インボイス制度で経費精算はどう変わる? 適格請求書の扱いや注意点を解説
インボイス制度の開始により、経費精算が大きく変わりました。適格請求書の扱いや注意点を理解し、スムーズに対応していくことが求められます。
本記事では、インボイス制度開始後の経費精算の申請方法や現行での仕入額控除の概要、インボイス制度に対応するためのポイントなどについて詳しく解説します。
インボイスをわかりやすく解説した特集はこちらです。
インボイス制度開始後の経費精算の変更点
インボイス制度の開始に伴い、経費精算の方法がいくつか変更されました。主な変更点は以下の4つです。
- 領収書等の仕分け方
- 3万円未満の取引の扱い方
- 適格請求書方式での記載項目
- 帳簿作成のルール
各変更点について、以下で詳しく解説します。
1. 領収書等を種類ごとに仕分ける
インボイス制度開始後は、経費精算の際に領収書等を適格請求書とそれ以外に仕分ける必要があります。適格請求書は仕入税額控除の対象となりますが、それ以外の領収書では原則、控除を受けられません。具体的には以下の4つに分類されます。
- 適格請求書もしくは適格簡易請求書
- 適格請求書発行事業者(インボイス登録事業者)以外から課税仕入れをした際の領収書等
- 少額特例に該当する経費
- 仕入税額控除の対象外の経費や領収書等がない経費
この仕分けによって、経理担当者は適格請求書や少額特例に該当する帳簿など、仕入税額控除の対象のものを一定期間保存しなければなりません。
税務調査の際に、期間内での領収書の紛失が発覚すると、追徴課税が課されてしまうので注意しましょう。
2. 3万円未満の取引も領収書等が必要に
インボイス制度開始前は、3万円未満の課税仕入れについては、その課税仕入れに関する規定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められていました。
しかし、制度開始後は、原則として3万円未満の取引にも適格請求書か適格簡易請求書の保存が必要となります。
ただし、公共交通機関による旅客の運送や自動販売機等からの商品の購入など、一部の取引については例外的に帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能です。
3. 適格請求書の項目確認が必要
適格請求書および適格簡易請求書には、法令で必要な記載項目が定められています。適格請求書に記載すべき事項は以下の通りです。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称及び登録番号
- 取引の年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜又は税込)及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
(出典:4 適格請求書の記載事項 |国税庁)
インボイス制度以前の区分記載請求書等保存方式に対して、記載すべき事項が増えました。
現行のインボイス制度では「インボイス登録番号」、「取引した資産の適用税率」、「税率ごとに区分した消費税額等」の3点の記載が必要です。
レシート形式などの適格簡易請求書の場合は、上記のうち1~5までの項目が記載されていれば問題ありません。
経費精算の際には、受け取った領収書等にこれらの項目が記載されているかの確認が不可欠です。もし、記載内容に不備があった時は、その旨を伝えて発行事業者に再発行を依頼しましょう。
発行事業者がインボイス登録をしているかどうかを確認したい場合は、適格請求書発行事業者公表サイトで登録番号を検索してください。
4. 帳簿作成のルールが変更された
インボイス制度の開始により、適格請求書等に関する新たな帳簿作成のルールが設定されました。経理担当者は、取引ごとに標準税率(10%)か軽減税率(8%)かで区分して記帳しなければいけません。
また、仕入税額控除を受けられる取引の場合は、以下の事項を記帳します。
- 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
- 課税仕入れを行った年月日
- 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである旨)
- 課税仕入れに係る支払対価の額
(引用:4 帳簿の保存 | 国税庁)
また、インボイス制度開始後6年間の経過措置期間中は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについても一定割合の仕入税額控除が認められます。
この場合、仕入税額控除を受けられない分を費用に上乗せするか、雑損失等に振り替える方法で処理します。
帳簿は上記の事項を記載し、請求書等と共に、原則その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければなりません。
インボイス制度で仕入税額控除を受けられる経費
インボイス制度開始後も、一定の条件を満たせば仕入税額控除を受けられる経費があります。
ここでは、適格簡易請求書で控除が可能な経費と、適格請求書等がなくても控除が認められる経費について解説します。
適格簡易請求書で仕入税額控除が可能な経費
適格簡易請求書とは、適格請求書の記載事項を簡略化したものです。小売業や飲食店業、タクシー業など、不特定多数の者に対して取引を行う事業者が発行できます。
適格簡易請求書の記載事項は以下の通りです。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称及び登録番号
- 課税資産の譲渡等を行った年月日
- 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等である旨)
- 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
- 税率ごとに区分した消費税額等または適用税率
(引用:適格簡易請求書の記載事項|国税庁)
適格請求書との主な違いは、適格請求書の宛先の記載が不要であること、税率ごとの消費税額の代わりに適用税率の記載でも可能なことです。
上記事項が漏れなく記載されていれば、適格簡易請求書の形式はレシートや領収書でも問題ありません。飲食店や小売店などでは、レシート形式で発行することが多いため、間違えて捨てることのないように気を付けましょう。
適格請求書等がなくても仕入税額控除が可能な経費
インボイス制度開始後も、一定の経費については適格請求書等がなくても、帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められます。以下がその主な特例です。
- 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
- 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入
- 適格請求書発行事業者でない古物営業を営む者からの古物の購入(棚卸資産に該当するものに限る)
- 適格請求書発行事業者でない質屋を営む者からの質物の取得(棚卸資産に該当するものに限る)
- 適格請求書発行事業者でない宅地建物取引業を営む者からの建物の購入(棚卸資産に該当するものに限る)
- 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス
- 従業員に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)
ただし、これらの経費には条件や上限金額が設定されているものもあるため、事前に確認しておくことが大切です。
インボイス制度領収書の受取側の注意点
インボイス制度開始後は、領収書の受取側もいくつかの点に注意しなければなりません。領収書等の仕分けや保存を適切に行わないと、仕入税額控除が受けられなくなります。
以下では、インボイス制度における受取側の注意点について解説します。
適格請求書発行事業者かどうかで仕分けをする
まず、適格請求書発行事業者が発行したものかどうかで領収書等を仕分けましょう。適格請求書発行業者であれば、領収書等に登録番号が記載されています。もし、本当に適格請求書発行業者か調べたい場合は、適格請求書発行事業者公表サイトで確認が可能です。
登録事業者からの領収書は、適格請求書または適格簡易請求書として仕入税額控除を受けられます。
登録事業者でなくても、前述の例の様に仕入税額控除を受けられるケースがあるので注意しましょう。特に免税事業者からの課税仕入れに関しては、経過措置によって2029年10月1日まで一定割合の控除が認められます。
現行のインボイス制度では、第一に適格請求書発行事業者が交付したものかどうか、次に経過措置に該当するものかどうかの順で仕分けをすることが重要です。また、仕分け後も、領収書等の一定期間の保存が義務付けられています。そのため、会計ソフト上で仕分けをし、電子データで保存するのがおすすめです。
適格簡易請求書に不備がないかチェックする
適格簡易請求書は、記載事項が簡略化されているとはいえ、記載項目に不備がないかを必ずチェックしましょう。
特に、適格請求書発行事業者の氏名・名称と登録番号、税率ごとの取引金額または適用税率については、ミスがないかの厳しい確認が必要です。もし、記載内容に誤りや漏れがあった場合は、発行事業者に連絡して再発行を依頼しましょう。
記載事項のチェック作業を行う上で、社内での情報共有やマニュアル化が効果的です。また、適格簡易請求書はレシートや領収書など様々な形式があるので、必須項目が記載されているかのチェックシートを用意するのも有効でしょう。
原本及び電子データの領収書を保存する
インボイス制度開始後は、仕入税額控除の適用を受けるために、適格請求書等の原本または電子データを法定期間保存しなければなりません。原本の場合は紙のまま、電子データの場合は電子帳簿保存法の要件を満たす形で保存する必要があります。
電子帳簿保存法における「真実性の確保」で1つ、「可視性の確保」で3つの保存要件を満たしたうえで、領収書の電子データを保存しなければなりません。
- 真実性の確保:電子データが改ざんや削除をされないよう対策すること
(例)訂正や削除ができないシステムの構築・認定タイムスタンプの付与など - 可視性の確保:保存した電子データの検索と表示ができること
(例)関連書類の備え付け・取引の日付などで検索できる仕組み・電磁的記録を書面やディスプレイに出力しておくことなど
原本で保存する場合は、適格請求書と適格簡易請求書を分けて管理するなど、検索性に配慮することが大切です。
どちらの保存でも、保存期間は原則としてインボイスを交付または受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間と定められています。
そのため、長期的な視点での保管方法を検討しましょう。
インボイス制度への対応は経費精算システムや会計ソフトの活用で
インボイス制度への移行を円滑に進めるためには、経費精算システムや会計ソフトの活用がおすすめです。これらのツールを導入することで、インボイス制度への対応や業務効率化を図ることができるでしょう。
以下では、インボイス制度に関連した経費精算システムと会計ソフトの活用について解説します。
経費精算システムでインボイス制度を乗り切る
経費精算システムは、インボイス制度対応に大きく役立つでしょう。たとえば、適格請求書発行事業者かどうかの自動判別機能を利用すれば、人力で領収書を仕分ける手間を省けます。また、経過措置にも対応した仕訳の自動化により、経理担当者の負担を大幅に軽減できるでしょう。
更に、電子帳簿保存法にも対応しているシステムであれば、適格請求書等の電子データを前述の要件を満たした上で保存・管理することが可能です。
インボイス制度に対応した経費精算システムを導入することで、会計や経理の業務の負担軽減が期待できます。
インボイス制度対応の会計ソフト導入のメリット
インボイス制度対応の会計ソフトを導入することで、適格請求書に基づく仕訳や帳簿作成を自動化できます。仕入税額控除の計算や、経過措置期間中の経費の処理なども、スムーズに行えるようになるでしょう。また、会計ソフトと経費精算システムをシームレスに連携させれば、領収書等のデータを効率的に取り込み、一元管理することが可能です。
インボイス制度では、領収書等の適切な仕分けや、長期間の管理・保存といった業務の負担が増えるでしょう。一方、インボイス制度に対応した会計ソフトを導入することで、これら業務が自動化されるほか、通常の会計業務でも効率化が期待できます。
インボイス制度を機に、自社に合った会計ソフトを選定し、業務のデジタル化を進めていくことが重要です。
インボイス制度で経費精算の流れは大きく変わる
インボイス制度の開始により、経費精算の流れは大きく変化しました。適格請求書とそれ以外の領収書を仕分けする必要があり、発行事業者の確認や記載事項をチェックする作業も欠かせません。
また、3万円未満の少額取引であっても、原則として適格請求書等の保存が求められるようになりました。一方で、電子帳簿保存法への対応など、電子化を進める動きも加速しています。
こうした変化に対応するためには、社内での情報共有や経費精算のマニュアル化が有効です。また、経費精算システムや会計ソフトを活用することで、業務の効率化が期待できます。
既にインボイス制度は開始されているので、経費精算業務の見直しや会計ソフトの導入などで、すぐにでもインボイス制度に対応できるようにしましょう。