ダイバーシティとは? ビジネスにおける意味から取り組み事例まで徹底解説!
近年自社の経営において「ダイバーシティ」の考え方を取り入れる企業が増えています。ダイバーシティはもともとアメリカで生まれた考えです。現在では日本にも浸透しつつあり、大企業から中小企業まで、多くの企業が取り組んでいます。
この記事では、ダイバーシティの意味と、ビジネスにおけるダイバーシティについて解説します。具体的な活用事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ダイバーシティとは?
ダイバーシティとは、直訳すると「多様性」です。ビジネスにおいては、多様性を持った人材が共に働いている状態を指します。
多様性と聞くと、性別・年齢、学歴や職歴、人種・国籍に関する内容をイメージする方も多いでしょう。しかし、ダイバーシティは障害の有無や性的指向、働き方・キャリアといった要素も含みます。
また、「ダイバーシティ経営(ダイバーシティマネジメント)」とは、ダイバーシティが転じて生まれた経営方法です。自社の経営に多様な人材を生かし、企業価値の向上につながる戦略に取り組むものです。
ダイバーシティはいつからある?
ダイバーシティは日本では比較的新しい考え方ですが、発祥は約60年前のアメリカです。しかし、現地でもスムーズに広まったわけではありませんでした。
1960年代のアメリカで発祥し、1980年代後半に浸透
ダイバーシティの発祥は、1960年代のアメリカに遡ります。公民権運動や女性運動の高まりにより、法律で人種や性別・宗教などによる労働者の差別が禁じられたことがきっかけでした。しかしこの法律には法的強制力が乏しく、すぐに差別撤廃には至りませんでした。
ところが1980年代には、ダイバーシティが社会的責任(CSR)と捉えられるようになります。マイノリティが持つ多様性が、商品開発や市場開拓に有効とされたためです。
当時のアメリカは大量生産・大量消費の経済モデルでは立ち行かなくなりつつあり、企業は「いかに自社の競争優位性を高めるか」が課題となっていました。
加えて1987年に公表されたレポート「Workforce 2000」の内容も大きな後押しとなりました。「1985~2000年の新規労働力は、アメリカ生まれの白人女性とマイノリティ人種・移民が85%で、彼女たちが今後も労働力として重要になる」と予測されたのです。
こうしてアメリカでは、企業の競争優位性向上のためにダイバーシティが重視されるようになりました。
日本での浸透は2004年頃
日本でダイバーシティが浸透し始めたのは、2004年でした。経済同友会がダイバーシティを人事・経営戦略として提唱したのです。
既に1986年に男女雇用機会均等法が、1999年には男女共同参画社会基本法が施行されてはいました。
しかし、これらの法律は「性別による格差」の解消を目的とする考え方が根強く、ダイバーシティの根幹までは企業に浸透していなかったのです。
とはいえ、日本ではまだダイバーシティやダイバーシティマネジメントはまだ完全に浸透してはいません。企業には今後も、ダイバーシティ実現のための継続的な取り組みが求められるでしょう。
ダイバーシティとインクルージョンの違い
ダイバーシティと似た言葉に、「インクルージョン」もあります。
インクルージョンとは、直訳で「内包する」という意味です。ビジネスにおいては、「従業員が自社内で受け入れられ、かつ自分の能力や独自性によって自社に貢献できていると感じられる状態」を指します。
一方のダイバーシティは、多様な人材を自社に採用し、企業価値の向上を目指すものです。
ダイバーシティ実現のためには、インクルージョンが必要だとされています。
しかし、ダイバーシティを推進したからといってインクルージョンが実現していることにはなりません。また、インクルージョンだけ実現していても、ダイバーシティにはなりえません。
企業には、ダイバーシティとインクルージョンの両立ができるような経営が求められます。
企業でダイバーシティが重視される理由
企業でダイバーシティが重視されることには、大きく5つの理由があります。
1.少子高齢化による労働人口の減少
まず、人材の確保が今後ますます厳しくなると予想されるためです。
総務省の調査によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年を、総人口は2008年をピークに、それぞれ減少しています。
また、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、総人口は2030年には1億1913万人、2053年には1億人を割り、2060年には9284万人になると予想されています。
同様に、生産年齢人口は2030年には6875万人、2060年には4793万人にまで減少するとされています。
このような背景により、企業は早期に多様な人材の採用に取り組む必要があるのです。
参考:平成29年版 情報通信白書|人口減少社会の課題と将来推計|総務省
2.グローバル化への対応
外国人の採用を視野に入れる目的もあります。
今後、ビジネスのグローバル化や企業間競争がさらに激化すると考えられます。これに伴い、国内の労働市場だけに注目した人材活用では対応しきれなくなってきているのです。
対策として、外国人の採用が必要になる場合もあるでしょう。
その前提として、企業が多様な人材の受け入れ体制を整えることが重要になってきます。
3.働き方やキャリアへの価値観の多様化
従来のやり方や組織の常識にこだわらず、多様な人材のニーズに柔軟に対応して優秀な人材の確保を図らなくてはなりません。
ここ数年、政府の働き方改革やコロナ禍の影響による、テレワークやオンラインツールの普及によって、働き方や暮らし方まで変化を遂げました。
労働やキャリアに対する価値観は多様化し、自由な働き方を求める労働者も少なくありません。
特に若い世代を中心に、終身雇用よりワークライフバランスを重視する人や、興味ある仕事ややりがいを求め、転職をする人も増えつつあります。
4.人材不足による負のスパイラルの防止
離職者を減らして自社を存続させるためにも、ダイバーシティは軽視できません。
必要な人材が確保できなければ、既存の従業員の負担が増えます。過重労働やメンタル不調を招いたり、ワークエンゲージメントの低下や離職にもつながるでしょう。
さらに、生産性の低下や業績不振、やむを得ない事業の縮小にもつながります。企業のイメージダウンになり、優秀な人材も集まらなくなる悪循環にも陥るかもしれません。
魅力ある職場環境、働きやすい体制作りに努めましょう。
5.新たなアイデアの創出
多様な人材を採用し、これまでにない意見を取り入れることで、新たな市場の開拓や企業価値の向上ができる可能性もあります。
年齢・性別・国籍・文化・価値観の異なる人材が企業に集まることで、異なる視点での新たなアイデアの創出に期待できます。新商品の開発や、自社の課題解決にも貢献するでしょう。
ダイバーシティ推進のための方法
ダイバーシティを推進するためには、企業ぐるみでの取り組みが不可欠です。特に人事関係の部署が配慮すべき点や、具体的に実施すべき施策を順に解説します。
1.経営者自身がダイバーシティ経営の方針を明確にする
第一に、経営者自らがダイバーシティ経営の実現方法を考える必要があります。そのうえで全従業員に周知し、ダイバーシティ経営を行う目的・方針を共有しましょう。
社内全体で取り組む体制を整えるためには、欠かせないポイントです。
2.担当部署を設置し、体制を整える
ダイバーシティ推進担当部署を設置し、ダイバーシティ経営を実現するための体制も整えましょう。具体的には、以下のような施策が考えられます。
- ライフスタイルやハンディキャップに合わせた働き方ができる勤務体制の整備
- 育児や介護などで休暇中の従業員に合わせた職場復帰支援体制の構築
- キャリア支援の機会均等制度の導入(希望職種やプロジェクト・研修に、誰もが応募できるようにする)
- 全従業員に対する専門の相談窓口の設置
公平な評価のために明確な基準を設定するなら、従来の人事評価制度の変革もよいでしょう。
年功序列・終身雇用などの見直しも視野に入れてみてください。
3.従業員に研修を実施し、社内全体でダイバーシティを理解する
既存従業員への研修も実施しましょう。
LGBTQなどのマイノリティ、心身の障がいなどに対する周囲の理解を促進し、各自の能力を発揮しやすい環境を作るために効果的です。
さらに、決定事項のプロセスを明確化することも求められます。多様な人材が協働するためには、各自が決定事項の背景を理解し、納得しなくてはなりません。
日本人にありがちな「場を読む・言わなくても察する」を排除したり、少数意見を出しやすい環境を作ったりしましょう。
ダイバーシティ経営を行うとなると、女性や障がい者、LGBTQ、外国人に対する施策を考えがちです。
しかし、ダイバーシティ経営を実現するためには、一定の立場の従業員に偏らず、誰もが快適に働ける環境を整えることも重要です。
ダイバーシティ経営を行う効果とは?
ダイバーシティ経営は、特に中小企業で高い効果が出ています。具体的には、以下のような効果が出ている企業が目立ちます。
- 雇用拡大や優秀な人材の確保
- 社員の定着率アップ
- 売り上げ・営業利益の向上
雇用拡大や優秀な人材の確保
ダイバーシティ経営を推進することで、雇用の拡大につながりやすくなります。
多くの人が働きやすい環境を整えることは、企業イメージのアップにもつながるため、求職者にとっては魅力的なポイントになることでしょう。
採用活動でダイバーシティ経営をアピールすることで、求職者の増加につながります。
自由な働き方を実現させる職場環境の整備や、多様な人材の受け入れをすることで、採用の幅が広がり、優秀な人材の確保にも効果を与えるでしょう。
社員の定着率アップ
ダイバーシティ経営を実現することで、社内には多様な価値観や経験、ライフスタイルを持った社員が増えるでしょう。
それぞれが自分らしく働くことができ、それを認め合えるような環境が生まれることで、ワークライフバランスを大切にした職場環境の実現が可能になります。
自分の望む働き方が認められることで、結果的に従業員満足度の向上にもつながり、社員の定着率アップが期待できるでしょう。
売り上げ・営業利益の向上
多様な価値観や経験、知識を持った従業員同士が集まることで、今までになかった新たなアイデアが生まれ、それがビジネスの拡大に影響を与えます。
斬新な発想で多方面から分析を行うことで、生産性の向上や新たな商品開発のチャンスが生まれ、利益アップにつながる可能性があるでしょう。
また、ダイバーシティ経営の推進が企業イメージアップとなり、それが新たな顧客との契約や取引につながる場合もあるかもしれません。
ダイバーシティ経営における注意点
ダイバーシティ経営を実現するために知っておきたいデメリットや、導入する際に起きうる弊害を紹介します。
一定のコストと時間がかかる
ダイバーシティ経営は、一朝一夕で実現できるものではありません。既存の経営の仕組み・人材採用の方針を大きく変えることになるためです。これまでの体制を一新するとなれば、相応のコストもかかるはずです。
加えて、ただ単に多様性を受け入れる体制を整えて終わりでもありません。
前述の通りダイバーシティ経営には、従業員が自社への満足感を覚え、「自分は会社に貢献できている」という認識を持てることも必須です。
自社の取り組みの見直しと改善を繰り返し、ダイバーシティ経営の実現を目指しましょう。
かえってパフォーマンスが低下する可能性もある
加えて、ダイバーシティ経営が必ずしも、よい結果をもたらすとは言えないと知っておきましょう。
業務内容や勤務時間の調節などに慣れるまでには、ある程度の時間がかかるものです。一時的な、従業員のパフォーマンス低下も想定されます。
場合によっては、それが原因で従業員同士の衝突が起きることもあるでしょう。
対策としてダイバーシティについての研修会を開き、従業員全員が理解できるよう推進する方法が挙げられます。
また、従業員同士が日頃から親睦を深め、コミュニケーションを取りやすい環境を整えることも、有効な手段の一つです。
母国語や文化の異なる従業員への配慮も必要
外国人従業員との、言葉の壁への対策も考える必要があります。
彼らとの価値観・文化の違いから、無意識でのハラスメントや誤解が起きるかもしれません。
価値観・文化の理解を深める取り組みや、英語を共通言語としたコミュニケーションを図るなど、できることを考えてみましょう。
食事を共にする、外国人従業員を講師に英会話の勉強会を開くなど、外国人従業員の文化に親しむ機会を作る方法も効果的です。
ダイバーシティ経営の事例
ダイバーシティ経営に取り組み、経営に貢献した企業の事例を「新・ダイバーシティ経営企業100選」などから抜粋し、紹介します。
大橋運輸:女性・外国人・障害者の積極採用で求人応募者数3倍に
運送会社の大橋運輸は、ダイバーシティ経営に積極的に取り組んでいます。
同社は1990年代より、人材不足や長時間労働が課題でした。そこで人材確保のために以下のような取り組みを行い、あらゆる従業員の多様性を尊重する環境を整備しました。
- 子育て期の女性社員も活躍できる、短時間正社員制度を始めとした勤務制度の整備
- 障がい者支援団体と連携し、障がい者をインターンや社員として採用
- 外国人を積極的に採用し、語学堪能な社員を通訳に付ける
その他の多くの施策も相まって、求人応募者数は10年で3倍以上に。収益率もアップしています。
楽天グループ:社内公用語の英語化で、海外拠点との連携もスムーズに
楽天グループは、いち早くダイバーシティ経営に着目・実行した企業の一つです。
2012年に社内公用語を英語とし、さまざまな背景を持つ従業員同士でもコミュニケーションが取れる環境を整えました。
海外のグループ企業との意思疎通も円滑になり、全社一丸となった経営を実現しています。
また、使用する言語の統一により情報収集のスピードも上がりました。海外の最先端技術や動向も、素早くキャッチアップできています。
損害保険ジャパン:LGBTのための制度を整備し、受賞歴多数
損害保険ジャパンでは、LGBTの従業員を対象にした制度を多数整備しています。
その結果、LGBTの従業員も働きやすい企業だと示す「PRIDE指標」で、最高賞のゴールドを3年連続で受賞しました。
同社ではLGBTの従業員のために、以下のような環境整備に取り組みました。
- 同性パートナーを配偶者と同じ扱いにする
- 性別・性自認を問わず使えるトイレや更衣室を用意
- 全従業員を対象に、LGBTに関する研修やeラーニングを実施
全社を挙げてダイバーシティ経営に取り組んでおり、実際に働いている従業員からも好評を得ています。
カンロ:時短勤務社員をリーダーに起用し、新商品の売上実績140%に
創業100年を超える老舗の製菓企業のカンロは、働き方の多様性に着目した経営に取り組んでいます。新商品開発プロジェクトのリーダーに、時短勤務社員を任命したのです。
これまで同社の新商品開発は、専門の部署が担当していました。
しかし、新たに子供向け商品の開発に着手する際、子育て中で時短勤務をしている女性社員を起用しています。
プロジェクトリーダーに時短勤務社員を据えたことはありませんでしたが、この社員の子育て経験を活かした開発を実現。同商品の売上は、計画の約140%に達しました。
旭化成:社内の職域を拡大し、女性管理職が3名→277名に
旭化成は、女性管理職が約30年で270名以上増加しています。早い段階で目標を設定し、段階を追って複数の施策を行ったことが功を奏しました。
もともと「性差を付けていては、優秀な人材が確保できない」「ユーザーに近い事業分野では、女性の目線が必須」との認識がありました。
まずは性別により職種が限定されないよう、事業領域の拡大・家庭と仕事を両立しながら管理職に就くための環境整備を実施。そのうえで、女性管理職割合を15%とする数値目標を立てました。
そして、女性を配置する職種・職域を増やしたり、能力開発支援の研修を受けさせたりなど、複数の施策を実施したのです。結果、女性管理職は増え続け、性別にとらわれず長く働き続けられる環境を実現しています。
参考:人財 | 社会 | サステナビリティ | 旭化成株式会社
資生堂:女性社員を支える仕組みを整備し、社会からも高評価
大手化粧品メーカーの資生堂は、女性社員が8割を占める企業です。社内保育所の用意、時短勤務社員をサポートするスタッフを付けるなど女性が働きやすい環境の整備により、育休取得後の復帰率は99.3%を誇っています。
加えて近年は人材強化も推進しています。2017年に立ち上げた女性リーダーの育成塾により、女性管理職比率が37.3%まで向上。
2022年には、「女性が活躍する会社ベスト100」で1位を獲得し、さまざまな団体からも表彰されています。
ダイバーシティについてのまとめ
今日では、多様性を生かした雇用や人材の活用は企業の成長に欠かせません。多様性は性別や人種、職種など以外に、性的指向や働き方まで、さまざまな要素があります。
企業にとっては、多角的な環境整備が求められるでしょう。
ご紹介した事例も参考にしながら、自社ではどんな取り組みができるか考えてみてはいかがでしょうか。
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