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引当金とは? 要件と種類・仕訳や税務上の考え方をわかりやすく解説

引当金とは? 要件と種類・仕訳や税務上の考え方をわかりやすく解説

引当金は、企業が将来の出費に備えて準備しておくものです。

引当金には、さまざまな種類があり、経理実務で登場する機会も多いため、担当者はルールをしっかりと把握しておくことが大切です。

この記事では、引当金の概要や会計上の処理について解説します。


この記事の監修者
京浜税理士法人 横浜事務所   

引当金とは?

引当金とは、将来的に発生する損失や支出をカバーするために企業が前もって費用として計上するための勘定科目です。

企業会計は発生主義が原則であるため、通常、費用が確定した期と、その費用を計上する期は一致している必要があります。しかし、従業員の賞与など、支払いの理由となる事柄が費用よりも前に発生していることがあります。その分の費用負担を各期に配分するという考え方が引当金の元になっています。

なお、将来的に発生する可能性が低い費用については、その分を引当金として計上することはできません。引当金の要件については、次で詳しく見ていきましょう。

引当金の要件

次のすべての要件に該当する費用は、引当金として計上する必要があります。

  • 将来の特定の費用又は損失であること。
  • 発生が当期以前の事象に起因していること。
  • 発生の可能性が高いこと。
  • 金額を合理的に見積ることができること。

引用:中小企業の会計 31問31答|中小企業庁

要件を満たした費用や損失は、当期分として引当金繰入額を損益計算書に計上します。また、引当金は貸借対照表の負債の部(または資産の部)に記載することとされています。

計上する目的

引当金は、将来的な出費を前もって計上しておくことで正確な損益計算を行うのが主な目的です。また、その情報を投資家や銀行といった利害関係者に提供することは重要な意味を持ちます。

通常、企業の損益は、会計の発生主義に従って収支が確定した期に計上します。しかし、この方法では、財務諸表を見てはじめて利害関係者が出費を認識することになります。

支払いの理由となる事柄が費用よりも前に発生していた場合、引当金として計上しておくことで、将来的な出費について利害関係者へあらかじめ通知することが可能です。それによって、投資家は安心して企業に出資でき、銀行も融資や取引先について適切な判断を行うことができます。

引当金には、すでにわかっている将来的な費用を網羅的に開示する意味合いがあるのです。


引当金は発生主義による会計処理

企業会計原則では、発生主義による会計処理が基本です。ここで、発生主義と現金主義についてあらためて確認しておきましょう。

発生主義

発生主義とは、収支額が確定した時点の日付で帳簿を付けるという考え方です。掛売りや掛仕入れなど、金銭のやり取りが発生していなくても計上することになります。

企業で採用されている会計方法は、多くの場合、発生主義会計です。

数か月に一度しか発生しないリース料やレンタル料、水道料金の支払いも、発生主義の考え方にもとづいて利用期間にわたり費用計上します。また、固定資産の購入にかかった費用を数年かけて徐々に計上していく「減価償却」も、発生主義にもとづく会計処理です。

現金主義

現金主義とは、名前の通り、現金の受け取りや支払いがあった時点で帳簿を付けるという考え方です。

管理の手間が省け、不正を行いづらくなるなどのメリットがありますが、金銭のやり取りが発生しない段階では計上ができない点が大きなデメリットです。企業の取引でよく用いられる掛売りや掛仕入れといった方法は、現金主義を採用している場合、計上されません。

さらに、現金主義は現金に動きがあるまで帳簿には取引内容が記載されないため、期間損益計算(会計期間のすべての収益からすべての費用を引くこと)が成り立たなくなる可能性があります。

現金主義が採用されるのは、現金取引のみの小規模事業者など、ごく一部の企業のみです。


引当金は大きく2種類に分類される

引当金は評価性引当金と負債性引当金の2つに大別されます。それぞれの違いは次の通りです。

評価性引当金

評価性引当金とは、資産の評価に係る損失に備えるためのものです。

将来的に発生する可能性が高い損失に備えるために資産から控除し、貸借対照表の資産の部に記載します。貸倒引当金や投資損失引当金などが評価性引当金にあたる代表的な勘定科目です。

取引先の経営状態の悪化により売掛金や未収入金が回収できない確率が高い場合、これらの債権が回収できないことにより将来発生することが予想される損失の額を、当期の決算において「貸倒引当金」として計上します。

これにより、将来に損失を先送りすることなく適切な期間損益の計算が可能となり、貸借対照表において将来の回収予定額を適切に表示することになります。

負債性引当金

負債性引当金とは、支出や出費に備えるためのものです。

将来的に発生する可能性が高い支出や出費に備えるために貸借対照表の負債の部に記載します。賞与引当金などが負債性引当金にあたる代表的な勘定科目です。

当期以前の事象が原因で将来の支出が発生する可能性が高い場合は、将来の支出予定額を合理的に見積り、当期の費用として計上します。

具体例として賞与があげられます。

対象期間に従業員が労働役務を提供したことに対して、雇用主は賃金を支払う義務が発生します。例えば、1月~6月の勤務に対して7月に賞与を支給する場合、賞与の支給は7月ですが、労働役務の対価は1月~6月に発生していることから、7月の支給予定額を1月~6月の期間に按分して費用として計上することになります。

ただし、7月の支給予定額はあくまでも見積金額であるため、未払金ではなく引当金として計上します。


引当金の税務上の取り扱い

引当金の取り扱いは、企業会計と税務会計で異なります。

企業会計と税務会計は、いずれも会計方法の一種であり、企業会計は企業の業績を把握する目的で行われます。一方の税務会計は、公平な課税を目的として行われます。引当金の取り扱いが異なるのは、それぞれの会計方法の目的が異なるためといえるでしょう。

企業会計では、要件を満たした引当金の計上が認められています。企業の業績を財務諸表へ正確に反映し、利害関係者に対して情報を開示することが重要と考えられているためです。

税務会計は、公平な課税を目的として行われるため、「見積もり計算」による損益の計上である引当金の計上は、原則として認められていません。税法では、課税の公平性を保つため、債務が確定した時点で費用を算入する「債務確定主義」が採用されているのが理由です。

企業会計の実情を考慮し、現行法では貸倒引当金と返品調整引当金のみ、引当金として計上することが認められています。ただし、返品調整引当金は、2030年3月31日をもって廃止される予定です。


引当金によくある仕訳例

ここでは、引当金によくある仕訳例を具体的に紹介します。

仕訳例1. 貸倒引当金

貸倒引当金は、将来の債権の貸倒れに備えて設定される評価性引当金です。

取引先の経営状況の悪化等により、売掛金や未収入金などの債権が回収できない可能性が高まった場合、将来の貸倒れに備えてあらかじめ回収できない金額を見積り「貸倒引当金」として計上します。

貸倒れは将来的に発生するものですが、取引先の経営状況の悪化は当期に発生しているため、「損失の発生が当期以前の事象に起因している」という引当金の要件に該当することになります。

例えば、取引先に対する売掛金100万円について、取引先の経営状況の悪化により50万円の回収が見込まれない場合の会計処理は次の通りです。

借方

貸方

貸倒引当金繰入 50

貸倒引当金 50

仕訳例2. 賞与引当金

賞与引当金は、従業員の賞与の支払いに備えて設定される負債性引当金です。

賞与は年2回(夏・冬)支給されるケースが多いですが、いずれの時期に支給される場合でも、その金額を算定するための算定期間が設けられています。

例えば、夏季賞与(7月支給)の算定期間がその年の1月~6月である場合、3月末決算の会社では1月~3月の期間の従業員による役務提供は完了しています。そのため、1月~3月に発生した賞与の金額を見積り「賞与引当金」として計上しておきます。

夏季賞与(7月)の算定期間が1月~6月で、賞与支給額の見積もりが100万円である場合、3月末決算の会社における賞与引当金の会計処理は次の通りです。

借方

貸方

賞与引当金繰入 50 

賞与引当金 50

仕訳例3. 退職給付給与引当金

退職給付引当金とは、従業員の退職金の支給に備えて設定される負債性引当金です。

退職金は「賃金の後払い」という性格を持っており、退職時にそれまでの労働役務の対価として、会社が従業員に支払うものです。退職金の支給は退職時に行われますが、費用は労働役務の提供が行われる期間、つまり、入社時から退職時までの期間にわたって発生していることになります。

会社は決算時に各従業員について、それまでに発生している退職金の金額を見積り、「退職給付引当金」として計上します。

例えば、期首から決算までの1年間で、所属する従業員の将来的な退職金の支給見込み額が1,000万円発生した場合、退職給付引当金の会計処理は次の通りです。

借方

貸方

退職給付費用 1,000

退職給付引当金 1,000

仕訳例4. 投資損失引当金

投資損失引当金とは、子会社等への投資について将来の減損が見込まれ、その金額を合理的に算定することができる場合に設定される評価性引当金です。

投資先の財務状況の悪化により、投資金額の回収が見込めなくなった場合に、将来に発生する可能性が高い損失(子会社株式の評価損)を見積り、「投資損失引当金」として計上します。

損失は将来的に発生するものですが、投資そのものは当期以前に実行されていることから、「損失の発生が当期以前の事象に起因している」という引当金の要件に該当することになります。

例えば、子会社への投資額100万円について、子会社の経営状況の悪化により50万円の減損が見込まれる場合の会計処理は次の通りです。

借方

貸方

投資損失引当金繰入 50

投資損失引当金 50


引当金についてのまとめ

引当金は、企業会計の発生主義会計にもとづいて適用されるものです。引当金の内訳として、損失に備えるための評価性引当金と、出費や支出に備えるための負債性引当金がある点も押さえておきましょう。

引当金を計上することで、適正な期間損益を算出するのに役立ちます。ぜひ本記事を参考に、引当金への理解を深め、正しく計上する方法を身につけてください。


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監修者プロフィール

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宮澤 明宏

京浜税理士法人 横浜事務所

横浜市青葉区を拠点として、中小規模法人や個人事業主のお客様を中心に、税務顧問サービス及び経営コンサルティングサービスを提供。

月次決算制度の導入、資金繰りの明確化を切り口に、創業3年以内の黒字化を目指し経営を安定化させるための経営管理の手法について、伴走型支援で行っている。

創業時からしっかりとした経営管理を行い、スピード感を持って会社を成長させていきたい経営者に向けて業務を行う。

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