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管理職が行うべき労務管理とは? 押さえるべき重要ポイント

管理職が行うべき労務管理とは? 押さえるべき重要ポイント

労務管理は従業員の労働に関連する業務です。業務内容は、給与計算や就業規則の作成、福利厚生の整備など多岐に渡り、多くの人が携わります。では、管理職の方が行う労務管理には、どのような業務があるのでしょうか。

本記事では、管理職が行う労務管理の内容や求められるスキル・能力、実践的なアプローチについて詳しく解説します。


この記事の監修者
マネーライフワークス  代表/社会保険労務士・1級FP技能士・CFP 

管理職が行うべき労務管理とは

管理職が労務管理を行う上で重要なのが、部下が働きやすい職場環境を整備し、生産性向上と労務リスク低減の両立を図ることです。

管理職は、組織の中間に位置し、経営層の方針を現場に落とし込む重要な役割を担っています。また、部下の意見や現場の要望を聞きつつ、従業員が働きやすい環境を提供することも役割の一つです。

労務管理は多くの人が携わる業務ですが、管理職においては、会社の方針に沿って部下たちの労働環境を整えることが重要と言えるでしょう。そのため、労務に関する法令や制度だけでなく、従業員といった『ヒト』に対しても理解することが大切です。


管理職が行うべき労務管理の具体的内容

管理職が実際に行うべき労務管理は多岐に渡ります。以下は管理職が行う主な労務管理の内容です。

  • 労働時間と勤怠の管理
  • 労働条件の把握と管理
  • 安全衛生とメンタルヘルスケア
  • ハラスメント対策と防止
  • 労使関係の維持と改善

ここでは、それぞれの業務の具体的な内容と重要性について詳しく説明していきます。

労働時間と勤怠の管理

適切な労働時間管理は、過重労働を防止し、従業員の健康を守るために欠かせません。管理職は、タイムカードや勤怠管理システムを用いて労働時間を正確に把握し、残業時間の管理や有給休暇の取得促進を行いましょう。

労働時間管理において、日々の労働時間を正確に記録し、法定労働時間や労使協定による時間外労働の上限時間を超えないことが大前提です。労働基準法では、1日で8時間、1週間で40時間を超える時間外労働は原則として認められていません。時間外労働に関する労使協定(36協定)を締結している場合は、それで定められた上限(最大で1月で45時間、1年間で360時間)を超えないように注意が必要です。

労働時間と勤怠の管理をずさんに行うと、従業員の健康に関わるほか、労働基準法や労使協定に違反するリスクが高まります。そのため、残業の事前申告制や勤怠管理システムの導入などを検討してみてもよいでしょう。

労働条件の把握と管理

部下の労働条件を把握し、状況に応じて適切に管理することも、管理職の労務管理で重要です。特に、職場の公平性の観点から、部署間と個人間の労働条件の差異には注意を払いましょう。
管理職は、給与体系、勤務時間、福利厚生などの労働条件を定期的に見直し、部署間や個人間で不当な差別が生じていないか確認する必要があります。

たとえば、個人間の給与体系や部署間の評価制度の見直しや、福利厚生制度の利用状況を分析し、特定の部署や個人に偏りがないかの確認をしましょう。その際は、勤務時間や雇用形態といった観点も踏まえて、総合的に分析と見直しをすることが重要です。

また、最近ではフレックスタイム制や在宅勤務など柔軟な勤務制度を取り入れ始めた会社も少なくないでしょう。新しい勤務制度を取り入れた際には、導入状況の把握と、定期的な問題点の洗い出しが欠かせません。

安全衛生とメンタルヘルスケア

従業員の心身の健康管理は、業務効率の維持や生産性向上に繋がる重要な要素です。従業員の心身に疲労が溜まっていると、業務の生産性は著しく低下します。
逆に、安心して働きやすい環境を整えれば、従業員も意欲を持って働けるようになるので、組織全体でパフォーマンス向上が期待できるでしょう。

まず建設業や製造業といった業種では、労働災害を防止するためにも、職場環境の安全点検や従業員の日々の健康管理が必須です。また、業種を問わず、定期健康診断とストレスチェックの実施による従業員の健康状態の把握は欠かせません。なお、常時50名以上の従業員を使用する事業所については、1年に1回はストレスチェックが必須です。

基本的な安全衛生管理に加えて、従業員への精神的な支援、所謂メンタルヘルスケアも重要です。たとえば、メンタルヘルス相談窓口の設置や、人間関係や仕事で悩みがないかの定期的な面談が挙げられます。メンタルヘルスケアに力を入れることで、うつ病などの精神疾患による長期休職や離職を防ぐことができ、結果として人材の流出を防ぐことに繋がります。

ハラスメント対策と防止

組織全体でハラスメント防止に取り組む体制づくりは、健全な職場環境を維持するために不可欠です。たとえば、 ハラスメント防止研修の定期的な実施や相談窓口の設置は、未然の防止策として有効でしょう。また、ハラスメントの事案が発生した場合についても、対応方法のマニュアル化や社内規定の整備も重要です。

これらの取り組みと社内への周知により、ハラスメントのない健全な職場環境を構築することができます。ハラスメントのない職場では、従業員の心理的安全性が確保され、自由なコミュニケーションや創造的な活動が促進されるでしょう。

労使関係の維持と改善

円滑な労使関係の構築は、職場の安定と生産性向上に大きく寄与します。 労働組合との定期的な協議の実施はもちろん、意見箱やアンケートなどで従業員の意見や要望を聞くことが重要です。
また、労使間の対話を促進するための企画を実施し、従業員が会社に意見や要望を述べやすい場を設けるのも効果的でしょう。

意見や要望を聞くだけでなく、それらを基に課題を洗い出し、改善策を講じることも欠かせません。実際に改善策を講じることで、従業員の企業に対する信頼が高まり、安心して労使関係を維持できるでしょう。管理職が橋渡し役となり、経営側と従業員側の相互理解を深めて、信頼関係を構築することが大切です。


管理職に求められる労務管理のスキルと能力

労務管理を行う上で、管理職に求められる主なスキル・能力は以下の通りです。

  • コミュニケーション能力
  • リーダーシップとマネジメント力
  • 問題解決能力と意思決定力

ここでは、各スキル・能力について詳しく説明していきます。

コミュニケーション能力

優れたコミュニケーション能力は、部下との信頼関係構築に不可欠です。管理職は、積極的な対話を心がけ、部下の話に真摯に耳を傾けることが大切です。同時に、指示やフィードバックを明確かつ具体的に伝える表現力も求められます。

日常的な対話や定期的な面談を通じて、部下の悩みや不安、仕事に対しての意見や要望などを上手く聞き出せるかが重要です。とはいえ上司に対して、何かを伝えるのが億劫になる従業員は多いでしょう。そのため管理職には、決して威圧的にならず、部下の立場や目線に合わせたコミュニケーションが求められます。

また、話を聞くスキルだけでなく、部下の話を聞いた上で適切なフィードバックを行う能力も欠かせません。不安や悩みに対して具体的な解決策を提案したり、部下の良いところを正しく褒めてあげたりすることで、部下との信頼関係が深まるでしょう。部下との建設的なコミュニケーションや信頼関係の構築は、労務問題の早期発見・解決に繋がります。

リーダーシップとマネジメント力

強いリーダーシップとマネジメント力は、組織全体を適切に導くために不可欠です。

管理職には、部署やチームの目標と、その進捗を管理し、状況に応じて見直しや改善を行うマネジメント力が求められます。そして労務管理においては、労働関連法規の改正や新たな社内規定や制度の追加など様々な変化に対して、柔軟に対応しなければいけません。

たとえば、社内でリモートワークを導入・推奨することになったとします。その際、管理職が進んでリモートワークを行ったり、リモートでも問題なく業務を行うための支援体制を整備したりすれば、部下も気兼ねなく活用できるでしょう。また、導入後は、業務に支障が出ていないか、制度等の利用に偏りがないかなどを適宜把握・分析し、必要に応じて見直しや改善を行うマネジメント力が大切です。

強いリーダーシップは、部下のモチベーション向上や組織の目標達成にも大きく貢献し、適切なマネジメント力は健全で働きやすい職場環境の維持に欠かせません。

問題解決能力と意思決定力

高い問題解決能力と意思決定力は、労務問題の迅速かつ適切な解決に必要な能力です。管理職は問題が発生した際、なぜその問題が発生したのかを適格に分析し、スピーディに解決策を打ち出す必要があります。加えて、従来の枠にとらわれない新しい解決策を考案する創造的思考も重要です。

たとえば、部下の有給取得率が少ないという問題があったとしましょう。その場合管理職は、部下の意見や有給取得の方法など、様々な情報を基に解決策を導く分析力や思考力が求められます。仮に有給取得手続きの簡易化が解決に繋がるとしたら、すぐにそれを適用する決定力の早さも大切です。

労務管理において、このような労務問題に対して管理職が効果的かつ迅速に対処することで、職場の安定性を維持することができます。


効果的な労務管理のための実践的アプローチ

ここまで、管理職が行う労務管理の内容と、求められるスキル・能力について紹介してきました。では、実際に効果的な労務管理を行う上で、どのような方法を取れば良いのでしょうか。

以下では、実践的な労務管理のアプローチとして、定期的な面談とフィードバック、PDCAサイクルについて説明していきます。

定期的な面談とフィードバック

ここまで解説した通り、労務管理において管理職は、部下について知り、良好な関係を構築できるかが重要です。そのため、定期的に面談を行い、部下の悩みや不安、成果などに対してフィードバックをしてあげましょう。1on1ミーティングや業績評価面談などを通じて、部下の状況を把握し、適切な指導や支援を行うことができます。

効果的な面談とフィードバックを行うためには、以下のポイントを意識することが大切です。

  • 事前に議題や目的を明確にし、双方で準備をする
  • オープンな雰囲気を作り、部下が率直に話せるようにする
  • 一方的に話すことはせず、積極的に部下の話に耳を傾ける
  • なるべく具体的にフィードバックやアドバイスをする

上記のポイントを意識することで、部下の率直な要望や建設的な意見を聞くことができるでしょう。そして適切なフィードバックを行うことで、部下のモチベーション向上と成長の促進にも繋がります。

労務管理のPDCAサイクル

労務管理においてもPDCAサイクルを回すことで、継続的な改善が可能になります。PDCAサイクルとは、「Plan(計画)」、「Do(実行)」、「Check(評価)」、「Act(改善)」を繰り返すことで業務を改善していくことです。

PDCAサイクルの各段階別に、管理職が労務管理で行うべきことを以下の表にまとめました。

段階

行うべき内容

Plan(計画)

  1. 現状の労務管理上の課題を分析する
  2. 具体的な改善目標を設定する
  3. 目標達成のための施策を立案する
  1. 従業員の残業時間が多い傾向にある
  2. 月残業時間を40時間以内に抑える
  3. 残業の申請制度や新たな勤怠管理システムの導入

Do(実行)

  1. 立案した施策を実行する
  2. 従業員に対して施策の目的や内容を周知する
  3. 施策の実施状況を記録する
  1. 残業の申請制度を導入
  2. 申請制度の概要や方法などをマニュアル化して従業員に配布
  3. 部署ごとに申請人数と何時間残業したかを毎日記録

Check(評価)

  1. 施策の効果を測定する
  2. 目標達成度を評価する
  3. 予期せぬ問題や副作用がないか確認する
  1. 平均残業時間が約45時間まで減少
  2. 効果はあったが、申請制度だけでは不十分
  3. 平均残業時間は減ったものの、部署ごとに偏りが出た

Act(改善)

  1. 評価結果に基づいて施策を見直す
  2. 成功した取り組みは標準化する
  3. 新たな課題や目標を設定し、次のサイクルにつなげる
  1. 部署間で偏りが出たため、追加の対策が必要
  2. 申請制度自体は効果があったため継続
  3. 次は残業時間が平均40時間以上の部署を対象に、新たな施策を検討する

PDCAサイクルを継続的に回すことで、労務管理の質を徐々に向上させることができます。また、このプロセスを通じて、管理職自身の労務管理スキルも向上し、より効果的な施策を立案・実行できるようになるでしょう。


管理職の労務管理で押さえるべきポイントを知っておこう

管理職の労務管理において最も重要なのは、従業員の労働環境整備と生産性向上の両立です。具体的には、労働時間の管理や労働条件の公平性確保、メンタルヘルスケアやハラスメント対策、そして良好な労使関係構築に注力しましょう。

各施策においては、労務管理システムや勤怠管理システムを活用し効率的に進めることも大切です。

管理職が労務管理を行う上で、コミュニケーション能力やリーダーシップ、マネジメント能力や問題解決能力といったスキルが重要です。また、定期的な面談とフィードバックを通して、部下との信頼関係を深めることや、PDCAサイクルの繰り返しで労務管理業務を改善していくことが欠かせません。

管理職の方は、本記事で紹介した労務管理のポイントを参考にしてみてください。管理職が適切に労務管理に携わることで、従業員のモチベーションや企業の生産性を向上させることができるでしょう。


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監修者プロフィール

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岡崎 壮史

マネーライフワークス 代表/社会保険労務士・1級FP技能士・CFP

生命保険の営業や不動産会社の営業企画を経て、1級FP技能士とCFPを取得。

平成28年に社会保険労務士試験に合格。その翌年にマネーライフワークスを設立。

現在は、助成金申請代行や助成金の活用コンサルを中心に、行政機関の働き方改革推進事業のサポート事業や保険などの金融商品を活用した資産運用についてのサイトへの記事の執筆や監修なども行っている。

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