暦年贈与の契約書が必要な理由は? 注意点や作成の流れを解説
暦年贈与とは、年間110万円までの贈与が非課税となる制度のことです。
うまく活用すれば節税につながる制度ですが、トラブルも多いため、契約書を作成したうえで正しい手順に沿って行うことが大切です。
本記事では、暦年贈与に契約書が必要な理由や作成の流れ、注意点を解説します。
暦年贈与の契約書を作成する理由
贈与があったことを証明するために、贈与者と受贈者の間で結ぶ契約書を「贈与契約書」といいます。
第三者が贈与の内容を客観的に把握できるだけでなく、トラブルを未然に防ぐためにも、贈与契約書は重要な意味を持ちます。
例えば、実際に生前贈与でもらった金額がわからないと、その後、相続が発生したときに、遺産分割のトラブルにつながります。
また、贈与契約書がなかった場合、当該財産は「本来相続財産に入るべきであった」と認定される可能性があります。
相続財産が漏れたことにより、相続税の申告が漏れていたとみなされる恐れもあるのです。
贈与の撤回防止
贈与は、贈与者が財産を贈与することを意思表示し、受贈者が承諾することで効力が生じます。
贈与が成立した後に、贈与者の一方的な意思表示で取り下げることはできません。
しかし、贈与契約書がなかった場合、贈与契約が成立したことを証明できず、「最初から贈与は無効であった」とも主張されてしまいます。
仮に預金通帳を通して現金が動いていたとしても、贈与での現金移動であることは証明できません。そのため、贈与を証明する証拠として贈与契約書を残しておく必要があります。
税務調査への対応
税務調査への対応という観点でも、贈与契約書は重要な役割を果たします。
贈与の否認
贈与を行っても、それが認められないケースというものが存在します。
代表的な例が、未成年者が単独で行った贈与です。未成年者は単独で法的契約は締結できず、法定代理人(通常は親権者)の同意が必要です。
通常は、贈与契約書を作成した場合に、法定代理人として署名捺印を行うことで、要件を満たすことになります。
名義預金の可能性回避
相続税対策として、孫名義で預金通帳を作成して贈与を行うケースがしばしば見られます。
「孫に知らせるとお金を使ってしまうから」と、印鑑も贈与者が管理し、キャッシュカードも渡しておらず、場合によっては通帳の存在自体を受贈者に知らせていないこともあります。
このように、口座の名義人と、実際に口座へお金を預けている人が異なる預金のことを「名義預金」といいます。
贈与を受けた預金を受贈者自身が自由に処分できる状態でない場合は、名義預金とみなされ、相続財産の対象となる可能性が高いです。
不動産の所有権移転登記
不動産の贈与を受けた場合には、所有権の移動を登記する必要があります。
登記移転がなくても、贈与契約は当事者間において有効ですが、第三者に対して対抗できません。不動産登記の移動をもってはじめて、不動産の贈与を客観的に証明できるようになります。
税務署も登記の移転によって贈与の発生を把握するため、その点においても所有権移転登記は必要です。
暦年贈与の契約書作成の注意点
ここでは、暦年贈与の契約書を作成する際の注意点を解説します。
贈与ごとに契約書を作成する
贈与契約書は、贈与ごとに作成しましょう。
毎年行うものだからといって、贈与する分の契約書を1つにまとめてしまうと、毎年の贈与が一度に行われたと認定される可能性があります。
それにより、多額の贈与税を支払うことになりかねません。
契約書は2通作成する
契約書を作成する場合は、通常2通作成し、贈与者と受贈者がそれぞれ所持します。
それには、次のような理由があります。
仮に贈与者と受贈者のいずれかが契約書を紛失しても、他方が持っていれば内容を証明できます。
また、贈与を無効にしたいと考えた贈与者が契約書を隠匿しても、受贈者が契約書を持っていれば、勝手に契約を無効にすることはできません。
署名は自筆した方がよい
契約書は信憑性(しんぴょうせい)を高めるため、記名押印よりも自筆がおすすめです。
本人が知らないところで、署名がない契約書を不正に作成される可能性もあるからです。
契約書は必ず自筆で署名するというマイルールを設ければ、署名が入っている契約書については、少なくとも本人がその書類の存在を認知していることの証明になります。
それにより、契約書が無効になる可能性が低いと考えられます。
暦年贈与の契約書作成の流れ
暦年贈与の契約書は、次の流れで作成します。
1. 内容を決める
贈与を行う場合は、次のような内容を明確にする必要があります。
- いつ贈与を行うか?
- 誰が誰に対して贈与するか?
- 何を贈与するか?
- どれだけ贈与するか?
いつ贈与を行うかによって、贈与税申告を行う時期と、贈与財産の価値を評価する時点が確定します。
さらに、贈与者と受贈者の関係によっては、特例措置によって税額が免除されたり、猶予されたりすることがあります。
受贈者が誰なのかによっても、贈与税の金額が異なります。
2. 贈与に合意
贈与の合意形成は、贈与者が贈与財産を特定して贈与の意思を示し、受贈者が承諾することによって成立します。
当事者の一方が未成年の場合は、法定代理人(通常は親権者)による同意が必要です。
その場合は、贈与契約書を作成するのが一般的ですが、未成年者の下欄に法定代理人が署名捺印することで対応できます。
3. 贈与の契約書の作成
贈与契約は口頭によっても成立しますが、贈与契約の解除を防ぐためにも、速やかに契約書を作成しましょう。
贈与契約が解除によって無効になった場合、その後の法律行為にも影響を及ぼす恐れがあるためです。
転売などにより、贈与財産の所有権に変動が出る場合もあります。
その後の法律行為を安定化するためにも、契約書はすぐに作成しましょう。
4. 贈与の契約書をそれぞれが保管
贈与契約書は、通常、贈与者と受贈者が1通ずつ保存します。
それにより、次のような効果が期待できます。
- 双方が契約内容を確認している証しになる
- 契約内容を都合よく変造してしまうことを防ぐために、両方が内容を理解していることを担保する
- 契約書を後日にさかのぼって作成していないことの証明になる
暦年贈与の契約書のテンプレート
暦年贈与の契約書は、手書きで作成すると必要事項が抜ける可能性があるため、テンプレートの活用をおすすめします。
ビスオーシャンでは、贈与契約書のテンプレートを公開しています。ぜひご活用ください。
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贈与契約書を締結する際は、贈与者・受贈者双方が契約内容について十分に納得し、実態に合致していることを確認しましょう。
暦年贈与の契約書作成のまとめ
暦年贈与に契約書が必要な理由や作成の流れ、注意点を解説しました。
贈与契約書は、贈与者・受贈者間のトラブルを防ぎ、贈与の内容を客観的に証明するうえで重要な役割を果たします。
契約を締結する際は、双方が内容を十分に理解していることを確認しましょう。
契約書の作成には、必要事項を網羅したテンプレートの活用がおすすめです。