欠損金の繰越控除とは? 税効果会計での処理方法をわかりやすく解説
欠損金や、繰越欠損金という用語を聞いたことがある人は多いかもしれませんが、具体的な内容や処理方法を理解している人は意外と少ないですよね。
欠損金とは、法人税の計算において税法上の赤字であり、益金から損金を引いた所得がマイナスになった赤字の金額を表します。
税務上、欠損金を繰越控除することができ、このような制度を繰越欠損金といいます。
とはいえ、繰越控除を利用するには条件や限度額が定められていて、正しい理解が必要です。
この記事では、欠損金とはなにか、繰越欠損金のメリットや利用条件、処理方法について解説します。
欠損金とは
欠損金とは、法人税を計算する際に各事業年度の所得金額の計算上、該当する事業年度の損金が益金を超えた部分の金額です。
簡単にいうと、税法上の赤字が欠損金に該当し、益金から損金を引いた所得がマイナスの金額になったことを表します。
税務上の欠損金と会計上の赤字(利益のマイナス)の金額が必ずしも同じになるわけではないので注意しましょう。
引当金の計上など、税法上は損金として計上できない取引が、会計上は費用として計上できるケースもあるので、それぞれの金額に差が出ることがあります。
欠損金の繰越控除とは
欠損金は、繰越欠損金という制度を利用することで、翌期以降に繰越すことが可能です。
繰越欠損金とは、ある事業年度において欠損金が発生した場合に、一定の年度で繰り越して黒字と相殺できる仕組みです。
赤字を翌期に持ち越して、黒字と相殺することで納税額を減らすことができます。
繰越欠損金のメリット
繰越欠損金のメリットは、将来の黒字を現在の赤字で相殺することで、将来の法人税負担を軽減できる点です。
例えば、当期の欠損金が300万円であり、翌期の黒字が150万円であった場合に、繰り越した欠損金のうち150万円分を相殺することで、翌期の黒字をゼロにできます。
また、残りの150万円を翌々期以降に繰り越せるため、一定期間内であれば欠損金がなくなるまで、黒字を相殺可能です。
このように繰越欠損金を活用すると、将来の税負担を軽減できるメリットがあるといえます。
記載書類
繰越欠損金は、法人税申告書に記載されています。
別表1の28の欄(翌期へ繰越欠損金又は災害損失金)に繰越欠損金の総額が記載されていて、別表7(1)(欠損金又は災害損失金の損金算入等に関する明細書)に欠損金の損金算入についての明細書が記載されています。
税法における概念のため、会計の書類である決算書に記載されているわけではないので注意しましょう。
繰越欠損金におけるルール
繰越欠損金を利用するには条件や限度額、期限を守らなければいけません。
ここでは、繰越欠損金の適用条件を解説します。
利用条件
繰越欠損金の利用条件は、欠損金が発生した事業年度にて青色申告で確定申告をすることです。
また、その後も継続して確定申告を行わなければなりません。
他にも、10年以内に開始した事業年度の欠損金であることや、帳簿書類等を適切に保存してあること等が繰越欠損金の利用条件です。
利用限度額
利用限度額は、中小法人等とそれ以外で金額が変わります。
資本金または出資金の金額が1億円以下である普通法人が、中小法人等に該当します。
中小法人等では、課税所得の金額を限度として、繰越欠損金の控除が可能です。
例えば、当期に500万円の課税所得があった場合は、過年度に発生した500万円分の繰越欠損金を相殺できます。
対して中小法人等に該当しない非中小法人の限度額は、事業年度によって変わります。
各事業年度にて繰越控除する前の課税所得の金額に、それぞれ定められている割合を乗じた金額が限度額です。
定められている割合は開始事業年度によって変わります。それぞれの数字は以下のとおりです。
- 2012年4月1日~2015年3月31日:80%
- 2015年4月1日~2016年3月31日:65%
- 2016年4月1日~2017年3月31日:60%
- 2017年4月1日~2018年3月31日:55%
- 2018年4月1日~:50%
例えば、300万円の課税所得があり、2018年4月以降の年度に生じた500万円の欠損金がある場合、翌年度以降に150万円分(300万円×50%)を所得から相殺することができます。
さらに翌々年度に400万円の課税所得が生じた場合、200万円分(200万円×50%)
を所得から相殺することができます。
残額の150万円(500万円-150万円-200万円についても、控除限度額の範囲内でそれ以降の年度における所得と、相殺することができます。
今後も税法改正の可能性があるので、繰越欠損金を使う際は最新の条件を確認しておきましょう。
期限
欠損金の繰越期限は、開始された事業年度に応じて変わります。
2008年度から2017年度に開始された事業年度で発生した欠損金は、9年間の繰越が可能です。
2018年4月1日以降に発生した欠損金であれば、最大10年間繰り越せます。
繰越欠損金の税効果会計
税効果会計とは、会計上の利益と税務上の所得の調整をする会計処理のことをいいます。
というのも、企業会計上の利益や費用と税務会計上の益金や損金は、それぞれ計算の目的が異なるため、金額に差があります。
具体的には、会計上の利益は「収益-費用(=会社の業績を正しく反映するための計算)」で計算をしますが、税務上の所得は「益金-損金(=公平な課税を実現するための所得計算)」で計算されます。
当期純利益により会社の業績を正確に反映するためには、これらの差を調整する必要があります。
そこで会計上の利益と税務上の所得の調整をするために、税効果会計を行います。
ここでは「計上」「解消」それぞれにおいての、仕訳例を紹介します。
仕訳例1.計上
繰越欠損金の仕訳では、税金の前払いに相当する資産を「繰延税金資産」として計上し、相手科目は「法人税調整額」としましょう。
具体的な仕訳例は、以下のとおりです。
(前提)
- 2022年3月期に300万円の欠損金が生じた
- 2023年3月期は黒字化が見込まれており、今後も継続して所得の発生が見込まれる
- 当社は中小法人等に該当する
- 法人税率は30%と仮定する
2022年3月(繰越欠損金の発生時)の決算整理仕訳
借方 |
貸方 |
繰延税金資産 90万円 (300万円×30%) |
法人税等調整額 90万円 (300万円×30%) |
仕訳例2.解消
繰越欠損金が発生して、翌期に黒字となった場合の仕訳例は以下のとおりです。
(前提)
- 2022年3月期に300万円の欠損金が生じた
- 2023年3月期に500万円の課税所得が発生し、300万円の繰越欠損金が全額解消した
- 当社は中小法人等に該当する
- 法人税率は30%と仮定する
2023年3月(繰越欠損金の解消時)の決算整理仕訳
借方 |
貸方 |
法人税等調整額 90万円 (300万円×30%) |
繰延税金資産 90万円 (300万円×30%) |
繰越欠損金を利用する際の注意点
ここでは、繰越欠損金を利用する際の注意点を紹介します。
最も古い年度の繰越欠損金から利用する
複数年度にわたり欠損金が生じている場合、最も古い年度の繰越欠損金から利用します。
たとえば、5年連続で欠損となっており(毎年100万円)、当期に200万円の課税所得が発生したケースを考えてみます。
この場合、最も古い5年前、4年前の欠損金の合計200万円分を当期の課税所得と相殺し、残りの3年分については翌期以降に生じた課税所得と相殺するといったイメージです。
所得の相殺を目的に合併する場合は制限がある
所得の相殺を目的に合併すること自体は可能ですが、不当に税負担を減らすことがないように、法人税法上の制限が設けられています。
たとえば、合併される法人の従業員のうち、80%以上が合併する法人の業務に従事すること、合併される法人の主たる事業が合併する法人でも引き続き継続されること、といった制限があります。
欠損金の繰越控除についてのまとめ
欠損金や繰越欠損金について解説しました。欠損金は好ましいものではないですが、繰越欠損金制度を活用すれば、将来の法人税負担を軽減できます。
条件や期間は事業規模や開始時期によって異なるため、繰越欠損金が発生したら逐一確認しておきましょう。
欠損金についての理解を深めて、適宜活用することで経営を円滑に進められます。