損金算入とは? 取り組むメリットやできるもの・できないものの例を紹介
損金算入は法人の節税に欠かせないものです。損金算入の金額によって収益が大きく変動することもあるため、損金算入のルールをきちんと理解し、損しないようにしなければなりません。
この記事では、経理部の社員に向けて、損金算入の概要やメリット、デメリット、具体例を解説します。
また、記事の後半では損金経理が必要な勘定科目や、損金算入する際に厳しいルールがあるものを紹介します。ぜひ最後までご覧ください。
損金算入とは
損金算入は法人税の算出において、会計上で費用にならない項目が、税務で損金に該当するということです。
会計における費用は、直接的に損金になりません。損金算入における損金は、企業の収益からから引かれる原価や費用、損失のことです。
損金算入に該当するものをまとめました。
- 法人事業税
- 固定資産税
- 減価償却費
- 不動産取得税
- 減損損失や貸倒損失(どちらとも損金計上できないケースもあります)
また、損金算入できないものは次の通りです。
- 住民税
- 法人税
- 加算税
- 延滞税
- 罰金関連の費用(事業関連性が必要です)
損金算入のメリット・デメリット
損金算入のメリットとデメリットをまとめました。
メリット:節税
法人税は収益から損金を引いた金額に対してかけられますので、損金算入の金額が大きいほど、法人税の節税効果が増します。
収益が多く見込まれる年に損金算入を多く行うことで、より大きな節税効果を得られるでしょう。
ただし、節税と資金繰り悪化はセットになります。今後の資金繰りを考慮したうえで、バランスよく節税の範囲を決めなければなりません。
デメリット:企業価値・資産の減少
多額の損金算入を行うと、手元のキャッシュが減少し、影響を及ぼす可能性があります。
費用の計上が増えれば、企業の資産が減るため、企業の価値が低下するリスクも考えられるでしょう。
しかし、ビジネスの目的は収益を上げることですので、節税だけに気を取られるず、本来の目的の達成を目指しながら、損金算入することが望ましいでしょう。
損金算入の対象となるもの
損金算入の対象は次の3つです。
- 原価
- 費用
- 損失
それぞれ詳しく見ていきましょう。
原価
原価は商品の購入価格や製造するために必要な材料費などを指します。例えば、お弁当屋さんの場合、各お弁当を作るのにかかったコストが原価です。原価の式は次の通りです。
- 売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高
- 期首商品棚卸高:事業年度開始時の在庫原価(前期末の在庫原価も含む)前期末の在庫原価以外のモノが想定できません。
- 当期商品仕入高:事業年度内に仕入れた商品の原価
- 期末商品棚卸高:事業年度終了時の在庫原価
原価の計上タイミングは収益が発生したときと一緒です。原価の在庫調整は期末にすることが多いため、それまで正確な原価は分かりません。
費用
費用は、事業で収益を出すのに必要な経費のことで、販売コストや管理経費などを含みます。
例えば、IT事業で収益を生むのに必要な必要なノートパソコンは、損金算入できるでしょう。固定資産計上もあり得ます。
費用の計上タイミングは、費用の支払いが確定した時点です。
損失
損失は価値を失った結果のことで、次のようなケースが当てはまります。
- 製造業の設備やオフィス家電などの価値が経年劣化によって減少した
- 自然災害などで工場が損害を受けた
経年劣化などによる損失の場合は定期的に計上されますが、自然災害などの突発的な損失は、その損失が発生した時点で計上します。
損金算入に「損金経理」が必要な勘定科目
損金経理とは、決算が確定した際に経費や損失を、会計上で処理することです。
例えば、減価償却といった内部取引を損金計上するためには、経理処理が必須条件です。決算時に減価償却費として正しく計上しなければ、税務上、減価償却費の損金算入は認められません。
減価償却を行うかどうか、行う場合にどの程度計上するかなど、企業内で自由に判断でき、企業の利益に照らして選択できるからです。
税法上、企業内で算出可能な項目は、企業の決算に含めなければ損金として認められません。これを決算調整といいます。
損金経理が必要な具体例を挙げます。
- 減価償却費
- 貸倒損失
- 引当金の計上
- 引当金(賞与引当件など)
- 利益調整に使われやすい賞与の未払計上
- 圧縮記帳などの特殊なケース
複数年に分けて損金算入する費用
複数年に分けて損金算入する費用は、繰延資産と減価償却費の2つです。詳しく見ていきましょう。
繰延資産
繰延資産は、一度の支出で1年以上の期間にわたって利益を生む投資のことで、開業に伴う初期投資や製品開発費が挙げられます。
- 初期投資が利益を生むタイミング:店舗に客が来店し始めたとき
- 製品開発費が利益を生むタイミング:新製品が市場で評価されたとき
これらの支出は利益を生む機会を考慮し、数年間にわたって計上される必要があります。
減価償却費
減価償却費は、長い期間ビジネスで使用されることで価値が低下する資産に関連する経費です。パソコンや自動車、工場製品など大きな機器が挙げられます。
損金計上する方法は、次の2種類から選べます。
定額法:毎年一定の金額を計上
定率法:毎年一定の率で計上
しかし、資産が少額減価償却資産に該当する場合、一括で全額を損金処理します。一括で損金経理すると、損金性が上がるためです。
また、固定資産管理の手間が省け、償却資産税の申告が不要になります。なお、少額減価償却資産とは、使用可能期間が1年未満または、取得価格が10万円未満のものです。
損金算入できない・制限がある費用
損金算入できない費用を紹介します。損金算入できる一方、厳しい制限がある費用もまとめました。ぜひ参考にしてください。
役員報酬
役員に支払われる給与には、次の3つの形式があります。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
定期同額給与と事前確定届出給与は基本的に損金になりますが、不当に高いと判断される部分は損金になりません。不当に高いかどうかは、次の2点に基づいて判断されます
- 実質基準:役員の職務内容や同業他社との比較
- 形式基準:定款や株主総会の決議で定められた限度額
なお、使用人としての業務も兼ねている役員に支払われる給与は、使用人としての部分については原則として損金に算入されます。
寄付金
寄附金は全額を損金計上できません。寄附金は、寄付相手から直接的なリターンがない支出であり、税法では計上可能な金額に制限が設けられています。
損金算入限度額の計算式は次の通りです。
- 損金算入限度額 = 資本金等の額 × 当期の月数/12 × 2.5/1,000 + 寄附金支出前の所得額 × 2.5/100) × 1/4
(出典:国税庁 寄附金の範囲と損金不算入額の計算)
交際費
交際費は取引先との関係強化やビジネスの拡大を目的として、接待や贈り物などにかかる費用です。通常、交際費は損金として認められません。
1人あたり5,000円以下の少額な外食費は損金で計上できますが、資本金が1億円以下の中小企業は、交際費に一定の制限が設けられています。年間800万円までの損金算入か、接待飲食費特例措置(50%損金算入措置)を選択できます。
1億円以下の資本金を持つ企業の場合、交際費の全額が年間800万円以下なら全額を、年間800万円を超える場合は800万円まで損金計上できます。
なお、資本金1億円以下の企業は、平成26年4月1日から、令和6年3月31日の間に開始される事業年度に適用され、延長される可能性もあります。
貸倒損失
税法においては、貸倒引当金を損金計上できます。貸倒引当金は、倒産した取引先に財務力がなくなったことを想定して、事前に損失額を計上する引当金です。
貸倒引当金の適用を受ける金銭債権には、次のようなものが含まれています。
- 損失見込債権
- 貸倒懸念債権
- 破産更生債権
- 一般売掛債権等
さらに、貸倒損失を計上するためには厳格な基準が設けられており、いくつかの状況で貸倒損失が認められます。
まず、債権が棄損された場合、次のような手段を用いて、全額または一部が切り捨てられた部分を貸倒損失で損金計上します。
- 債権が法的手続きにより切り擦れられた場合
- 債権者集会による場合
- 一定期間取引停止後支払がない場合
- 債権放棄の通知
次に、相手方の財務状況や支払能力を考慮し、債権の全額が回収不可能であると明らかになった際、貸倒損失を計上できます。
そして、取引終了から1年以上が経過しても売掛金が回収されないと、1円を記憶価格として残し、残りを貸倒損失で計上できます。
評価損
評価損は損金には計上できません。評価損は、企業が保有している資産の価格が下がったときに発生する損失です。
具体的には、保有資産の帳簿上の価額と、現在の市場価値との間に生じる違いです。ただし、災害など特定の状況で生じた評価損は、損金計上できます。
損金算入の可否が分かれる「租税公課」
租税公課(そぜいこうか)とは、一般的に国や地方自治体などの公共団体が、法律に基づいて市民や、企業から徴収する税金や公共料金のことです。
損金算入できる租税公課と、できない租税公課をまとめました。
損金算入できる租税公課
損金算入できる租税公課をいくつかまとめました。
- 消費税(税抜き経理だと損金算入できません)
- 事業税
- 事業所税
- 固定資産税
- 納期限延長に伴う延滞金(利子税)
- 登録免許税
- 法人保険・社会保険等の追徴金・延滞金
事業税は未払いの状態や、前年度に全額または一部が申告されていなくても、申告が行われた年度に損金で計上されます。
(出典:国税庁 租税公課)
損金算入できない租税公課
収益に対して課される税金や、加算税や延滞税のように、本来の税金を支払わなかった結果として科されるペナルティは、通常、損金計上できません。
また、法人税においては法人保険を活用することにより、節税のメリットを享受できるでしょう。
ただし、2019年の制度改革以降、法人保険による節税効果は以前と比較して低下していますので、注意が必要です。
損金計上できない租税公課の例をいくつか挙げます。
- 住民税
- 法人税
- 各種加算税、延滞税
- 都道府県民税、市町村税の本税
- 罰金、科料、過料
損金算入についてのまとめ
損金算入は節税効果を得られるのがメリットです。損金算入の対象は多くあり、損金に算入できない場合、その分所得が増え、納税額が増える可能性があるでしょう。
法人税でマイナスにならないためにも、正しく算入するのに必要な知識をつけましょう。
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