確定給付企業年金とは? その特徴や確定拠出年金との違いをわかりやすく解説
確定給付企業年金は他の年金制度と混同しやすいため、特徴をきちんと押さえておくことが重要です。
確定給付企業年金は企業年金制度のひとつで、もらえる給付額が事前に決められています。
自社の企業年金制度で該当する方は、確定給付企業年金の概要や種類、メリット・デメリットをしっかり把握しておきましょう。
本コラムを読むことで確定給付企業年金についての理解が深まり、老後や将来設計を考えるよいキッカケになるはずです。ぜひ最後までご覧ください。
確定給付企業年金とは
確定給付企業年金とは、従業員が受け取れる給付額が、あらかじめ約束されている企業年金制度です。2002年4月に施行された確定給付企業年金法に基づき、実施されました。
確定給付企業年金は、企業が拠出や運用、管理、給付などすべての工程を担うのが特徴です。従業員が老後に受給する年金を確保するうえで、とても大きな役割を果たします。
確定拠出年金や厚生年金基金との違いを見ていきましょう。
確定拠出年金との違い
確定拠出年金は企業年金のなかでは最も新しく、企業が従業員のために掛金を拠出し、従業員はその資金で金融商品を選択し運用する年金制度です。
受け取れる金額があらかじめ決められた確定給付企業年金とは異なり、確定拠出年金の受給額は運用結果で決まります。
また、離職や転職をしても原則60歳までは年金を受け取れません。
厚生年金基金との違い
厚生年金基金は、企業が厚生労働大臣の認可を得て設立できる法人で、加入者の年金額を増やす目的があります。国の老齢厚生年金の一部を代行し、独自の要素を加えて年金を給付します。
また、財政状況が悪化した厚生年金基金は、確定給付企業年金への移行を目指し、代行部分のすべてを国に返上したり解散をしています。2014年4月以降は新たな基金を設立できません。
確定給付企業年金の種類
確定給付企業年金の種類は、「基金型」と「規約型」があります。令和元年度では、基金型の導入企業は725万人に対し、規約型は1844万人です。
ただし、大企業が加入する基金型のほうが加入者数は、次のように多くなります。
- 基金型の加入者数:約173万人
- 規約型の加入者:約17万人
(出典:企業年金連合会 企業年金に関する基本統計)
1.基金型
基金型の確定給付企業年金は、特別法人で設立した企業年金基金が、掛け金の管理や運用、給付を担います。
基金は企業と別の法人として独立しており、公平な制度運営を実現できますが、基金型の導入要件は厳しく、採用企業の大半は大企業です。
退職後の従業員が企業に請求して支給される規約型に対し、基金型の場合、請求は基金に対して行います。
また、基金型の確定給付企業年金では、基金の執行機関である理事会や運営方針などを決める議決機関である代議員会の設置が必要です。理事や代議員は、企業側と従業員側から同数ずつ選出されます。基金型では、従業員側が制度運用に参加する仕組みがあらかじめ設けられています。
(出典:企業年金連合会 理事会)
(出典:企業年金連合会 代議員会)
2.規約型
規約型の確定給付企業年金は、信託銀行や生命保険会社などの委託機関と契約し、掛金の外部積立体制を構築します。企業の経営状況による退職金や、年金の支給額の変動を防げるのが特徴です。
支給の流れは次の通りです。
- 退職後の従業員が企業に請求
- 企業は委託機関へ指示
- 委託機関から従業員に支給
規約型は基金型よりも導入要件が緩やかで、多くの中小企業が採用している確定給付企業年金制度です。
また、規約型の場合、理事会や代議員会がないため、従業員が年金制度運営に関わる機会が少なくなります。制度への理解を高めるために、従業員へ適切に情報提供したり、従業員の意見を聞く機会を設けるなどの工夫が大切です。
確定給付企業年金の特徴
確定給付企業年金の特徴をまとめました。
(出典:厚生労働省 確定給付企業年金制度)
加入者の対象
確定給付企業年金の加入対象者は、実施事業所の厚生年金保険の被保険者です。ただし、一定の資格を定めた場合、その資格のない者は加入者になりません。また、一定の資格を定める場合でも、次に該当する人は除外できませんので注意しましょう。
- 勤続期間で資格を定める場合、勤続5年以上の従業員
- 年齢で資格を定める場合、30歳以上50歳未満の従業員
- 希望者のみを加入者にする場合、入社日に加入を希望しなかった従業員以外
- 休職者を加入対象としない場合、「退職金の算定対象期間に含まない」等の合理的な理由がない従業員など」
(出典:厚生労働省 確定給付企業年金Q&A)
掛金拠出
確定給付企業年金の掛金は、原則として事業主が負担します。事業主は年1回以上、定期的に掛金を拠出しなければなりません。なお、加入者の同意を得られれば、掛金の半分を上回らない範囲で本人に負担させられます。
また、企業は積立金が最低積立基準額や責任準備額を超えるかを最低5年に1度は確認し、将来にわたって財政の均衡を保つことができるように掛金を見直します。
(出典:確定給付企業年金法 第55条1項)
(出典:確定給付企業年金法 第55条2項)
給付・受け取り方法
主な給付金の種類は次の4つです。
- 脱退一時金
- 老齢給付金
- 障害給付金
- 遺族給付金
脱退一時金は中途退職時と定年退職時のどちらでも受け取れます。受給要件は各企業年金で独自の条件を設けており、必要な加入期間の年数に違いがあります。ただし、退職時に老齢年金を受給できる人は脱退一時金を選択できません。
老齢給付金を受け取るには、次の2点を満たさなければなりません。
- 60歳以上、65歳以下の規約で定められた年齢に達したとき
- 50歳以上に達した日以降で規約で定めらた年齢に達するまでに、事業所での仕事がなくなったとき
また、障害給付金や遺族給付金は任意制度ですので、具体的な決まりごとは書く企業年金次第になります。なお、従業員が死亡した場合、遺族給付金を支払うかわりに、死亡退職扱いにして脱退一時金か老齢給付金を給付するケースもあります。
(出典:日本年金機構 脱退一時金の制度)
(出典:日本年金機構 老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額)
拠出・運用・給付における税制上の取り扱い
事業主の拠出した掛金は、損金算入できますので節税になります。従業員が掛け金を負担した場合、掛け金は生命保険料控除の対象となります。配当など運用で得た利益は非課税です。
企業年金が年金として支給された場合、雑所得で課税されますが、公的年金等控除が受けられます。また、一時金で支給された場合、退職所得で課税されますが、退職所得控除の対象となり税額は支給額から控除額を引いた金額に税率をかけて求めます。
離職・転職時の取り扱い
離職時や転職時でも、確定給付企業年金の加入者は、今まで積み立てた年金資産を次に加入する年金制度に移動できます。移動先は、転職先の企業年金や個人型確定拠出年金などです。
確定給付企業年金のメリット
確定給付企業年金の最大のメリットは、従業員や求職者に対して安定した企業年金制度があることをアピールできる点です。
基金型は企業と別の法人が、規約型では委託先の金融機関が掛け金を管理し、運用します。企業業績が不振でも年金資金が保全されますので、従業員は安心でしょう。
企業型確定拠出年金と比較した場合、将来の年金額が確定していることも安心感に繋がります。また、企業の退職金規定に合わせて制度設計できる点もメリットといえます。
一方、税制面では、退職金の支払いに備えて企業で内部留保する場合と比較して、掛け金全額を損金計上できるため節税できます。
確定給付企業年金のデメリット
確定拠出型個人年金の大きなデメリットは、運用がうまく行かなかった場合、年金資金の積立不足を企業が補填しなければならないことです。
規約型でも、委託先金融機関が途中で将来の運用利回りを引き下げ、予定外の積立不足が発生することもあります。
2018年度末、上場企業の積立不足は累計で16兆円を超えており、企業によっては補填のために業績が悪化する可能性もあります。
また、将来の退職金支払いのために長年にわたり掛け金を払うため、掛け金相当額を自由に使えなくなります。退職金を内部留保する場合と比較すると、次のようなことも懸念材料です。
- 資金不足で将来に向けた投資ができない
- 一時的な資金繰りに使えない
退職金を企業と切り離して保全することは、従業員はメリットを感じますが、企業はデメリットとなるでしょう。
確定給付企業年金についてのまとめ
確定給付企業年金には、厳しい導入条件の基金型と、比較的導入しやすい規約型があります。加入する際には、その要件やメリット、デメリットをよく理解し、慎重に判断するとよいでしょう。
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