ポイズンピルとは? メリット・デメリットや企業事例をわかりやすく紹介
ポイズンピルとは買収対策の一種で、「毒薬条項」ともいわれています。買収者が行使できない差別的な条項が付与された新株予約権を、既存株主に付与するなどして、買収阻止を目指すためです。
上場企業には買収されるリスクがありますので、ポイズンピルを正しく理解できるとよいでしょう。
本記事では、自社株を管理する経営層に向けて、ポイズンピルの意味や仕組み、手法の種類やメリット・デメリットを詳しく解説します。また、この記事の後半部分では、ポイズンピルの導入事例をまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
ポイズンピルとは?
ポイズンピルとは、敵対的な買収を防ぐために、既存の株主に差別的な行使条件が付された新株予約券を提供するものです。買収者以外の株主がこの新株予約権を行使することで、買収者の持ち株比率を下げたり、買収に必要なコストを増やしたりすることが目的です。
日本では、アメリカのポイズンピルと全く同じ方法を取ることは法律で規制されていますが、新株予約権を使った対策によって同様の効果が得られます。
(出典:野村證券 証券用語解説集 ポイズンピル )
ポイズンピルが買収防衛になる仕組み
ポイズンピルの新株予約権には、さまざまな使い道があるため、買収防衛策としても利用できます。新株予約権とは、一定の金額(行使価格)を会社に払い込むと、会社から株式の交付を受けられる権利です。
新株予約権を持った人は、権利を行使するのもしないのも自由です。これをオプションと呼びます。権利行使価格よりも株価が高ければ、権利を行使した方が有利でしょう。しかし、株価の方が安ければ、権利を行使せずそのまま持っておくほうが有利といえます。
例えば、会社に敵対的買収者が現われたとき、会社は既存の株主全員に対して、株式1株につき3個の割合で新株予約権を割り当てます。この新株予約権は、行使価格が株価よりも安価に設定されており、ほとんどの株主が権利を行使することが予想されます。
ただし、新株予約権には、買収者だけは権利行使できないという差別的な行使条件を付しておきます。買収者以外の株主の株式保有割合が4倍近くに膨らむことで、買収者の保有率が一気に低下し、買収が失敗に終わるためです。
ポイズンピルの手法は大きく2種類
ポイズンピルの手法は主に2種類です。
- 事前警告型ポイズンピル
- 信託型ポイズンピル
それぞれ詳しく解説します。
1.事前警告型ポイズンピル
事前警告型ポイズンピルは、敵対的買収者に買収が実行される前に買収目的等の開示を求めます。回答次第ではポイズンピルを発動すると警告を発し、企業価値を毀損するような買収を難しくすることです。
新株予約権を使って、次のようなプロセスで進めます。
- 買収社Bが、A社の株式を買い集めて買収を仕掛ける
- A社は買収社Bに対して、買収の目的や買収後の事業計画を明らかにするよう求める
- A社が、買収社Bからの回答に納得できない場合、A社は差別的な行使条件が付された新株予約権を発行して対抗
ただし、買収社Bが正当な理由や買収後の事業計画を提示できれば、新株予約権の付与はされず、買収が進行します。
2.信託型ポイズンピル
信託型ポイズンピルは新株予約権を、第三者である信託銀行等に預けるのが最大の特徴です。
信託型ポイズンピルのフローを解説します。
- 新株予約権を信託銀行に無償で発行して、信託銀行がこれを管理する
- 敵対的買収が実際に起こると、信託銀行は新株予約権を買収者以外の既存株主に交付
信託型ポイズンピルは第三者(信託銀行)が新株予約権を管理するため、手続きがよりスピーディーに進むでしょう。また、敵対的買収者との交渉によって、ポイズンピルを実行するかを決定するのも可能です。
ポイズンピルを実施するメリット
ポイズンピルを実施するメリットをまとめました。
- 買収防衛
- 交渉力向上
ぜひ参考にしてください。
買収防衛
ポイズンピルは、敵対的買収者が会社を乗っ取ろうとする際に、その試みを阻止する効果があります。ポイズンピルが持ち合わせる防衛力によって、企業が自らのビジョンや戦略を守り、安定した経営を続けられるようになるでしょう。
また、従業員の雇用も保護されるため、従業員にとって安心して働く環境が維持できます。
交渉力向上
ポイズンピルを導入することで、企業は敵対的買収者に対して強い交渉力を保持できます。企業は買収者との交渉で有利な立場を築けるため、より良い条件で合意に達せるはずです。
もしポイズンピルがなければ、買い手にとって有利な状況で買収の話が進められる可能性が高いでしょう。
ポイズンピルを実施するデメリット
ポイズンピルを実践するデメリットをまとめました。
- 株価が低下する
- 新株発行の差し止めのリスク
株価が低下する
ポイズンピルを実施する際は、多くの新株を発行することが一般的です。
しかし、株価が低下するため、ポイズンピルは既存の株主から反発を受けやすい防衛策とされています。
株価の低下は既存株主にとってマイナス要因になり、買収側の提案が合理的であった場合、既存株主が買収側の支持に回ることが懸念されるでしょう。
新株発行の差し止めのリスク
ポイズンピルが発動されると、買収側から対抗措置として差止請求がされることがあり、法廷闘争に発展するリスクがあります。
しかし、裁判所が差止めを容易に認めることは考えにくいため、会社は敵対的買収を防ぐための別の方法を検討しなければならず、企業経営に大きな負担がかかります。
また、企業が自己防衛に走っているという印象を持たれて信頼を喪失したり、企業価値が低下する可能性も考慮しなければなりません。
ポイズンピルを実施した企業事例
ポイズンピルを実施した会社の事例を2つ紹介します。
2005年:ニッポン放送
2005年、インターネット企業のライブドアがニッポン放送の株式を35%取得し、敵対的買収しようとしていました。ニッポン放送はフジテレビジョンに新株予約権を大量に発行し、ライブドアによる買収を回避しようと試みますが、ライブドアが東京地方裁判所に新株予約権の発行を差し止める仮処分を申し立て、裁判所もこれを認めたことから、新株予約権は発行されずに終わります。
その後、ニッポン放送とライブドアは和解し、日本におけるポイズンピルの導入が注目されるきっかけになりました。
2007年:ブルドックソース
2007年、ブルドックソースがスティール・パートナーズ(アメリカの投資ファンド)の敵対的買収に対して、ポイズンピルを行使しました。
スティール・パートナーズは、ブルドックソース側の新株予約権の発行を差止めるよう、東京地方裁判所に仮処分を申し立てました。
しかし、申立てが却下されたため、ブルドックソースは買収されずに終わったのです。
2021年:新生銀行
2021年、新生銀行はSBIホールディングスによるTOBに対抗するため、SBIホールディングス以外の既存株主に新株予約権を発行する臨時株主総会を開催しようとしていました。
しかし、大株主がポイズンピルの発動に反対するとの報道が出ました。
結局、ポイズンピルは成功せず、新生銀行はSBIホールディングスと和解の末、その子会社になりました。
ポイズンピルについてのまとめ
ポイズンピルは企業の買収防衛策に効果的な手法ですが、メリットとデメリットがあるため、ポイズンピルを十分理解したうえで導入しなければいけなりません。
経営層はこの記事を参考にしながら、万が一に備えて敵対的買収の防衛策をしっかりと考えておきましょう。
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