労災保険とは? 加入条件や補償内容から企業側の手続きまで解説
従業員が業務中や通勤中に怪我をしたり、病気になったりした際に適用できるのが労災保険です。労災保険は給与の一部や年金などを補償する制度ですので、加入者にとっては多くのメリットがあるでしょう。
この記事では、企業の人事担当者に向けて、労災保険の種類や給付内容をわかりやすくまとめました。
また、本記事の後半部分では、申請手続きの方法を解説しましたので、ぜひ最後までご覧ください。
労災保険とは
労災保険とは、業務中や通勤途上における負傷、疾病、障害、死亡等に対して、必要な保険給付を行う制度です。労災保険が適用されるのは、2以上の事業主のところで勤務する労働者です。
通常の労働者保険とは異なり、労働災害に特化しているのが特徴です。
(出典:厚生労働省 東京労働局 労災保険とは)
労災保険が適用される労働災害の種類
労災保険が適用されるケースは主に3つです。詳しく見ていきましょう。
1.業務災害
労災保険の業務災害とは、労働者が業務中に起きた事故や、業務によって引き起こされた疾病のことです。具体的な補償項目は次の通りです。
- 療養補償給付(通勤災害は療養給付):健康保険の療養の給付とは異なる
- 休業補償:休業補償給付と傷病補償年金の2種類
- 障害補償給付:障害の等級によって年金か一時金かが決まる
- 死亡補償:遺族補償給付と葬祭料の2種類
業務災害に遭った労働者は、速やかに労働者災害補償保険を申請しましょう。会社側は迅速に事故の原因を調査し、労災保険への申請手続きをしてください。
(出典:厚生労働省 業務災害について)
2.通勤災害
通勤災害とは、労働者の通勤中に発生した事故や病気、死亡のことです。通勤の定義をまとめました。
- 住居と就業場所の往復
- 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
- 1に掲げる住宅に先行する、または後続する住居間の移動
さらに、日常生活上必要な行為かささいな行為後の経路も通勤とみなされます。
3.複数業務要因災害
複数業務要因災害とは、複数の事業で働く労働者が、業務に関連した負傷や病気、死亡のことです。新労災法第1条の改正によって、2020年4月1日から施行されました。
例えば、事業主が違うA社とB社で同時に勤務し、A社では運転手、B社では荷物の配達者である労働者が腰を痛めた場合、複数業務要因災害になる可能性があるでしょう。
労働者は両方の事業場で働いていた期間に応じて、労災保険から給付を受けられます。
労災保険の加入条件と対象者
従業員を1人でも雇用する事業者は、労災保険への加入が義務付けられています。
加入対象は正社員のみならず、契約社員やアルバイト、取締役、執行役員など、事業主と雇用契約を交わした労働者も労災保険に加入する必要があります。
また、労災保険特別加入制度を用いると、次の人たちが労災保険に加入できます。
- 中小事業主(第1種特別加入者)
- 一人親方等(第2種特別加入者)
- 海外派遣者(第3種特別加入者)
特に外資系企業の人事担当者は第3種特別加入に関する手続きが発生する可能性が高いため、覚えておくとよいでしょう。
労災保険の給付内容
労災保険の給付内容は8種類に分けられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
療養補償給付
療養補償給付には、療養の給付と療養の費用の支給があります。両方とも治療費や入院費などに使用でき、給付される範囲や日数は同じですが、原則として療養の給付(現物給付)が行われます。
やむを得ない理由がある場合に限り、療養の費用の支給がなされるでしょう。怪我が完治するまで支給されますが、完治したら支給は終了です。
(出典:厚生労働省 療養補償等給付の請求手続き)
休業補償給付
休業してから3日間の待機期間は、休業補償給付が給付されません。給付基礎日額の金額は、労働基準法第12条に規定されている平均賃金と同じものです、
(出典:e-Gov 労働基準法 第12条)
さらに、給付基礎日額の2割が支給される休業特別給付金を利用すれば、最終的に給与の8割が補償されます。ただし、労働者自ら申し込まなければ支給されません。
(出典:厚生労働省 休業補償給付の請求手続き)
障害補償給付
障害補償給付は業務上や通勤の際に怪我をし、身体に障害が残った場合に支給されます。
給付額は障害等級によって2つに分類できます。年金(1級〜7級)の場合は給付基礎日額を決まった日まで継続して給付を受けられますが、一時金(8級〜14級)は、1度支払った時点で完結します。
- 障害等級第1~7級:障害補償年金、障害特別支給金、障害特別年金
- 障害等級第8~14級:障害補償一時金、障害特別支給金、障害特別一時金
(出典:厚生労働省 障害補償給付の請求手続き)
遺族補償年金
遺族補償年金は業務や通勤が原因で労働者が死亡した際、遺族に払われます。
遺族補償年金受給者が死亡した場合、次順位の受給権者が引き続き受給する転給が認められており、ほかの給付制度にはない大きな特徴だといえるでしょう。
- 給付基礎日額の245日分(4人以上)~153日分(1人)の遺族補償年金
- 災害が起きた日以前1年間のボーナスの総額を365で割った額(算定基準日額)の245日分(4人以上)〜153日分(1人)の遺族特別年金が給付
- 一律300万円の遺族特別支給金も追加給付
なお、被災労働者が死亡した時点で遺族補償年金を受給できる遺族が0人だった場合もしくは、受給できる人がいなくなった場合に最大で給付基礎日額の1000日分が支給されます。
(出典:厚生労働省 の遺族補償年金の請求手続き)
葬祭料
葬祭料は、労災事故で亡くなった被災労働者の葬儀を遺族たちが行う際に支給される給付金です。
基本的に葬儀をまとめる遺族が支給対象ですが、社葬の場合は会社に葬祭料が支給されるでしょう。次の式と比較して多い金額が葬祭料として支給されます。
- 315,000円+給付基礎日額30日分
- 給付基礎日額60日分
介護補償給付
介護補償給付は、障害年金もしくは傷病年金を受け取っている人のうち、障害等級や傷病等級が第1級と第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を持っている人が、介護される際にもらえる給付金です。
具体的な給付内容は令和5年4月から次のようになりました。
- 常時介護の場合:最大で月額172,550円
- 随時介護の場合:最大で月額85,780円
出典:厚生労働省 第107回 労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会/資料)
傷病補償年金
傷病補償年金とは労災の療養の開始日から1年6ヵ月経過した日、もしくはその日以後、支給される年金です。
他の保険給付とは異なり、労働基準監督署長の職権によって支給決定される特殊な保険給付です。受給するためには、労働者自ら申請しなければなりません。
- 障害等級が1級なら給付基礎日額の313日分、3級なら245日分の傷病補償年金が症状の継続期間のみ支給される
- 傷病特別支給金が1級なら114万円、3級なら100万円の一時金
- 傷病特別年金が1級なら算定基礎日額の313日分、3級なら245日分の年金が給付
- 血圧の測定や血中脂質検査、血糖検査、腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定のすべてで「異常の所見があり」と診断された場合
- 脳・心臓疾患の症状がない
- 労災保険の特別加入者ではない
(出典:二次健康診断等給付の請求手続き)
労災保険の計算方法
労災保険料は、従業員に支払う賃金の全額に対して事業種ごとの労災保険料率を掛けて求めます。賃金総額には賞与も含まれており、次の計算式を使います。
- 前年度1年間の全従業員の賃金総額 = 平均賃金 × 従業員数
- 労災保険料 = 前年度1年間の全従業員の賃金総額(※1) × 労災保険料率
従業員が20名で平均給与が450万円の食料品製造業(保険料率6/1,000)の労災保険料
=(450万円 × 20)× 0.6%
= 54,000円
労災保険料は次の2つを比較して、不足額があるならその分の金額と、今年度分の概算保険料をまとめて支払います。
- 確定保険料:毎年6月1日から7月10日までの期間内に、前年の賃金の支払総額の実績をもとに計算した保険料総額
- 概算保険料:前年の同じ時期に計算して支払った総額
概算保険料の方が多かった場合、確定保険料の申告書の提出日から起算して10日以内に還付申請できるため、払いすぎた分は返金されます。
また、社会保険の確定精算は毎年6月1日から7月10日ですので、労働保険と社会保険(健康保険と厚生年金保険)の手続きが同時進行するでしょう。人事担当者は繁忙期ですので、念頭に入れておくとよいでしょう。
(出典:厚生労働省 労災保険料率)
労災保険の加入・申請時の手続き
労災保険の加入時と申請時の手続きの方法をまとめました。
①保険関係成立届の提出
事業主は事業を開始した日から10日以内に保険関係成立届を、会社の所在地を管轄する労働基準監督署長もしくは、公共職業安定所長へ提出しましょう。
労災保険は事業を開始した日に保険関係が成立するためです。保険関係成立届とは、労働者が雇用されたことにより、労働者と事業主の間で労働保険関係が成立したことを記した書類です。
②概算保険料の申告・納付
毎年4月1日から翌年3月31日の保険年度の途中で保険関係が成立した場合、保険関係の成立した日から50日以内に、概算保険料を申告し、納付しなければなりません。
概算保険料とは保険料を申告する前に、大まかな保険料額を把握するために算出されるものです。
③労災事故の状況把握
労災事故が発生した場合は、労災事故の発生状況や死傷者数を、所轄労働基準監督署長へ迅速に報告しなければなりません。
また、重大な労災事故であった場合は労災事故の発生を予防するための安全衛生改善計画が必要です。
安全衛生改善計画とは、安全管理のための体制や職場の施設など、総合的な改善整備を必要とする事業所を都道府県労働局長が個別に指定し、具体的な計画を作成させるものです。
(出典:e-Gov 労働安全衛生法第78~79条)
④保険給付の請求書の作成、提出
労災事故で休業する労働者や障害が残った労働者、死亡した労働者の遺族らが、労災保険の保険給付を行うために必要な書類を準備しなければなりません。
書類の準備ができ次第、速やかに関係各所へ提出しましょう。
⑤確定保険料申告書の提出・保険料の確定精算
労災事故の状況把握や、保険給付の請求書の作成が不必要でも、確定保険料申告書の提出と、保険料の確定精算をしなければなりません。
そして、次の2点の差額を比較し、確定精算をおこないましょう。
- 概算保険料:概算保険料の申告において納付した労働保険料
- 確定保険料:実際に支払った賃金総額によって計算した労働保険料
労災保険のまとめ
労災保険は従業員の怪我や病気の状況に合わせた給付金を受け取れます。特に企業の人事担当者は、従業員が業務上のトラブルに遭遇した際に正しく手続きできるよう、労災保険の仕組みや流れを理解しておくとよいでしょう。
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