インサイダー取引は家族も対象! 違反になる条件や実際の事例を解説
インサイダー取引は、会社の重要情報を知ることができる従業員だけではなく、その家族も対象となります。ただし、家族が行う株取引のすべてが違反になるわけではありません。
今回は、家族が関わる場合のインサイダー取引になる条件や実際の事例を解説します。勤務先の会社の株を持っている従業員やその家族の方は、参考にしてください。
【状況別】インサイダー取引に家族が該当するかどうか
インサイダー取引とは、投資判断に重大な影響を与える未公表の企業情報を知り得る内部関係者が、情報公開前に株式を売買することです。
インサイダー取引は状況によって、従業員の家族が対象となる場合もあります。
家族が株の取引をした場合
インサイダー取引に該当する要件は、以下のすべてに該当した場合です。
- 企業の内部関係者であること
- 重要な情報を知っていること
- 重要事実が公表前であること
- 特定有価証券の売買等を行ったこと
よって、社員の家族が売買を行ったとしても、インサイダー取引になる可能性が高くなります。たとえ重要な情報を知らなかったとしても、それを証明することはできないからです。
ただし、上記の要件を満たしていない場合は、インサイダー取引に該当しないケースもあります。たとえば、重要事実が公表された後に取引を行った場合は該当しません。
家族が購入した株を売っていない場合
以下の条件をすべて満たしている時、インサイダー取引に該当すると判断されます。
- 企業の内部関係者であること
- 重要な情報を知っていること
- 重要事実が公表前であること
- 特定有価証券の売買等を行ったこと
このなかの「特定有価証券の売買等を行ったこと」については、株を購入したが売っていない場合も含まれるため、インサイダー取引に該当します。
売買によって利益が出ているかではなく、重要な情報を知っているかどうかで判断されます。
従業員持株会の場合
従業員持株会とは、自社株式を従業員に取得させることで、従業員に奨励金の支給や株式取得資金の貸付等の便宜を図る制度です。
計画に沿って毎月行われる従業員持株会による定時定額の買い付けは、インサイダー取引の対象外です。ただし、重要情報を知っていながら拠出額を増加することや新規に加入することはインサイダー取引の対象となります。
一方、拠出額を増加したり、新規加入する時に重要情報を知らなければ、インサイダー取引にはなりません。また、従業員持株会から引き出した株式を売る時に条件を満たした場合は、インサイダー取引とみなされます。
家族が海外在住の場合
インサイダー取引は日本の法律で規制されているため、海外に在住している社員の家族は違反の対象外と思われるかもしれません。
しかし、日本の証券市場で取引した場合は、海外に居住している従業員の家族であってもインサイダー取引の対象です。また、日本の証券市場で取引した人が海外に居住する外国人であったとしても、同じように対象になります。
証券市場での取引はクロスボーダーになっているため、日本の証券市場で日本株を売買する外国人投資家や外国居住者の比率は高まっています。
実際に、イスラエル在住の欧米人男性が行った取引がインサイダー取引と判断され、証券取引等監視委員会が男性に対して課徴金を課した事例もありました。
親族や身内はどこまでがインサイダー取引の対象となる?
まず、従業員もしくは役員の2親等以内の親族及び配偶者は、インサイダー取引の対象として判断されるでしょう。
たとえば妻や夫、子供や兄弟・姉妹が該当します。これら親族と配偶者は、証券会社において、企業の内部情報に近い関係者として、内部者登録を義務付けられています。
また、3親等以上の親族でも、重要事実を従業員・役員本人から取得し、公表前に特定有価証券の売買等を行った場合、インサイダー取引と判断されるので注意しましょう。
こんなケースはインサイダー取引に該当する?
銀行や証券会社に勤めている人は、金融商品取引法や、日本証券業協会及び金融先物取引業協会の諸規則などにより、株取引などの投資行為の一部が制限されています。
そのため、家族に金融機関に勤めている人や会社経営に関わっている人がいる場合、株取引には慎重になった方が良いでしょう。
特に以下のケースが、インサイダー取引に該当するかは気になるところです。
- 家族が銀行員として勤めており、株の取引を行った
- 家族が証券会社に勤めており、株の取引を行った
- 子供の会社の株を購入して取引を行った
これらのケースがインサイダー取引に該当するかについて、以下で詳しく説明します。
家族が銀行員として勤めており、株の取引を行った
銀行員の家族が株取引を行ったとして、必ずしもインサイダー取引と判断されるわけではありません。
ただし、重要事実を知った上で、その公表前に故意に株取引を行った場合は、インサイダー取引と判断されるでしょう。
また、銀行によっては従業員・役員本人だけでなく、その家族にも投資の禁止や制限をしているケースがあります。
それを無視して株取引を行った場合、インサイダー取引に該当しなくとも、勤め先の就業規則に違反したことになるので注意しましょう。
家族が証券会社に勤めており、株の取引を行った
この場合も、確実にインサイダー取引に該当するとは限りません。インサイダー取引では、重要事実を知っていて故意に取引を行ったかどうかが重要です。
そのため、家族が金融機関に勤めていても、重要事実について知らず、その情報と関係の無い株取引であれば、問題はありません。
ただし、証券会社も銀行と同様に、就業規則で従業員・役員の家族にも投資の禁止や制限を設けている場合があるので、株取引の際は必ず就業規則等の確認をしましょう。
子供の会社の株を購入して取引を行った
子供の会社の株を購入して取引を行う場合は、取引する時期に注意しましょう。重要事実の公表前に取引を行うと、インサイダー取引と判断される可能性が高くなります。
近しい親族の場合、実際には重要事実を知っていなくても、それを証明するのが難しくなるためです。
また、親族の会社の株を購入する際には、その会社の規則に沿って購入しましょう。同族会社の場合、購入後の持株比率や、購入時の時価と贈与税にも注意が必要です。
内部者登録をしないとどうなる?
内部者登録とは、インサイダー取引防止のため、上場企業の役員・従業員の親族や身内などを、重要事実に近しい内部者として登録しておく制度です。
上場企業の役員だけでなく、役職のない一般社員でも「従業員」の区分で登録しなければいけません。役員・従業員の二親等以内の親族と配偶者も、内部者登録が必要です。
対象の関係者が内部者登録を行わずに株取引をした場合、意図的な取引でなくても、インサイダー取引と判断される可能性があります。
そのため、役員はもちろん、一般社員の家族の方も、内部者登録をしておきましょう。
家族が関わったインサイダー取引の事例
家族が関わったインサイダー取引として、スーパーの西友の事例を紹介します。
2007年、西友はウォルマートによって株式の公開買い付けで買収されました。この公開買い付けの情報を知っていた社外取締役の一人が、公開前に家族に西友株を買わせたのです。
そして、公開買い付けの公表後に売却して、約1,000万円程度の利益を得ました。この事例では、金融商品取引法違反で社外取締役の家族が在宅起訴されました。
このように、情報を知った関係者が、家族や友人に対して情報を故意または不用意に伝えた場合でも、インサイダー取引に該当します。企業側も情報管理の徹底をしなければなりません。
インサイダー取引と家族の関わりについてのまとめ
インサイダー取引は、会社の重要情報を公表前に知って株取引を行うことです。対象は役員や社員本人だけではなく、近しい立場にいる家族にも及びます。
家族が購入した株式を売っていない場合や海外に在住している場合も、対象外にはなりません。実際に家族が関わったインサイダー取引も起こっており、金融商品取引法違反となっています。
家族の会社の株の購入には、毎月一定額で株を取得する従業員持株会を活用して、インサイダー取引にならないように注意してください。