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中小企業・ベンチャー企業のための事業承継と遺言

著者:ルーチェ法律事務所 弁護士  帷子 翔太

中小企業・ベンチャー企業のための事業承継と遺言

1.遺言を利用した事業承継

遺言とは、自分が死亡した際に遺産を誰にどのように分けるかなどを記載して、最終の意思を表示するために遺したものです。遺言は、遺言者が死亡したときに効力が生じます(民法985条1項)。そのため、例えば、遺言者が、その所有する不動産を相続人に取得させるには、その旨遺言で記載することになります。

会社を創業した被相続人が、当該会社を相続人の1人である後継者に承継させる場合、会社の実権は株主にあるため、被相続人が保有する当該会社の株式を後継者に承継させる必要があります。もっとも、遺言を作成していない場合、被相続人の死後、後継者を含む相続人全員で遺産分割協議を行って、当該会社の株式を含む遺産を、誰にどのように分割するのか定めなければならず、被相続人の意図した後継者に会社株式を承継させることができません。

そこで、被相続人は、遺言を作成して、会社の株式を後継者に取得させる旨を記載し、自身の死亡後、当該株式が後継者に渡るようにすることになります。事業承継において遺言を活用する場合には、このようにして、後継者に株式が集中するようにする必要があります。また、株式だけでなく、事業を安定して継続するために必要な事業用の資産も同様です。さらに、事業承継を遺言で行う場合、被相続人の財産の多くを後継者が相続することになります。これに対し、他の共同相続人がこれに不満を持つ場合も少なくないため、被相続人の希望を付言事項という形で記載しておくことで、事実上紛争を防止することが期待できます。ただし、あくまで希望であるため、法的な効果が発生するわけでない点に注意が必要です。

なお、遺言によって株式を取得させた場合に生じる遺留分の問題については、【中小企業・ベンチャー企業のための事業承継と遺留分】に関する記事をご参照下さい。

2.遺言の種類とその特徴

遺言とは、自分が死亡した際に遺産を誰にどのように分けるかなどを記載して、最終の意思を表示するために遺したものです。

また、遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言及び③秘密証書遺言の3種類があります(民法967条)。そのうち、特に利用される場合の多い自筆証書遺言と公正証書遺言の特徴は、以下のとおりです。なお、秘密証書遺言は利用される場合が少ないため省略いたします。

自筆証書遺言 公正証書遺言
内容・様式
  • 遺言者が、日付、氏名、財産の遺贈や分割方法等の内容全文を自書し、押印した遺言(民法968条2項)
  • 財産を特定するための事項(財産目録)を添付する場合には当該目録について自書不要(同条2項)1
遺言者の指示(口述)により公証人が筆記した遺言書を、遺言者及び2名以上の証人に読み聞かせ、または閲覧させ、公証人及び当該証人が、内容を承認の上、署名・捺印した遺言(民法969条)
加除訂正等の
変更方法
  • 遺言者が、遺言(財産目録含む。)中の変更場所を指示し、これを変更した旨を付記して署名し、押印
  • 財産目録については、修正した財産目録を添付し、上記方法で変更可能2
新たに公正証書遺言を作成する。遺言が複数ある場合には後の遺言が優先されるため(前の遺言と後の遺言内容が抵触する場合、前の遺言は撤回されたものとみなされる)、変更されたことになる(民法1023条)
撤回方法 いずれかの遺言の方式に従って新たに遺言を作成して撤回する旨を記載(民法1022条) 左に同じ
メリット 作成が手軽
費用不要
  • 公証人関与のもと作成されるため形式不備等のおそれなし
  • 原本が公証役場で保管
  • 家庭裁判所での検認手続不要
デメリット 家庭裁判所で検認手続3が必要
形式不備等のおそれ
遺言の紛失、偽造等のおそれ
  • 作成までに手間がかかる。
  • 費用がかかる。

12 今般の法改正によります。詳細は下記「3」のとおりです。

3 家庭裁判所へ申立を行い、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などの遺言書の内容を確認する手続。

3.自筆証書遺言の作成方法の緩和等

自筆証書遺言を作成する場合、旧法では、財産を特定するための事項である財産目録含めて、全文を自書しなければなりませんでした。しかし、財産目録すべての自書は労力が大きく、自筆証書遺言の利用を妨げているとされていました。そこで、今般の改正で、遺言に財産目録を添付する場合には、当該財産目録を自書する必要がなくなりました(民法968条2項)。なお、自書ではない部分については、全てのページに署名し、押印する必要があります(同項)。

もっとも、加除訂正等の変更にあたっては、旧法の制度を維持し、署名押印は必要とされました。なお、自筆証書遺言を作成する場合、財産目録の自書が不要とされたため、変更にあたっても、修正した財産目録を添付した上で、同様の方法で変更可能となっています。

なお、自筆証書遺言のデメリットを緩和すべく、法務局における自筆証書遺言書保管制度が令和2年7月1日から開始されており、これについては同制度については【遺言書保管法の概要について】の記事をご参照ください。

4.遺言の例

(1)自筆証書遺言の方式の例

作成方法の緩和された自筆証書遺言として、下記のような例が考えられます。下記の例は、法務省がホームページ上で公表している例を参考にしたものです。

なお、法務省のホームページでは、自筆証書遺言の様式についても公表していますので、ご参照ください。

※遺言書本文は、全て自書する必要があります。

遺言書

  1. 私は、私の所有する別紙目録第1記載の不動産を、長男甲野一郎(昭和○年○月○日生)に相続させる。
  2. 私は、私の所有する別紙目録第2記載の株式を、長男甲野一郎に相続させる。
  3. 私は、私の所有する別紙目録第3記載の預貯金を、次男甲野次郎(昭和○年○月○日生)に相続させる。
  4. 私は、上記1ないし3の財産以外の預貯金、有価証券その他一切の財産を、妻甲野花子(昭和○年○月○日生)に相続させる。
  5. 私は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
    住所○○県○○市○○町○丁目○番地○
    職業弁護士
    氏名丙山 太郎
    生年月日昭和○年○月○日

【付言事項】私は、株式会社Xを創業し、現在に至るまで事業を拡大してきましたが、今後は、長年私の業務を補佐し、事業の発展に寄与してくれた長男一郎が、株式会社Xを承継して継続してくれることを希望します。私の希望を受け入れ、家族が争うことなく協力し、X株式会社が益々発展してくれることを願います。

令和 年 月 日

住所 東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号

遺言書別紙財産目録

物件等目録

第1 不動産

  1. 土地
    所在○○区○○町○丁目
    地番○番○
    地積○○平方メートル
  2. 建物
    所在○○区○○町○丁目○番地○
    家屋番号○番○
    種類居宅
    構造木造瓦葺2階建
    床面積1階 ○○平方メートル
     2階 ○○平方メートル

第2 株式

  1. 銘柄株式会社X
    種類普通
    数量1000株

第3 預貯金

    1. ○○銀行○○支店 普通預金 口座番号 ○○○
    2. 通常貯金 記号 ○○○ 番号 ○○○

(2)自筆証書遺言加除訂正の例

自筆証書遺言を加除訂正する場合、下記のように行うことができます。なお、下記の例は、法務省がホームページ上で公表している例を参考にしたものです。

※遺言書本文は、全て自書する必要があります。

遺言書

  1. 私は、私の所有する別紙目録第1記載の不動産を、長男甲野一郎(昭和○年○月○日生)に相続させる。
  2. 私は、私の所有する別紙目録第2記載の株式を、長男甲野一郎に相続させる。
  3. 私は、私の所有する別紙目録第3記載の預貯金を、次男甲野次郎(昭和○年○月○日生)に相続させる。
  4. 私は、上記1ないし3の財産以外

    の預貯金、有価証券その他一切の財産を、妻甲野花子(昭和○年○月○日生)に相続させる。
  5. 私は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
    住所○○県○○市○○町○丁目○番地○
    職業弁護士
    氏名丙山 太郎
    生年月日昭和○年○月○日

【付言事項】私は、株式会社Xを創業し、現在に至るまで事業を拡大してきましたが、今後は、長年私の業務を補佐し、事業の発展に寄与してくれた長男一郎が、株式会社Xを承継して継続してくれることを希望します。私の希望を受け入れ、家族が争うことなく協力し、X株式会社が益々発展してくれることを願います。

令和 年 月 日

住所 東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号

上記4中、4字削除、2字追加

別紙物件等目録

物件等目録

第1 不動産

  1. 土地
    所在○○区○○町○丁目
    地番○番○
    地積○○平方メートル
  2. 建物
    所在○○区○○町○丁目○番地○
    家屋番号○番○
    種類居宅
    構造木造瓦葺2階建
    床面積1階 ○○平方メートル
     2階 ○○平方メートル

第2 株式

  1. 銘柄株式会社X
    種類普通
    数量1000株

第3 預貯金

    1. ○○銀行○○支店 普通預金 口座番号 ○○○
    2. 通常貯金 記号 ○○○ 番号 ○○○

上記第2中、1字削除、1字追加

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著者プロフィール

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帷子 翔太

ルーチェ法律事務所 弁護士

2015年弁護士登録(東京弁護士会)
日本大学法学部助教(2016年4月~現在)
二松學舍大学国際政治経済学部非常勤講師(2017年4月~現在)
一般民事事件、一般家事事件(離婚・親権)、相続問題(相続・遺言等)、企業法務、交通事故、債務整理、刑事事件、その他訴訟案件を取り扱っている。

民法(債権法)改正の概要と要件事実』(共著、三協法規出版、2017)、『相続法改正のポイントと実務への影響』(共著、日本加除出版、2018)、『Q&A改正相続法の実務』(共著、ぎょうせい、2018)、『Q&A改正民事執行法の実務』(共著、ぎょうせい、2020)等

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