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建築審査会の手続の概要(3)〔建築審査会の審査請求手続で審査される事項と裁決の種類〕

著者: 弁護士・法務博士(専門職)  平 裕介

建築審査会の手続の概要(3)〔建築審査会の審査請求手続で審査される事項と裁決の種類〕

〔建築審査会の審査請求手続で審査される事項と裁決の種類〕

以前、新たに建築物を建てようとしている建築主側が、建築計画地の付近の住民の方から、訴訟とは異なる「建築審査会」での手続を活用されて、その建築物の建築確認等の効力を「審査請求」で争われることになった場合のポイントや、審査請求の手続要件である「審査請求期間」・「審査請求の利益」のこと(→「建築審査会の手続の概要(1)」)、さらには、「審査請求適格」のことについて説明してもらいましたね(→「建築審査会の手続の概要(2)」)。

はい。その続きがありますので、本日は、建築審査会での審理の手続の流れや弁護士の選定のポイントなどについて説明してもよろしいでしょうか。

お願いします。建築審査会での審理の手続では、先ほどの例でいうと、要するに、建築確認等が建築基準法等の法律に違反していて違法なのか、それとも適法なのか、ということが審査されるんですよね?

はい、建築確認等の処分の違法性の認否が審査されることがメインとなることが殆どです。ただし、レアですが「違法」性だけではなく、処分の「不当」(行政不服審査法1条1項)性という点も問題になる場合があります[1]。また、以前お話しした「審査請求の利益」や「審査請求適格」などの審査請求の手続要件を満たすのか、すなわち、建築確認等が違法か適法かを建築審査会が判断するための前提となる要件を満たす審査請求だといえるのか、という点もケースによっては審査の対象となります。

審査請求の手続要件を満たさないと判断されたときには、建築審査会で、建築確認等の処分が違法なものか適法なものかを判定してもらえないということですか?

そのとおりです。ですから、建築審査会では、特に審査請求の手続要件を満たすかどうかについて疑義があるような場合には、まずは、審査請求の手続要件から審査・検討されるのが普通です。そして、審査請求の手続要件を満たすということになれば、その次に、処分の違法性(・不当性)が審査されることになります。ちなみに、審査請求の手続要件を満たさない場合には、「却下」の裁決(行政不服審査法45条1項)が、手続要件を満たすものの処分が適法(・妥当)と判定される場合には「棄却」の裁決(同法45条2項)が、手続要件を満たしており処分が違法(・不当)と判定される場合には「認容」の裁決(同法46条1項本文)[2]が、それぞれ下されることになります[3]

〇行政不服審査法(平成26年法律第201号)(抜粋、下線は引用者)

(目的等)

第1条 この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。

2 (略)

(処分についての審査請求)

第2条 行政庁の処分に不服がある者は、第4条及び第5条第2項の定めるところにより、審査請求をすることができる。

(処分についての審査請求の却下又は棄却)

第45条 処分についての審査請求が法定の期間経過後にされたものである場合その他不適法である場合には、審査庁は、裁決で、当該審査請求を却下する。

  • 2 処分についての審査請求が理由がない場合には、審査庁は、裁決で、当該審査請求を棄却する。
  • 3 審査請求に係る処分が違法又は不当ではあるが、これを取り消し、又は撤廃することにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、審査請求人の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮した上、処分を取り消し、又は撤廃することが公共の福祉に適合しないと認めるときは、審査庁は、裁決で、当該審査請求を棄却することができる。この場合には、審査庁は、裁決の主文で、当該処分が違法又は不当であることを宣言しなければならない。

(処分についての審査請求の認容)

第46条 処分(中略)についての審査請求が理由がある場合(前条第三項の規定の適用がある場合を除く。)には、審査庁は、裁決で、当該処分の全部若しくは一部を取り消し、又はこれを変更する。ただし、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない場合には、当該処分を変更することはできない。

2~4 (略)


〔建築審査会の審理手続の流れ〕

先ほどの建築確認について審査請求がなされたという例でいうと、建築審査会での審理手続の流れはどのようなものになるのでしょうか?

建築確認等の処分についての審査請求(行政不服審査法2条)がなされた場合の審理手続の流れの概要は、次のとおりです[4]

〇審査請求書の提出から裁決までの手続の流れ

①審査請求人が建築審査会に審査請求書を提出(建築基準法94条1項、行政不服審査法19条等)

(不備がある場合には審査請求人は補正命令に応じる必要あり(同法23、24条))

②建築審査会から処分庁に審査請求書等を送付し、弁明書の提出を求める(同法29条)

③処分庁が建築審査会に弁明書を提出

④建築審査会が審査請求人(及び参加人)に弁明書を送付(同法29条5項)

⑤審査請求人が(弁明書に反論があれば)建築審査会に反論書を提出(同法30条1項)

(参加人が審理員に(意見があれば)意見書を提出(同法30条2項)) 

⑥建築審査会が処分庁等(及び参加人)に反論書を送付

(建築審査会が審査請求人及び処分庁等に意見書を送付)

(⑦再弁明書(弁明書(2))、再反論書(反論書(2))、追加意見書などがさらに提出されることが提出された場合には同様に処理される)

⑧公開による口頭審査(建築基準法94条3項等)

⑨審査手続の終結(行政不服審査法41条)

⑩裁決(建築基準法94条2項)
 ↓

⑪審査請求人等に対する裁決書の送達(50条、51条等)
 ↓

(⑫⑩裁決に不服がある者は国土交通大臣に再審査請求可(建築基準法95条)→同大臣による裁決)

なるほど。①審査請求書が提出されてから、⑩裁決が下される、あるいは⑪裁決書が送達されるまで、どのくらい期間がかかるんでしょうか。

ケースによって異なるのですが、多くの場合には1年前後というものが多いという印象です。争点(争われる事柄)が多い事件では、1年以上かかるものもありますね。争点が少ない事件では1年かからないこともありますし、迅速な審査・裁決を特に心がけている建築審査会を有する自治体の案件等の場合、半年前後で終了するということもあります。

結構時間がかかりますね。

裁判よりは時間がかからない、という傾向があるように思われますが、それでもやはり現状は1年くらいはかかってしまう場合が多いですね。建築基準法94条2項は、1か月以内に裁決を下さなければならないと規定してはいるのですが、同項は「訓示規定[5]」であると一般に解釈されているので、同項の違反があったとしても(殆どの場合、同項に違反して裁決が下されることになりますが)、裁決が違法になることはまずありません[6]

訓示規定ですか…。法律の規定というのは解説がない分かりにくいですね…。

その通りですね。こういったことも少なくないので、審査請求をする側もされる側も、実際に弁護士に法律相談をすることが重要です。それから、病気と同じで、できるだけ早い段階で法律相談をする方が良い・スムーズな解決につながることが多いですね。

〇建築基準法(昭和25年法律第201号)(抜粋)

(建築物の建築等に関する申請及び確認)
(不服申立て)

第94条 建築基準法令の規定による特定行政庁、建築主事若しくは建築監視員、都道府県知事、指定確認検査機関又は指定構造計算適合性判定機関の処分又はその不作為についての審査請求は、行政不服審査法第四条第一号に規定する処分庁又は不作為庁が、特定行政庁、建築主事若しくは建築監視員又は都道府県知事である場合にあつては当該市町村又は都道府県の建築審査会に、指定確認検査機関である場合にあつては当該処分又は不作為に係る建築物又は工作物について第6条第1項(中略)の規定による確認をする権限を有する建築主事が置かれた市町村又は都道府県の建築審査会に(中略)対してするものとする。(以下略)

  • 2 建築審査会は、前項前段の規定による審査請求がされた場合においては、当該審査請求がされた日(行政不服審査法第23条の規定により不備を補正すべきことを命じた場合にあつては、当該不備が補正された日)から1月以内に、裁決をしなければならない。
  • 3 建築審査会は、前項の裁決を行う場合においては、行政不服審査法第24条の規定により当該審査請求を却下する場合を除き、あらかじめ、審査請求人、特定行政庁、建築主事、建築監視員、都道府県知事、指定確認検査機関、指定構造計算適合性判定機関その他の関係人又はこれらの者の代理人の出頭を求めて、公開による口頭審査を行わなければならない。

4 (略)

第95条 建築審査会の裁決に不服がある者は、国土交通大臣に対して再審査請求をすることができる。


〔弁護士選定のポイント〕

弁護士への早期の法律相談が重要、ということですが、例えば、建築主側で建築確認等についての審査請求に対応していかなければならないという場合に、どのようにして弁護士を選べば良いのでしょうか?顧問弁護士がいない場合には、知り合いの弁護士に頼むのが良いでしょうか?あるいは、「得意分野」として「建築紛争」とか「行政事件」などを扱っているというインターネット広告を出している法律事務所の弁護士[7]に頼むのが良いでしょうか?

建築審査会の手続は、一般の民事事件や刑事事件とは異なるところがありますので、やはり慣れている弁護士を選ぶ方が良いでしょう。得意分野として「建築紛争」や「行政事件」などを扱っているというインターネット広告を出している法律事務所に法律相談に行くことは良いとは思いますが、その際に、建築審査会の審査請求(あるいは建築紛争に係る行政事件(取消訴訟等))の案件の実績・経験事件数を質問すると良いですね。顧問弁護士(がいる場合であればその弁護士)に対しても同じようにストレートに聞いてしまうのが良いと思います。

なるほど、確かに医者でもそうでしょうが、実績の有無等は重要でしょうね。とはいえ、顧問弁護士の先生がいる場合でその先生が建築紛争の担当実績がないというようなときに、その先生にお願いしないで、別の弁護士に依頼するというのは、ちょっと気が引けますね…。

そのような場合には、例えば、顧問弁護士の先生に、顧問弁護士の先生と一緒に共同して事件を受任してもらう弁護士として、建築紛争の担当実績のある弁護士の話をしてみる、という方法もあるでしょうね。

しかしそうなると弁護士の費用が2倍になりませんか?

必ずしもそうとは限りません。弁護士1人の場合よりも高くなるかもしれませんが、顧問弁護士としては毎月顧問料をいただいているということもありますので、必ずしも単純に(弁護士2人だから)2倍ということにはならない、というのが弁護士歴15年目の私の実感です。もちろん、顧問弁護士の先生以外の弁護士だけにお願いするということが禁止されているわけではないですし、顧問弁護士の先生も不得意な分野をやるとなると大変なので、別の(その顧問弁護士以外の)弁護士だけに依頼してもらっても良いでしょう。

なるほど。建築審査会の審理手続のことや弁護士選定のポイントが大体わかってきました。

何よりです。またいつでも聞いてください。


1 「違法」(行政不服審査法1条1項)は、建築基準法等の法令(建築安全条例などの条例を含む)に違反することであるが、「不当」(同項)とは、処分の違法性が認められなくても処分が最も公益に適する裁量処分とはいえない場合(処分の裁量権の行使が適正さを欠く場合)のことをいう(青栁馨編『新・行政不服審査の実務』(三協法規出版、2019年)39頁〔平裕介〕参照)。

つまり、「行政裁量」(立法者が法律の枠内で行政機関に認めた判断の余地のこと(宇賀克也『行政法概Ⅰ 行政法総論 〔第7版〕』(有斐閣、2020年)350頁))が認められる「裁量処分」については、「違法」だけではなく「不当」も問題になると一般に解されている。そして、総合設計許可(建築基準法59条の2第1項)などの行政裁量が認められると考えられている処分の効力が建築審査会の審査の対象となる場合には、処分の違法性だけではなく、処分の不当性についても争われることがあり、実際に審査の対象となることがある。他方で、建築確認の効力が争われる場合には、処分の不当性が建築審査会で実際に(違法性の認否とは別に)審査対象となることは普通ない。建築確認は、基本的には行政裁量が認められない、あるいは認められにくい(認められても総合設計許可処分のようなある程度広範な行政裁量がある場合とは異なる)処分だと考えられているため、前述した不当性の意義からすると、不当性が問題とならず、そのため不当性が審査されることにはならない処分だと一般に捉えられているからである。


2 行政不服審査法45条3項は、処分が違法又は不当であっても棄却裁決がなされる場合がある旨規定している(その裁決を「事情裁決」という)が、建築審査会において同項が適用される(事情判決が下される)ことはまずないと考えてよいだろう。つまり、建築確認等の処分が違法又は不当である場合には、認容裁決のうちの「取り消し」(同法46条1項)の裁決が下されることになる。


3 本稿は、処分についての審査請求(行政不服審査法2条)の裁決について解説するものであるが、不作為についての審査請求(同法3条)の裁決については同法49条に規定が設けられている。もっとも、建築審査会で、不作為についての審査請求の案件が扱われることが非常にレアであり、約10年、複数の自治体の建築審査会のメンバーを担当してきた筆者自身も、不作為についての審査請求の案件を担当した経験は一度もない。


4 前掲・青栁編『新・行政不服審査の実務』7頁以下〔青栁馨=平裕介〕、同53頁以下〔阿部造一〕参照。


5 訓示規定とは、「各種の手続を定める規定のうち、専ら裁判所や行政機関への命令の性格をもち、これらの機関がそれに違反しても行為の効力には影響がないような規定」(法令用語研究会編『有斐閣 法律用語辞典[第5版]』(有斐閣、2020年)275頁)をいう。


6 最二小判昭和28年9月11日民集7巻9号888頁、宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第7版〕』(有斐閣、2021年)76頁、審査請求マニュアル改訂委員会『建築審査に係る建築審査会運営マニュアル改訂版』(全国建築審査会協議会、2017年)199~200頁参照。


7 「得意分野」の表示は、弁護士の広告指針(弁護士等の業務広告に関する規程(平成12年3月24日会規第44号))に違反するものではなく、その記載や表示は禁止されていないものと考えられている(東京弁護士会法友会『実践 弁護士業務広告Q&A―規制の理解を踏まえた効果的な顧客対応―』(ぎょうせい、2022年)115~116頁参照)。

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著者プロフィール

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平 裕介

弁護士・法務博士(専門職)

永世綜合法律事務所、東京弁護士会所属。中央大学法学部法律学科卒業。

行政事件・民事事件を中心に取り扱うとともに、行政法学を中心に研究を行い、大学や法科大学院の講義も担当する。元・東京都港区建築審査会専門調査員、小平市建築審査会委員、小平市建築紛争調停委員、国立市行政不服審査会委員、杉並区法律相談員、江戸川区法律アドバイザー、厚木市職員研修講師など自治体の委員等を多数担当し、行政争訟(市民と行政との紛争・訴訟)や自治体の法務に関する知見に精通する。

著書に、『行政手続実務体系』(民事法研究会、2021年)〔分担執筆〕、『実務解説 行政訴訟』(勁草書房、2020年)〔分担執筆〕、『法律家のための行政手続きハンドブック』(ぎょうせい、2019年)〔分担執筆〕、『新・行政不服審査の実務』(三協法規、2019年)〔分担執筆〕等多数。

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