就業条件明示書とは? 労働条件通知書との違いや明示項目を知ろう
就業条件明示書は、人材派遣会社の派遣社員に対して、契約を結ぶときの提示が義務付けられている書類です。
雇用契約書や労働条件通知書など、類似した書類が多いため、扱い方に注意する必要があります。
この記事では、就業条件明示書を扱うことの多い人事部の社員に向けて、就業条件明示書の概要や類似した書類、記載項目について解説します。
ぜひ最後までご覧ください。
就業条件明示書とは
就業条件明示書は、人材派遣会社に登録する派遣社員への提供が義務化されている文書で、具体的な労働条件などが書かれています。
労働条件明示書は5年間保管しなければなりません。
派遣先企業の情報や就業条件、派遣契約解除のことなどの項目があります。
就業条件明示書と混同されやすい書類との違い
就業条件明示書と類似して間違いやすい書類を解説します。
雇用契約書
雇用契約書は、労働者と雇用者が雇用契約を締結したことを明らかにする文書です。
一方、就業条件明示書には、雇用契約における具体的な労働条件などが記載されています。人材派遣の場合、雇用契約を締結するのは派遣元である人材派遣会社と派遣社員です。
雇用契約書は2部作り、会社と労働者が署名と捺印を取り交わし、お互いが1部ずつ保管するのが一般的です。記載事項の一部を紹介します。
- 契約期間
- 賃金
- 業務内容
- 就業場所
- 就業時間
- 休日や休暇
- 退職に関する事項など
労働条件通知書
労働条件通知書は、労働者と事業主が雇用契約を結ぶ際、事業主が労働者へ交付する書類です。
労働条件通知書の交付は、労働基準法に基づく企業の義務であり、契約社員やアルバイトなど、すべての労働者に対して発行することが求められます。
就業条件明示書は派遣労働者に対して、労働条件通知書は直接雇用する労働者に対して交付するものです。
(出典:労働基準法 第15条)
(出典:厚生労働省 就業条件明示書 記入例)
業務内容
就業条件明示書に記載する業務内容は、就業条件明示書の中でも特に重要な項目です。どのような業務に携わるのかを具体的に記載しましょう。
業務内容の記載に加えて、責任範囲の記載も必要です。労働者の役職や権限の範囲、程度などを記載し、役職がない場合は「役職なし」と明示します。
派遣労働者には、就業条件明示書に記載した業務以外の仕事、派遣期間を過ぎての就業、指定部署以外への異動をさせることはできません。
違反すると、派遣元企業や派遣先企業に罰則が科せられる可能性があるので注意しましょう。
派遣期間
派遣期間の欄では派遣期間制限の3年以内を、紹介予定の場合は6ヵ月以内を明記しましょう。
派遣先の事業所単位と組織単位(個人単位)の期間制限の抵触日を、期間制限のない労働者派遣に該当する場合はその旨を、記載してください。
また、派遣先が事業所単位の期間制限、または組織単位ごとの期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合「労働契約申込みみなし制度(派遣先が派遣社員に労働契約を申し込んだとみなす制度)」の対象となる旨を併せて書きましょう。
就業日、就業時間、休憩時間
次の項目に対する記載内容をまとめました。
- 就業日:基本となる就業曜日を書きましょう。交代制などでは可能な限り具体的に就業日を書いてください。
- 就業時間:何時〜何時など。
- 休憩時間:休憩時間の開始時刻と終了時刻を記載しましょう。
派遣労働者からの苦情処理
派遣先からの苦情処理では、次の2点を書きましょう。
- 苦情の申出を受ける者:派遣先・元担当者の所属部署名、役職名、電話番号
- 苦情処理方法、連携体制等:苦情があった場合の派遣先・元担当の連携体制、処理方法
労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るための措置
労働者派遣契約の中途解除があった場合、派遣先と派遣元で新たな就業先を確保することを明記しましょう。
確保できない場合は、まず休業を行い休業手当を支払うこととします。
休業しても雇用を維持できず解雇する場合は、解雇予告手当を支払うこととするなど、雇用主が労働基準法等の責任を負う旨も記載してください。
派遣元責任者と派遣先責任者、就業日外労働と時間外労働
派遣元責任者と派遣先責任者の所属部署名、役職名、電話番号を書いてください。
就業日外労働では、派遣先において休日出勤がある場合は、1ヵ月の休日労働日数を記載しましょう。派遣元事業主で定めた36協定の範囲内の休日労働日数になります。
時間外労働では、派遣先において残業がある場合、1日、1ヵ月(3ヵ月)、年間分それぞれの残業時間の上限を明記しましょう。
派遣元事業主で定めた36協定の範囲内の時間外労働時間になります。
派遣労働者の福祉の増進のための便宜の供与
労働者派遣法で派遣労働者が利用できると定められた便宜(食堂や休憩室、更衣室の利用)以外に、利用できるものがあれば記載しましょう。
福利厚生の範囲は正社員や他の雇用形態の労働者と、大きな差別が生じないようにしてください。
労働者派遣に関する料金
派遣労働者に対しての派遣料金額を、次のいずれかを選んで明記してください。派遣先が派遣元に支払う料金であり、派遣労働者には支払われる報酬ではありません。
時間額や日額、年額や月額など、金額の単位がわかるように書いてください。
- 派遣労働者本人の派遣料金
- 派遣労働者が所属する事業所における派遣料金の平均額(1人あたり)
協定対象派遣労働者であるか否か
協定対象派遣労働者(派遣元と労使協定を締結している派遣社員)の場合は、当該協定の有効期間の終期を明記してください。
なお、協定対象派遣労働者ではない場合は、次の項目を書いてください。
- 賃金の決定等に関する事項
- 休暇に関する事項
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
派遣先が派遣労働者を雇用する場合の紛争防止措置
労働者派遣終了後にその派遣労働者を派遣先が雇用する場合、派遣先が事前に派遣元に通知すべきことを記載しておきましょう。
派遣元が職業紹介を行うことが可能な場合に、職業紹介により紹介手数料を支払うことなどの措置を記載してください。
なお、派遣先が派遣元に紹介手数料を支払うのは、派遣元が職業紹介の許可を受けており、派遣先がその職業紹介によりその派遣労働者を雇用する場合のみです。
紹介予定派遣に関する事項
紹介予定派遣の場合、次のような内容を記載しましょう。なお、状況によっては記載項目が追加されるケースもあります。
- 試用期間の有無(なしが好ましい)
- 契約期間
- 業務内容
- 就業場所
- 労働条件(就業時間や時間外労働、賃金など)
基本的には、試用期間を「なし」と記載するのが望ましいです。派遣期間は6ヵ月以内と決められており、直接採用のケースではこの期間が試用期間に該当するためです。
派遣期間内で派遣先が認めれば派遣先で本採用、採用不可と判断すれば派遣期間終了で本採用の話はなくなります。
また、派遣先が派遣労働者を雇用し、派遣期間を含めて年次有給休暇や退職金を計算する場合、その旨も記載しておきましょう。
雇用・社会保険の被保険者資格取得届の提示が無しの理由
該当する場合のみ具体的に記載して下さい。
- 適用基準を満たしていないため → 1週間の所定労働時間が15時間であるため
- 手続き中であるため →「~月~日には届出予定」
就業条件明示書についてよくある質問
最後に、就業条件明示書を作る段階で参考にしたい以下の質問に答えていきます。
- 就業条件明示書は電子化できる?
- 就業条件明示書はいつまでに?
2024年4月から変わった内容もあるため、しっかりチェックしておきましょう。
就業条件明示書は電子化できる?
就業条件明示書の電子化は、2019年から認められています。
また2021年の労働者派遣法改正により、現在は労働者派遣契約書をはじめとした派遣元や派遣先、派遣社員の三者間で発生するあらゆる契約書類の電子化が可能になりました。
電子化が導入されたことで、紙の書類を保管するスペース、郵送にかかる手間を削減できます。
リモートでやり取りができるため、業務の効率化や手続きの迅速化が期待できます。
就業条件明示書はいつまでに?
就業条件明示書は、人材派遣会社が派遣社員と雇用契約を締結するときまでに派遣社員に交付し説明しなければなりません。
2024年の4月に労働条件明示のルールが改正されたことにより、以下の内容も雇用契約締結時に明示するように義務付けられました。
- 就業場所・業務の変更の範囲
- 更新上限の有無と内容
雇用契約を締結するまでに派遣社員に就業条件明示書を交付・説明し、よく理解してもらうことが後々のトラブル回避につながります。
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html(厚生労働省)
就業条件明示書についてのまとめ
就業条件明示書とは、人材派遣会社が派遣社員と雇用契約を結ぶときの交付提示が義務付けられている書類です。
雇用契約は派遣元と締結しますが、実際の業務は派遣先で行うため、複雑な雇用関係といえます。
トラブルにつながるリスクもありますので、担当者は正確な知識をもったうえで、就業条件明示書を扱いましょう。
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