マネーロンダリングとは? 仕組みや企業担当者が押さえておきたい法律、対策を紹介
麻薬の売買や脱税などの不正行為によって得た資金(汚れたお金)の出所がわからないようにして、摘発や差し押さえを逃れようとする行為のことを「マネーロンダリング(資金洗浄)」といいます。
企業の担当者はマネーロンダリングの仕組みや関連する法律を理解し、ルールを守った組織運営が行われるようにしなければなりません。
この記事では、マネーロンダリングの基礎知識や対策についてわかりやすく解説します。
マネーロンダリングとは
マネーロンダリングは「資金洗浄」とも呼ばれ、不正な取引によって得た資金を第三者の口座を迂回することによって自己の取引から除外したり、自己の口座を通した資金について偽りの契約書を作成し、正常な資金であると装ったりする行為を指します。
金融庁が掲げるマネーロンダリングの定義においても、麻薬譲渡人が取得した譲渡代金をあたかも正当な商品を譲渡した代金であるかのように装うため売買契約書を作成する行為、あるいは借入金、預り金等を装ってその旨の書類を作成し、あたかも正当な取引により得た資金であるかのように偽装する行為が例示されています。
マネーロンダリングに該当する三段階の仕組み
マネーロンダリングは、次の3つのステップを踏んで行われます。
1. プレイスメント(Placement)
プレイスメントとは、不正な資金を正常な取引循環に取り込むことをいいます。資金をそのまま預金として入金すると出所を調査され、不正が明らかになる危険性が高いため、預金以外の方法を採るのが一般的です。
プレイスメントには次のような方法があります。
- 不動産・株式・投資信託・外貨・仮想通貨などを購入する
- 本人が抱える負債などの返済に充当する
- 休眠会社を買収したり、犯罪歴のない役員を就任させたりして、現金を主に取り扱う事業の収入として偽装する
2. レイヤリング(Layering)
レイヤリングとは、資金の出所を秘匿するために資金を転々とさせ、経路をわかりにくくすることです。
特に、国際間や地域間で移動された資金は追跡が困難となる場合が多く、複数の銀行に送金を繰り返す方法も見られます。さらに、外注費や給与を偽装して支払いを多発することによって実態をわかりにくくする手法もあります。
3. インテグレーション(Integration)
インテグレーションとは、資金を合法的な経済活動に投入し、洗浄された資金を回収することをいいます。
不正な資金を他人のまっとうな事業に対する資金として運用する、不正資金を退避させていた投資信託などを利用して株式投資を行うなどの手法があります。また、単一取引は経路がわかりやすくなってしまうため、複数の取引やスキームを組み合わせることによって、複雑化を促進させる方法も見られます。
企業が知っておきたいマネーロンダリングに関する法律
マネーロンダリングに関連する法律には、次のようなものがあります。
1. 組織犯罪処罰法
組織犯罪処罰法はマネーロンダリングを取り締まる法律の中核であり、一定の犯罪が組織的に実行された場合に、刑法の規定よりも重い刑を科す旨を定めた法律です。
規制の対象となるのは主に次のような内容で、検挙件数の多い事例になります。
- 役員の変更等を行うことによって実質的経営権を取得する、法人等事業の経営支配(法人等事業経営支配罪|第9条)
- 違法な資金の取得や処分の事実の仮装等、犯罪収益等の隠匿(犯罪収益等隠匿罪|第10条)
- 違法な事実を知りながら受け取る、犯罪収益の収受(犯罪収益等収受罪|第11条)
2. 犯罪収益移転防止法
犯罪収益移転防止法は、正常な取引を介することによって、違法行為によって得た資金を、あたかも正常な取引で取得したものであるかのように振る舞うことを防止する法律です。
かつては、金融機関がマネーロンダリングの片棒を担いでいるように見られていました。しかし現在では、取引が高額になりがちな不動産業者や宝石・貴金属業者、さらに士業者も対象に加えられています。また、郵便物や電話の代行業者も、「他人に成り済ますことが可能である」と考えられています。
企業がすべきマネーロンダリングの対策
企業は大小さまざまな規模の取引先とつながっているため、マネーロンダリングのリスクを低減するための対策を行うことが重要です。そのためのポイントを次の3つにまとめました。
1. マネーロンダリングの知識を深めておく
まずはマネーロンダリングに関して基本的な知識を身につけ、素地を磨きましょう。
「この取引は問題があるのではないか」と、肌感覚でわかるようになることが重要です。
また、マネーロンダリングについては常に新たな事案が出てくるため、情報収集も欠かせません。新聞報道やインターネットのニュース以外に、JAFIC(警察庁 犯罪収益移転防止対策室)のホームページでも最新情報を見ることができます。
2. 自社事業でのリスクの洗い出し
事業内容や規模によって、企業が抱えるリスクの種類は異なります。自社の業務分析を細かく行い、リスクが潜んでいそうなポイントを絞り込みましょう。そして、多角的に課題を分析することでリスクを具体化します。
また、取引先によってもリスクの種類は変動するため、リスクが増えそうな取引先をまとめておくなどの対策も効果的です。
3. リスクの社内周知と定期的な発信
リスクを発見したら、それを広く社内周知し、組織として対応することによって被害を最小限に抑えられます。
定期的かつ継続的に情報を発信すると、常に新しいリスクを発見できる機会が生まれます。最新情報をもとに全社対応ができるよう、体制を整えましょう。
マネーロンダリングに該当する事例
最後に、マネーロンダリングに該当する事例を紹介します。自社に似たようなリスクが潜んでいないかどうかチェックしてみましょう。
1. 企業間の架空取引で得た金銭を隠匿
企業間の架空取引などの不正行為によって受け取った現金は、通帳に入金すると、理論上はまっとうなお金に換えることができてしまいます。しかし、通帳に入金する際には、その資金出所を明らかにしなければなりません。そのため、不正行為によって得た資金は、預け入れが難しいことがあります。
金銭そのものであれば流通経路が比較的わかりにくいため、金銭を隠匿した事例があります。しかし、隠すことはできても、金銭を表に出すときに犯罪が発覚することがあります。
2. 不正に得た融資金を隠匿
第三者を介して、不正に得た融資金の一部を他人名義の証券口座に入金させ、株式投資が行われた事例があります。これは、他人名義の証券口座を悪用したマネーロンダリングといえます。
本人名義の預金通帳を通していないことからお金の流れがわかりにくいだけでなく、他人名義の証券口座を利用して取引を実施したことによって、さらに実態が把握しづらくなった事例です。
マネーロンダリングのまとめ
マネーロンダリングの基礎知識や対策について解説しました。
犯罪などの不正行為によって獲得された資金は、金融機関を通じて海外に流出し、テロ組織の活動資金などに充てられる恐れがあります。
金融庁は金融機関に対策を呼びかけており、個人や企業が行う取引の内容確認が強化されています。企業においても、自社が行う取引に不正がないよう注意するだけでなく、取引先の動向も厳しい目でチェックすることが大切です。
経済状況やテクノロジーの進化によって新たなリスクが発生することもあるため、常に最新情報の収集を心がけましょう。
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