会計監査とは? 目的や流れ、準備すべき書類を解説
会計監査とは、第三者が財務諸表が適正であることを確認し、それを明示することを言います。これにより企業の利害関係者に対して信頼できる財務情報を提示できます。
会計監査への理解を深め、適切な対応ができるよう、ぜひ最後までお読みください。
会計監査とは
会計監査とは、企業の財務諸表の信頼性を確保するためのものです。
投資家などの利害関係者に対して、財務諸表が適正であることを客観的に証明するための重要な仕組みです。
ここでは、会計監査の目的や対象となる企業について詳しく解説します。
会計監査の定義と目的
会計監査とは、企業が作成した財務諸表に間違いがなく適正であるかどうかを第三者が監査することを指します。財務諸表監査を担当するのは、会計監査人と呼ばれる公認会計士または監査法人です。
会計監査の目的は、第三者が企業の会計処理が正しく行われているかを明示し、投資家や債権者などの利害関係者に対して、財務情報の信頼性や正確性を担保することです。この過程がない場合、利害関係者は企業の経営状況や財務諸表の信頼性を判断できない、間違いがあっても気づけないなど、投資の意思決定に問題が生じます。
企業の会計の仕組みについては、以下の記事で紹介しています。
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会計とは? 経理・財務・簿記との違いから業務効率化のポイントまで解説会計監査の法的根拠と対象企業
会計監査の主な法的根拠になるものは、「会社法」と「金融商品取引法」です。
会社法は、会社の設立や会計などのルールについて定めた法律です。取引相手や利害関係者を保護する目的があります。また金融商品取引法は、金融取引の公正性や経済の円滑化を図ることを目的とした法律です。
これらの法律に基づいて、以下の条件を満たす企業に対して会計監査が義務付けられています。
法律 |
会計監査の対象となる条件 |
---|---|
会社法 |
以下のいずれかに当てはまる企業(いわゆる大会社)
|
金融商品取引法 |
主に、上場企業 |
会計監査の3つの種類
会計監査には、外部監査・内部監査・監査役監査の3つがあります。それぞれ役割が異なりますが、企業の財務諸表の透明性を確保し、正確であることを担保するために欠かせません。
ここではそれぞれの監査の目的や役割をご紹介します。
外部監査(法定監査)
外部監査とは、公認会計士または監査法人などの第三者によって行われる監査のことです。外部監査を行うことで、企業の財務諸表が適正であることを証明でき、「法定監査」とも呼ばれます。
外部監査は上場企業または、会社法の大会社に当てはまる企業に実施義務があります。外部監査を受ける頻度は年3〜4回が適正とされていますが、規模が大きい企業では2か月に1回以上の監査を受ける場合もあるため注意が必要です。
内部監査
内部監査とは、企業の不正防止や業務効率向上の目的のもと、経営者による経営管理の一環として実施される任意監査のことです。実施回数に決まりはありませんが、年に1〜2回ほど行う企業が多いようです。
内部監査には、内部監査人が以下4つの内部統制の目的の妥当性及び有効性を検討、評価、監視することが含まれます。
- 業務の有効性および効率性
- 財務報告の信頼性
- 法令順守
- 資産保全
内部監査には外部監査のように実施の法的義務がありません。しかし上場企業や大企業は内部統制を整備・運用する必要があるため、内部監査担当者を設置する企業が多い傾向にあります。
また、外部監査では監査結果が投資家など、外部の利害関係者に公表されますが、内部監査では経営陣のみに報告され、外部へ公表されることがありません。
監査役監査
監査役監査は、監査役によって取締役の職務が適正に行われているかを監視し、株主などの投資家の利益を守るためのものです。
監査役監査の実施は、上場企業及び大会社では義務で、配置人数も決められています。監査役は株主総会によって選任され、3人以上の監査役かつ1人以上の常勤の監査役が必要です。また、そのうち半数以上は社外監査役でなければなりません。
また、監査役監査による監査報告は通常年1回行われ、以下のように業務監査と会計監査の2種類に分かれています。
- 業務監査:取締役の職務は法令や企業規則を遵守しているか
- 会計監査:貸借対照表などの財務諸表が正確で適正な内容であるか
法定会計監査の種類
法定会計監査の種類は、金融商品取引法監査と会社法監査の2種類です。これらの監査は、それぞれ対象企業や役割が異なります。
ここでは、これら2つの法定監査について詳しく解説します。
会社法監査
会社法監査は、会社法における大会社等を対象とした監査です。この監査は、株主総会で承認される貸借対照表などの財務諸表の適正性を担保し、株主や債権者の利益を守るためのものです。
会社法監査の特徴として、以下のことが挙げられます。
- 年度決算を中心とした監査
- 監査結果が株主総会で報告される
- 配当可能利益の算定にも影響を与える
会社法監査を行うことで企業の財務状況が適正に表示されていることを確認でき、株主や債権者は安心して企業との関係を継続できます。またこの監査を通じて、企業経営の透明性向上にもつながり、長期的な信頼関係の維持に貢献します。
金融商品取引法監査
金融商品取引法監査は、上場企業等を対象とした監査です。この監査は、有価証券報告書等の開示書類の信頼性を確保し、投資家の適切な意思決定を支援する役割があります。
金融商品取引法監査の特徴は以下の通りです。
- 四半期報告書・有価証券報告書・決算短信を開示する
- 内部統制報告書の監査も含む
- 監査結果が一般に公開される
- 国際的な会計基準との整合性が求められる
この監査により、投資家などの利害関係者は、企業の財務状況や経営成績を正確に把握したうえで投資判断を行えます。また、企業側にとっても財務報告の品質向上や内部統制の強化につながるため、結果として企業価値の向上にも寄与します。
会計監査の流れ
会計監査は、企業が作成した財務諸表が適正なものであるかを判断するうえでかかせません。
ここでは、監査計画から監査報告書の意見表明までを主要な3つのステップに分けて詳しく解説します。
1.監査計画の策定と内部統制の評価
会計監査ではまず、監査の基本的な方針の策定及び詳細な監査計画の作成を実施します。監査の基本的な方針は例えば以下の事項を考慮して作成します。
- 産業特有の報告事項
- 企業の属する業界の特性
- 監査手続の実施におけるITの影響
- 監査上の重要性の決定
- 企業の報告に関する日程
次に、監査チームが実施すべき監査手続きの種類、時期及び範囲を詳細な監査計画で決定します。これらにより、監査業務の適切な管理を行い、監査を効果的かつ効率的に実施することが可能です。
2.監査の実施
監査人は、まず内部統制を含む、企業及び企業環境の理解のためのリスク評価手続を実施します。次にリスク評価手続に基づいて評価・識別した重要な虚偽表示リスクに応じてリスク対応手続を実施します。リスク対応手続は、内部統制の運用状況を評価する「運用評価手続」と勘定残高等を直接立証する「実証手続」の2つです。
なお、実証手続には以下のようなものがあります。
- 記録や文書の閲覧
- 実査観察
- 質問
- 確認
- 再計算再実施
- 分析的手続
以上の監査手続を実施し、十分かつ適切な監査証拠を入手して立証した事項を統合化し、財務諸表の適正性に関する結論として監査意見を形成することになります。書類確認時のチェックポイントについては後ほど解説しますので、ぜひ参考にしてください。
3.監査意見の形成と表明
最後に監査証拠と、監査人の専門知識に基づいて監査意見を形成し、監査報告書で財務諸表の適正性について利害関係者へ表明します。
監査意見とは、監査を実施した結果に基づいて形成した結論であり、以下のように分類されます。
無限定適正意見 |
財務諸表がすべての重要な点において適正に表示されている。 |
限定付適正意見 |
一部を除き、財務諸がすべての重要な点において適正に表示されている。 |
不適正意見 |
財務諸表が適正に表示されていない。 |
意見不表明 |
意見を表明するための十分かつ適切な監査証拠が得られなかったため、意見を表明しない。 |
監査報告書には、監査意見だけでなく監査意見の根拠、経営者や監査人の責任などについても記載されます。この報告書は、企業の財務情報の信頼性を確保する文書として、投資家や債権者など多くの利害関係者にとって重要な書類です。
会計監査で確認される主な8つのポイント
会計監査では財務諸表の適正性を確保するために、様々な角度から検証が行われます。
ここでは、会計監査で特に重点的に確認される8つのポイントを詳しく解説します。
財務諸表の適正性と会計方針の妥当性
財務諸表が会計基準に準拠しているか、会計方針が適切かが慎重に確認されます。
詳しいチェックポイントは以下の通りです。
- 帳簿の集計に誤りがないか
- 領収書と帳簿の金額・日付が一致しているか
- 通帳と帳簿の金額・日付が一致しているか
- 通帳に不審な金額の出入りや不明な出金がないか
- 通帳や帳簿の金額が正しく収支計算書に転記されているか
主に会計処理に虚偽やミスがないか、企業がどのようにお金を管理しているか、領収書などの保管しておくべき書類があるかなどがチェックされます。
それにより重点的に監査するべき点を特定し、経営者とどのように対策をするかを話し合います。
買掛金と売掛金の残高
買掛金と売掛金の残高も、それぞれ取引先の勘定残高と一致するかを確認します。また、滞納している買掛金をいつ決済するのかや、未回収の売掛金は取引先に対してどのように回収するのかについても適宜質問を実施します。
棚卸資産の確認
原材料や商品など、棚卸資産がある場合は会計監査人立会いのもと、棚卸が行われます。会計監査人が棚卸資産に関する監査証拠を入手することで、実地棚卸記録の網羅性及び正確性を確かめることが可能です。
固定資産の評価と減損
建物や機械などの固定資産を保有している場合は、固定資産税が正確に計上されているか、減価償却が適正に行われているかなどもチェックされるポイントです。具体的には、会社が保有している固定資産をどれくらいの金額で手に入れたのか、それが現段階でどのくらいの価値があるのかを計算します。
また、会計期間中に売却や除却があった場合には、それらがしっかりと処理されているかも確認されます。
引当金の妥当性
各種引当金も、会計監査時のチェックポイントです。
主な引当金として、以下のものが挙げられます。
- 貸倒引当金(未回収の債権)
- 賞与引当金(支払予定の賞与額のうち、当期中に計上する金額)
- 退職給付引当金(従業員の退職時に必要となる金額をあらかじめ積み立てする金額)
- 返品調整引当金(返品予想に基づいて設定する金額)
これらは計上し忘れやすい勘定科目です。引当金の漏れがないか充分に確認しましょう。
関連当事者取引の確認
取引先との取引の適切性も確認されます。具体的には関連当事者の特定、取引金額や取引条件の妥当性、そして、それらが財務諸表と一致しているかという点です。
特に、通常の取引条件と異なる関連当事者取引があった場合、その合理性や妥当性が慎重に検討されます。取引内容を詳細に記録し、対策しましょう。
税金費用の妥当性
法人税等の計算や税務申告との整合性などもチェックされます。
税金費用を適切に計上することで企業の実効税率の妥当性を確保し、将来の税金負担に関する適切な情報を提供できます。税務の専門家と連携し、適切な会計処理を行うようにしましょう。
財務諸表の表示と開示
財務諸表の記載方法が適切で、必要な開示が十分になされているかも確認されます。開示する財務諸表には、四半期ごとに提出する四半期報告書と決算短信、年に一度の有価証券報告書があります。
それぞれの提出回数・提出期限は以下の通りです。
|
提出回数 |
提出期限 |
四半期報告書 |
3か月ごと年3回 |
各四半期終了後、45日以内 |
決算短信 |
年に4度 |
各事業所の決算日から45日以内 |
有価証券報告書 |
年に1回 |
各事業年度終了後、原則3か月以内 |
会計監査に必要な書類と準備
ここでは、会計監査に必要な書類を説明します。会計監査を円滑に進めるために、事前に準備しておきましょう。
財務諸表関連書類と帳簿・伝票類
会計監査において最も基本的かつ重要な書類は、財務諸表とそれを裏付ける帳簿・伝票類です。会計監査時には以下の書類を用意しておきましょう。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 株主資本等変動計算書
- キャッシュ・フロー計算書
- 総勘定元帳、補助元帳銀行取引明細書、預金通帳
- 固定資産台帳
- 棚卸資産明細表
- 売掛金・買掛金一覧表
- 現金出納帳
特に、貸借対照表・損益計算書・キャッシュ・フロー明細書は企業の財務状況を明らかにする重要な書類で、「財務三表」と呼ばれます。
その他の重要書類
財務諸表や帳簿・伝票類以外にも、会計監査では様々な書類が必要です。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 取締役会議事録
- 株主総会議事録
- 稟議書
- 仕入れ先一覧
これらの書類は、財務諸表の正確性や透明性を示すうえで必要なこともあるため、上記の書類と一緒に準備しておくと安心です。
会計監査を円滑に進めるためのポイント
最後に、会計監査を効果的かつ効率的に進めるためのポイントを2つ解説します。
以下のポイントを押さえて、監査の質を高めるとともに、会計監査にかかる時間の短縮に役立ててください。
監査人と適切なコミュニケーションをとる
監査人との適時・適切なコミュニケーションは、効率的な監査の実施に不可欠です。効果的なコミュニケーションのポイントとして、以下の3つが挙げられます。
- 必要な情報をすべて開示し、誠実に対話する
- 重要な取引や会計上の判断に関する事前相談
- 監査時に不備があった際の迅速な対応
オープンで誠実な対話を心がけ、監査人の質問に的確に回答することで信頼関係を構築できるでしょう。また、複雑な取引や会計上の判断について迷うことがあれば事前に相談し、会計ミスを未然に防ぐことが重要です。
会計監査にかかる負担を減らす
会計監査をスムーズに進めるためには、社内で事前にルールや仕組みを整えたり、内部統制を整備・運用したりすることが重要です。内部統制システムを構築し、日常的に運用することで、財務報告書をより正確で信頼性の高いものにできます。監査時の不備も減り、修正などに係る会社側の負担軽減につながるでしょう。
このような課題の解決策として会計システムの導入が挙げられます。
会計システムの中には、社内統一した規格で部門間の仕分けを管理・サポートする製品があるため、部門ごとに発生する不具合やミスを軽減できるのはもちろん、内部統制にも対応します。
会計監査の重要性を理解して適切な対応をしよう
会計監査は会社法と金融商品取引法により定められた、企業の義務です。会計監査時には、財務諸表の適正性、虚偽表示の有無、各勘定科目があっているかなどを確認されます。
会計監査を効率的に進めるためには、財務諸表作成時のルールを定める内部統制を徹底したり、作成時の不明点があれば監査人に質問したりするのが効果的です。財務諸表は社外の利害関係者からの信頼を得るために欠かせない書類です。
この記事を参考に会計処理を正確に行い、監査をスムーズにするのに役立ててください。