有形固定資産とは? 無形固定資産との違いと2つの減価償却方法を解説
企業の資産の一つである「固定資産」は3種類に分類でき、有形固定資産はその一種です。経理担当の方は、資産について正しく理解し、会計で適切に分類したうえで処理しなければなりません。
この記事では、有形固定資産の定義や無形固定資産との違い、有形固定資産に該当する資産、減価償却方法などを解説します。ぜひ参考にしてください。
有形固定資産とは?
企業が利益を上げる目的で購入した資産のうち、1年以上保有もしくは使用するものを「固定資産」といい、固定資産は「有形固定資産」、「無形固定資産」、「投資その他の資産」の3つに分かれます。
「有形固定資産」とは、形があって目に見える固定資産のことで、貸借対照表の借方の部に計上されます。
該当する固定資産
次のようなものは、有形固定資産に該当します。
土地 |
事業に利用される土地 |
---|---|
建物・構築物 |
事業用の店舗、営業所、工場、駐車場、倉庫など |
機械装置 |
主に工場で使用する機械 |
車両・運搬具 |
事業用の一般車両、バス、トラック、フォークリフト、漁船、タンカーなど |
工具器具備品 |
事業用のパソコン、机、椅子など |
なお、不動産会社が販売用に保有している土地や建物は棚卸資産であることから、固定資産ではなく流動資産になります。
無形固定資産との違い
無形固定資産とは、目に見える形がない固定資産のことです。代表的な無形固定資産には、特許権や商標権、借地権といった権利のほか、のれん、ソフトウェアなどがあります。
有形固定資産と同様に、貸借対照表の「借方の部」に計上されます。
固定資産の減価償却方法は2種類
固定資産の減価償却の方法には、「定額法」と「定率法」があります。それぞれの概要と計算方法を見ていきましょう。
1. 定額法
定額法とは、減価償却の対象となる資産の取得価額を、法定耐用年数の期間で一定額ずつ償却する方法です。
毎年一定の金額を減価償却することになるため、減価償却費の計算が簡単でわかりやすい点がメリットといえます。また、減価償却期間中の資産計画も立てやすくなります。
定額法の計算は「取得価額 × 定額法の償却率」で行います。
例:取得価額1,000万円、耐用年数10年の構築物(看板)を定額法で償却した場合の1年あたりの減価償却費(定額法10年の償却率は0.1)
①1年目~9年目
10,000,000 円 × 0.1 = 1,000,000 円
②10年目
10,000,000 円 × 0.1-1= 999,999 円
※償却終了後、除却するまでは、備忘価格1円を残しておく
2. 定率法
定率法とは、減価償却の対象となる資産の取得価額を、毎年一定の割合で償却する方法です。定額法では「一定額ずつ」償却するのに対して、定率法では「一定の割合で」償却します。
償却率は資産の耐用年数に応じて定められており、費用計上額は固定資産を取得した初期のほうが多くなるのが特徴です。
定率法の計算は「未償却残高 × 定率法の償却率」で行います。
例:取得価額600万円、耐用年数6年の車両運搬具(自動車)を定率法で償却した場合
(定率法6年/償却率:0.333、改訂償却率:0.334/保証率:0.09911)
▼償却保証額
6,000,000 円 × 0.09911 = 594,660 円
▼減価償却費
①1年目
6,000,000 円 × 0.333 = 1,998,000 円
②2年目
(6,000,000 円 - 1,998,000 円)× 0.333 = 1,332,666 円
③3年目
(6,000,000 円 - 1,998,000 円 - 1,332,666円 )× 0.333 = 888,888 円
④4年目
(6,000,000 円 - 1,998,000 円 - 1,332,666 円 - 888,888 円)× 0.333 =592,888 円
592,888円 < 594,660 円 ⇒ 4年目の償却計算から改訂償却率を利用する
(6,000,000 円 - 1,998,000 円 - 1,332,666 円 - 888,888 円)× 0.334 =594,668 円
⑤5年目
(6,000,000 円 - 1,998,000 円 - 1,332,666 円 - 888,888 円)× 0.334 =594,668 円
※改訂償却率を利用する場合は、利用開始年度の期首簿価を利用することに注意
⑥6年目
6,000,000 円 - 1,998,000 円 - 1,332,666 円 - 888,888 円 - 594,668 ‐ 594,668 円-1円=591,109 円
※償却終了後、除却するまでは、備忘価格1円を残しておく
「有形固定資産回転率」という指標
有形固定資産回転率は、企業が有形固定資産を効率的に活用できているかどうかを表す指標です。
数値が大きいほど、少ない資産で高い利益を生み出していることを意味します。数値が小さい場合は、有形固定資産に対して売上が少ないことになるため、資産を有効活用できていません。
有形固定資産回転率の計算方法
有形固定資産回転率は、売上高を有形固定資産の平均残高(期首残高と期末残高の平均)で除することにより算定します。
例:売上高1,000万円、期首の有形固定資産の残高200万円、期末の有形固定資産の残高300万円の場合
①有形固定資産の平均残高
(2,000,000 円 + 3,000,000 円)÷ 2 = 2,500,000 円
②有形固定資産回転率
10,000,000 円 ÷ 2,500,000 円 = 4 ⇒ 4回
有形固定資産回転率からわかること
有形固定資産回転率を分析すると、企業が持つ資産と売上の関係性がわかります。
有形固定資産回転率が高い場合は、保有している資産を有効活用して売上を効率的に生み出せているということになります。
一方で、有形固定資産回転率が低い場合は、資産を多く持っている割には売上につながっていません。使い方を見直し、場合によっては処分を検討する必要があるでしょう。
ただし、数値だけで一概に経営状況を判断することはできないので注意が必要です。
売上の拡大や新事業の立ち上げを目的として設備投資を行うと、有形固定資産回転率が低くなります。企業が積極的に投資を行うことは中長期的な成長に欠かせません。
有形固定資産回転率が低い場合は、その理由をしっかりと見極めることが大切です。
【業種・資本金別】有形固定資産回転率の目安
財務省の資料によると、2018年度の全産業・全規模における有形固定資産回転率は、3.34 回でした。これはあくまでも全体の平均であり、企業で分析を行う際は、業種や規模による違いを考慮する必要があります。
有形固定資産回転率を資本金と業種別に見てみると、次のようになります。
資本金 1,000 万円未満 |
資本金 1,000万円~1億円 |
資本金 1 億円~10 億円 |
資本金 10 億円以上 |
|
---|---|---|---|---|
製造業 |
3.59回 |
3.41回 |
4.41回 |
4.43回 |
非製造業 |
2.56回 |
3.13回 |
5.54回 |
2.59回 |
製造業は、大型の機械が必要になることが多いため、有形固定資産回転率が低くなるのが特徴です。
一方で、非製造業は、製造業に比べて固定資産が少なくなるため、有形固定資産回転率が高くなる傾向があります。なかでも権利や技術などを提供する業種は、特に有形固定資産回転率が高くなりやすいといえます。
ただし、表からわかる通り、必ずしも製造業は有形固定資産回転率が低くなるわけではありません。経営状況によっても有形固定資産回転率は大きく変わるため、自社の経営方針や過去の数値、業界の数値の目安を参考にしながら判断することが重要です。
有形固定資産についてのまとめ
土地や建物、機械など、目に見える資産である有形固定資産は、無形固定資産と分けて計上しなければなりません。経理担当の方は、それぞれの特徴を理解し、正しく分類できるようにしましょう。
また、有形固定資産をどの程度有効活用できているかを示す「有形固定資産回転率」は、企業の経営状態を見るうえで重要な指標です。
有形固定資産は一つあたりの金額が大きくなるため、活用状況を定期的に見直すことで経営の改善に役立ちます。
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