+10+5)-40=2時間
- 残業代=1,500円×1.25×2時間=3,750円
変形労働時間制は、閑散期と繫忙期の差が激しい業種でよく使用される、一定の期間を定めて勤務時間を調整する制度です。
繁忙期の勤務時間が1日8時間、週40時間を超えても、閑散期に勤務時間を減らすことで調整できるため、原則として割増賃金は生じません。
ただし、全く残業代が発生しないわけではありません。そもそも適用条件を満たしていないケースでは変形労働時間制を利用できません。また、一定の時間を超過した際には残業代が生じます。
変形労働時間制には「1週間単位・1か月単位・1年単位」の3つがありますが、ここでは代表的な1か月単位の変形労働時間制を見てみましょう。1か月単位の場合、時間外労働にあたるのは以下の3つの基準にもとづき算定した時間の合計です。
【1日】
- 1日の所定労働時間が8時間を超える日は、所定労働時間を超えた時間
- 上記以外の日は、法定労働時間である8時間を超えた時間
【1週間】
- 1週間の所定労働時間が40時間を超える週は、所定労働時間を超えた時間
- 上記以外の週は、法定労働時間である40時間を超えた時間
- 1日単位で残業としてカウントされた時間は除く
【全期間】
- 変形期間における法定労働時間の総枠※を超えて労働した時間
- 1日、1週間単位で残業とカウントした時間を除く
※1週間の法定労働時間×(変形期間の日数÷7日)
例として1週間について見てみましょう。
■所定労働時間
第1週45時間、第2週42時間、第3週37時間、第4週36時間、合計160時間
■実労働時間
第1週44時間、第2週45時間、第3週43時間、第4週38時間、合計170時間
- 第1週:所定労働時間内に収まっているため残業代は発生しません。
- 第2週:所定労働時間を超えた3時間分が残業代の対象です。
- 第3週:法定労働時間の40時間を超える3時間分が残業代の対象です。
- 第4週:法定労働時間内に収まっているため残業代は発生しません。
裁量労働制(みなし労働時間制)
裁量労働制とは、実際働いた時間ではなく事前に定めた時間働いたことにする制度です。
裁量労働制はすべての従業員に採用できる制度ではありません。業務の遂行方法や時間配分などを従業員に任せる必要がある業務にのみ適用が可能です。
裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」があります。専門業務型裁量労働制は、研究・開発業務や高度な専門知識が必要な業務など19業務に従事する者を対象とした制度です。企画業務型裁量労働制は、事業運営に関する企画、立案、調査、分析の業務を行う者が対象です。
裁量労働制では、みなし労働時間を1日8時間に定めると、実際の勤務時間が8時間より多くても少なくても8時間働いたとみなされるため、原則的に残業が生じません。
ただし、みなし労働時間が法定労働時間を超えているケースでは、超過時間に対して残業代が発生します。また、深夜労働と休日労働は裁量労働制に含まれないため、それぞれの労働時間に対して割増賃金が必要です。
【例】
1時間あたりの賃金2,500円、みなし労働時間10時間のケース
- 1日分の法定時間外労働時間=10-8=2時間
- 1日分の残業代=2,500円×1.25×2時間=6,250円
日給制や時給契約者
日給制の残業代は「1日あたりの基礎賃金÷1日の所定労働時間×割増率×残業時間」で計算します。
1日あたりの基礎賃金は、日給制の場合、基本給そのものを指すケースが多いでしょう。家族手当や通勤手当などの手当は含まれません。
【例】
基本給1日1万2,000円、所定労働時間8時間、残業2時間のケース
- 1時間あたりの賃金=1万2,000円÷8時間=1,500円
- 残業代=1,500円×1.25×2時間=3,750円
時給制の残業代は、時給に割増率と残業時間をかければ算出できます。
残業代の計算時に除外される項目がある
残業代の金額は賃金をもとに計算します。ところが賃金には、家族手当や通勤手当など、労働とは関係のない手当も含まれています。
これらの手当は個人の事情によって異なるものなので、残業代に反映させることはできません。
残業代の計算の基礎となる賃金から除外される手当は、労働基準法施行規則第21条によって、以下の通り定められています。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
残業代にかかわる罰則について
残業代に関する問題が発生した際には、罰則が科されるケースがあるため注意が必要です。
36協定を締結せずに残業させるのは違法
原則、法定労働時間を超えて従業員を働かせることは禁止されています。
法定労働時間を超えて働かせる場合には、労働組合や従業員の代表と36協定を締結して、労働基準監督署に提出しなければなりません。未提出の状態で時間外労働をさせた場合は労働基準法違反になります。
締結した内容は、書面などで従業員に知らせることも大切です。
罰則を知り残業代の未払いを防ぐ
ほかにも、そもそも残業代や深夜労働、休日労働の割増賃金が未払いの場合にも罰則が科されます。残業代未払いの罰則は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」です(労働基準法第119条)。支給漏れにならないよう注意しなければなりません。
罰則は、会社の代表者や取締役だけでなく、部下に命令して違法に残業をさせている管理職の社員が罰せられるケースもあります。罰則の対象となれば、会社の社会的信用を落とす恐れもあるため注意が必要です。
まとめ
残業代とは、時間外の労働に対して支払われる賃金のことです。とくに法定時間外労働には割増賃金を支給しなければならないため、残業代の計算には注意が必要です。
36協定を締結していない、残業代が未払いになっているなど、残業代に関する問題が生じている場合には会社が罰則を受けてしまうケースもあります。
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