GAAPとは? 主要原則や会計基準の種類を解説
GAAPは、国際規模で企業の財務報告が正確であることを示す会計基準です。投資家や株主などの企業の利害関係者が、財務報告を比較することが可能になります。
また、日本で適用可能なGAAPは4種類あり、日本国内のみで事業を行う企業に適したものや、海外への事業展開を考えている企業に適した会計基準があります。
この記事では、GAAPの主要原則とそれぞれの特徴を解説します。自社に合った会計基準を選択するのに役立ててください。
GAAPとは
GAAPは、財務報告をする際のルールを統一したもので、財務情報の透明性を図り、企業の経営状況を他の企業と比較できるようにする目的があります。
まずはGAAPの定義や目的を解説します。
GAAPの定義
GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)は、企業が財務報告を行う際に従うべきルールのことです。具体的には、財務報告するうえで妥当とされた会計概念や会計基準、実務の体系が示されています。
GAAPに準拠して財務諸表を作成することで、取引先や企業の利害関係者からの信用を得られます。
GAAPの目的
GAAPの主な目的は会計基準を統一することで、財務情報の透明性を確保し、比較を可能にすることです。これにより、投資家などの利害関係者の意思決定を支援し、健全な資本市場を形成できます。
また前述したとおり、GAAPに沿って財務諸表などを作成することで企業の信頼性が向上し、金融機関からの融資が円滑になります。さらに、標準化されることで財務情報が比較可能になり、経営者が経営判断などをしやすくなるのです。
GAAPの主要原則
GAAPは全部で7個の重要な原則から構成されています。
- 真実性の原則
- 正規の簿記の原則
- 資本取引・損益取引区分の原則
- 明瞭性の原則
- 継続性の原則
- 保守主義の原則
- 単一性の原則
以下では、それぞれの原則について詳しく解説します。
真実性の原則
企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。
引用元:企業会計原則
真実性の原則は、企業の財務諸表が企業の財政状態と経営成績を真実に表示しなければならないという基本的な要請です。この原則は、会計情報の信頼性を確保し、利害関係者の意思決定に有用な情報を提供することが目的です。
具体的には、取引の実態を正確に反映し、恣意的な会計処理を避け、客観的な証拠に基づいて会計記録を行うことが求められます。また、会計方針や見積りの変更、誤りの訂正などについても適切に開示しましょう。
正規の簿記の原則
企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
引用元:企業会計原則
正規の簿記の原則は、企業のすべての取引を複式簿記の原則に従って、整然かつ明瞭に記録することを要請します。この原則の目的は、会計記録の正確性と網羅性を確保し、財務諸表の信頼性を高めることです。
具体的には、取引を発生順に記録し、勘定科目を適切に選択し、仕訳帳や総勘定元帳などの会計帳簿を体系的に作成・保管することが求められます。また、正規の簿記の原則を満たす記録は、複式簿記が適しています。
資本取引・損益取引区分の原則
資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。
引用元:企業会計原則
資本取引・損益取引区分の原則は、以下2つを明確に区分して処理することを要求します。
- 企業の資本に直接影響を与える取引(資本取引)
- 企業の経営成績に影響を与える取引(損益取引)
この原則は、企業の財政状態と経営成績を適切に表示し、利害関係者の判断を誤らせないことが目的です。
例えば、株主からの出資や配当は資本取引として扱われ、売上や費用は損益取引として扱われます。この区分により、純資産の変動要因が明確になり、企業の業績評価がより適切に行えるようになります。
明瞭性の原則
企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。
引用元:企業会計原則
明瞭性の原則は、財務諸表が利害関係者にとって理解しやすく、必要な情報を明瞭に表示しなければならないという要請です。この原則は、会計情報の有用性を高め、利害関係者の意思決定を支援することを目的としています。
具体的には、財務諸表の様式を統一し、重要な項目を適切に区分表示し、必要に応じて注記を付けることなどが求められます。また、複雑な取引や会計処理については、利用者の理解を助けるために補足的な説明を加えましょう。
継続性の原則
企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。
引用元:企業会計原則
継続性の原則は、企業が採用した会計方針を毎期継続して適用しなければならないという要請です。この原則は、財務諸表の期間比較可能性を確保し、企業の業績や財政状態の推移を正確に把握することを目的としています。また、継続性の原則が認められるのは、2つ以上の会計処理を選択できる場合です。
ただし、正当な理由がある場合には会計方針の変更が認められますが、その場合は変更の理由と財務諸表に与える影響を開示する必要があります。この原則により、恣意的な会計処理の変更を防ぎ、財務諸表の信頼性と有用性が高められます。
保守主義の原則
企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。
引用元:企業会計原則
保守主義の原則は、企業会計上の判断や見積りにおいて、より保守的な会計処理を選択することを要求します。この原則の目的は、企業の財政状態や経営成績を過大に表示することを防ぎ、利害関係者を保護することです。
具体的には、資産の評価は低めに、負債の評価は高めに行う傾向があります。例えば、棚卸資産の評価損や貸倒引当金の計上などがこの原則の基盤です。ただし、過度に保守的な処理は避けるべきとされています。
単一性の原則
株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。
引用元:企業会計原則
単一性の原則は、企業が作成する財務諸表等において、同一の会計事実については、同一の会計処理の原則及び手続を適用しなければならないという要請です。この原則は、財務諸表の整合性と比較可能性を確保し、利害関係者の判断を誤らせないことが目的です。
単一性の原則における異なる形式の財務諸表とは、以下の機会に行う財務諸表を指します。
- 法人税などを申告する
- 企業外部に報告する
- 金融機関に提出する
例えば、本社と支社で異なる減価償却方法を採用したり、連結財務諸表と個別財務諸表で異なる会計処理を適用したりすることは、この原則に反します。目的に沿って形式は変えられますが、会計記録の内容は変えられないので理解しておきましょう。
GAAPの適用範囲と義務
GAAPは、基本的にすべての株式会社や上場企業に適用が義務付けられています。
ここでは、適用範囲のほかに、GAAPに基づく財務報告を構成する要素や業界特有の規則についてもご紹介します。
GAAPを適用する企業と組織
GAAPの適用は、会計報告義務のある上場企業や株式会社などに、法的に義務付けられています。GAAPに従って会計処理を行わないと、金融取引法や会社法に違反することになるのです。
金融取引法の場合、最高で懲役10年または7億円以下の罰金、さらに業務停止命令が下されるなどの罰則が科されることがあります。
GAAPに基づく財務報告の要素
GAAPに基づく財務報告では、企業の財政状態、経営成績、資金流動性が明確に示されます。主要な財務諸表は、以下の4つです。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- キャッシュフロー計算書
- 株主資本等変動計算書
貸借対照表は特定時点における企業の資産、負債、純資産の状況を示し、損益計算書は一定期間の収益、費用、利益を表示します。キャッシュフロー計算書は現金の流入と流出を読み取れ、株主資本等変動計算書では純資産の変動や株主資本の変動事由を読み取れます。
業界特有のGAAPガイドライン
GAAPは基本的にすべての株式会社に適用される会計原則です。しかし特定の業界には、特別なガイドラインが存在します。
例えば、金融業では貸倒引当金の計上に関するルールが、不動産業では、建物の減価償却の計算方法に関するルールがあります。
このほかにも業界特有のルールがいくつも存在するため、確実に把握しておきましょう。
日本で適用できる会計基準
日本企業が財務報告を行う際には、以下の4つの会計基準を適用できます。
- J-GAAP(日本基準)
- IFRS(国際財務報告基準)
- US-GAAP (米国基準)
- JMIS(修正国際基準)
ここでは各会計基準の特徴や、適用が向いている企業を紹介します。
J-GAAP(日本基準)
J-GAAP(Japanese Generally Accepted Accounting Principles)は、日本の法律や商慣行に基づいて設計された会計基準です。日本で事業を行い、海外展開をする予定のない企業に適しています。
日本企業の多くがこの基準を採用しており、国内の会計実務に適したガイドラインを設定しています。
IFRS(国際財務報告基準)
IFRS(International Financial Reporting Standards)は、国際的に統一された会計基準です。海外への事業展開を考えている企業や、海外の投資家から投資を受けている企業などに適しています。IFRSを採用していると、海外へ事業を展開できるほか、国際取引の際も財務報告を書き換えずに取引が可能です。
日本では2009年から任意適用が認められており、国際的な事業展開を行う大企業や上場企業を中心に採用が増加しています。前述のJ-GAAP(日本基準)では海外展開において不利になることがあるため、近年ではIFRSを採用する企業も増えてきています。
US-GAAP(米国基準)
US-GAAP(米国基準)は、アメリカ合衆国で一般に認められている会計原則です。日本でも適用が認められており、米国に上場を目指している企業や、米国の企業と合併・買収の予定がある企業での採用が向いています。
US-GAAPは、IFRS(国際財務報告基準)と同じく国際基準の会計基準です。そのためUS-GAAPを採用している財務報告書は、アメリカの株主や投資家からの信頼を得やすくなります。J-GAAP(日本基準)は、この会計基準を参考にしていることから似ている点もあります。しかし日本基準では費用に計上しない項目も費用とする場合があるため、注意が必要です。
JMIS(修正国際基準)
JMIS(Japan's Modified International Standards)は、IFRSを日本の法律に合わせて一部修正した会計基準です。海外に子会社を持つ企業のほか、国際的な事業展開を目指している企業にも適しています。
IFRS(国際財務報告基準)との大きな違いは、のれんの償却の有無です。IFRSは、のれんの償却を行わないのに対し、JMISはのれん償却を行います。のれん償却を行うことで赤字が一括で計上されることを避け、減損を減らすことで財務を安定させられるのです。
GAAPの課題
GAAPは財務報告の標準化と透明性の向上に大きく貢献していますが、同時にすべての財務状況に対応できないことや、中小企業での採用がしにくいなどの課題も抱えています。
以下では、それぞれの課題について詳しくご紹介します。
GAAPの懸念点
GAAPは財務報告の基準として広く受け入れられていますが、いくつかの懸念点があります。
まず、GAAPはすべての財務状況を完全に反映できるものではありません。複雑な取引や特殊な状況では経営者の判断が必要です。また、急速に変化するビジネス環境において、GAAPが新しい取引形態や経済事象に追いつけないなどの課題も存在します。
そのため、GAAPを導入すれば自動的に財務状況が透明化できるとは限らないことを知っておきましょう。
中小企業への適用の難しさ
GAAPは大企業や上場企業を主な対象として設計されているため、中小企業にとっては適用が難しいことがあります。GAAPを導入するプロセスは複雑で、高額な費用がかかる場合が多いからです。また、導入には専門的な知識や人材が必要となることもあり、小規模な企業にとっては大きな負担となる可能性があります。
さらに、GAAPはすべての企業にとって使用しやすい会計基準とは限りません。特に中小企業などは、仕組みが複雑で財務記録に組み込みにくいなどの課題もあるようです。
GAAPの重要性を理解して適切な財務報告を目指そう
GAAPは財務報告をするうえでのルールを統一し、誰が見ても分かるようにするものです。上場企業や株式会社には導入が義務付けられています。導入することで財務情報を比較可能にし、透明性を確保できます。
日本で適用できるGAAPは4種類あり、自社の現状や展望に合わせて自由に選択可能です。ただし場合によってはすべての財務状況に対応できなかったり、中小企業での適用が難しかったりするなどの課題もあります。
それぞれのGAAPの特徴を理解して、自社に適した会計基準を導入しましょう。