360度評価とは? 目的やメリット・デメリット、導入方法、注意点などを紹介
人事担当者や人材育成担当者であれば、一度は耳にしたことがあるであろう360度評価。昔ながらの評価基準が見直されている昨今、日本でも導入を推奨するシステムとして注目されています。
360度評価とは、いったいどういうものなのでしょうか。その概要と目的、導入するメリットやデメリットなど、さまざまな観点から解説していきます。
360度評価とは
はじめに、360度評価について説明します。
また、その背景となった事柄から、360度評価の必要性を見ていきましょう。
360度評価の概要
360度評価とは、一人の従業員に対して、上司や同僚、部下、他部署の社員など、さまざまな立場の関係者が多面的に評価する制度です。
従来は上司からの評価にとどまっていましたが、360度評価は客観的でなおかつ、公平な評価が得られやすいため、評価対象者も納得しやすいのが特徴です。
職種によっては、取引先の声や顧客の声が評価として抽出される場合もあります。
360度評価が普及した背景
360度評価が普及した背景には、働き方の多様化が挙げられます。
働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大の影響でテレワークが推奨されたこともあり、上司が部下の勤務態度を把握しづらくなりました。
また、組織のフラット化が進み、上司との「縦の関係」のほか、同僚や部下、他部門との「横の繋がり」を大切にした仕事の進め方も広まりました。
そのため、ともに働く多くの社員を巻き込みながら、従業員をより客観的で公平に評価できると注目が集まったのです。
2020年に企業の人事担当者600人に対して行われた調査(※)によると、360度評価の導入率は全体の31.4%に達しました。
※参考:リクルートマネジメントソリューションズ|360度評価活用における実態調査レポート(2020年5月)
360度評価の普及背景には「古い人事評価制度の見直し」がある
360度評価が普及した背景の1つに、古い人事評価制度の見直しが挙げられます。
終身雇用や年功序列といった日本型の雇用慣行が崩れ、成果への評価が進み、職務経験や勤続年数を基にした評価が難しくなってきました。
また、人材不足傾向や人員削減が拡大し、現場と部下を管理しなければならない管理職が増加。
一人ひとりの部下と向き合う時間が必要な人事評価は、管理職の大きな負担になっています。
さらに、人材の流動化が、人材を理解し、評価することを難しくさせています。評価者の負担を減らして人材を客観的に評価する手法として、360度評価を取り入れる企業が増えているのです。
360度評価を導入する目的
企業が360度評価を導入する目的は、以下の二点です。
1.公平な評価の実施
上司だけが部下を評価する制度では、上司の感情による評価エラーがつきもの。
しかし、360度評価では上司だけでは気づけないことを、ほかの人たちの評価で補完するので、公平で客観的な評価を実現し、評価された本人の納得度を高めます。
2.人材育成やモチベーションアップ
従業員自身が周囲からどのように見られているかが分かるので、特性や改善点が見つかります。
同時に公平な評価を実感でき、モチベーションアップにもなります。
さらに、上司からの評価が一方的になることに不満を感じる部下にとっては、上司を評価する機会にもなるので、風通しのよい職場環境づくりにも繋がります。
360度評価の導入で得られる効果・メリット
360度評価のシステムを導入することで、得られる効果やメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。ここでは5つ挙げるので、順に解説しましょう。
1.より客観的な評価が可能になる
従来は上司だけが評価する手法だったため、少なからず「上司の主観や心証が入りすぎているのではないか」と評価に不満を持つ部下が存在していました。
しかし、一人の従業員に対し、複数の関係者が評価する360度評価は、上司の主観や心証を薄めるだけでなく、目の届かない点も補完するため、客観的な評価が可能になります。
同時に、評価された側も納得して結果を受け入れられるようになるのです。
2.当事者意識を向上させる
360度評価は、組織の一員として当事者意識を向上させることができるのも、メリットの1つです。
上下関係に関わらず、自分が評価される側はもちろん、評価する側にも回ります。
つまり、自分の意見が組織に反映されるため、組織や社員に対して関心を持つだけでなく、自主的な判断能力が養われます。
結果として、自己肯定感が満たされるようになるほか、組織への帰属意識の高まりが期待できます。
3.自己評価と他者評価の差に気づける
自己評価と他者評価の差が分かるのも、360度評価のメリットです。
複数からの評価に加え、評価対象者本人も自分に対して評価を行います。
つまり、自他の評価の差が比較可能となり、自分の強みや弱みといった特性のほか、改善点や取り組むべき事柄まで、自ら把握できるようになるのです。
自ら考え、行動できる従業員が増えれば、組織全体の活性化にも繋がります。
4.管理職の育成に繋がる
360度評価は、管理職育成にも繋がります。
これまで評価する側だったマネジメント層も、部下やほかの社員からの評価を受けるため、自分のマネジメントに対する改善策を考えやすくなります。
360度評価は原則的に匿名で行われるため、部下からの率直な意見が上司に直接届きやすくなるので、風通しのよい職場環境にも繋がるでしょう。
5.職場の人間関係が把握しやすくなる
一般的な評価制度では把握できなかった職場の人間関係を、把握しやすくなるのもメリットの1つです。
たとえば、部署内に一人だけ正当性が低い評価だった場合、人間関係がうまくいっていない、もしくはパワハラやいじめなどが起きているかもしれません。
また、上司の評価は高くても、部下からの評価が低い場合は、部下への教育を疎かにしている可能性があるでしょう。
360度評価は、職場の透明性を高めるのにも有効です。
360度評価を導入するデメリット
次は、逆に360度評価を導入することで、デメリットに感じる部分を4つ挙げます。
1.主観が入った評価になりやすい
それぞれの評価者の主観が入った評価になりやすいのが、デメリットとして挙げられます。
複数の評価者で行われる360度評価は公平性や客観性を保てる一方、評価に不慣れな人も評価するため、どうしても自分の主観や好みに合わせて評価する可能性が高まります。
評価が偏らないようにするために、実施前にすべての従業員が評価の意図を理解できるように明確な評価項目を設定するほか、目的や手法を分かりやすく周知していく工夫が必要です。
2.業務の手間が増える
一人ひとりの業務の手間が増えるのも、デメリットの1つです。
360度評価は評価者の選定や依頼、集計、最終的な評価に至るまで、多くの工数が必要です。
従来は上司のみだった業務を全社員が行うようになり、評価をチェックする人事担当者の負担は大きくなります。
そのため、本来取り組むべき業務に支障をきたす可能性も。導入の場合は、業務の効率化を図れるツールの活用なども検討してみましょう。
3.評価を気にした指導に陥りやすい
360度評価には、上司が部下からの評価を気にした指導に陥りやすいといったデメリットもあります。
本来、上司は部下を指導する立場にあり、時には厳しさも必要です。
しかし近年、叱られることに不慣れな社員も多く、なかには厳しい上司の評価を下げようとする社員もいるでしょう。すると、評価を気にして部下を厳しく教育しなくなるケースに繋がります。
管理職の指導力低下は会社にとってもマイナスになるので、部下が上司を評価する際は、評価項目を限定するなどの工夫が必要です。
4.評価が取引に使われる可能性がある
評価が取引に使われる可能性があるのも、実はデメリットです。
同僚や同期など、評価者と被評価者が同じ立場にある場合、コミュニケーションが取りやすく評価しやすい一方、「高い評価をつけてくれたお礼」など、なれ合いになる可能性も。
また、優秀な同僚への嫉妬や、出世争いの足の引っ張り合いといった感情や思惑が入った評価になることもあります。
こうした状況を防ぐために、人事側は実施前に適切な評価方法を従業員に周知しなければなりません。
360度評価の導入方法
360度評価を導入するにあたり、どのような動きを取ればいいのかをステップでまとめました。参考にしてみてください。
ステップ1.導入目的を定める
360度評価を実施する目的を明確にし、導入することで何を解決したいか明確にします。
「なぜ実施するのか」「実施後どのようになりたいのか」を決めないと、運用方法も変わるからです。
従業員満足度調査を行い、社員の不満を洗い出したうえで360度評価の目的を決めるのも1つの方法です。
ステップ2.評価対象者の範囲を設定する
担当する評価対象者の範囲を設定します。
一人の従業員に対し、評価者の人数の目安は2~10人程度が望ましいでしょう。
人事評価が目的の場合は、公正性や客観性を追求するために全従業員が対象です。
人材育成が目的なら、マネジメントの視野拡大やスキル向上のために、導入対象を管理職のみにする方法もあります。
ステップ3.評価方法・評価項目を選定する
評価項目や評価方法を選定します。
評価項目は、従業員がどのように業務に取り組んでいるかを可視化するために、執務態度を中心に設定します。
一般社員と管理職では、それぞれ求められる能力が違うので、被評価者ごとに設問に変化をつけると効果的です。
たとえば、一般社員なら「業務遂行能力」、管理職なら「マネジメント能力」のように変えます。
すべての評価者が質問の意図を正しく理解したうえで、評価に偏りがないように注意しましょう。
評価方法は、人数が少なければ紙のアンケートでも対応可能ですが、大人数の場合はオンライン形式のほうが配布や集計が簡単です。
評価者の負担を考え、質問数は全体で30問程度、回答時間は一人あたり15分以内を目安に設計します。
ステップ4.従業員へ周知する
360度評価の設計、運用方法が決まったら、従業員へ周知します。
全社員が評価者となる一方で、被評価者にもなります。当事者意識を持って取り組んでもらえるように、丁寧な説明が必要です。
具体的には、360度評価を実施する目的を伝え、協力の依頼を仰ぐと同時に、運用ルールや実施期間、評価対象とその範囲、匿名性が担保されていることなどを伝えます。
評価の反映先や、何のために評価を行っているのかの説明も忘れずに行ってください。
ステップ5.360度評価を実施する
社員への周知が完了したら、360度評価を実施します。
回答期間をだいたい1~2週間に設定し、期間内に回答を回収できるように、一定のタイミングでリマインドをかけることも大切です。
ステップ6.フィードバックを行う
すべての社員からの評価を集計できたら、必ず被評価者へのフィードバックを行います。
評価対象者だけにフィードバックする場合は、本人が自ら改善点を見つけ、次の行動に繋がるようにサポートしましょう。
また、上司にもフィードバックする場合は、本人と上司との間で、改善ポイントを共有し、相談ができるようにしましょう。
ほかにも「本人へ結果を返却したうえで全社共有する」「ある項目だけ評価が低い場合に個別にフィードバックする」「研修を行いフィードバックする」といった方法もあります。
360度評価を運用する際の注意点
360度評価を導入するデメリットとしては、以下の注意点が挙げられます。
- 匿名運用、評価内容の他言を禁止するなど、運用に工夫をする
360度評価を運用するには、匿名運用や内容の他言を禁止するなど、運用に工夫が必要です。
評価の内容が偏らないようにするだけでなく、評価対象者が評価に対し不信感を抱かないようにするためです。
匿名での運用を周知するほか、評価内容や点数については他言禁止を徹底して運用しましょう。
- 報酬に直接反映させる評価は避ける
人事評価は、昇給や賞与などの報酬を決めるためのものと捉えられがちです。
ですが、さまざまな関連性を持つ人たちからの評価を報酬の基準にするのは、評価を取引に使われるデメリットがあるなど、リスクが大きいと言えます。
報酬に直接反映する評価は上司が行い、360度評価は育成視点として切り分けるのがおすすめです。
- 人材マネジメントの認識を持つ
評価者も被評価者も、目的は人材マネジメントだと認識しておくことが大切です。
認識があるかないかで、適切な評価の仕方や評価の受け止め方に違いが出ます。
認識を持つことは、人材育成への効果や成果が上がることに繋がります。
360度評価についてのまとめ
ここまで、人事評価のシステム化により導入を検討する企業が増えたという、360度評価について解説してきました。
人事評価から見た観点では、多様的な評価をすることで平均評価に繋がるということがあります。
一方で被評価者は、第三者的に自分を評価することにより、自分自身を見つめるきっかけに繋がります。
360度評価は、どちらにとってもデメリットよりもメリットのほうが上回るよう、企業は工夫をする必要があるでしょう。
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