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法人税等調整額とは? 対象の勘定科目や仕訳方法、計上時の注意点を徹底解説

法人税等調整額とは? 対象の勘定科目や仕訳方法、計上時の注意点を徹底解説

企業の経理で、企業会計と税務会計の間に生じるズレに対応するために「法人税等調整額」という勘定科目が使われます。この調整額は、時に非常に大きな金額差となることがあり、正しい理解と処理が求められます。

本記事では、法人税等調整額の基本的な概要から、勘定科目の種類、計算・仕訳方法まで詳しく解説します。

計上する際に知っておきたい注意点についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。


この記事の監修者
  税理士・米国税理士・認定心理士 

法人税等調整額とは?

法人税等調整額とは、企業会計と税務会計のズレを解消する目的で使う勘定科目です。

企業に課される税金の額は、利益を基準に算出されます。しかし、企業の売上は必ずしも全額が利益に直結するわけではなく、さまざまな調整を経て算出された課税所得が対象となります。

こうしたことから、純粋な利益と課される税額には、多少のズレが発生することになります。法人税等調整額とは、このズレを今後1年から数年かけて調整するための調整勘定なのです。

参考:J-Net21「税効果会計って、どんな効果があるんだ?


法人税等調整額の対象となる勘定科目

勘定科目にもさまざまなものがありますが、法人税等調整額の対象となるのは「一時差異」に該当するもののみです。

つまり、今後調整される見込のない差異については調整する必要がないということです。

対象となる勘定科目

法人税等調整額で対象となる勘定科目は、将来的に解消されるズレです。このズレは「一時差異」と言い、一例として以下が該当します。

  • 減価償却費の償却限度超過額
  • 繰越欠損金(将来の課税所得と相殺できるもののみ)
  • 未払事業税
  • 退職給付引当金
  • 圧縮積立金

特に、大きな繰越欠損金を利用して繰延税金資産を計上する場合には注意が必要です。繰越欠損金が発生していることはすなわち、将来の課税所得発生に懸念があることになります。計上する際は、税理士に確認すると良いでしょう。

なお一時差異は、「将来減算一時差異」「将来加算一時差異」のさらに2種類に分けられます。

将来減算一時差異は、将来的に法人税を始めとした税金の支払額を減額できる金額です。一方、将来加算一時差異は将来的に法人税増額につながる金額のことを指します。

上記の具体例を、さらにこの2種類に分類すると以下のとおりです。法人税等調整額の計算をする際にもこの分類が登場するため、どちらにどの項目が該当するかを把握しておきましょう。

将来減算一時差異

将来加算一時差異

  • 減価償却費の償却限度超過額
  • 未払事業税
  • 繰越欠損金
  • 退職給付引当金
  • 圧縮積立金

参考:J-Net21「税効果会計って、どんな効果があるんだ?

対象外の勘定科目

法人税等調整額の対象外となるのは、将来的に解消できる見込みのないズレです。このズレを「永久差異」と言い、具体的には以下が該当します。

  • 交際費や寄付金の損金不算入
  • 役員賞与
  • 税金(但し、法人事業税は除く)

寄付金を例に考えてみましょう。寄付金は、企業会計で見れば全額、経費として計上できます。

一方、税務会計の観点から見ると一定額の損金不算入が認められていますが、その額を超えた分は損金として認められません。

つまり、企業会計で見たときの「費用」と税務会計における「損金」では範囲が異なり、たとえ時期のズレがあったとしても差異が解消されないのです。こうしたことから、そもそも差額を調整する必要がなく、法人税等調整額の対象にも含まれないのです。

参考:J-Net21「税効果会計って、どんな効果があるんだ?


法人税等調整額の計算に必要な要素

法人税等調整額を算出したい場合は、「法定実効税率」「繰延税金資産」「繰延税金負債」の3つが必要です。

なお、法人税等調整額の金額を算出する直接の計算式はありません。繰延税金資産または繰延税金負債を算出し、その金額を法人税等調整額として計上する流れになるため、勘違いしないようにしてください。

それぞれの要素について、解説します。

法定実効税率

法定実効税率とは、「法人税」「地方法人税」「法人住民税」「法人事業税」「特別法人事業税」などの税率を使用して計算した実質的な税負担率のことです。端的に言えば、企業が実際に負担する税率のことです。

法定実効税率は、以下の計算式で算出できます。

法定実効税率
={法人税率 ×(1+法人住民税率+地方法人税率)+法人事業税率+特別法人事業税率}÷(1+法人事業税率+特別法人事業税率)

税務上、法人税が全て経費にならないのであれば、税率そのものを法定実効税率にできます。法人税のうち法人事業税等は支払時、つまりほとんどの場合、翌事業年度には経費にできるため、法定実効税率を計算する場合は調整が必要となります。

それゆえ、上記のような数式になっているのですが、この計算を自力で行うことはなかなか難しいものです。大まかな税額の目安を知るために利用する程度にとどめ、詳細な金額の算出は税理士や会計士などに依頼することをおすすめします。

繰延税金資産

繰延税金資産は、将来的に戻ってくることを見越して計上した、前払いの税金のことです。繰延税金資産は、次の計算式で求められます。

繰延税金資産=将来減算一時差異×法廷実効税率

「資産」という名前ではありますが、自社の業績が悪化した場合は価値がなくなり、取り崩して損失処理をするケースもあります。

繰延税金負債

繰延税金負債は、繰延税金資産とは逆に、将来の法人税の金額を増やす要因となる後払いの税金を指します。計算式は、繰延税金と同じです。

繰延税金負債=将来減算一時差異×法廷実効税率

繰延税金資産とは異なり、繰延税金負債が使用されるケースは滅多にありません。計上する際は、本当にその項目が繰延税金負債なのかをよく確認しましょう。


法人税等調整額の計算・仕訳方法

法人税等調整額の計算は、必要な項目を押さえて順を追って計算していけば、それほど難しいものではないのです。

ここからは、具体的な計算方法・仕訳方法を数値を用いて解説します。

計算例

前述のとおり、法人税等調整額の金額を算出する際は、繰延税金資産または繰延税金負債を算出し、その金額を法人税等調整額として計上します。

では、減価償却費200万円を計上したところ、税務上150万円しか計上できなかったケースを考えてみましょう。(法定実効税率は30%とする)

先ほど解説した繰延税金資産の計算式に当てはめて、計算します。

繰延税金資産=将来減算一時差異×法廷実効税率

なお、将来減算一時差異は以下の計算式で算出します。

将来減算一時差異=企業会計で計上された金額-税務会計で計上できた金額

この計算式に今回のケースを当てはめると、繰延税金資産は(200-150)×0.3=15となり、15万円です。

繰延税金負債を算出する際も、手順は変わりません。使う数字をよく確認し、処理するようにしてください。

仕訳例

続いて、上記の計算例を仕訳する場合の方法を具体例と共にお伝えします。なお仕訳は繰延税金資産と繰延税金負債とで多少異なるため、ケース別に解説します。

繰延税金資産の仕訳例

先ほどの計算例と同じく、減価償却費200万円を計上したところ、税務上150万円しか計上できなかったケースで、法定実効税率30%の場合を想定します。

このときの繰延税金資産は15万円です。仕訳をする場合は、以下のとおり記載します。

借方

貸方

繰延税金資産

150,000

法人税等調整額

150,000

繰延税金負債の仕訳例

繰延税金負債の計算方法は繰延税金資産と同じです。計算の結果40万円の繰延税金負債が出た例を想定すると、仕訳例は以下となります。

借方

貸方

法人税等調整額

400,000

繰延税金負債

400,000

繰延税金負債はその名前のとおり、負債に該当するものです。そのため繰延税金資産とは異なり、貸方に記載する点に注意しましょう。


法人税等調整額を計上する際の注意点

最後に、法人税等調整額を計上する際の注意点をいくつか紹介します。

実際の収支には影響がない

法人税等調整額は、企業会計と税務会計の金額のズレを調整するためのものに過ぎません。実際に現金が入ってくる、あるいは支払うわけではないのです。

あくまでも帳簿上の処理だと認識し、勘違いしないようにしましょう。

似た項目の混同に注意する

法人税等調整額の計算には、以下のように響きや字面が非常に似た項目が多数登場します。

  • 一時差異と永久差異
  • 将来加算一時差異と将来減算一時差異
  • 繰延税金資産と繰延税金負債

こうした項目を取り違えると、計算に影響が出てしまい、具体的な金額をうまく算出できなくなります。また、もし誤った計算で確定申告をしてしまった場合、修正の手間も発生するでしょう。取り扱う項目に誤りがないか、入念に確認してください。

意図的な操作をするとトラブルにつながる可能性も

決算書上の利益は、自社に有利になるよう調整することは避けましょう。意図的に調整した内容で金融機関へ提出することで、何らかの問題が起こる可能性は否定できません。

しかし、それでは周囲からの信頼を失い、結果的に自社の経営に悪影響を及ぼしかねません。正確な処理をし、正しい金額で納税をしましょう。


法人税等調整額についてのまとめ

法人税等調整額は、会計上の利益と税務上の課税所得の金額差を調整する勘定科目のことです。

将来的に解消される見込みのある「一時差異」のみが法人税等調整額の対象になりますが、似た名前の項目があったり、計算が複雑であったりするため、取り扱いには細心の注意が必要です。

もし処理を担当することになった場合は、まずは各用語の概要をきちんと理解しましょう。その上で丁寧に対処し、誤りのないようにしてください。


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監修者プロフィール

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竹中 啓倫

税理士・米国税理士・認定心理士

上場会社の経理部門で個別決算を中心とした決算業務に従事する傍ら、竹中啓倫税理士事務所を主宰する。
税理士事務所では、所得税・法人税を中心に申告業務を行っている一方で、外国税務に関するセミナー講師を行っている。
心理カウンセラーとして、不安を抱える人々に対して寄り添って、心の不安に答えている。
税理士会の会務では、名古屋税理士協同組合理事を務める。

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