アサーションとは? 意味やメリット・スキルを高めるトレーニングや事例を紹介
アサーションという言葉を知っていますか?
人事担当者や総務担当者、人材育成を担う人は耳にしたことがあるかもしれません。
昨今、アサーションに注目する企業が増えてきました。なぜなら、アサーションはコミュニケーション能力のスキルアップに、深い関わりがあるからです。
企業において、アサーションをどのように理解すればよいのか、採用することでメリットはあるのか、具体的なトレーニング方法、どのように活用すればよいのかなどを紹介します。
社員の育成にぜひ取り入れてみてください。
アサーションの意味や語源
まずは、アサーションの意味やその語源について説明します。
アサーションの意味
アサーションとは、「相手も自分も大切にする自己表現コミュニケーションスキル」を指します。相手を尊重して相手の言葉をしっかり聞く一方で、自分の考えや意見、気持ちを率直に伝える手法です。
自己主張を押し付けすぎず、かといって主張を我慢しないのがポイントとなります。
人間尊重を大切にするアサーションは、対人関係スキルのトレーニングのほか、企業や学校、医療現場など広範囲で導入されています。
なかでも企業では、職場のより良い人間関係の構築のほか、人材育成やメンタルヘルス予防などで効果があるほか、上下関係が生まれやすい人事評価や採用面接の場面でも活用が可能です。生産性の向上にもつながり、多くの企業で研修として実施されています(※)。
※参考:RMS research|人材開発実態調査2017
アサーションの語源
アサーションは英語のassertionを語源とし、主張や断言という意味を持ちます。そのため、直訳すると「自分の考えや権利を強く主張する」「確固たる証拠はないが真実であることを断言する」といった、押しの強いニュアンスがあります。
1950年代のアメリカで行動療法のなかから生まれたアサーションは、1970年代の黒人や女性に対する差別撤廃運動を経て、「相手を傷付けず、かつ主張はしっかり行う」という定義に変化しました。
参考文献:金子書房|平木 典子 (著)『改訂版 アサーション・トレーニング - 株式会社 金子書房』
アサーションの考え方に基づいたコミュニケーションタイプ3種類
アサーションは、自己表現スキルの一つと説明しましたが、このアサーションの考え方を基にするとコミュニケーションタイプは「アグレッシブタイプ」「ノン・アサーティブタイプ」「アサーティブタイプ」の3つに分類されます。
それぞれについて解説します。
攻撃的なアグレッシブタイプ
攻撃的なアグレッシブタイプは、相手を尊重せず、自己中心的な姿勢で自分の意見を押し通そうとします。自分の意思や考え、気持ちをはっきり伝えられるという良い面もありますが、相手の言い分や気持ちを無視、または軽視して、自分の価値観を押し付けがちです。
相手より優位に立ちたいと、「勝ち負け」で物事を決めようとする姿勢が強く、「自分が一番」「あなたはダメ」といった態度を取る傾向にあります。
また、自分の主張を通そうと、相手の意見を無視したり、邪魔したり、陰で文句を言ったりと、周りと軋轢を生みやすいのが特徴です。
「そもそも○○だから」「○○してもらえますよね」と決め付け、相手を否定するような表現を多用します。
控えめなノン・アサーティブタイプ
控えめなノン・アサーティブタイプは、自分よりも相手を優先し、自分の気持ちや考え、意見を言わず、結果として相手の主張を聞き入れてしまいます。
穏やかな対応は相手を不愉快にしないという良い面があるものの、相手の反応を怖れるあまり、自信を持って自分の主張も言えなかったり、あいまいな言い方をしたりと、はっきりとした主張ができません。
また、何か依頼をされた際にうまく断ることも苦手です。そのため、相手に自分の意見が聞き入れられない不満や怒りから、ストレスをため込んでしまいがち。
「申し訳ありません」「○○と思うのですが」「○○してもらえれば」などのように、謝罪やはっきりしない表現が多くなるのが特徴です。
中間的なアサーティブタイプ
アグレッシブとノン・アサーティブの良い部分をバランスよく兼ね備えたのが、第三のタイプであるアサーティブタイプです。最も理想的なコミュニケーションタイプといわれています。
相手の気持ちや背景を丁寧に聞いたうえで、自分の気持ちや考えを伝える手法のため、お互いに主張を出し合い、納得する形でコミュニケーションが取れます。
自己主張しながらも相手を傷付けずに話を前進させられるのは、その場の空気感を大切に、言葉や態度などをうまく使い分けて表現するからです。
「ありがとうございます」「○○をしたいです」「○○になるようにしましょう」といった、感謝や前向きな言葉を多く使うのが特徴です。
アサーションを身に付けるメリット
適切なアサーションを身に付けることで、社内外ともにメリットが生まれることもあります。どんなメリットがあるのか、見ていきましょう。
円満な関係を築ける
アサーションを身に付けると、相手の立場を配慮したうえで、自分の意見を伝えられるようになります。メリットとして、円満な関係を築きやすくなることが挙げられます。社内外の人間関係の構築に、大いに役立つでしょう。
社内では、職場のコミュニケーションが活性化し、組織力アップが期待できます。社員同士の認識のずれを防ぐだけでなく、相手への遠慮しすぎが減り、意見が出しやすい環境に変わるからです。
社外では、お客様と対等に意見交換ができるため、ビジネスを推進させる原動力になります。先方から大幅な値引きや過剰サービスを求められることがあっても、相手の意見をくみ取りながら、自社の意見を丁寧に伝えられ、後々のトラブル防止にもつながります。
従業員のメンタル改善に効果がある
従業員のメンタルヘルス改善に効果があるのも、アサーションを身に付けるメリットの一つ。従業員は相手との関係性を尊重しながら自己主張できるようになるので、メンタルヘルス予防につながるからです。
社内外で関係構築が円滑にできれば、従業員のストレスが軽減する効果をもたらします。
また、ハラスメント防止にも役立ちます。とくに、上司から部下への仕事上でのコミュニケーションが変わります。指導する上司が部下を尊重するような伝え方ができれば、信頼関係を構築しながら指導に当たれるでしょう。
一方、部下も上司の主張に納得がいかない場合に、冷静に自分の意見を伝えられるようになり、上意下達のコミュニケーションから脱却できます。
アサーションスキルを高めるトレーニング方法
アサーションは、トレーニングをすることでスキルを高めることができます。ここでは、トレーニング方法をいくつか紹介します。
DESC法
DESC法(デスク法)は、合理的解決のための道筋を整備する方法です。相手に対して感情的に伝えるのではなく、以下の4つの要素に分解して、自分の感情を論理的に伝えます。
- D:Describe/主観を交えず、客観的に状況や事実を伝える
- E:Express/自分の意見や感情を表現する
- S:Specify/相手に求める行動や打開策を提案する
- C:Consequences/提案の実行もしくは不実行の結果と、選択肢を示す
起こりうる状況に対して、4つのステップに沿って台詞を作ります。ポイントはEで、自分の気持ちを率直に伝えるため、Dは客観的な事実の提示に留め、相手との共通基盤を構築します。
また、Cで自分の提案を述べますが、相手の受け止めは「イエス」も「ノー」もあるので、両方の予測をしておきます。課題の解決や目標の達成の場面で効果的な手法なので、反復練習して身に付けましょう。
Iメッセージ
I(アイ)メッセージとは、I(私)を主語にして、自分の思いや意見を伝えることです。
たとえば、何か問題が出た時に、「あなたが○○しなかったから」と、相手を主語にする「you(ユー)メッセージ」で伝えると、相手は否定や批判、非難を感じます。また、「普通は××だよね」と一般論で言われると、たとえ正論でも納得しません。
そんな時にIメッセージを使えば、相手に不快感を与えず、自分の主張を伝えられます。
たとえば、「あなたが連絡してくれないから」だと責めている印象を受けますが、「あなたが連絡してくれたら、私はうれしいし安心」と主語を変えると、柔らかい表現に変わります。主語を変えるだけなので、すぐにでも実践できる手法です。
アサーションのワーク事例
では、事例を挙げながら、実際の対応の仕方を紹介していきます。今後の仕事の進め方に役立ててください。
上司からの依頼を想定したワーク
<事例1>
あなたは上司から、急ぎで書類作成の仕事を依頼されました。しかし、自分の仕事に追われていて、明日の取引先との商談までに、提案書を作成しなければなりません。
このような事例は、職場でも多いのではないでしょうか。しぶしぶ引き受けるか、断るにしても印象よく断れず困るケースです。そんな時にDESC法で整理します。
- D (事実)
明日、取引先との商談があり、提案書を作っている最中 - E (感情)
上司の要望に応えたい、手伝いたい気持ちはある - S (提案)
提案書の作成が終わり次第、対応可能 - C (結果)
ほかに対応できそうな人を探す
まとめると以下のとおりです。
「申し訳ございません。明日の商談に向け、提案書を作成しており、すぐに対応できません。ですが、お手伝いしたい気持ちはあります。提案書が終わり次第、対応できますが、いかがでしょうか? もしくは、ほかに対応できそうな人を探しましょうか?」
こちらの状況を正しく上司に理解してもらうだけでなく、上司の要望を無視せず、自分の主張をしっかり相手に伝えられます。
適切な伝え方を学ぶワーク
<事例2>
職場の後輩と採用面接の準備をすることになりましたが、後輩は連絡もなく20分ほど遅刻してきました。幸い、面接には影響はなかったものの謝罪もなく、社会人のマナーに欠けると感じました。角を立てずに伝える方法を知りたいです。
適切な自己表現を理解するために、 先述の3つのタイプ(アグレッシブ、ノン・アグレッシブ、アサーティブ)を比較して、回答を検討します。
- アグレッシブな場合
「今日の面接準備、連絡もなく遅刻って何? 社会人のマナーに欠けているよ!」 - ノン・アグレッシブな場合
「遅れてきたけど大丈夫? 面接には影響なかったから、良かったけど…」 - アサーティブな場合
「きょうの面接だけど、集合時間から20分、遅刻したね。連絡がないから心配したよ。遅れる場合は連絡してもらえないかな。どれくらい遅れるかわかれば、対応する準備もできるから」
比較すると、アサーティブな表現が相手に寄り添いながらも、自分の主張も伝えられています。アサーティブな表現の時は、DESC法やIメッセージを使って台詞を考えてみましょう。相手を否定しない表現を磨ける機会になります。
アサーションのまとめ
アサーションについて説明しました。まとめると以下の通りです。
- アサーションとは「相手も自分も大切にする自己表現コミュニケーションスキル」である
- アサーションは学ぶことでスキルアップができる
- アサーションを実行すれば、仕事が円滑に進められる
アサーションが人材育成においてどれだけ重要であるかが示されたでしょう。
社内外のコミュニケーションに悩んだら、ぜひアサーションを利用してください。社内全体が円満な環境へと変化するきっかけとなるかもしれません。
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