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中小企業のための「介護離職防止」対策! 第22回 ある「認知症」の方が介護施設に入居したあと

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中小企業のための「介護離職防止」対策! 第22回 ある「認知症」の方が介護施設に入居したあと

在宅介護から施設介護へ切り替える理由として、認知症状の進行が挙げられます。

自宅で介護をすることができなくなった認知症の方が介護施設へ入居したら、どのような生活となるのでしょうか?

認知症の方が介護施設に入居してからの生活、入居後のご家族の様子についてお伝えします。


この記事の著者
一般社団法人 日本顧問介護士協会  代表理事 

介護施設への切り替え

ご本人の身体状況やご家族の介護力など様々な理由で在宅介護が困難となり、生活の場を介護施設へ切り替える方が多くいます。

中でも、認知症を発症して認知症状が進行し、在宅介護を諦め介護施設へ預ける方も少なくありません。介護施設は一般的には65歳以上の方が入居でき、平均年齢はおおよそ80歳前後です。介護施設の種類や入居されるご本人の身体の状態によっては64歳以下の方も入居可能な施設もありますので、年齢層も広くなっているのが現状です。


60代女性の介護施設での生活

今回は、介護施設では比較的まだ若い60代女性の介護施設での生活をご紹介させていただきたいと思います。

この方は、重度の認知症を患っており、在宅介護が困難となり介護付有料老人ホームへ入居されてきました。この方には2人の娘様がいます。

しかし、認知症状の進行で2人の娘様のことは誰かわからない状況です。ご自身のこともあまり理解はしておらず、鏡に映るご自身に向かって一生懸命お話しされる場面もありました。ご自身のことは「ジュンコちゃん」といつも呼んでいました。ご家族にお話をうかがうと「ジュンコ」とは妹様のお名前のようです。


施設入所

この方が入居された介護付有料老人ホームは個室になっており、各居室に洗面台とトイレが設置されています。

また同じフロアに他に20名のご入居者が生活されており、認知症状がある方、認知症状のない方、寝たきりの方、車椅子生活の方など様々な身体状況の方がいます。

その中でも「ジュンコちゃん」は最も重度の認知症状のある方でした。

認知症の方は、感情のコントロールが出来ないことや環境変化に対応することが出来ない特徴もあります。「ジュンコちゃん」は介護施設へ入居したことで生活環境が変わり、食事をする場所、テレビを観る場所、寝る場所、関わる人が一変したのです。

これは認知症状のある「ジュンコちゃん」にとっては大きなストレスとなります。


ストレスへの対処

入所当初は環境に馴染めず、精神的に非常に不安定になりました。精神的に不安定になると、夜も寝ることがなく睡眠時間が少なくなります。

そうなると生活リズムが乱れ、昼間にウトウトするようになります。規則正しい生活を送ることも認知症状の進行を緩やかにするためにも必要なことなのです。

「ジュンコちゃん」の場合は、消灯時間になってもずっと廊下を歩いていたり、自分の居室がわからず他の方の居室へ入ったりしてしまうこともありました。

夜間のスタッフは、ベッドを居室から出しスタッフルームの近くでお話ししながら朝まで対応することや、ベッドで寝ることに抵抗を示す時は布団をふたつ敷いて添い寝をするなど、どうにか日中の活動量を高め、夜間に睡眠がとれるように工夫しました。

それと同時に「ここは安心できる場所だ」と認識していただくよう接するのです。数ヵ月の時間はかかりますが、安心できる場所と認識することができれば生活リズムも安定していきます。


「私の食事は?」、への対処

介護施設での生活が半年ほど経過した「ジュンコちゃん」は、穏やかな日々を送るようになりました。

「ジュンコちゃん」にとっての顔なじみのスタッフも増え、笑顔で廊下を歩く姿をよく見かけていました。

それまでは認知症状の大きな進行は見られなかったのですが、ある日事件が起きました。

スタッフと一緒に夕食を召し上がっていた時のことです。

食事が終わり、いつものように「片付けますね」と声をかけ下膳しました。しばらくして口腔ケア(歯磨き)へお誘いすると、「まだ夕飯を食べていない!早く夕飯を食べたい!」と声を荒げました。

今まではこのようなことがなくスムーズに口腔ケアも済ませていましたが、この日から少しずつ状況が変化していきました。

身近な関係であるほど、つい「今食べたばかりでしょう!」と言いたくなる気持ちも湧きますが、認知症の方は夕食を食べたこと自体を忘れてしまい夕食前の状態と同じ意識になっているのです。

このような時にはその方の世界に入り「まだ夕飯を食べていないのですね。今支度していますので少しお待ちください」と言って、対応します。

スタッフは、食事が終わってもすぐには下膳せず「ジュンコちゃん」が席から離れるまでそのままにしておき、食事を食べたことが納得できる状況を作りました。

この日を境に「私の食事は?」と質問される回数が増えていき、食べ終えた食器を見せることで納得されていました。このように認知症の方は日々症状が変化します。その都度時間をかけながら対応していくことが大切となります。


ご家族の思い

入居当初、2人の娘様は自分たちのことも忘れてしまった母親に対して悲しさや虚しさ等複雑な感情を抱いていました。

ご自宅での介護生活に苦労した経緯もあり、入居後しばらくは面会に来ていませんでした。

数ヵ月経過して2人で面会に来たとき、母親の穏やかな様子を見て「ここに入居させて良かった」と仰っていました。

それからは2人の娘様も良くお母様の様子を見に来てくれるようになり、一緒に散歩をしたり、お母様のベッドで一緒に添い寝をしたり、居室でおやつを食べたりしてくれました。

「ジュンコちゃん」の気持ちを察しながら、また悲しみや虚しさなどの感情を乗り越えてきた2人の娘様のお気持ちを察しながら3人で笑い合っている姿を見ると、また新たな家族の形になったように感じました。


まずは受け止める事

認知症の方にはそれぞれの世界があります。

自分の身近な人が認知症になったとき、今まで出来ていたことが出来ない、徐々にわからなくなることで「何で今まで出来ていたことが出来ないの?」や「こんなこともわからなくなってしまって」と嘆かれる方も多くいますが、認知症の場合、まずは受け止めることが大切となります。

その上で、その方に寄り添っていただければと思います。

そして、限界になる前に介護施設も視野に入れて検討することが何よりも大切です。そのためにも、一人で抱え込まず周りの多くの方(親戚・兄弟・主治医・ケアマネジャー・近隣のお知り合い等)へ相談していただければと思います。

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著者プロフィール

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石間 洋美

一般社団法人 日本顧問介護士協会 代表理事

子どもの頃から「人の役に立つ仕事がしたい」という想いを強く持っていて、高校生活のボランティア活動で福祉・介護の世界と出会う。福祉・介護に関わる仕事を目指したく、静岡福祉医療専門学校医療福祉情報科へ入学。卒業後は、介護施設にて様々な経験をする。その後、自身のスキルアップのために介護事務業務、相談業務、マネジメント業務、管理業務を行う。医療福祉接遇インストラクターの資格も取得し、お客様満足度向上のための研修講師も務める。介護の業界に携わり「誰にでも介護はある日突然やってくる」現実を目の当たりにしたとき、もっと多くの方の救いや力になりたいという想いがさらに強くなり、その想いを実現すべく、2020年4月に当協会を立ち上げ、現在は「介護で困る人と困る量を圧倒的に少なくする!」を目標に掲げ活動している。

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