中小企業のための「介護離職防止」対策! 第10回 認知症の気づきと具体的な事例 ―初期段階で気づくのは意外と難しい―
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認知症の種類と症状については前回お伝えしましたが、認知症を早期発見するにはどうしたらいいでしょうか?
症状を知っていれば発見も簡単にできそうですが、毎日一緒に生活をしていると、なかなか初期の段階で気づくことは難しいとも言われています。
なぜなら、認知症の初期段階では、他の認知機能が残っている部分もあり、本人は記憶が曖昧になっていることが多く、その曖昧な記憶とつじつまを合わせて会話をこなすことができるからです。
早期発見と早期治療が要
例えば、家族の前では、つい忘れてしまったことを「あれは何だ?」と聞き返すことや、食事したことを忘れ「飯はまだか?」と何度も繰り返すことがあり、「認知症かな?」と不安になることがあっても、家族以外の前では、今まで培ってきたコミュニケーション能力や社交的な性格、プライドがあるため、平然を装って普通に会話をすることもできます。そんな様子を見ると家族は、「なんだ、まだ大丈夫だな」と安心してしまうのです。そのような理由などから、初期の段階で認知症に気づくことが難しいと言われています。ただ、認知症の進行を少しでも遅らせたり改善させるためには、早期発見と早期治療が要だと言われています。
今回は、認知症の気づきのポイントと具体的な事例についてお伝えしていきます。もし大切な方が「もしや?」と思われるときには、とても必要な観点となりますので、是非覚えておいていただきたいと思います!
気づきのポイントは6つ!
まず、認知症への気づきのポイントとして、大きく6つのカテゴリーに分けられます。認知症のチェック項目としてもご活用いただけると思いますので、参考にしていただければ幸いです。
1.【物忘れがひどい】
- 切ったばかりなのに電話の相手の名前を忘れる
- 同じことを何度も言う・問う・する
- しまい忘れや置き忘れが増え、いつも探し物をしている
- 財布・通帳・衣類などを盗まれたと人を疑う
2.【判断力・理解力が衰える】
- 料理・片付け・計算・運転などのミスが多くなった
- 新しいことが覚えられない
- 話のつじつまが合わない
- テレビ番組の内容が理解できなくなった
3.【場所や時間が分からない】
- 約束の日時や場所を間違えるようになった
- 慣れた道でも迷うことがある
4.【人柄が変わる】
- 些細なことで怒りっぽくなった
- 周りへの気遣いがなくなり頑固になった
- 自分の失敗を人のせいにする
- 「この頃様子がおかしい」と周囲から言われた
5.【不安感が強い】
- 一人になると怖がったり、寂しがったりする
- 外出時、持ち物を何度も確かめる
- 「頭が変になった」と本人が訴える
6.【意欲がなくなる】
- 下着を着替えず身だしなみをかまわなくなった
- 趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなった
- ふさぎ込んで何をするのも億劫になり嫌がる
上記の項目が気づきのポイントとなります。
これらの症状が出たときの具体的な事例を紹介します。(15事例あります)
- 家事をしなくなった、またはできなくなった(特に調理)
- 笑うことが減った
- テレビにも興味がなくなり、ボーッとしている
- 鍋を火にかけて焦がすことが2回あった
- 紙おむつを水洗トイレに流し大騒ぎとなった
- 使用済みの紙おむつが押入れにしまってあった
- 外を見て、死んだ息子がいると話している
- 食器を用意して「今日は人がたくさん来ているから」とつぶやく
- 夜に「用事がある」と外に出ていく
- 急須におはぎが入っていた
- 入れ歯が見つからず、ベランダのプランターに埋めてあった
- 準備したお盆をゴミだと思って捨てていた
- 頭がおかしくなったのかと、自分の頭を叩いていた
- 叔母が、亡くなった叔父のことを話し出し、急に「女のところに行った」と怒り出した
- 天井から顔を出して覗いている人がいると言う
上記が実際にあった具体的な事例です。
もし、少しでも当てはまる項目や事例に似た症状がある場合には、早めに専門家への受診をお勧めします。認知症の専門医は「精神科」「神経内科」「脳神経外科」などになります。今では「物忘れ外来」や「メモリークリニック」と言われる認知症専門のクリニックも増えてきました。初診の段階で専門科を受診することに抵抗を示す場合には、まず内科を受診してから専門科を紹介していただくことも一つの方法です。受診の際は、CT、MRI、脳血流検査などの画像検査、記憶・知能などに関する心理検査に加え、認知症のような症状を引き起こす身体の病気ではないことを確認する検査を行います。
早期に受診するメリットとしては、2つあります。
1つ目は、病気が理解できる時点で受診し、少しずつ理解を深めていけば生活上の障害を軽減でき、その後のトラブルを減らすことも可能となります。
2つ目は、障害の軽いうちに障害が重くなったときの後見人を決めておく(任意後見人制度、民事信託の活用)等の準備をしておけば、認知症であっても自分が願う生き方を全うすることが可能となります。もっと言えば、元気なうちに財産管理のこと、ライフプランを決めておくことを強くお勧めします。
このコラムで何度もお伝えしてきましたが、介護は突然やってきます。準備をしていなくて困る方がほとんどです。お金の使い方・残し方を含め、元気なうちに諸々の準備を考えるようにしましょう!
認知症が進行すると
認知症の治療としては、治療薬の投与や身体活動を高めるリハビリテーション、脳梗塞などの脳血管性認知症の原因となる病気の再発防止を行うことが一般的となります。基本的には、どの症状も初期に投薬治療することにより進行を止める可能性が高くなりますから、やはり早期発見・早期治療の意識が大切となります。
そして、認知症の経過は個人差が大きく、進行が遅い人や進行が止まる人もいます。進行が止まればいいのですが、ほとんどは進行していきます。進行すると、身体機能の低下が起こり、数年から十数年の経過で歩行ができなくなり寝たきりになります。最終的には食べ物を飲み込むことができなくなり、肺炎を繰り返すようになり、人生の終末期を迎えることになります。
認知症になってしまってからでは、自分の意思を伝えることが難しくなってしまうため、終末医療や介護の方針については、家族や後見人に任せることになります。認知症にならないことが望ましいですが、もしも認知症になってしまったらと考えておき、少しでも自分の意思にかなった生活を送るためにも、日頃から周囲の人に自分の生き方、考え方を理解してもらうよう心がけることが重要となります。
5人に1人が認知症になる時代です。自分は大丈夫!の気持ちは大切ですが、まさかに備えて、できる備えを今から始めましょう!