開業費の範囲はどこまで・いつまで計上できる? 節税のポイントを伝授!
開業費は、事業開始に発生する費用です。開業費を上手に活用すれば、節税効果を期待できます。
しかし、開業費に含まれる項目や償却タイミングなどは、正しく節税を行うためにも、しっかりと理解しておかなければいけません。
この記事では、開業を検討している方に向けて、開業費の概要やその範囲、節税に活かす際のポイントを詳しく解説します。
また、この記事の後半部分では、具体的な仕訳例を紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
開業費とは
開業費(開業準備費)とは、開業までに生じる準備費用です。
業種や事業によってさまざまな種類の出費があります。勘定科目や創立費との違いを見ていきましょう。
繰延資産という科目で償却
開業費は繰延資産に該当し、5年均等償却が一般的です。
税法上は償却金額を自由に決定でき、利益にあわせて柔軟に対応できます。
税法上は、償却金額を自由に決定できます。利益操作の恣意性を排除するため、会計上償却費として損金経理した場合に、はじめて損金の額に算入されるのです。
所得税の税率が、増加する手間の金額で償却すれば利益を減らせるため、節税効果も期待できるでしょう。
なお、償却期間が5年を超えても罰則はありません。
また、開業費を繰延資産として計上する場合には、開業の時から5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければなりません。
「実務対応報告19号」繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い
(出典:企業会計基準委員会 実務対応報告第19号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い)
(出典:財務諸表規則 第36条)
創立費との違い
創立費は、会社の設立までに生じた費用です。
それに対して、開業費は事業の開始日までに発生した費用を指します。
開業費は、会社成立後から営業開始までに支出した、開業準備のための費用です。
創立費に含まれる、具体的な費用の一部を紹介します。
- 会社印作成費用
- 定款の作成費や認証手数料、定款印紙税
- 司法書士等報酬
- 登録免許税
個人事業主は、設立の手続きや株式発行などの作業はありませんので、創立費は法人が使用する勘定科目です。
開業費の範囲
開業費の範囲になる費用と、範囲外の費用をそれぞれまとめました。
含まれる費用
法人の場合、次のような項目が開業費に該当します。
- 研修費や広告宣伝費
- 市場調査費用
- 印鑑や名刺の作成費
- 公共料金や事務用消耗品費などのその他費用
また、個人事業主の場合は、次のような内容が開業費に含まれます。
- 通信費用
- 開業セミナーの参加費
- 広告宣伝費
- 取引先に持っていく手土産の購入費
- パソコン購入費
- 打ち合わせ費
含まれない費用
会社の負担にすべき設立費用が、開業費に含まれません。
その一部を紹介します。
- 事務所や店舗を借りる際の敷金と礼金
- 仕入れ時の費用(販売原価)
- 1台につき10万円以上の設備や機械(固定資産)
- 下部先募集
- 金融機関の取扱手数料
- 証券会社の取扱手数料
- 創立事務所の賃借料
- 通信費
敷金は退去時に返金されますので、開業費に含まれません。20万円以下の礼金は、支払手数料の費用にします。
20万円以上だと、税務上の繰延資産に該当しますので、契約期間中に長期前払費用で取り崩します。
1台につき10万円以上の設備などは、法人か個人事業主かによって扱いが異なる場合もあります。
また、個人事業主は次の3つの項目を開業費に含められますが、法人の場合は、開業費に含められません。
法人にとって、恒常的な支出と見なされるためです。
- 消耗品に関わる費用
- ガスなどの公共料金
- 土地、建物などの賃借料
- 開業前の費用も計上可能
- レシート・領収書は必ず保管
- 正確な仕訳・記帳
- 任意償却は自由に金額を決められる
ぜひ参考にしてください。
開業前の費用も計上可能
開業前は帳簿をまだつけていませんが、何年も前に生じた開業前の費用でも、開業費で計上できるので、開業日に償却しなければなりません。
開業費は、会社を設立してから営業開始までに支出した、開業準備の費用です。
つまり、何年も前に生じた開業前の費用は、計上できません。
ただし、6ヵ月〜1年以上前を遡って計上すると、税務署から怪しまれる可能性があります。
領収書を残して、費用の正当性を主張できるようにしましょう。
レシート・領収書は必ず保管
領収書やレシートがないと、税務署が開業費として認めないケースがありますので、注意しましょう。
ただし、次のように領収書を発行できない可能性がある場合、出金伝票を残すと開業費で認められるかもしれません。
- 慶弔費用
- 少額の旅費や交通費
- 割り勘で支払った接待費用
正確な仕訳・記帳
総額で10万円以上の開業費が生じた場合、仕訳帳に次の項目を正しく記載しましょう。
次のポイントが重要です。
- 開業費:資産の科目へ記帳
- 開業償却費:経費の科目に記帳
また、減価償却資産台帳にも正しく記帳しなければ、開業費用を計上できません。
減価償却資産台帳とは、一つ一つの固定資産の取得状況や減価償却を記録し、償却額などを記載するものです。
重要なポイントは、次の通りです。
- 開業費:「繰越資産」へ記帳
- 取得や売却、減価償却などの経緯を正確に記帳
任意償却は自由に金額を決められる
開業費を5年かけて均等償却する義務はありませんので、任意償却で毎年異なる金額を計上してよいです。
税法上は償却金額を自由に決定できますが、会計上償却費として損金経理した場合には、はじめて損金の額に算入されます。利益操作の恣意性を排除するのが、目的です。
繰延資産として計上した開業費は、初年度に一括償却か5年以内の効果の及ぶ期間にわたって、定額法で償却しなければなりません。
なお、定額法の償却を選択した場合、毎年異なる金額を計上することができません。
ここでいう任意とは、一括償却か、定額法償却(毎年均等償却)を自由に選択できるということです。
0円〜前期末までの未償却残高を上限としており、その間で自由に決められます。
任意償却を自由に設定できることから、次のようなケースがよく見られます。
- 事業黒字で課税所得を減らしたい:初年度に全額償却
- 事業が赤字になった:赤字になった数年後に開業費を償却⇒不適切な処理です。上記参照
開業費の計上・償却における仕訳
開業費の計上や、償却における仕訳例を解説します。
計上時の仕訳例
開業前に広告費5万円を現金で支払った場合、開業費を繰延資産として計上します。
個人事業主の場合は、次のように仕訳します。
なお、個人事業主は現金勘定ではなく、元入金勘定を使用します。事業用の現金が開業前にないためです。
借方 |
貸方 |
開業費 50,000 |
元入金* 50,000 |
また、法人の場合の仕訳例は、次の通りです。
借方 |
貸方 |
開業費 50,000 |
現金 50,000 |
償却時の仕訳例
定額法を用いて、開業費を60か月(5年)で償却する場合の仕訳例を解説します。
繰延資産として計上した、開業費を取り崩すことが重要です。
借方 |
貸方 |
開業費償却 10,000 |
開業費 10,000 |
開業費についてのまとめ
開業前に生じた費用や開業費を償却すると、企業や個人事業主は節税効果が期待できるでしょう。
しかし、個人事業主と法人では、開業費に計上できる項目に違いがありますので、正確な情報を把握するのが大切です。
スムーズに計上するためにも、レシートや領収書を適切に保管しましょう。