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取引先の株を買ったらインサイダー取引? たまたまの場合やどこまでが該当かを解説

「インサイダー取引の禁止」とは、上場会社の役員や従業員といった内部者が、会社に関する重要な情報を職務を通じて知ったとき、その情報が公表される前にその会社の株式を売ったり買ったりしてはならないなどといったルールです。

では、上場会社の役員や従業員が、自社ではなく取引先の会社の株を買う場合はどうなるのでしょうか。

取引先の株を購入する場合でも、条件によってはインサイダー取引に該当するので注意が必要です。

この記事では、取引先の株を取得した際にインサイダー取引に該当する要件や、購入時の注意点について解説します。ぜひ参考にしてください。


この記事の監修者
紫葵法律事務所  弁護士 

何故インサイダー取引が禁止されているのか

インサイダー情報とは、投資者の投資判断に影響しうる重要な情報です。インサイダー取引は、それらの情報を職務上知った会社関係者が、その情報が公表される前に、その会社の株を売買するなどの行為です。

インサイダー取引は、証券市場における公正性・健全性に対する投資者の信頼を害する行為として禁止されています。

会社の関係者しか知らない「インサイダー情報」は、株式等の価格変動に大きな影響を与えてしまうからです。


取引先企業の株を取得するとインサイダー取引にどこまでが該当するのか

取引先企業の株式を取得・売却する場合にも、インサイダー取引に該当することがあります。

インサイダー取引の規制の対象となるのは、その上場会社の役員や従業員だけでなく、その上場会社と取引をしている会社の役員や従業員も含まれます(金商法166条1項4号)。

自社が上場会社でないからといって、取引先が上場会社である場合には、インサイダー取引規制が及ぶことがあるので注意が必要です。

たとえば、あなたの会社が上場会社と取引や交渉を進める中で、取引先の上場会社に関する重要事項(多額の損失を被って業績の下方修正予定がある、他の企業と業務提携を予定しているなど)を知った場合、その情報が公開される前にあなたがその上場会社の株式を売ったり買ったりすれば、インサイダー取引に該当する可能性があります。

とはいえ、インサイダー取引にはいくつか要件があります。要件に該当しないケースでは、インサイダー取引ではありませんので、取引先の上場会社の株式を売ったり買ったりしても何ら問題ありません。

たとえば、次のようなケースではインサイダー取引に該当しません。

  • 取引先上場会社が被った損害が軽微だった(金商法166条2項21号イ、取引規制府令49条1項4号)
  • インサイダー情報がすでに公開されている

取引先の株を買う場合に、インサイダー取引に該当する要件

ここでは、取引先の上場会社の株を買うときにインサイダー取引に該当する要件を5つ紹介します。

1. 上場会社等の役員や従業員等の「会社関係者」であること

インサイダー取引は、上場会社の役員や従業員が自社の株を売買する場合だけではなく、上場会社と取引する会社の役員や従業員がその上場会社の株を売買する場合にも成立します。

金融商品取引法では、このようにインサイダー取引が適用される役員や従業員を「会社関係者」と定義しています(金融商品取引法166条1項)。

そして、上記の「従業員」には、パート従業員やアルバイト従業員も含まれます。

そのため、たとえば、上場会社と取引をする中小企業のパート従業員が、経理業務をする中で、取引先の上場会社のインサイダー情報を知った場合、そのパート従業員にもインサイダー取引の規制が及びます。

パート従業員だからといって、インサイダー取引規制を無視してよいということにはなりません。

出典:e-Gov|金融商品取引法

2. 知った情報が投資者の投資判断に影響を与える「重要事実」にあたること

内部者がインサイダー情報を利用して利益を得ようとすると、証券市場の公正性・健全性に対する投資者の信頼は失われることとなります。インサイダー取引規制は、これを防ぐためのものです。

そのため、投資者の投資判断に影響を与える事実に関する情報が、インサイダー情報として規制の対象とされています。金融商品取引法では、このような事実を「重要事実」と定義しています。

重要事実の範囲については金融商品取引法166条2項に規定があり、内容は次の通りです。

  • 決定事実:会社が重要な事柄について決定したこと。たとえば、株式の発行、業務提携、合併などを行うことを決めた場合です。
  • 発生事実:会社に重要な事柄が発生したこと。たとえば、災害によって会社に損害が発生した場合などです。
  • 決算情報:会社の業績予想が直近の予想と比べて上方または下方に修正された場合です。

また、バスケット条項と呼ばれる包括的な規定があります。

これは、「上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」と規定されており(金商法166条2項4号)、具体的な基準は挙げられていません。

どのような事実がバスケット条項に該当するかについては、若干難しい判断を要しますので、外部の専門家の意見を聞くなどして判断することが無難でしょう。

3. インサイダー情報を「職務に関して知った」こと

インサイダー情報を入手した経緯によって、インサイダー取引に該当するかそうでないかが変わるため注意が必要です。

上場会社の役員や従業員に関しては、「職務に関して知ったとき」と規定されています(金商法166条1項1号)。

そのため、たとえば上場会社の経理担当の従業員が、職務と関係の無い飲み会の席で、たまたま自社のインサイダー情報を聞いてしまった場合は、会社関係者としてインサイダー取引規制の対象とはなりません。

ただし、情報受領者(金商法166条3項)に該当する場合には、情報受領者としての規制の対象となりますので、その点は注意すべきです。

4. インサイダー情報が「公表」される前であること

インサイダー情報が公開されてしまえば、その後にいくら株式を売ったり買ったりしても、証券市場の公平性・健全性に対する投資者の信頼が失われることはありません。そのため、インサイダー取引は情報が公開される前の取引のみを規制しています。

では、どの時点で「公表」があったとされるのでしょうか。金融商品取引法では、「2以上の報道機関に対する公開後12時間の経過」など、166条4項に規定があります。

ただし、上場会社が自ら所定の公表措置をとっていない場合は、公表があったものとは扱われません。たとえば、以下の場合には公表があったものとされませんので、注意が必要です。

  • 情報が新聞や週刊誌で取り上げられた
  • 情報がネットやSNSにアップされた

出典:e-Gov|金融商品取引法

5.「特定有価証券等」の「売買等」を行うこと

インサイダー取引規制の対象となるのは、株式だけでなく、社債その他の有価証券が含まれます。

上場会社が発行する有価証券には、株式以外にも社債や新株予約権など、さまざまなものがあり、金融商品取引法では、インサイダー取引で規制されているものは「特定有価証券等」と定義されています(金商法163条1項)。

法律上、特定有価証券に含まれていないものとしては、上場会社の株式を含んだ投資信託が挙げられていることがポイントです。

つまり、投資信託の商品の中に上場会社の株式が含まれていても、その投資信託を売ったり買ったりする場合、原則としてインサイダー取引には該当しません。

また、インサイダー取引規制の対象となるのは、法律上は「売買等」と規定されており、売ったり買ったりする以外に、合併によって取得する場合なども含まれています。

そして、もう一つのポイントは、インサイダー情報を知って公表前に売買等を行った場合、実際には得をしなくても(損をしても)、インサイダー取引があったものとして処罰の対象となりうるということです。

インサイダー取引規制は、証券市場への信頼を保護するものですので、取引者が実際に得をしなかった(損をした)からといってこれを許容する必要は無いと考えられるためです。


取引先の株購入時の注意点

インサイダー取引のルールに違反した場合には、課徴金の制裁や刑罰に処せられる可能性もあります。規定がやや複雑であるため、いわゆる「うっかりインサイダー」にあたらないよう注意しなければなりません。

「取引先の株式の購入は一律に控えた方が無難である」などの声を聞くことがある一方で、金融庁が「インサイダー取引規制に関するQ&A」で公表しているとおり、株式投資などの過剰な抑制は、安定的な資産形成の観点からも決して好ましいものではありません。

これらの内容をふまえたうえで、取引先の株式などを購入する場合の注意点についてわかりやすくまとめたので、ぜひ参考にしてください。

1. 該当する要件

要件については、次の内容に該当するかどうかを順に検討していきます。

  • 内部者(上場会社の役員や従業員、取引先会社の役員や従業員)に当たるか
  • 知った情報が重要事実(決定事実、発生事実、決算情報、バスケット条項)に当たるか
  • その情報を職務に関して知ったか
  • 情報が公表される前の取引か
  • 「特定有価証券等」に当たるか
  • 「売買等」に当たるか

要件に該当しない場合は、インサイダー取引にあたりません。その中でも、バスケット条項に該当するかについては判断に迷うこともあるでしょう。

心配であれば、自社の担当部署に相談したり、外部の専門家の意見を聞いたりすると安心です。

2. 取引先との契約期間

上場会社を退職した役員や従業員は、上場会社の株をすぐに自由に売買できるでしょうか。また、上場会社と取引をしている役員、従業員は、取引が終われば即座にその上場会社の下部を売買してよいでしょうか。

金融商品取引法は、会社関係者でなくなった後1年間も、同様にインサイダー取引の規制対象としていますので、注意が必要です。

いずれにせよ、自身が知った情報をもとに取引するのが「ズルいかどうか」を軸にして、判断するのが大切と言えます。

「もしかしてズルいかも」と思ったときは、少し立ち止まって第三者に相談するなど、インサイダー取引の要件に該当するかどうかを丁寧に検討する必要があるでしょう。


インサイダー取引に該当すると知らず、たまたま株を購入した場合

インサイダー取引の規制対象になるのは、「その職務や地位によって」重要事実を知った場合です。本人に故意がなくとも、インサイダー情報によりたまたまでも株式の売買を行うと、規制対象に該当するので注意しましょう。

もし自身の株式取引がインサイダー取引規制に抵触するのか不安な場合は、弁護士に相談してください。

インサイダー取引発覚前と後では、処分の重さが異なってくるため、早めの判断が大切です。


取引先のインサイダー取引についてのまとめ

取引先の株を売買する際にも、インサイダー取引に該当する可能性があるので注意が必要です。

要件は細かく設定されており、バスケット条項など判断が難しいものも存在します。取引先の株を売買するときは、自社の担当部署や外部の専門家など、第三者に相談すると安心です。

「うっかりインサイダー取引に該当していた」ということにならないよう、注意して取引を行いましょう。


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監修者プロフィール

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幡地 央次

紫葵法律事務所 弁護士

京都弁護士会消費者保護委員会にて、金融サービス部会等に所属し、最近の証券、先物被害について研究。また、実際の事案についても、生命保険や仮想通貨関係の事件を多く取り扱い、消費者被害の救済に尽力している。令和元年8月より現事務所を開業し、現在に至る。

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