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なぜ地主は借金をして不動産を建てるのか?

なぜ地主は借金をして不動産を建てるのか?

前回の記事で相続や相続税の基本性質を確認しました。

その上で事業経営者特有の課題について確認をしていくために、まずは相続と相続税の基本的な対策について、具体例を含めて考えていきます。


この記事の著者
  税理士 

マイナスを含めた財産の把握が最優先

前回、相続(遺産をどのように分けるのか)と相続税(その分け方に従って税金計算をする)の順番について確認しました。このとき、問題となるのはプラスの財産だけではありません。亡くなられた人が有しているマイナスの財産、つまり借金もたいへん重要な意味を持ちます。

相続を考えるにしろ相続税で節税を考えるにしろ、プラスマイナス含めた財産の情報を網羅的に把握することが第一段階です。

  • 現預金残高(亡くなられた人しか把握していないような預金口座が隠れていないか)
  • 不動産等(住んでいる自宅、貸付用不動産などはもちろん、どこかに土地などを所有していたりしないか)
  • 有価証券関係(親族に知らせないまま株投資をしたりしている人は、結構いるものです)
  • 保険(実は保険の加入状況も相続税に影響してきます)
  • 借金(マイナスの財産として、非常に重要)

一番好ましいのは、個人財産について定期的に情報を整理し「万が一のときには、ここを見ればわかるので覚えておくように」といったことを、御本人がきちんと親族に伝えていることです。ただ、そこまでやってくれているケースは、非常に稀だったりします。


借金の効能

まず相続を考えた場合、借金を相続したいと考える人は、相当珍しい考えの方かと思います。「積極的に借金を抱えたい」と考える人は、なかなかいらっしゃらないでしょう。

ただし、実務的には「プラスの財産(例えば賃貸不動産など)とマイナスの財産(その不動産を建設するのに必要だった借金)」がセットで取り扱われることは、よくあります。物件を建設する時点で、その借金返済が賃貸不動産からの収入をアテにして計画され、担保等も設定されているのが一般的だからです。

亡くなられた人が事業活動で失敗して借金だけが残っている、というような事例だとその借金は単なる「マイナスの財産」ですが、上記の賃貸不動産のように「計画されて作られた借金」であることは、よくあります。

なぜ計画的に借金をするのか?それは借金をすることで、

相続税を大きく引き下げることが可能になる(かもしれない)

例えば借金をして賃貸不動産を建てると、相続税では次のような考え方をします。(出している数字は、例示のための適当なものです)

***

プラスの財産(賃貸不動産)

建設された賃貸不動産は、たしかに賃貸収入を生み出すが、その運用は不安定な部分もある。また誰かに貸していることにより、持ち主の権利はかなり大きく制限される。

例えば急な事情で物件を取り壊したい、といった要望があるとしても、賃借人の権利は大変強く、そう簡単に退去させることもできない。また、売りたいと思ったときにすぐに買い手が見つかるか否かも確実ではない。

そのような事情があって、プラスの財産である賃貸不動産は、評価について相当程度の割引が行われる。土地の形や運用形態により、2~3割だとか、ときには半額程度まで評価が落ちるようなこともある。

例えば「3億円をかけて賃貸不動産を建設した」場合、完成時点でその相続税評価が2億円に下がる、といったことが起こり得る。その他、敷地の取り扱いも含めて、不動産を建設するとプラスの財産の相続税評価額が大きく減少する傾向にある。

マイナスの財産(借金)

例えば「借金3億円」は、誰にとっても等しく「借金3億円」である。したがって、マイナスの財産である借金は、その評価を引き下げられることがない。つまり相続税評価額も「3億円」のままとなる。

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つまり「借金をして賃貸不動産を建設した」時点で、プラス財産は評価が下がり、マイナス財産は評価がそのままとなるため、その差額分だけ被相続人(亡くなられた人)の遺産評価額が圧縮されることになります。上の例なら、建設直後ならばざっと1億円の評価額圧縮が実現できます。

みなさんのご近所にも「近隣の地主が建設した賃貸不動産」があるのではないかと思います。その理由のひとつが、上述の相続税の節税効果を期待したものです。単に土地として保有するのではなく、借金をして賃貸運営をすることで、日常的な収入を得つつ、相続税対策も実現しようとしているのです。


ただし、相続対策としては未知数

この節税効果を見込み、不動産業者は地主に対して「借金をして不動産賃貸業をやりましょう!!」と強烈に売り込みをかけてきます。そして、たしかにその手法は「相続税対策」として有効であることは、間違いありません。

ただし、繰り返しになりますが・・・相続税対策としては有効でも、相続対策として有効かどうかは未知数です。例えば、借金をすることで以下のようなデメリットが考えられます。

  • 更地であれば売却も楽だったのに、物件を建てたので売るのが難しくなった
  • 賃貸不動産にしてしまったことで、遺産の分け方が難しくなり、親族が喧嘩をする原因に
  • そもそも賃貸不動産として失敗してしまった(建てたは良いが、店子が入らない)

実際、この手の失敗案件はそこら中に存在します。繰り返しになりますが、相続税対策は基本的に「財産を分けづらく、使いにくい状態にすること」が基本です。借金による賃貸不動産経営も、税金対策としては有効でも、それが親族の幸せにつながるかどうかは、まったくの別問題です。

ですので、ほんとうにこの手の対策を取り入れるのであれば、親族できちんと話し合い、その有効性とリスクについて理解し、関係者が納得した上で取り組むことが大切です。その同意なく進められた結果、血で血を洗うような「争続」になってしまったら・・・


法人でも同じようなことが言える

この節税方法ですが、基本的には法人についても同じような効果が期待できます。

株式会社A社は、先代経営者であるBさんが単独で株式を保有しています。このとき、A社の株式はBさんの相続財産に該当することは、前回の記事でも紹介しました。

このとき、株式会社A社として「借金をして不動産建設をした」というようなことをすると、上で紹介したような「プラス財産の評価圧縮効果」が発揮されます。

その結果、A社の株式の評価が下落する、といった現象が起こります。ですので、法人経営者が実行する相続税対策(自社株式対策)としては、一定の効果を期待しても良いでしょう。

ただし、法人によるこの手法は、先ほどの「個人による賃貸不動産手法」に比べると、ある程度の制約があったり、その効果も限定的です。そして個人と同様、借金を抱えることのマイナスリスクも含めて検討する必要があります。

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一般的な相続税対策について触れながら、事業経営者特有の話題にも少しだけ触れてみました。まだしばらくの間、相続や相続税、そして事業経営に絡むお話を続けてみます。

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著者プロフィール

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髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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