エンゲージメントとは 重要性と高める方法を解説
近年では、労働生産性の好転や従業員の離職防止を目指すため、エンゲージメントに注目が集まっています。
企業の成長へ導くきっかけとして、エンゲージメントの向上は重要です。従業員のエンゲージメントを高める方法や、実際の施策例を紹介します。
エンゲージメントへの理解を通して、従業員のモチベーションアップの参考にしてみてください。
エンゲージメントとは?
「エンゲージメント」とは、状況に応じて、さまざまな意味に解釈される言葉です。
例えば、直訳すると「婚約・契約・約束」などの意味がありますが、SNS上では、「いいね」やコメントなどの反応を表しています。
一方、ビジネスでは、マーケティングや人事の分野において、「愛着」の意味で使用されます。
人事の分野でのエンゲージメントとは
人事の分野では、従業員の企業に対する愛着心などの解釈で使用されるほか、企業と従業員がお互いの価値を尊重し合う関係を表す「従業員エンゲージメント」もあります。
つまり、企業に対する愛着心は、企業側の努力があって、初めて生まれる感情と言えるのです。
従業員エンゲージメントが向上すると、従業員が主体的に企業に貢献したいと感じ、信頼感や愛着を持てるようになるでしょう。
エンゲージメントと従業員満足度の違いとは
「従業員満足度」とは、職務内容や上司との人間関係、企業への満足度を測る指標です。
「企業に満足しているが、自主的に貢献したくない」と考えている従業員は、満足度は高くても、エンゲージメントは低い状態になります。
従業員満足度は、エンゲージメントの向上に必要な要素のひとつですが、両者の言葉は同じ意味ではありません。
エンゲージメントが注目される背景
近年では、下記2つの理由から、エンゲージメントの向上が注目されています。
「従業員の労働生産性の好転」
エンゲージメントを高めることで、従業員は熱意を持って働くようになり、労働生産性が好転します。
「従業員の離職率の低下」
転職を希望する従業員が増えている背景に加え、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少が課題とされています。
したがって、人材確保が難しく、人材流出の防止が欠かせません。エンゲージメントを高めることで、企業に長く勤めてもらい、離職率が低下するのです。
エンゲージメントが企業に与える影響
エンゲージメントの向上は、営業利益率と労働生産性に、プラスの影響をもたらすため、企業の成長につながります。
さらに、現在のエンゲージメント状態がどうであれ、営業利益率と労働生産性が好転するという理由もあり、エンゲージメントは今後の経営指標のひとつになり得る、と注目されています。
エンゲージメントを測るための3つの指標
エンゲージメントの値は、どうやって測定するのでしょうか。使用される指標は3つあります。
1.エンゲージメント総合指標
「エンゲージメント総合指標」とは、従業員の企業に対する評価を測定する指標のことです。この指標は、次の3要素から構成されています。
- 「eNPS」
自分が働いている企業を周囲に紹介する意思を示す - 「総合満足度」
企業に対する総合的な満足度 - 「継続勤務意向」
今後も同じ企業で働き続ける意思を示す
2.ワークエンゲージメント指標
「ワークエンゲージメント指標」とは、従業員の職務に取り組む姿勢を測る指標です。
具体的には、次の3要素が含まれます。
- 職務を通じて得ている「活力」
- 職務に対する「熱意」
- 職務を楽しみ集中できる「没頭」
3.エンゲージメントドライバー指標
「エンゲージメントドライバー指標」も、次の3要素から構成されており、従業員エンゲージメントの測定に役立ちます。
- 「組織ドライバー」
職場環境や人間関係などを踏まえた、企業と従業員の状態を指す - 「職務ドライバー」
職務に対する満足度や難易度を含めた状態を指す - 「個人ドライバー」
自身の資質などの状態を指す
従業員のエンゲージメントはアンケートで測定する
アンケート測定は古典的な手段ですが、重要かつ有効です。
なぜなら、設備などの準備が不要であることから、測定実施のハードルが低く、従業員から直接本音を聞けるためです。
アンケート測定には、「エンゲージメントサーベイ」と「パルスサーベイ」の2種類があります。
6ヶ月〜1年に1回程度の少ない頻度で行われるエンゲージメントサーベイは、質問数が多いので、1回のみで深く調査できる点が特徴です。
一方、1週間あるいは1ヶ月に1回の頻度で、短期的に行われるパルスサーベイは、メリットとして、こまめに従業員の状態を把握できる点が挙げられるでしょう。
エンゲージメントサーベイの代表的な質問
エンゲージメントサーベイを実施する際は、従業員と組織のパフォーマンスや人間関係に関する、次の12項目の質問が有効です。
- 職務で期待されている内容
- 職務を適切にこなすための設備やツールの有無
- 毎日、職務で最も得意なことをこなす機会の有無
- 過去7日間のうち、評価された職務の有無
- 1人の人間として気にかけてくれる人の存在
- 職場における、自分のスキルアップを促す人の存在
- 職場における、自分の意見が尊重されている実感の有無
- 企業のビジョンに対して、自分がこなす職務の意義の有無
- 職場における、質の高い職務にコミットしている同僚の存在
- 職場における親友の存在
- 直近6ヶ月間のうち、職場における自分の進歩を伝えてくれる人の存在
- 直近1年間のうち、学習や成長のチャンスの有無
上記の質問は、アメリカの大手調査会社であるギャラップ社が30年以上にわたり、1,700万人の従業員を対象として調査した結果に基づいています。
効果的なエンゲージメントサーベイのためのポイント
エンゲージメントサーベイを効果的に実施するため、下記3つのポイントを押さえておきましょう。
1.対象者への説明を十分に行う
従業員に対して、実施する目的を十分に説明することで、エンゲージメントを効果的に評価できます。
理由としては、従業員が調査を警戒している場合、回答を遠慮してしまうおそれがあるからです。
例えば、匿名での回答が可能である旨を説明し、プライバシーに関する配慮を心がけます。また、回答結果は従業員の評価と無関係である旨の説明も必要です。
2.調査結果のフィードバックを行う
従業員がアンケートに回答する意義を見出せなければ、今後の協力を得られにくくなる可能性があるため、調査結果のフィードバックも欠かせません。
従業員は、回答した内容の反映に興味があります。調査結果をもとに、今後の施策や企業の方針に与える影響について、説明しておきましょう。
3.適切な頻度で行う
調査頻度が少ない場合、従業員エンゲージメントの正確な把握が難しくなってしまいます。
一方で、調査頻度が多い場合は、従業員の負担が増えるおそれを否めません。従業員の負担を減らすために、時間がかかる本格的なアンケートは、少ない頻度で実施すべきでしょう。よって、適切な頻度での実施も大切です。
しかし、頻度が少なすぎても、正しいエンゲージメント測定が困難なので、手軽に答えられるパルスサーベイを組み合わせることがおすすめです。パルスサーベイを上手く活用すれば、リアルタイムな変化と、深いインサイトを得られるメリットがあります。
エンゲージメントを高めるための施策
エンゲージメントサーベイで現状を把握できたら、従業員エンゲージメントの向上を目指す、7つの施策を展開しましょう。
1.明確にビジョンを共有する
エンゲージメントの向上のためには、従業員に対して、明確なビジョンの共有が重要です。ビジョンへの共感度が高くなるほど、従業員の充実感も比例して高まります。
具体的には、企業理念や今後の方針を共有するとよいです。ビジョンの共有により、従業員が職務に意義を見出せるでしょう。
2.適切な人事評価を行う
努力する従業員が正しく評価されなければ、「どんなに頑張っても評価されない」と感じてしまい、エンゲージメントが低くなってしまうおそれがあります。
したがって、適切な評価やインセンティブの支給を行うことで、従業員エンゲージメントを底上げしましょう。
人事評価には、次の8つの方法があります。
- 「MBO」
個人や部署ごとに目標を設定し、その達成度を評価 - 「OKR」
企業全体の目標を設定し、個々が目標達成のために得た成果などを評価 - 「バリュー評価」
企業の規範に沿った行動を評価 - 「コンピテンシー評価」
従業員に共通した行動特性をもとに能力を評価 - 「360度評価」
上司や同僚、部下がそれぞれの立場で評価 - 「ノーレイティング」
数字などのランクを付けずに、1対1のミーティングによるフィードバックで評価 - 「リアルタイムフィードバック」
ひとつの作業が終わるたびに行うフィードバック - 「ピアボーナス」
従業員同士でお互いに評価し、インセンティブを送受
3.適材適所な人事配置を行う
職務内容や人間関係に不満を持つ従業員は、エンゲージメントが低くなるおそれがあるため、適材適所な人事配置は大切です。従業員の能力が、十分に発揮できることを見込んだ人事配置を行いましょう。
この際は、従業員がストレスを感じない部署への配置を心がけます。人事配置の目的を十分に説明し、従業員が納得して働ける環境づくりに努めるとよいでしょう。
4.現場のリーダーシップの取り方を見直す
現場のリーダーは、「サーバントリーダーシップ」への意識が欠かせません。
サーバントリーダーシップとは、1人のリーダーのもとに部下を置いて支配する方法とは異なり、相手に奉仕した上でチームを先導する方法です。サーバントリーダーシップの発揮により、従業員が主体的に職務を進められるようになります。
リーダーは、従業員の職務を上手く促進するだけではなく、適切なサポートやフィードバックの提供を心がけましょう。従業員の努力や成果を認めることで、従業員が職務に対する目的を見出せるため、エンゲージメントの向上につながります。
5.環境を改善する
職場環境の改善が、従業員の感じる働きやすさの第一歩です。
なぜなら、職務の無駄が削減されれば、従業員の負担が減るので、生産性が好転していきます。職場環境の改善方法は、次の3つが挙げられます。
- 「働き方の見直し」
テレワークや在宅勤務などの働き方を見直しましょう。従業員の状況に応じて、臨機応変に働ける、リモートデスクトップ環境の構築もひとつの手です。 - 「整理整頓」
必要なものを探す時間は無駄となり、職務に対する集中力を妨げられます。そのため、日頃から整理整頓を心がけ、書類や備品の置き場を決めておくとよいでしょう。 - 「作業の無駄を削減」
例えば、製造現場では手作業を、一部自動化する対策が有効です。人的トラブルや手作業のムラなどを防止できるので、作業効率化が叶います。
これらにより、作業の無駄が削減され、従業員が仕事に集中できる環境を構築していくことから、エンゲージメントの向上に期待できるでしょう。
職場を居心地のよい場所に変えることで、従業員が感じるストレスが減り、「働きやすい」と思えるようになります。
6.社員のスキルアップに貢献する
従業員のスキルアップへの貢献には、下記3つの方法があります。
- 「従業員にキャリア開発を促す」
自身のスキルアップを実感する従業員にキャリア開発を促すと、「もっと企業に貢献したい」と思う気持ちが強くなります。具体的な方法として、上司と従業員の1対1のミーティングや、内容を充実させた研修などがあります。 - 「従業員の要望に応える」
従業員の要望を受け入れることも、企業に対する貢献意欲を高める有効な手段です。従業員が「意見を尊重してもらえない」と感じると、職務に対するやりがいや満足度が低下してしまいます。 - 「長期的なロードマップを提供する」
長期的なプロセスや存在意義を見出せないと、従業員が不満に感じてしまうおそれがあるので、長期的なロードマップの提供もおすすめです。長期的なロードマップを把握することで、従業員はスキルアップのために必要なものを認識し、主体的に職務に取り組めるでしょう。
7.ワークライフバランスに配慮する
最後に、職務と生活のバランスを指す「ワークライフバランス」への配慮も重要です。
過重労働によるバーンアウトは、従業員のやる気を喪失させ、それに伴って、エンゲージメントの低下を及ぼします。そのため、休暇を十分に取得できる制度や、残業を延ばさない勤務時間の見直しが不可欠です。
また、労働時間への配慮だけではなく、働き方の見直しも忘れてはいけません。従業員が臨機応変に働くには、以下の取り組みを行うとよいでしょう。
- フレックスタイム制を導入し、勤務時間を柔軟に調整
- 有給休暇の取得日を計画的に決定
- 残業をしない「ノー残業デー」を制定
労働時間や多様な働き方の許容によって、エンゲージメントの向上が見込まれるほか、人材確保にもつながります。
エンゲージメントが高い企業の施策例
実際に、エンゲージメントが高い企業について、施策例を確認してみましょう。
大手コーヒーチェーン
大手コーヒーチェーンが実施した施策は、次の3つです。
- 「マニュアルを作らない」
従業員に対するマニュアルをあえて作成しないことで、自発的に職務に取り組む姿勢が見られます。マニュアルに縛られないので、従業員のモチベーションが高まり、顧客のニーズに応えたい気持ちを尊重できる点がメリットです。 - 「従業員をパートナーと呼ぶ」
社員やアルバイトの間で上下関係が発生すると、自分の意見を主張しにくくなることをきっかけに、従業員を「パートナー」と呼んでいます。これをもとに、上下関係が緩くなるため、従業員同士が尊重し合えるまでに成長していくのです。 - 「目標設定と人事考課でのレビュー」
従業員は自身の成長目標と、企業のビジョンに対する目標を設定します。これらを人事考課で定期的に振り返り、レビュー内容を踏まえて、次の目標設定を行います。
人材マッチングビジネス業者
人材マッチングビジネス業者が実施した施策は、次の4つです。
- 「役職と肩書の撤廃」
役職や肩書の撤廃により、上下関係のない対等な組織体制が整っています。お互いに対等な立場にあるため、自由な発想が生まれたり、率直な意見を交換したりできるメリットがあります。 - 「360度評価とpay for contribution」
従業員の評価方法は、周囲の同僚たちから評価を受ける「360度評価」と、成果ではなく貢献に対する評価を行う「pay for contribution」の2種類です。貢献を重視した評価によって、企業のビジョンに対する実現意欲をかき立てます。 - 「企業情報のオープン化」
経営上の数値を公開し、全従業員が会社全体の状況を把握するために実施されます。従業員一人ひとりが経営視点を持つことで、自ら主体的に動くことを推奨しています。 - 「全従業員に自社の株主を付与」
給与の天引きで、自社株式を買う「従業員持株会」とは異なり、全従業員に自社の株式を付与する施策です。自社株を与える方式を採用し、従業員に経営視点を持ってもらう目的があります。
まとめ
ビジネスにおける「エンゲージメント」とは、企業と従業員がお互いの価値を尊重する関係を意味しており、経営指標のひとつとして注目されています。
従業員のエンゲージメントの向上は、企業を成長させるために欠かせません。適切な頻度でアンケート調査を実施し、現状を把握した上で、エンゲージメントの向上に努めることが重要です。
エンゲージメントが高い企業の施策例を参考にして、この機会に実践してみましょう。