労務の仕事内容とは? 役割や人事との違いを簡単に解説
労務とは、従業員の労働に関わる業務全般のことです。
具体的な仕事内容には、雇用・退職の手続き、勤怠管理、安全衛生管理、労務トラブルの対処などがありますが、人事や総務との違いがよくわからないという方も多いのではないでしょうか。
人材が不足している企業では、人事担当者が労務を兼任することもあり、人事の仕事が後回しになるなどの問題点もあります。労務だけでなく、人事や総務についても理解を深め、役割を明確にすることが重要です。
本記事では、労務の具体的な仕事内容や役割、人事・総務との違いをわかりやすく解説します。
労務に関する基礎知識
まずは、労務の意味や役割といった基礎知識を押さえましょう。労務の仕事は多岐にわたりますが、3つの軸で切り分けることで、役割が見えやすくなります。
労務とは
労務とは、従業員の労働に関わる業務全般のことです。勤怠管理や給与の計算・支給、従業員が入社して退職するまでのさまざまな手続きなど、事務的・管理的な仕事が多いのが特徴です。
また、従業員が働きやすい環境を整えるために、安全衛生管理を行ったり、福利厚生制度を考えたりするのも労務の仕事です。労働トラブルが発生した時には、問題解決に向けた対応を行うこともあります。
労務の役割
企業における労務の主な役割は、次の3つです。
1つ目の役割は、従業員を雇用するための諸手続きを行うことです。入社・退職の手続きや給与の計算・支給、労働・社会保険への加入など、人を雇用するうえで不可欠な手続きを行います。
2つ目の役割は、企業と労働者が円滑に業務を進めるために労使関係を管理することです。労働条件などについて従業員の代表である組合と調整を行い、案件によっては労使協定の締結を行うこともあります。労務トラブルへの対応も労務の仕事の1つです。
3つ目の役割は、従業員が働きやすい環境を整備することです。福利厚生制度を設けたり、休暇を取りやすい仕組みを考えたりします。また、従業員が安全に衛生的な環境で働けるように、職場環境の改善を図る仕事も該当します。
労務の仕事内容
ここでは、労務の仕事内容を具体的に紹介します。
1. 従業員へ支給する給与計算
従業員の勤務時間を把握し、法定労働時間を超える残業については割増賃金を加えて給与計算します。
給与から税金や社会保険料を差し引いて納税(社会保険料は納付)する仕事もあります。また、年度末には年末調整が必要です。
2. 社会保険の手続き
従業員の入社時に厚生年金と健康保険(40歳以上の人は介護保険も)に加入し、報酬に応じて毎年保険料を見直して、年金事務所などに届け出を行います。
また、従業員が出産育児一時金や傷病手当金(病気などで長期休業した時)を請求する際に、従業員の請求を手助けしたり、従業員に代わって手続きをしたりするのも、労務の大切な役割です。
労働保険(労災保険や雇用保険)についても同様の仕事を行います。
3. 入社・退職などの手続き
入社時の主な手続きは次の通りです。
- 労働条件通知書を使って労働条件に同意してもらったうえで、労働契約を締結する
- 社会保険や労働保険に加入し、従業員に雇用保険被保険者証や健康保険証を交付する
- 給与振込口座や通勤費などの確認を行う
- 労働者名簿や賃金台帳、出勤簿を作成する
退職時の主な手続きは次の通りです。
- 従業員に退職書類を記入してもらい、貸与品などを回収する
- 退職金を計算し、源泉徴収したうえで支払う
- 雇用保険被保険者資格喪失届をハローワークに提出し、退職者に離職票を交付する
- 社会保険の資格喪失手続きをする
4. 従業員の勤怠管理
タイムカードや勤怠管理システムなどを使って、従業員の始業時刻と終業時刻、労働時間、残業時間などを把握します。従業員が休んだ時は、有給休暇なのか、欠勤扱いで無給にするのかを確認しなければなりません。
特に、残業時間には注意が必要です。長時間の残業が続き、残業に関する労使協定(36協定)や労働基準法に違反していないか、上司の指示、または従業員本人の意志による残業隠しが行われていないかなどのチェックも必要です。
5. 就業規則の作成
就業規則は、労働基準法で作成することや記載内容、労働基準監督署長への届け出が義務付けられています(従業員10名以上の企業の場合)。
就業規則に記載が義務付けられた主な内容は、次の通りです。
- 始業時間・終業時間や休憩時間など、労働時間に関すること
- 休日や休暇に関すること
- 賃金の額や計算方法、締切、支払日などの賃金に関すること
- 解雇事由など、退職に関すること
就業規則を作成または変更して労働基準監督署長へ届け出る時は、労働者の代表からの意見書の添付が必要です。また、就業規則は従業員に周知しなければなりません。
6. 福利厚生の管理
福利厚生制度には、給与への各種手当の加算や、福利厚生施設の提供などがあります。具体的には、次のようなものが挙げられます。
- 住宅手当や家族手当などの各種手当
- 社員食堂や社員寮などの利用提供
- 通信教育や資格取得の費用補助
- 社員旅行
- レジャー施設や保養施設の利用提供
福利厚生制度を充実することによって、従業員の満足度向上や採用候補者に向けたイメージアップなどが期待できます。
7. 労務トラブルへの対応
入社前に説明を受けた労働条件が守られていない、不当解雇された、残業代が支払われていないなど、会社に対する訴えに対して、労務が会社の代表として対応します。
また、職場内でいじめを受けた、セクハラをされたなど、従業員間のトラブルであっても、企業には従業員の職場環境を守る義務があります。相談窓口の設置や、トラブル発生時の迅速な対応が求められます。
8. 従業員の安全・健康管理
労働安全衛生法では、仕事が原因で労働者が病気やケガをしないよう、企業が措置する義務を定めています。作業場や作業工程の安全性だけでなく、長時間労働が常態化していないかなどを確認しなければなりません。
また、仕事のストレスが原因のうつ病を防ぐために、従業員のメンタルヘルス対策も重要です。具体的には、相談窓口を設けたり、ストレスチェックを行ったりする対策が考えられます。
労務と人事の違い
労務と人事の役割には重なる部分が多いため、明確な違いがわからないという方も多いでしょう。ここでは、労務と人事の違いについて見ていきます。
人事の仕事内容
人事の仕事は、企業の従業員に関する業務全般です。企業の貴重な経営資源である人材を確保し、効果的に活用することを人事の目的としています。
主な仕事内容は、次の通りです。
1. 人事企画
人材を効果的に活用するための、制度や仕組みを企画する仕事です。適材適所な人員配置計画の立案や、従業員のやる気を引き出す人事評価制度を作ることなどが、人事企画にあたります。
2.人材の採用
企業に必要な人材を採用する業務です。採用計画の立案や人材の募集、採用選考などの業務があります。
3.人材の育成
従業員を、企業が必要とする知識やスキルを身に付けた人材に育成する仕事です。新入社員や中堅社員などに研修したり、ジョブローテーションで多くの経験を積ませたりします。
4.人事評価の業務
従業員の能力や業績を評価し、報酬や昇給などに反映させる仕事です。公正な人事評価と従業員への適切なフィードバックで、従業員のモチベーションを高めることもできます。
労務と人事の役割の違い
労務も人事も、従業員という人に関する業務である点は同じですが、その役割は異なります。
人事は、企業に必要な「人材」を採用・育成して戦力化し、組織の活性化や成長に活かす役割を負っています。
一方、労務の役割は、従業員が働きやすい環境の整備や、従業員を雇用するための事務的な手続きを行うことです。
労務と人事の仕事内容の違い
人事の主な仕事は、人材の採用や育成、人事評価、人員配置などです。また、事業戦略に必要な人材を確保するための人員配置計画の立案や、従業員のやる気を引き出す人事評価制度の構築も重要な仕事の1つです。
一方、総務の仕事は、従業員の給与計算や勤怠管理、入社・退職の手続きなど、事務的な業務が中心ですが、労務トラブルへの対応や従業員の健康管理などの仕事もあります。
労務 | 人事 | |
---|---|---|
役割 |
|
|
仕事内容 |
雇用に関する諸手続きと労働管理に関わる仕事
|
採用・育成・人事評価などに関わる仕事
|
従業員との面談機会 |
|
|
他部署との連携 |
|
|
労務の現状
小規模な会社では、人事担当者が労務の仕事をしているケースもあります。リソースが足りず、労務に十分な人員を割けないことなどが理由です。
このような場合に注意したいのが、人事や労務の役割が意識されなくなることです。特に、人事については要注意です。
労務の仕事は日常的に発生し、すぐに処理しないと業務が回らなくなるために優先されることが多く、担当者が業務多忙の場合、人事の仕事が後回しにされるケースがあるからです。
人事は、人材の採用・育成などを通じて組織の活性化・成長を図る重要な役割を担っていることを再確認して、業務の役割分担を明確にする必要があります。
労務についてのまとめ
労務の具体的な仕事内容や役割、人事・総務との違いをわかりやすく解説しました。
従業員の労働に関する業務全般を担う労務は、企業にとって欠かせない存在です。
しかし、業務が幅広いことから負担が大きくなりやすく、人事担当者が労務を兼任している企業では、企業の成長に必要な人事の業務が疎かになる可能性もあります。
労務と人事の役割の違いを再認識し、必要な分野に必要なリソースを割けるよう、適切な人材配置を行いましょう。