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もしも経理をやることになったら… 経理の仕事シリーズ⑥  予実管理

著者: 中小企業診断士  髙岡 健司

もしも経理をやることになったら… 経理の仕事シリーズ⑥  予実管理

初めて経理担当になる方に向けて、経理の仕事を解説する「経理の仕事シリーズ」。

今回は「予実管理」について解説します。


1.予実管理とは?

企業は通常、経営計画を毎年策定し経営目標を立てます。

経営目標を達成するために予算を立てることが「予」、計画の進捗などの実績管理することが「実」で、予算と実績を管理することを予実管理と言います。

大企業では経営企画部のような経営を統括する部署が経営計画を策定することが多いですが、中小企業では経理担当者が経営計画を策定するケースが多いです。

予実管理を行うメリットには、下記のような点が挙げられます。

  • 社長の経営目標を共有することが出来、会社としての「あるべき姿」が明確になる。
  • 会社が抱える経営課題を明示することにより、会社一丸となって課題解決に臨める。
  • 実績を定期的に確認することにより、経営目標の進捗を確認することが出来る。

経理担当者にとって予実管理は重要な仕事ですので、是非マスターしておきましょう。


2.予算の策定

まずは予算の策定について解説していきます。予算をどのように策定すべきか分からないという方に向けて、ポイントを挙げながら説明していきます。

①過去の業績を参考にする

予算は通常決算期に合わせて策定します。

3月決算の企業であれば、4月から1年間の計画を策定します。

まずは前期の業績内容を元に予算を立てていきます。

ここで気を付けていただきたいことは、前期業績における特殊要因を取り除くことです。

例えば、一過性の利益(例:補助金がピンポイントで入金され売上を押し上げた)や、一過性の損失(例:役員退任に伴い多額の退職金を支払った)などが挙げられます。

特殊要因を取り除かず予算の策定をした場合、適正な予実管理が出来ないので十分注意しましょう。

②社長の意向を反映させる

前期の業績内容を参考に予算を立てていきますが、経理担当者が単独で作成したのでは意味がありません。

まずは社長の意向を確認しましょう。売上目標、利益目標、前期決算の反省を踏まえて改善していきたい点などを聞いていきます。社長の頭の中にあるビジョンを計画に反映させることで「社長の意向」が反映され、会社としての「あるべき姿」が明確になります。

③現場の意見を反映させる

先ほど「社長の意見を反映させる」と書きましたが、トップダウンの計画だけでは上手くいきません。予算目標を設定する際に、売上目標はトップダウンではなく、極力ボトムアップで策定するようにしましょう。

トップダウンで厳しい目標を押し付けた場合、一時的に業績は良くなるかもしれません。しかし従業員は押し付けられた目標をこなすことに精一杯で、自ら考えて自発的に行動することが出来なくなります。

現場の従業員から売上目標を提出してもらうなど、現場の意見を反映した計画策定が求められます。

④「売上」「変動費」「固定費」を考える

売上と利益を考える上で、変動費と固定費を併せて検討する必要があります。

「売上―変動費―固定費=利益」

という式が成り立ちます。

予算計画を策定する上では「利益=経常利益」として考えるべきでしょう。

本業で得た利益である営業利益に加えて、借入に対する利息である支払利息まで考慮する必要があるからです。

予算策定の際は、まず売上を考えるというイメージがあるかもしれません。しかし売上を高く設定しても、その分費用である変動費や固定費が抑えられなければ、利益を確保できる保証はありません。

予算設定する際には、目標となる経常利益を設定した上で、「売上」「変動費」「固定費」

それぞれ検証していく必要があります。

このように①~④までのステップを踏んで、予算計画を策定していきます。

最終的な予算策定には社長の承認を得る必要がありますが、「社長の意向」「現場の意見」の両方が盛り込まれた、納得感がある予算策定を目指すことが大切です。


3.実績の管理

予算を立てても、実績の管理をしなければ予実管理の意味がありません。

通常は月次で実績管理を行います。ここで重要なことは、予算と実績が乖離した場合、原因を十分に確認することです。

利益目標を下回った場合は、「売上が減少したのか?」「売上は横這いで推移したが、費用が増加したのか?」など、それぞれの原因により改善策は異なってきます。

また、業績が悪かった場合だけではなく、業績が良かった場合も原因を確認することが必要です。

例えば、売上が増加した要因を確認したところ「営業担当のAさんが営業方法を変えたことにより、成約件数が増えた」ということが分かったとします。この際に、営業担当であるAさんを評価するだけではなく、Aさんが行った営業方法を他の営業社員に共有することで会社全体の営業成績が上がる可能性があります。

これは「個人のスキル・ノウハウ」「組織全体のスキル・ノウハウ」にまで高め、会社としての営業力を向上させることになります。

実績管理を行うことにより、今後の課題が「見える化」されます。そして早期に改善策を立てることにより、予算達成の可能性を高めることが出来ます。


4.予実管理が上手くいかない原因

実際に予実管理を行っている企業においても、運用が上手くいかないことが多いのも事実です。ここでは予実管理が上手くいかない原因を解説していきます。

(1)予算立案時の原因

①社員の協力が得られない

予実計画を策定しても、社員の協力が得られなければ意味がありません。

その原因として

「トップダウンで予算計画を策定した」

「現場の社員の意見を聞かずに予算策定をした」

などが挙げられます。

トップダウンで策定された予算計画では、現場の社員は「予算を押し付けられている」という想いが強くなり、自発的な行動は望めません。

予算策定時に現場社員の意見を取り込むこと、予算目標についても社員が納得するように説明することが大切です。

②目標設定に妥当性が無い

次によくあるパターンは、目標設定に妥当性が無いことです。

「予算目標を達成するために無難な目標を設定した」

「トップダウンで予算を策定し、高すぎる目標設定になった」

などが挙げられます。

予算目標策定時に「目標が達成出来ない場合、経営陣からの批判を受けたくない」という心理状態が働いた場合、予算目標を低めに設定してしまいます。これでは、従業員の「目標に向かって頑張る」という意識は働かなくなります。

予算策定の際は、妥当性のある目標設定を行わなければなりません。

(2)実績管理時の原因

①予算との乖離だけに固執してしまう

実績管理の際に予算と実績が乖離した場合は、

「乖離した原因」と「今後の改善策」

を検討しなければなりません。

しかし、予算を下回った場合に「なぜ目標を達成しなかったのか」と責任追及ばかりを行い、有効な改善策まで検討していないケースが非常に多いです。このような企業は短期的な目標達成ばかりにとらわれて、目の前のノルマ達成にしか関心が向かなくなります。

実績管理を行い、「目標と乖離した原因」「今後の改善策」を絶えず行っていくことが予実管理を成功させるポイントです。

②定期的な実績管理が行われていない

実績管理は定期的に行わなければなりません。通常は月次で実績を管理し、予算の達成度合いを確認します。短いスパンで実績管理を行うことで、PDCAを素早く回すことが重要です。

しかし、月次の集計が纏まらないなどの原因で、定期的な実績管理が行われないケースが多いです。まずは月次で実績管理が行えるように、スムーズに会社の売上などの計数を集計する体制を構築することも重要です。


5.最後に

今回は予実管理について解説しましたが、いかがだったでしょうか。

経営環境の変化が激しい昨今、予実管理の重要性は増しており、経理担当者は必ずマスターしておきたい分野です。

この記事を読んで、予実管理について理解を深めていただければ幸いです。

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著者プロフィール

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髙岡 健司

中小企業診断士

PROFILE

ライター,コンサルタント

1975年生まれ,栃木県足利市出身。埼玉大学経済学部卒

2020年中小企業診断士登録

地方銀行を24年勤務後、コンサルタント事務所に転職。

得意分野は財務支援、資金繰り支援。

お問い合わせ先

株式会社プロデューサー・ハウス

Web:http://producer-house.co.jp/

Mail:info@producer-house.co.jp

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