不当解雇となる条件や理由とは? 企業に求められる対応を紹介
企業が労働者を解雇するには厳格な条件があり、その条件を満たさなければなりません。不当解雇された従業員が訴訟を起こすと、会社に大きなダメージが残るでしょう。
この記事では、人事部の社員に向けて、不当解雇の仕組みや具体的なケースなどを紹介します。また、記事の後半部分では、不当解雇と判断された場合の企業の対処法や、不当解雇の訴えを未然に防ぐ方法をまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
不当解雇とは
不当解雇とは、一般的に事業主が労働基準法や、労働契約法などの法律や就業規則を守らず、一方的に労働者を解雇することです。ただし、不当解雇は法的に正当でない解雇を指す言葉ですので、「不当解雇」という言葉自体は法律で規定されていません。
裁判で不当解雇が認められた場合、企業はバックペイ(未払い賃金)や慰謝料、損害賠償額などをその従業員に支払わなければならない可能性があります。
不当解雇以外にある3種類の解雇
不当解雇以外に解雇には3種類あります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.普通解雇
普通解雇とは、能力不足や勤務態度の問題など、何らかの原因がある労働者を解雇することです。
普通解雇は雇用者による労働契約の一方的な解消であり、労働者にとって大きなダメージを与えかねません。したがって、解雇理由に正当性がなければ普通解雇ができません。
2.懲戒解雇
懲戒解雇とは、重大な違反行為を犯した労働者を解雇することです。普通解雇とは異なり、就業規則に明記された事情をもとに懲戒解雇しなければなりません。
例えば、次のようなケースが当てはまります。
- 業務上の横領
- 勤務中の暴力行為
- 業務上の重大な過失
懲戒解雇するのに必要な要件は普通解雇より多く、限定的な場面で有効になるでしょう。
3.整理解雇
整理解雇は企業の業績悪化や組織の再編、事業の縮小など企業の経営上の理由で、労働者を解雇することです。
整理解雇するには、一般的に次の4つの要件を満たさなければなりません。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避の努力
- 人選の合理性
- 解雇手続の妥当性
(出典:厚生労働省 労働契約の終了に関するルール)
不当解雇となる条件と具体的な理由
不当解雇となる条件と具体的な理由をまとめました。
業務上の負傷や病気による解雇
従業員が業務上の事故や病気が原因で一定期間働けなくなった場合、休業期間と復帰後の30日間のうちに解雇すると、不当解雇に該当します。従業員を保護する観点から、労働基準法で定められているためです。
負傷や病気を理由とした解雇は、解雇するタイミングにより不当解雇に該当すると覚えておきましょう。
(出典:労働基準法 第19条)
国籍・信条・社会的身分を理由とした解雇
従業員の国籍や信仰、社会的地位を理由とする解雇は、企業側の差別的な行為に該当し、不当解雇とみなされます。
例えば、キリスト教徒だからという理由で社員を解雇した場合、不当解雇に当てはまります。
(出典:労働基準法 第3条)
能力不足や勤務態度不良による解雇
労働者の能力不足や勤務態度不良を理由に解雇する場合、適切なプロセスを経ないと不当解雇とされる可能性があるでしょう。
労働者の能力不足などで解雇するためには、改善を促す措置が講じられ、改善に十分な期間が与えられたうえで、解雇の理由を明確に示すべきです。
(出典:労働契約法 第16条)
性別・年齢・妊娠・出産を理由とした解雇
労働者の性別や妊娠、出産を理由にした解雇も、企業側の差別的な行為に該当し、不当解雇になります。男女雇用機会均等法により、定められているためです。
(出典:男女雇用機会均等法 第6条および第9条)
労働者の権利行使を理由とした解雇
労働者が正当な権利を主張したことを理由とする解雇は、雇用者による労働者の権利侵害に該当するため、不当解雇といえます。
具体例を3つ紹介します。
- 育児・介護休業法で認められている育休等の権利を行使したことを理由に労働者を解雇した(育児・介護休業法10条、16条、16条の4、16条の7、16条の10、18条の2、20条の2、23条の2)
- 企画業務型裁量労働制や、高度プロフェッショナル制度の適用の同意をしなかった労働者を解雇した(労働基準法38条の4第1項第6号、41条の2第1項第8号)
- 労働組合の正当な活動に参加した労働者を解雇した(労働組合法7条1号)
不当解雇と判断されたら企業はどうする?
不当解雇と判断された企業はどのようにすればよいでしょうか。詳しく解説します。
従業員の復職
不当解雇と正式に判断されると、従業員は企業に復職できます。ただし、その従業員の復職が困難な状況にある場合や、双方が復職の条件について合意に至らない場合は、現実には復職しないケースもあるでしょう。
解雇期間中の給与支払い
不当解雇が認定された場合、企業は不当解雇した従業員に対して、解雇していた期間の賃金を支払う義務が生じます。(バックペイ)
従業員が正当な理由なく解雇された場合、企業側の原因で本来働けた期間に、働けなかったためです。過去に遡って従業員の賃金を支払わなければならないため、企業には経済的な負担が発生します。
罰則が課せられる
不当解雇が法的に認定された場合、不当解雇を受けた従業員から会社に対して慰謝料や損害賠償が求められるケースがあります。なお、不当解雇のみならず労働基準法にも違反した場合には、企業に罰則が課せられるでしょう。
不当解雇の訴えを未然に防ぐ対策
不当解雇の訴えを未然に防ぐ方法をまとめました。
解雇理由の入念な説明
不当解雇のトラブルを防ぐためには、まず解雇の合理性を従業員に対して、十分に説明しなければなりません。解雇理由が不明確な場合、不満を抱えた従業員は不当解雇と感じる可能性が高くなるためです。
解雇の理由を具体的に示し、従業員が十分理解しているか把握しつつ対応するほうが、不当解雇として争うリスクを低減することができるでしょう。
解雇理由の整理と確認
解雇理由を整理し、確認することも不当解雇の訴えを未然に防ぐ対策の一つです。解雇には普通解雇や整理解雇などの種類があるため、解雇したい従業員がどの解雇に当てはまるかを確認・整理するとよいでしょう。
(出典:厚生労働省 労働契約の終了に関するルール)
専門家への相談
解雇理由を入念に説明したり、解雇理由を整理しても不安が残る場合は、専門家への相談も不当解雇の訴えを防ぐ有効な方法です。労働法や労働契約に詳しい弁護士や社会保険労務士に相談することで、解雇理由が正当であるかどうかの判断を助けてもらえます。
また、専門家の助言を受けると、担当者は適切に解雇手続きを行えるようになるでしょう。
不当解雇についてのまとめ
企業が安易に従業員を解雇すると、不当解雇であるとして訴訟や労働審判などが提起されるでしょう。企業の信用度減少や紛争対応コストの増加などの点において、企業には大きな影響を与える可能性があります。
不当解雇のトラブルを未然に防ぐためにも、解雇時には専門家の意見をもらったり、解雇理由を丁寧に伝えたりするなど、適切な対策を講じましょう。
【書式のテンプレートをお探しなら】