合併のメリット・デメリットとは? 必要な手続きや注意点についても解説
合併とは組織再編行為の手段の1つで、複数の会社を法律上1つの会社にすることです。
組織の構造がシンプルになったり、税制上の優遇措置を受けられるなどの利点があります。
今回は合併の概要やメリット、デメリット、合併する際の手順、企業事例などを詳しくまとめました。
経営層の方は組織再編行為の手段を知れる機会ですので、ぜひ最後までご覧ください。
合併とは
合併の概要と買収やM&Aとの違いを解説します。ぜひ参考にしてください。
合併の概要
合併とは、複数の会社が1つの会社になることです。グループ企業の組織再編や税務上のメリットなどの目的で行われます。合併には2種類あります。
合併の種類 |
意味 |
---|---|
吸収合併 |
合併の消滅会社が持つ権利義務を、合併後の存続会社へ譲渡 |
新設合併 |
合併の消滅会社が持つ権利義務を、合併後の新設会社に譲渡 |
新会社を設立する新設合併は、各種手続きや許認可の申請などが必要になりますが、吸収合併では消滅会社の権利義務を存続会社へそのまま譲渡するため、新設合併よりも手続きがスムーズです。
(吸収合併の出典:e-Gov 会社法第2条27号)
(新設合併の出典:e-Gov 会社法第2条28号)
買収とM&Aの違い
合併と混同されやすいのが企業買収とM&Aです。
混同されやすい名称 |
意味 |
構造 |
---|---|---|
企業買収 |
企業から株式や事業を買い取ること |
株式譲渡(交換)や事業譲渡など |
M&A |
企業の合併と買収 |
企業の合併や買収など |
合併で吸収される会社は消滅しますが、企業買収で買収される企業は消滅しません。
一方、M&Aは合併や企業買収などを含む概念を意味します。M&Aでは株式譲渡による企業買収や、吸収合併なども行えるということです。
合併のメリット
合併のメリットは主に3つあります。詳しく見ていきましょう。
1.資金を準備せずM&Aが可能
合併の対価は金銭だけではなく、株式の交付などで対価支払いできます。
自社の株式を対価にしたM&Aが可能なため、金融機関から資金調達する手間もかからないでしょう。
また、買い手側も株式で支払えるため、資金力が不足していても買収できます。
(出典:e-Gov会社法第749条1項2号)
2.組織がシンプルになりコントロールしやすい
取引履歴のある会社同士が合併すると、組織体制がシンプルになり業務をコントロールしやすくなるでしょう。
合併前までは手間を要した情報共有や、連携などが一体化するためです。
一方、競合他社同士が合併すれば、価格競争からの脱却が期待できます。利益を確保しやすくなり、合併する前よりも安定した経営を実現できるためです。
3.税制の優遇措置を受けれる
合併は会社法で規定されている組織再編行為ですので、税制上の優遇措置を受けられます。
ただし、合併後の「自治体の人口が一定数以上」などの適格要件を満たさなければなりません。
また、条件によっては消滅会社の繰越欠損金も利用できますが、利用条件が厳しく、租税回避と判断されるリスクもありますので、注意しましょう。
合併のデメリット
続いて、合併のデメリットを解説します。
1.手続き工数が多い
買収よりも、合併時に必要な手続きの多さは煩わしく感じるでしょう。
例えば、株式譲渡の際は譲渡承認申請や取締役会決議、株主名簿の書き換えなど、社内で手続きが完了し企業買収を行えます。
しかし、合併は開示事項の備置きや債権者保護手続き、株主総会の特別決議など、社内外の関係者を取り巻いた多くの手続きを済まさなければなりません。
2.コストがかかる
合併時は株主や債権者、専門家への支払いなど、合併最中から合併後まで多額のコストがかかります。
そのため、合併時に必要なおおよその金額を項目ごとに洗い出し、事前に把握しておく必要があります。
法人税法では、資本金1億円以下の企業に対して充実した優遇制度もあり、コストダウンを図れる可能性もあります。
しかし、合併により資本金が1億円を超えると税負担が増加することもありますので、事前に税務署や税理士など専門機関への相談をおすすめします。
3.従業員の士気低下や流出の恐れ
さまざまな立場の人と1つの会社を運営していくため、従業員の士気低下や人材が流出する懸念があります。
人数が増える分、仕事への価値観や考え方が異なるためです。また、事業の運営で欠かせない従業員が流出すれば、事業の運営が滞る可能性もあるでしょう。
合併の手続きや流れ
合併の手続きは主に5つの工程で成り立っています。詳しく見ていきましょう。
合併契約書の締結
合併契約書は、合併の各条件が当事者間で合意され、各社の取締役会で承認を得た後に作成します。
記載が必須の条項をいくつかまとめました。
- 存続会社と消滅会社の商号と住所
- 合併の効力発生日
- 各社が株主総会を開催し承認できる日程
- 存続会社が支払う対価の内容
- 対価の算定方法
- 合併後の取締役の選任
事前開示書類の備置
会社法により、合併の際は株主や債権者に向けて、事前開示書類を備えなければなりません。
事前開示書類を備える期間は、存続会社は合併の効力発生後6カ月間なのに対し、消滅会社は合併の効力発生日までです。
事前開示書類は次の通りです。
- 合併契約書
- 対価の算定方法説明書
- 存続会社と消滅会社の財務諸表(貸借対照表など)
これらの書類は本店に備えられ、株主や債権者が閲覧できる状態にします。
株主総会の承認
会社法により、合併する各社は株主総会を開催し、合併承認しなければなりません。
合併の承認には特別決議が必要であり、議決権を持つ過半数以上の株主が出席し、株主総会で3分の2以上の賛成を得る必要があります。
また、合併の効力発生日の前日までに承認を得ましょう。効力発生日は、合併契約書に記載された日付であり、合併契約書の署名日と異なる場合があります。
利害関係者の保護手続き
会社法の定めにより、存続会社と消滅会社は次のような利害関係者の保護手続きをする必要があります。利害関係者は株主と債権者のことです。
- 合併を官報公告に掲載
- 上記と同様の内容を利害関係者へ個別催告(新聞紙への掲載や電子公告した場合は不要)
- 利害関係者からの異議申立てを対応
- 消滅会社の場合は、合併の効力発生1カ月前までに株券などの提出公告
反対株主の株式買取請求手続き
合併に反対する株主がいる場合、合併の効力発生日の20日前までに株主へ通知もしくは、公告を行います。
そして、合併の効力発生日の前日までに、反対株主の株式を適正価格で買い取らなければなりません。
非上場企業の場合は市場価格が存在しないため、株価の鑑定を依頼して算定する必要があります。これらが終わった後に、登記や事後開示書類などの用意がなされます。
合併に必要な登記・契約書
合併に必要な登記・契約書を紹介いたします。
合併の登記申請に必要な書類一覧
合併の登記申請に必要な書類を表に一覧形式でまとめました。ぜひご活用ください。
存続会社の登記申請 |
必要な書類 |
|||
---|---|---|---|---|
登記申請書 |
合併契約書 |
契約の承認に関する議事録、あるいは証明書 |
債権者保護手続きを証する公告と催告証明書 |
|
資本金計上証書 |
||||
消滅会社の登記申請 |
登記申請書 |
合併契約書 |
消滅会社の登記事項証明書 |
契約の承認に関する議事録、あるいは証明書 |
債権者保護手続きに関する書面 |
株券提供公告を証明する書類(株券発行会社の場合) |
新株予約権提供公告を証明する書類(新株予約権発行会社の場合) |
また、司法書士に登記を依頼する際は委任状が、簡易合併・略式合併の場合は要件の証明書類などが必要になるでしょう。
登録免許税の納付
合併の際は登録免許税を支払う必要があります。登録免許税は存続会社と消滅会社それぞれに対して支払うため、支払額も異なります。
- 存続会社の納税額:増額した資本金×0.0015
- 消滅会社の納税額:一律3万円
ただし、増額後の資本金が合併前の消滅会社の資本金を超える場合、超過分×0.007の登録免許税が発生します。
不動産を移転する場合は、不動産登記を行わなければならなく、固定資産税評価額×0.004の登録免許税がかかります。
また、登記を司法書士に依頼した場合、司法書士に払う報酬が必要です。相場は約15~20万円ですが、具体的な費用は事務所ごとに異なります。
合併時の会計・法務に関しての注意点
合併時の会計・法務に関しての注意点を2つ紹介します。
不適当な合併になるリスク
上場企業にとってデメリットのある、不適当な合併は大きなリスクになるでしょう。
不適当な合併とは、上場企業と非上場企業との合併時において、上場企業が存続会社とは認められないケースのことです。
そのうえ、一定の期間内に新規上場の審査に相応した審査を通らないと、その上場企業は上場廃止になります。上場廃止などの事態にならないよう、不適合な合併には気をつけましょう。
逆取得による合併で会計処理が変わる
逆取得による合併で会計処理が変わるリスクもあるでしょう。逆取得とは、存続企業以外の会社が取得企業になるケースです。
例えば、消滅会社の株主が合併後に存続会社の支配株主になるなどのケースが当てはまるでしょう。
この場合、被取得企の存続会社は、取得企業の資産と負債を帳簿価額で受け入れます。
通常とは異なり時価評価は行いません。なお、逆取得を避ける方法は、一旦株式譲渡で企業を買収し、子会社化してから吸収合併することです。
合併の事例
合併の事例を見ていきましょう。
みずほ総合研究所とみずほ情報総研の合併
2021年4月、みずほ総合研究所とみずほ情報総研は新設合併し、みずほリサーチテクノロジーズ株式会社が誕生しました。
新会社は以前からあるシンクタンクやシステム開発企業以外にも、デジタル化やサステナビリティの重要性の高まりなどトレンドを的確に捉え、顧客や社会の真の課題解決に貢献していくことを目指しています。
この合併により、金融領域以外の事業分野においても、グループ全体でのシナジー効果が期待されています。
(出典:みずほ情報総研株式会社とみずほ総合研究所株式会社による合併契約締結)
イオン北海道とマックスバリュ北海道の合併
2020年3月1日、同じイオングループであるイオン北海道は、マックスバリュ北海道を吸収合併しました。
顧客の低価格志向や健康志向、時短ニーズ、ローカル思考などを考慮した商品開発を進めます。
また、従来の労働集約型オペレーションモデルから脱却することを考え、あらゆる面においてデジタル化など進めていくという方針です。
合併についてのまとめ
合併の特徴やメリット、手続きの手順、具体例などを解説しました。合併は企業がより飛躍するための手段の1つです。
経営層の方は本記事を参考にしながら、企業を成長させるための選択肢の1つとして合併を考えてみてはいかがでしょうか。
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