サラリーマンが知る税制シリーズ 第4回 所得税 まとめ
はじめに
これまで3回にわたって所得税について解説してきましたが、今回はその内容をいまいちど振り返り、サラリーマンが所得税を知るにあたり押さえておきたいポイントを要約版として整理しておきます。あわせて、令和3年度税制改正のポイントもご紹介します。
なお、できるだけわかりやすくお伝えするため、比較的平易な言い回しを使うようにしています。したがって、一部に厳密性の欠ける表現になっている部分があること、そして特徴的な部分を中心に表現していることから、その制度のすべてを表現する内容になっていないことにご留意ください。
令和3年度税制改正のポイント
サラリーマンに関係のありそうな以下の部分のみをピックアップして解説します。
なお、この本稿では所得税に関するもののみを挙げています。
〇住宅ローン控除
対象住居が現制度では床面積50㎡以上とされていましたが、対象となる住居が40㎡以上に拡大されました(註 所得制限あり)。また、制度の一部において期限が延長され、住宅ローン減税の恩恵を引き続き受けることができるようになりました。
〇セルフメディケーション税制
指定の医薬品の購入や予防接種を行うなどして健康への一定の取り組みを行っていれば、その費用が一定程度所得控除される制度です。時限措置でしたが、期限が延長されました。なお、この制度は従来の医療費控除との選択制であることに留意する必要があります。
〇国や地方自治体の実施する保育その他の子育てに対する助成等の非課税措置
地方自治体の子育て支援で、ベビーシッターなどの費用補助を受けている場合は雑所得となり、給与所得以外の他の所得と併せて一定額を超えると、所得税や住民税の課税対象となっていました。そのため、収入が増えたわけではないのに税金が増える現象が起きていましたが、この改正でこの費用補助は所得税の非課税対象となります。
〇退職所得課税の適正化
退職所得に対する所得税は、(収入金額 – 退職所得控除額)× 1/2 で計算される所得をもとに算出されています(1/2課税)。所得を半分に減らした上で課税することになるので、他の所得に比べて課税が軽減されているとも言えます。
勤続年数の短い(5年以下)役員の場合は、その対象外でした。今回の改正では勤続年数の短い(5年以下)従業員の場合も、1/2課税の対象外とされています。
第1回 所得の種類と累進課税
〇所得の種類
所得税の対象となる「所得」について記述しています。
「所得」とは、会社でいうところの利益のようなものと考えるとわかりやすいです。ある収入に対して、その収入を得るためにかかった費用を差し引いた金額(これが各種の控除に相当します)が所得であり、これに決められている税率を掛けて所得税を算出するというのが基本的な考え方となります。
所得は10種類(利子所得/配当所得/不動産所得/事業所得/給与所得/譲渡所得/一時所得/山林所得/退職所得/雑所得)に整理されています。
それぞれの所得に対して、控除の対象や税率などの取り扱いが少しずつ異なります。
サラリーマンの場合、所得の多くが給与所得であると思われますし、サラリーマン本人もそういう認識でいる場合がほとんどだと思われます。給与所得については、そのサラリーマンの勤務する会社で専門部署の方が所得税の処理をされていることがほとんどだと思われますので、基本的には本人が所得税の算出にあたって何かの計算等をする必要はありません。
一方で、サラリーマンでも、給与所得以外の所得がある場合があります。
身近な例では、
・銀行預金の利息(利子所得)
・上場株式の配当(配当所得)
・サラリーマン大家さんのような形で不動産を貸し付けている場合の賃貸収入(不動産所得)
・副業などによる収入(開業届を提出している場合は事業所得、その他の場合は多くが雑所得)
・不動産等を売却したときの収入(譲渡所得)
・上場株式を売買したときの所得(譲渡所得)
・退職金を貰ったときの退職所得
などです。
サラリーマンであったとしても、給与所得以外の所得も意外に多いことに気づくと思います。利子所得のように源泉課税をして課税関係が終わる所得もありますが、それ以外の所得の多くは、2月半ばから3月半ばにかけて設定される確定申告期間に税務署において確定申告をした上で、所得税を納入する必要があります(註 還付されるケースもあります)。
また、所得が給与所得だけであっても、住宅ローン減税の適用を受ける初年度や、医療費控除を申請したいと思うときには確定申告が必要ですので、ある程度の知識は必要だと言えます。
〇累進課税
所得の多い人が多くの税金を納めるという思想で制度設計されています。
いわゆる累進課税制度です。国税庁のタックスアンサーにおいて早見表で整理されています。
第2回 総合課税と分離課税
所得税は、すべての所得を合算した上で課税するのが原則になっています。これが総合課税という考え方です。
ところが、土地建物等の譲渡所得、株式等の譲渡所得、先物取引の雑所得、山林所得、退職所得については、例外として総合課税に含まず、それぞれの所得で所得税を算出することになっています。これを分離課税といいます。
なお、分離課税にも、源泉分離課税と申告分離課税という2つの種類があります。前者は支払を受ける際にすでに徴税されて支払われて課税関係が終わります。後者は納税者が確定申告をした上で納税をするものです。
なお、上場株式の配当所得については、総合課税、源泉分離課税、申告分離課税を選択することができます。納税者がいずれか有利なものを適用すればいいことになっています。
いろいろな場合分けがあって複雑に見えますが、基本的に大きく分けると総合課税と分離課税という2つの課税方法がある、という理解をしておけばいいでしょう。
第3回 給与所得控除、所得控除、税額控除
所得税は所得に税率を掛けて算出されます。したがって、所得が増えれば支払う所得税は増えるし、所得が減れば支払う所得税は減ります。控除は10種類あるそれぞれの所得の性質を考慮して、経費とみなせる部分を考慮し控除を認めることで、より公平な税金徴収を行うしくみとも言えます。この結果として課税対象が減りますので、所得税も軽くなることになります。
サラリーマンに関連するのは、給与所得控除、所得控除(給与所得控除とは別物です)、税額控除というものがあり、その詳細について本稿の中で紹介しています。
おわりに
所得税はいろいろな制度が入り組んでいて一見すると非常にややこしく見えます。ただよく見てみると、ある大きな原則があって、そこから派生していろいろなルールが追加されて現在の形になっていることがわかります。 まずは原則的な制度を理解した上で、個別の制度を見てみると、理解が進むと思います。
サラリーマンであっても、知らないよりも知っておいたほうがよい所得税。
知らず知らずのうちに払うべき金額以上に多くの所得税を支払ってしまっていることもあるかもしれません。
普段からできるだけ知識を揃えておき、納税者として適正に納税をしていきたいものです。