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M&Aとは? 意味や種類、流れ、メリット・デメリットを解説

監修者: 税理士・米国税理士・認定心理士  竹中 啓倫

M&Aとは? 意味や種類、流れ、メリット・デメリットを解説

会社が別の会社を買収したり合併したりすることを、「M&A」と言います。

主に会社の規模拡大のために行われますが、近年では後継者不足を理由にM&Aを行うところも増えてきています。

M&Aは別々の会社を一つにまとめる手法であることから、注意すべき点もいくつかあります。

手法や実際の手順、譲受側・譲渡側それぞれのメリットとデメリットとともに解説します。


M&Aとは?

M&A(エムアンドエー)とは「Mergers and Acquisitions」(合併と買収)の略です。

会社がほかの会社と一緒になる(合併)、またはほかの会社の株式や事業を購入して自己のものにする(買収)ことを指します

M&Aには、友好的なものと敵対的なものがあります。友好的なものとしては、複数の事業が結び付くことでシナジー効果が期待できるため行うものと、同族会社で後継者が不在である場合に、事業を譲渡することによって事業を存続させる効果も見込めるものなどが想定されます。

また、一方の会社が持つ技術・ノウハウ・取引先などを手に入れたい場合に買収を行うケースもあります。

これについては敵対的なものも想定できますが、中小企業ではほとんど起こりえません。敵対的なM&Aは、上場企業のような大企業で一部見受けられる程度です。

M&Aが進む背景

近年、M&Aの事例をしばしば聞きますが、中小企業におけるM&Aを見てみると、以下のようなケースが見受けられます。

  • 後継者不在
  • 後継者はいるが継ぎたがらない・継がせられない
  • 事業を継ぐために多額の税金を負担しなければならない

また、以下のような考えから行うこともあるようです。

  • 多額の借財を抱えており、子供に負担を背負わせたくない
  • たくさん苦労をしたので、子供にはそんな目に遭わせたくない

さらに、長引く不景気から今後の事業継続が困難だと予測されるため、「大きな会社の傘下になりたい」という理由も見られます。

同時に、事業が継続できない場合、従業員や取引先の今後の生活にも不安が残ることも問題です。


M&Aの目的

M&Aを行う目的には、さまざまなものが考えられます。

譲渡側の目的

M&Aにおける譲渡側の目的で、近年大きな課題になってきている「後継者問題」があります。

後継者が不在または適当な後継者が選定できない場合、M&Aで事業を売却する手段が出てくるのです

事業閉鎖をしようとしても、残っている事業用の借入金を精算するめどが立たない場合もあります。

また、事業中止による取引先への影響も考えなければなりません。そもそも、事業中止により従業員は仕事を失うため、簡単に事業をやめる訳にもいかないのです。

そう考えると、事業売却により事業を継続することが非常に有望な考え方に見えてきます。

ただし、事業を売却するにも、収益が出ていないと売却価格が低くなってしまいます。

そのため現在の事業を見直し、赤字の事業や利益が低調な事業をやめることで、売却事業の価値向上に寄与するという考え方も生まれてきます。

譲受側の目的

M&Aにおける譲受側の目的としては、既存事業の周辺事業を行う会社の買収があります

既存事業とその周辺事業を結び付けることによってシナジー効果が現れ、1+1=2以上の価値を創出できる可能性があるのです。

加えて同じ事業を買収することで会社規模が大きくなるため、規模によるメリットも生じてきます。

また、全くの新規事業の買収もあります

新しい分野への投資を行うには、時間やお金だけでなく、従業員の教育にも手間がかかります。

しかし新規事業を買収することで、本来かかるはずの時間を短縮できる効果があります


M&Aの種類・手法

M&Aには、以下の3つの手法があります。

  • 買収

買い手が資金を使用し、購入する方法です。

会社の株式を全部または一部購入して間接的に経営を握る方法と、事業自体や資産を購入して経営を握る方法があります。

  • 合併

会社を合併させ、新しい会社の株式を多く握って支配権を取る方法です。

自社で他社と合併して自社を存続会社とする「吸収合併」と、新たに新会社を設立する「新設合併」があります。

  • 分割

事業の一部を譲受先の会社に継承する方法です。

買収予定の事業を持つ会社を分割させ、欲しい事業を運営する会社を取得する「新設分割」と、分割した会社を自社と合併させる「新設分割」があります。

M&Aは、資本の移動を伴うものです、これ以外にも広義のM&Aとして、株式の持ち合いや合弁会社の設立の手法が想定されます。


M&Aのメリット・デメリット

M&Aにおける、譲渡側と譲受側それぞれのメリット・デメリットについて解説します。

譲渡側のメリット

まずは、M&Aで会社を譲渡する側のメリットを解説します。

事業承継問題の解決

少子高齢化によって、中小企業には後継者の不在や後継者が決まらないといった問題が起きています。

後継者不足から廃業を検討する場合も、従業員の雇用の問題や、取引先に迷惑をかけてしまうという心配があるでしょう。

そのような企業にとって、M&Aは事業を継続させるための手段となります。

第三者に事業や会社を譲渡することで、廃業を防ぐことができるというメリットがあります。

企業基盤の強化

M&Aにより購入する会社は、財務体質が強固であることが予想できます。

おのずと、譲渡された側の財務体質も強くなります。それによって、自社の事業をさらに拡大させることも可能になるでしょう。

また、複数の事業や商品に取り組んでいる企業は、不採算部門のみを譲渡することで、自社の主力事業や商品に集中でき、注力事業の強化にも繋がります。

個人保証の解除

オーナー会社は、会社の借入金の保証人になっているケースが大半です。

この場合、会社を清算してもオーナーに負債が残ってしまうケースがあります。

M&Aで会社を売却すれば、その保証人から解放され、オーナー個人に負債が残る可能性は低いです。

創業者利益の実現

オーナー会社は、社長その他一族で出資金を持っている場合がほとんどです。

株式売却による資金は、出資割合に応じて分配されます。

そこで得た利益を新規事業の資金にすることも可能ですし、経営引退後の生活資金にすることも可能です。

従業員の雇用が守られる

企業が廃業すると、従業員も同時に雇用を失ってしまいます。

M&Aでは、会社の経営は新オーナーに引き継がれるため、従業員の雇用を維持することが可能です。

また多くの場合、待遇についても守られます。

従業員の培ってきたノウハウや技術を守ることができ、取引先との関係も継続することができます。

譲渡側のデメリット

次に、M&Aで会社を譲渡する側のデメリットを解説します。

最適な買い手が見つかるかといった問題

そもそもニーズにマッチした買い手がいて、自社をこちらの希望価格で買い取ってもらえるのかという問題があります

また、新しいオーナーと旧オーナーの想いが異なる場合もあるでしょう。

今まではアットホームであった社風が、新オーナーの下で合理性を追及する社風に変わってしまうこともありえます。

それによって社員が退職を余儀なくされたり、不幸になるケースもあるかもしれません。

M&A成約後の従業員と組織の問題

契約で従前の条件は維持されるとしても、その後の昇進や昇給についての保証はありません

譲渡側からすれば、苦楽を共にした従業員のその後については気になるものです。

しかし、そもそもM&Aにより異質の文化が混ざり合うため、既存の法人の従業員との軋轢が生まれる、受け入れ拒否をされるといった困難な状況に陥る可能性もあります。

逆に、加わる側の従業員の拒否反応によって、まとまりがなくなってしまう問題もあるでしょう。

取引先による拒絶

「旧オーナーだから取引をしてきたが、新しいオーナーとは取引しない」と、取引先から拒否されるケースもあります。

付き合いが長く譲渡される会社がオーナー会社である場合が多いですが、人と人とのつながりによって成り立っていた契約は維持するのが難しいかもしれません。

またM&Aでキーマンが退職したことにより、従来の取引が切れてしまう場合もあり得ます。

譲受側のメリット

続いて、会社を譲受する側のメリットについて解説します。

新規事業への参入

M&Aによって、多角化経営や隣接する別事業への進出が可能になります

これまで参入できなかった事業にも参入できるチャンスが生じるでしょう。

また、もともと新規事業に参入したかったものの、新規に社員を採用する必要があり、ノウハウも取引先もない状態からでは難しかった場合もM&Aは効果的です

既に十分な経験を持った社員やノウハウ、取引先や時間をお金を使って買ったことになり、十分なメリットがあります。

既存事業の強化

M&Aにより、同一事業の売上を伸ばしやすくなります。

その結果として設備投資を行いやすくなり、事業の合理化も進むでしょう。

試験研究費も絶対額を多くかけられるようになり、競争力が強化されます。

事業拡大に伴うコスト削減

同業種のM&Aによって、規模のメリットを享受できます。

物量が増え、輸送コストは相対的に安くなるでしょう。

効率もアップするため、品質保証の観点から見た相対的コストは低くなります。

譲受側のデメリット

最後に、会社を譲受する側のデメリットについて解説します。

融合に時間がかかる

多くの場合、譲渡先との業務の流れが異なります。その流れを同じにするため、一時的に業務が遅延することが考えられるでしょう

財務報告もグループ間では同じにしたほうが効率的であるため、経理の流れを統一するのにも時間がかかります。

優秀な人材の流出

会社内が混乱することによって、社員のモチベーション低下が危惧されます

結局、退職リスクが高まり、有能な社員の退職につながる可能性が高くなるでしょう。

また、既存事業の社員との間で軋轢を生みやすく、社員のなかで派閥を生むことにもつながります。

不遇な従業員を生み、社内の雰囲気が悪くなって定着率の低下も招きやすいでしょう。

シナジーが生まれない

譲受側と譲渡側との融和がうまく進まない場合、協力体制ができないことからシナジーが生まれないどころか、反発を招いて1+1<1にもなりかねません。

また、取引先が新オーナーに対して反感を抱いて経営が上手く行かず、売上減少を招くような場合も想定できます。

のれん代のリスク

M&Aによって買い手側が純資産価額以上の支払いをすることがありますが、その金額を「のれん」と呼びます。

のれんは20年以内に償却するもので、買収によって得られる超過収益力をこの償却額と相殺します。

しかし超過収益力が予想どおり得られず、のれん償却額を賄うことができない場合もあり、買い手側のリスクとなりうるのです。


M&Aの手順・流れ

実際にM&Aを行う場合の流れを詳しく解説します。

準備

最初にM&A仲介会社・アドバイザーなど専門家の協力を得る必要があります

まずは、以下の点をもとに自社の目標を明確にしましょう。

  • 自社がこの先どこに向かうのか
  • そのためにM&Aを行う場合、方向性をどう考えるのか
  • 自社に何が足りなくて、何を得たいのか

そのうえでM&A候補先のリストの提示を受けて、どこと交渉していくのかのターゲットを定めてこの先の交渉に望んでいくことになります。

これらは、今後M&Aを進めていくうえでの根幹となる事項であり、修正ができません。

時間をかけてでも、じっくり進めていく必要があります。

交渉

M&Aの交渉で重要なことは、守秘義務をしっかり守り、情報漏洩には細心の注意を払うことです

M&Aには賛成者もいれば、反対者もいます。

反対者の情報が早期に漏れることで、M&A自体が不可能になってしまう恐れがあります。

譲渡される側の従業員は「この先、自身がどうなるのかわからない」といった不安があります。

そのため少なくとも買主候補者側から「全員継続雇用する」という条件が引き出せるまでは、M&Aをする事実は秘密にすべきでしょう。

その後、買主候補者と秘密保持契約を結んで詳細情報を開示します。

大まかな売却価格の合意を経てトップ会談を行い、基本合意書(MOU)を結んで独占契約を締結したら、交渉は一旦終わります。

最終契約

基本合意書(MOU)を結んだ後、売主側から提示された事実や証拠が正確なのか、実際に専門家を交えて確認をします。

この確認を「デューデリジェンス」(DD)と言います。

この段階では、主に財務DDと法務DDが行われます。

財務DDは公認会計士や税理士が財務諸表を中心として内容を確認し、法務DDは弁護士を中心として契約書の中身を確認します。

その後、経営者・役員・従業員の処遇や最終契約までのスケジュール調整などの最終条件交渉を実施します。そして最終契約書の締結を行い、ひととおりの手続きは終了です。


M&Aのサービス費用・手数料

M&Aを実施する際は、さまざまな費用がかかります。

仲介手数料

M&A仲介会社やアドバイザーに依頼して行った場合、仲介手数料が発生します。

近年、仲介手数料も下がってきてはいますが、基本的には「レーマン方式」により計算されます。

レーマン方式では、大きく言えばこの2つで計算されます。

  • 着手金
  • 成功報酬

着手金は手付で、成功報酬は完了時に残額を受け取るといった意味合いです。

不動産取引の報酬料金が基本となっているため、基本は売却価格の3%です。しかし実際は1~5%と幅広くなっており、また最低料金を設定している場合がほとんどです。

これ以外にも専門家に対する手数料として、デューデリジェンス(DD)費用がかかることが多いです。

税金

M&Aを行い会社を譲り渡した場合、代金はその所有者、すなわち株主に持分に応じて支払われることになります。

会社が他社を所有していて、その他社が売却された場合、会社には法人税が課税されます。

一方、個人で所有されていた会社がM&Aで譲渡された場合、その個人には所得税(譲渡所得)が課税されます。

株式の譲渡所得は、ほかの所得と分離して課税されます。

株式譲渡益に対して所得税が15.315%・住民税が5%かかるため、合計20.315%の課税を受ける仕組みとなっています。

なお復興特別所得税0.315%分は、2037(令和19)年までの時限措置です。


M&Aについてまとめ

M&Aにより自社のさらなる成長が見込めたり、後継者不足を解消できたりする可能性があります。

しかし別の会社との合併である以上、取引継続を拒絶される、社員同士の軋轢が生まれるといったリスクも考えられます。

最悪の場合、かえって経営が悪化する可能性もあるでしょう。

そうした事態を防ぐためには、まずなぜM&Aがしたいのかを洗い出すことが重要です。

そのうえで自社の状況に応じた手法を選び、交渉に進めましょう。


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監修者プロフィール

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竹中 啓倫

税理士・米国税理士・認定心理士

上場会社の経理部門で個別決算を中心とした決算業務に従事する傍ら、竹中啓倫税理士事務所を主宰する。
税理士事務所では、所得税・法人税を中心に申告業務を行っている一方で、外国税務に関するセミナー講師を行っている。
心理カウンセラーとして、不安を抱える人々に対して寄り添って、心の不安に答えている。
税理士会の会務では、名古屋税理士協同組合理事を務める。

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