【令和5年6月16日施行】電気通信事業法改正のポイント
令和4年6月13日、電気通信事業法の一部を改正する法律が可決・成立し、同法は令和5年6月16日に施行されることになりました。今回は電気通信事業法の改正ポイントのうち、特に実務に与える影響が大きいと考えられる改正ポイントを解説します。
1.改正前電気通信事業法の概要
(1)電気通信事業法の目的
電気通信事業法は、電気通信事業の適正かつ合理的な運営を図るとともに、その公正な競争を促進することにより、電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者の利益を保護し、電気通信の健全な発達及び国民の利便の確保を図ることを目的としています(同法1条)。
(2)電気通信事業法における「電気通信事業」とは
電気通信事業法における「電気通信事業」の定義は以下のとおりです。
「電気通信事業」とは、電気通信役務を他人の需要に応じるために提供する事業を意味します(同法2条4号)。ここでいう「電気通信役務」とは、電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することをいいます(法2条3号)。以上のように、他人の電気通信を媒介する設備を自ら用いる事業(携帯電話のキャリア事業やSNS事業等)がこれに該当します。
(3)登録・届出が不要な電気通信事業(同法164条1項)
「電気通信事業」に該当する場合、これを営もうとする事業者すべてが登録や届出が必要となるわけではありません。同法164条1項各号に該当する事業については、改正前電気通信事業法では、登録・届出の対象となっていませんでした(なお、後述のとおり、164条1項3号に該当する事業を営もうとする者の一部が電気通信事業の届出義務を負うことになります)。
電気通信事業法164条1項各号に該当する事業 |
(i) 専ら一の者に電気通信役務を提供する電気通信事業(1号) (ii) その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内又は同一の建物内である電気通信設備その他総務省令で定める基準に満たない規模の電気通信設備により電気通信役務を提供する電気通信事業(2号) (iii) 電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業(3号) |
登録や届出が不要となる同法164条1項各号に該当する事業は以下のとおりです。
同法164条1項3号に該当する事業(以下「第3号事業」といいます)は、改正前電気通信事業法においては、通信の秘密の保護等一部の規定の適用があるものの、登録・届出は不要とされていました。一般的に、インターネット検索サービスやSNS事業は第3号事業にあたると解されています。
2.電気通信事業法の改正ポイント
令和5年6月16日に施行される改正電気通信事業法の主な改正ポイントは、
(1) 届出対象の拡大(「検索情報電気通信役務」及び「媒介相当電気通信役務」の新設)
(2) 特定利用者情報の適正な取り扱い義務の新設
(3) 利用者情報の外部送信規制(Cookie規制)
の新設の3点です。
以下では、これらの電気通信事業法の改正ポイントについて、それぞれ解説します。
(1)届出対象の拡大(「検索情報電気通信役務」及び「媒介相当電気通信役務」の新設)
上記のとおり、第3号事業を営もうとする事業者は、登録・届出が不要と解されており、結果的に「電気通信事業者」(電気通信事業を営むことについて、同法9条に基づく登録又は同法16条に基づく届出をした者)に該当しません。そのため、「電気通信事業者」に該当する事業者に比して緩やかな規制に服しています。
しかし、この度の改正により、新たに「検索情報電気通信役務」及び「媒介相当電気通信役務」(改正法164条1項3号ロおよびハ)という概念が新設されました。これらの役務を提供する事業者のうち、一部の大規模な事業者として総務大臣に指定された者は、電気通信事業法の届出が必要となり、結果として「電気通信事業者」として、電気通信事業法の定める各種規制に服することになりました。これらの電気通信役務を提供する者として総務大臣に指定された者は、電気通信事業の届出等をしなければならないとされました。
「検索情報電気通信役務」及び「媒介相当電気通信役務」の定義は改正法の164条2項4号、5号に明記されていますが、インターネット検索サービスは「検索情報電気通信役務」に、SNS事業は「媒介相当電気通信役務」に該当する可能性があります。なお、前述のとおり、電気通信事業法上の届出が必要となるのは、「検索情報電気通信役務」および「媒介相当電気通信役務」を提供する事業者のうち、一部の大規模な事業者として総務大臣に指定された者ですので、インターネット検索サービスやSNSを提供する事業者のすべてについて届出が必要となるわけではありません。
(2)特定利用者情報の適正な取り扱い義務の新設
本改正により、「特定利用者情報」という概念が導入され、一部の電気通信事業者は、特定利用者情報の適正な取り扱いに関する各種義務を負います。
ア.特定利用者情報とは
特定利用者情報とは、電気通信役務に関して取得する利用者に関する情報であって、①通信の秘密に該当する情報または②利用者を識別することができる情報であって総務省令で定めるもの(以下「利用者識別情報」といいます)を指します(改正法27条の5)。
通信の秘密は、通信の内容のみならず、通信の日時、場所、通信者名等、通信内容を推知させうる事項すべてを含みます。また、利用者識別情報とは、電気通信事業者と契約を締結した者や利用登録を行った者のデータベース情報を指します。
イ.特定利用者情報の取り扱いに関する義務の適用対象
利用者の利益に及ぼす影響が大きいとして総務大臣により指定された電気通信役務を提供する電気通信事業者は、「特定利用者情報」の取り扱いに関する義務を負うことになります。どのような事業者が総務大臣に指定されるのかは、追って総務省令で定められることになっています。
ウ.特定利用者情報の取り扱いに関する義務の具体的な内容
指定利用者情報の取り扱いに関する義務の具体的な内容は以下のとおりです。
特定利用者情報の取り扱いに関する義務 |
(i) 情報取扱規程の策定・届出(改正法27条の6) (ii) 情報取扱方針の策定・公表(改正法27条の8) (iii) 特定利用者情報の取り扱い状況に関する自己評価の実施及び情報取扱規程への反映(改正法27条の9) (iv) 統括管理責任者の選任・総務大臣への届出(改正法27条の10) |
(3)利用者情報の外部送信規制(Cookie規制)の新設
本改正により、利用者情報の外部送信に対する規制が創設されました。これはCookie規制と呼ばれることもあります。
ア.利用者情報の外部送信規制の適用対象
利用者情報の外部送信規制が適用されるのは、電気通信事業者および第三号事業を営む者のうち一定の者とされており、具体的な適正対象は、追って総務省令で定められることになっています。
イ.利用者情報の外部送信規制の具体的な内容
上記の適用対象事業者は、電気通信事業者の提供に際し、利用者の電気通信設備を送信先とする情報送信指令通信(Cookieを介して、閲覧履歴等の利用者に関する情報を第三者のサーバーに外部送信する場合が代表的な例です)を行おうとする際に、以下の事項を利用者に通知し、またはこれを利用者が容易に知りうる状態に置く必要があります。
特定利用者情報の取り扱いに関する義務 |
(i) 情報送信指令通信が起動させる情報送信機能により送信されることとなる当該利用者に関する情報の内容 (ii) 当該情報の送信先となる電気通信設備 (iii) その他総務省令で定める事項 |
3.まとめ
以上のとおり、電気通信事業法の改正ポイントを解説しました。
本改正は、特に、インターネット検索サービスやSNSを提供する事業者にとって注目度が高く、実務に与える影響も大きいと考えられます。また、電気通信事業法は改正が頻繁に行われていますので、引き続き改正の状況を注視する必要があります。