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第三者割当方式による新株発行の有利発行・不公正発行(1)

著者:日本大学商学部 教授  鬼頭 俊泰

第三者割当方式による新株発行の有利発行・不公正発行(1)

1 はじめに

スタートアップ企業をはじめ、会社の規模を拡大しようとするときに自前で規模の拡大を行うのではなく、M&A(例えば、他社の買収や資本業務提携など)を行うことで規模拡大を図ることは、費用面や効率面を考えると一般的な手法であるといえます。

ただ、他社を自社に取り込んで規模を拡大させるわけですから、たとえば他社株式を取得して資本業務提携を行う場合などでは、会社の既存株主から訴訟を提起されるリスクも伴います。

今回と次回は、資本事業提携を視野に入れた第三者割当方式による新株発行について解説します。

なお次回は、今回の内容をもとに、近時の関連裁判例(大阪高決令和4年2月10日・金判1650号34頁[抗告棄却])を解説します。


2 資本業務提携と第三者割当方式による募集新株の発行

資本業務提携とは、複数企業間で業務を提携するにあたって、対象会社に資金を拠出し、出資に対する株式を取得し、議決権等を行使して対象会社の経営に関与するというものです(提携をする企業がお互いに資金を拠出しあい、株式を取得するいわゆる「持ち合い」も存在します)。

お互いの企業のリソース(技術や資金など)を供与し合って提携するわけですから、提携が奏功すれば企業にシナジー効果をもたらすことができます。

そのような資本業務提携に当たっては、第三者割当方式による新株発行がなされることが通例です。

会社法は、第三者割当方式による新株発行について、以下のような手続を定めています。

募集事項の決定

募集株式の申込み

募集株式の割当て

募集株式の引受け

出資の履行

変更登記

  • ① 公開会社(会社法2条5号)が新株発行をする場合は、取締役会による募集事項の決定が必要となります(会社法201条。なお、非公開会社においては株主総会特別決議による決定が必要です(会社法199条2項))。
  • ② 募集事項を決定した後、募集に応じて募集株式の引受の申込みをしようとする者に対して、a.株式会社の商号、b.募集事項、c.金銭の払込をすべきときは、払込の取扱いの場所、d.a~cのほか、法務省令で定める事項、を通知しなければなりません(会社法203条1項各号)。なお、公開会社においては、払込期日(払込期間の場合にはその初日)の2週間前までに、株主に対して募集事項を通知するか公告しなければなりません(公示義務)。
  • ③ 会社は、払込期日(払込期間を定めた場合はその期間の初日)の前日までに、申込者に対して、当該申込者に割り当てる募集株式の数を通知しなければなりません(会社法204条3項)。
  • ④ 募集株式の申込者は、会社の割り当てた募集株式の数および、その者が引き受けた募集株式の数について、募集株式の引受人となります(会社法206条)。
  • ⑤ 募集株式の引受がなされれば、金銭出資の募集株式の引受人は、払込期日または払込期間内に、会社が定めた銀行等の払込の取扱いの場所(払込取扱金融機関)において、それぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込まなければなりません(会社法208条1項)。
  • ⑥ 払込期日から2週間以内に、会社の本店所在地を管轄する法務局に、発行済株式総数や資本金等について登記を行う必要があります(会社法915条1項)。

以上の会社法上の手続に従い、会社は第三者割当方式による新株発行をすることができます。

ただ、会社が、市場価格と比べて著しい安価で株式を発行する場合や、会社内部で支配権争いがある状況下で現経営陣の経営支配権維持のために株式を発行される場合などでは、以下、3や4で述べるような有利発行・不公正発行の問題を生じさせる可能性があります。


3 有利発行

有利発行とは、払込金額が募集株式を引き受ける者にとって特に有利な金額である場合(会社法199条3項)をいい、特に有利な金額(不公正な払込金額)とは、募集株式の経済的価値を著しく下回る金額を指します。

募集株式に市場価格が存在する場合には、株式の売買は市場価格で行われるのが基本ですから、市場価格が募集株式の経済的価値であるとみてこれを公正な払込金額の基準とするのが合理的です。

裁判例(最判昭和50年4月8日・民集29巻4号350頁(宮入バルブ事件)、仙台地判平成19年6月1日・金判1270号63頁(TDF事件)など)は、公正な払込金額の算定に当たっては、多様な事情を考慮し、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の中に求められるべきものとしています。

ただ、そこでいう公正な払込金額については、いつの時点を基準として算定すべきかが問題となります。

まず学説は、買占めなどによって株価が高騰しているときでも、原則として発行決議直前の株価を基準に公正な払込金額を決めるべきであり、異常な投機による一時的なものであると認められる場合に限って、払込金額の算定基礎から排除できるとしています。

裁判例(東京地決平成22年5月10日・金判1343号21頁)も、払込金額の算定基準時点を直前日でなく平均とするためには、直前日によることが相当とは言えない合理的な理由が必要とします。

以上からすれば、上場会社の新株発行の発行価額は、原則として、払込金額の決定直前の株価に近接していることが公正な発行価額というためには必要と解されます。


4 不公正発行

不公正発行とは、不当な目的を達成する手段として行われる新株発行をいいます。

具体的には、取締役が自己の支配権を維持しまたは自己に有利に支配関係を変動させる目的で行う新株発行などが該当します。

支配権維持目的が不公正発行となるのは、取締役の選解任は株主総会の専決事項で、被選任者である取締役が選任者たる株主構成の変更を目的とする新株発行は会社法が定める機関権限の分配秩序に反することを理由としています。

募集株式の発行等につき複数の目的が併存しているようにみえる場合、裁判例は主要目的ルールを採用し、支配権維持目的と資金調達その他の会社の正当な事業目的のいずれが優越しているかを検討し、前者が後者を優越しているといえる場合に差止めを認めています。

問題となるのは、新株発行の主要な目的が、正当目的を超え、不当目的にあるかどうかについて、事案に基づく詳細な検討が必要となることです。

また検討に当たっては、どのような要素に着目すべきかが事案の検討・結論にとって重要となります。

仮に具体的事情から資金調達目的の実体が認められない場合には、不公正発行であるとして差止めが認められることになります。

ただ、新株発行を行う会社側が一応合理的な資金調達目的を主張した場合、差止めは容易には認められないことになるでしょう。

以上から、新株発行を行う会社側は、会社の事業遂行上当該新株発行が必要である旨をかなり詳しく説明するのが通例となっています。

支配権維持目的の新株発行であるとの疑いが存する限りは、当該新株発行計画の策定の経緯や合理性について会社側に丁寧な説明を求めることが標準的な扱いになっているともいえます。

裁判例も、資金需要に関する会社側の説明に基づき、結論的に不公正発行とは判断しない傾向にあり、実際に不公正発行として差し止め仮処分が認められたのは、具体的な資金使途に実体があるか極めて疑わしい事例がほとんどです。

参考までに、資金需要にかかる会社側の主張に説得力が著しく欠けるとして不公正発行による差止めを認めた裁判例を下表にまとめておきます。

①同一の者によって株式を買い占められた2つの会社が、業務提携を理由に相互に株式を発行しようとした事案(東京地決平成元年7月25日・金判826号11頁)

②何ら資金調達が現実的に必要ではないのに議決権の過半数を保有する株主の過半数支配を失わせるような新株を発行した事案(東京地決平成10年6月11日・資料版商事173号192頁)

③発行済株式の約17.18%を保有する筆頭株主と現経営陣との間に支配権争いが生じている状況下で、定時株主総会のわずか16日前に発行済株式総数の約50%に相当する新株を発行しようとしたが、会社の主張する資金使途計画とは整合しない種々の事情が認定された事案(さいたま地決平成19年6月22日・金判1270号55頁)

④支配権争いが生じている状況下で、少数派取締役の解任が議案となっている株主総会直前に、同議案に賛成することを表明している割当先に対して20%弱の株式を発行しようとしたが、会社側が資金使途として主張していた社債償還計画の具体性・合理性を疑うべき様々な事情が認定された事案(東京地決平成20年6月23日・金判1296号10頁)


5 まとめ

今回は、第三者割当方式による新株発行について、会社法における発行手続と有利発行・不公正発行の問題を中心に解説しました。

次回は、今回の内容をもとに、第三者割当方式による新株発行において有利発行および不公正発行が問題となった近時の関連裁判例(大阪高決令和4年2月10日・金判1650号34頁[抗告棄却])を取り上げて解説します。


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著者プロフィール

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鬼頭 俊泰

日本大学商学部 教授

日本大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。同後期課程満期退学ののち、八戸大学(現:八戸学院大学)ビジネス学部に着任。その後、日本大学商学部助教、准教授を経て現職。

著書に、ビジネス法務の理論と実践(芦書房、2020年)(共編・共著)、資金決済法の理論と実務(勁草書房、2019年)(共著)、インターネットビジネスの法務と実務(三協法規出版、2018年)(共著)、検証判例会社法(財経詳報社、2017年)(共著)などがある。

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