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指示待ち部下との向き合い方  後編: 指示待ち部下への効果的なマネジメントを考える

著者: 日本大学商学部 准教授/Human Academy Business School MBAコース教授  黒澤 壮史

指示待ち部下との向き合い方  後編: 指示待ち部下への効果的なマネジメントを考える

1:はじめに

前々回から、「プロアクティブ行動」というキーワードから指示待ち部下への向き合い方についてお話ししてきました。今回は、前回までの話を踏まえて、実際に指示待ち部下に対して上司としてどのように振る舞えば良いのか考えます。


2:要因別に考える対応策

前回、プロアクティブ(能動的/主体的)行動の発生要因を個人的要因、職務(仕事)要因、組織(職場)要因、という3つに大別してお話ししました。今回も、この分け方にのっとってお話します。

2−1:個人要因への対応策

前回、個人的要因についてはプロアクティブな性格(能動的な性格)という観点からお話しさせて頂きました。

今回は、このプロアクティブな性格について、採用と配置、という観点から考えたいと思います。

考え方の前提として、個人要因の観点からはプロアクティブ(能動的)に行動できる人材というのは、そもそもそういう気質を備えているからだ、ということになります。また、他人が人の性格を変えるということは非常に困難なものです。そのため、基本的にはプロアクティブな性格が高いかどうかは、入社後に育成するというよりは採用の時点で見極める必要がありますし、入社後に関しては配属で業務特性に合わせて対応するというのが基本です。

プロアクティブな性格の見極めという点に関しては、プロアクティブ・パーソナリティ・スケール(PPS)という質問票による測定方法があるのですが、面接・面談などでも安定志向なのか現状改善志向なのか、という性質の見極めを意識することで対応できるかと思います。また、プロアクティブな性格傾向が強い人はボランティア参加などプライベートでも活発であるとされていますので、既に採用した人の配属などでは社内の非公式な活動状況なども参考になるでしょう。

採用や配置に関連する重要なポイントがあります。それは、

プロアクティブな性格は業務面で向き不向きがある、

ということです。

経営学や心理学の世界では基本的にプロアクティブ行動というものを全面的に良いものと見なす傾向がありますが、組織内の業務などによってはプロアクティブであることがマイナスに働くこともあるでしょう。学生アルバイトを対象にしたある調査では、プロアクティブな性格が強く出ている人ほどマニュアルを守るだけというタイプの単純労働に対してモチベーションを下げているという結果が出ていました。

だからといって、アルバイトの採用でプロアクティブな性格特性に考慮していくような労力を割くことは難しいことの方が多いでしょう。本来であればキャリア向上のための自己研鑽にも励むようなプロアクティブな人材は手元に欲しいでしょうが、「プロアクティブな人材が必要な業務内容(もしくは職場)か?」という点については考える必要があるかもしれません。

その点については、次の職務要因に関する項目でもう少し触れていきます。


2−2:職務(仕事)要因への対応策

前回、職務要因に置いて考慮するべきポイントとして、

「ルーティン化の程度(正確性が求められる程度)」と、「個人の業務が他人に与える影響(業務間の相互依存度)」

2つあるとお話ししました。そちらにのっとって対応策について考えていきます。

改めて職務(仕事)の要因とは、「部下にどの程度プロアクティブな行動を求めるか」の判断材料を提供してくれます。

少々粗い言い方になりますが、1つ目のルーティン化の程度については、ルーティン化が進んでおり正確性が求められるような仕事の場合は、「部下は指示待ちでも構わない」と割り切り、「指示内容を適切に守ってもらうことに注力する」ということになろうかと思います。

もちろん理想的にはトヨタの「カイゼン」やホンダの「ワイガヤ」などのように現場も含めて業務プロセス自体の見直しに向けて意見を出し合うような状況が理想的ではありますが、非正規雇用が増えたうえにサービス業分野の人手不足の深刻さが叫ばれる昨今、人数の確保さえ苦労しているところも多いかと思います。現実問題としては、期待すべきところとそうでないところを割り切っていくことも大切でしょう。

2つ目のメンバーの働き方が他者に与える影響ですが、業務間の関係性が深く自分の業務プロセスの変更が他人の仕事にも影響してくる場合、確実に調整が必要となります。一般的にプロアクティブな傾向が強い人材はこうした調整自体も労をいとわずに担ってくれることが期待されるのですが、部下の目線では気づかないことも多いでしょうから、この場合は上司のサポートが非常に重要になってきます。上司のサポートを通じて部下が様々なことに挑戦できるようになるという意味で、上司としては腕の見せどころ、ということになるかもしれません。

この上司が部下の能動的な行動をサポートする、ということは次にお話しする組織・職場要因と関わってきます。


2−3:組織(職場)要因への対応策

先ほどの個所で述べた上司のサポートですが、これは組織/職場要因にも影響してきます。

継続的な上司のサポートが部下のプロアクティブ行動を促進するという実証研究は多いのですが、多くの方は感覚的にも違和感がないのではないでしょうか。

とはいえ、現実には部下が勝手にやったことの尻ぬぐいをさせられる…ということもあるでしょう。そんな時は腹も立つところだとは思いますが、グッとこらえて「勝手なことをするな」ではなく、冷静になって部下とトラブルになりにくい方法を話し合っていく、という姿勢が重要です。

こうした

「継続的な上司のサポートする姿勢」がプロアクティブ行動を促す

というのは多くの調査研究でハッキリと効果が確認されています。

この点はやはり自発的な行動をとった際の心理的安全性が保たれる、ということなのでしょう。

若干トラブルになったとしても、ポジティブな狙いで行ったことはできるだけサポートしていく、ということが上司と部下の信頼関係を深めるだけでなく、自発的な行動を促すという風に理解することができるかと思います。当然上司だって感情のある生き物ですから、言うはやすし行うはかたし…という気もしますが、「継続的」であることに意味があることを心に留めておくことは大切です。

組織的要因でケアしておくべき柱のもう1つは組織風土です。

「周りもやっている」行動パターンが定着しやすいのは、洋の東西を問わず効果があるようです。組織風土というと、良く「でも、うちの会社はそんな風土じゃないから」、「組織風土を変えるにはどうしたら良いのか」という声を頂きます。

確かに、「会社を変える」というのは非常に重たいテーマですし、トップマネジメントの強い意志がなければ難しいことなので、自分の裁量の範囲ではないかもしれません。ただし、部・課・プロジェクトチームなど、それぞれ自分の裁量の範囲で人選をできるような権限があるなら、プロアクティブ行動が身についているメンバーを多数派にするような集団を作ってみることは可能だと思います。全員ではなくても、多数派が形成されていれば少数派は多数派に合わせた行動をとりやすくなる、とされています。

そのため、小さなチームでも構わないのでメンバーの人選に配慮しながら経験を積ませていくことで、少しずつプロアクティブな行動をとれる人材を増やしていく、という地道な取り組みが求められるでしょう。


3:おわりに

最後に、ここまでお話ししてきた指示待ち部下に悩んだ上司がとるべき対応策について整理しておきます。


図表1:プロアクティブ行動へ導くためのマネジメントの整理

1:部下の性格特性を理解するよう努める
2:本人の性格特性と割り当てる業務特性にミスマッチがないよう配慮する
3:部下のプロアクティブな行動についてできる限り継続的にサポートする
4:プロアクティブ行動をとれるタイプの人材が多数派になるようにチーム編成を考える

ここまで3回に分けて、指示待ち部下との向き合い方についてプロアクティブ行動の点からお話ししてきました。時に相手に対して「もっと気が利かないのだろうか」と考えることもあるかと思いますが、「なぜ自発的に動けないのか?」と発想を変えることで対応策が見えてくることもあろうかと思います。

3回に渡ってお話しをさせて頂きましたが、皆様が行動するときの指針や選択肢になれば幸いです。

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著者プロフィール

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黒澤 壮史

日本大学商学部 准教授/Human Academy Business School MBAコース教授

黒澤 壮史(くろさわ まさし)

早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得後、早稲田大学商学学術院(助手)、
山梨学院大学(専任講師・准教授)、神戸学院大学(准教授)を経て現在に至る。
研究の専門は組織変革、戦略形成など。
著作としては「労働生産性から考える働き方改革の方向性-現場の意味世界の重要性-」(分担執筆、山田真茂留編:グローバル現代社会論)、
「ストーリーテリングのリーダーシップ(デニング著;分担翻訳)」、「想定外のマネジメント 高信頼性組織とはなにか(ワイク&サトクリフ著;分担翻訳)」など。

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