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社長貸付と現金残高

社長貸付と現金残高

前回の記事(借金をするときの注意)では、社長借入について取り上げました。

小規模な法人の借入先を確認すると、社長個人が法人にお金をつぎ込んでいることが珍しくありません。その一方、社長個人が会社からお金を借りている状態(会社から見れば、社長貸付金)になっていることもあります。

そこで今回は、改めてその問題点について確認しつつ、もう1つ、現金残高についても取り上げていきましょう。


この記事の著者
  税理士 

役員報酬について

最初に考えてみたいのは、役員報酬についてです。個人事業主と違い、法人経営者はその法人から給与を受け取ります。役員であれば、役員報酬という名目になります。

法的な観点からすると、役員は雇用関係ではないなど、いろいろと難しいことがあるのですが、ここでは難しいことは省きます。

税務的にポイントとなるのが、定期同額給与という仕組みです。実は役員報酬というのは、1つの事業年度を通じて、毎月決まった金額を支払うよう定められています。

この月はたくさん儲かったから100万円、あの月は儲けが少ないから40万円という具合に、ころころと変えることはできません。

例えば4月~3月に事業年度を設定した場合、基本的には「4月に支払った役員報酬を、翌年3月までは継続しなければならない」と考えてください。この点についてもいろいろと論点はあるのですが、今回は省略します。

イメージとしては、「自分に対する給与を使って、法人の利益調整をしてはいけない」と考えておけば、それほど間違っていません。


役員報酬の金額が生活費にマッチしているか?

ここで問題となるのが、役員報酬の設定金額と実際の生活費とのバランスです。例えば月額50万円の役員報酬を設定した場合、社会保険料や税金の天引きを考えると、手取りで残るのはせいぜい40万円くらいです。

もし、実際の生活費が50万円かかっているとすると、毎月10万円分の生活費が不足してしまいます。その結果、社長が会社のお金を使い込む、社長貸付の状態が発生します。

社長貸付の状態がどのような悪影響を及ぼすかは、以前の記事(〈はじめての経理財務〉資金調達の前提と概要)でもご紹介しました。

社長貸付が恒常的に計上されているのは、資金管理能力が欠如していることを公表しているようなものです。当然、金融機関や税務署も、しっかりと確認してきます。

以前にもご紹介をしていますが、小さな仕事を考えるうえで、生活費の把握は本当に大切な要素です。結構な数の零細企業で、社長による生活費の使い込みが発生しています。加えて、事業場の経費節約には熱心でも、私生活の見直しは苦手な方がほとんどです。

自社の経理処理を進めてみて、社長貸付が出てきたときには、本当に注意をしていただきたいです。社長貸付は、間違いなくあなたの会社の信用力を貶めることになります。


実は難しい現金残高

ここでもう1つ考えてみたいのが、現金残高です。実は現金管理というのは、小さな仕事を考えるうえで、かなり難しいポイントだったりします。

例えばあなたは、こんなことをしてしまっていないでしょうか?

  • 取引先X社への仕入れ代金支払いをするため、銀行のATMから40万円を下ろしてきた。
  • Ⅹ社に対して38万円の仕入れ代金を支払った。
  • 手元に2万円残ったので、そのお金で自宅用の食材を買ってきた。

商売用の支払いをするのにまとまった金額を下ろしてきて、少し残った金額を生活費に回す。こんな感じで現金を取り扱っている社長さんは、残念ながら少なくありません。

このとき、問題となるのは生活費に流用した2万円です。この2万円分のレシートですが、経理処理においては次のような方法が考えられます。

1.単なる生活費なので、現金を減らして、生活費として使ったように経理処理をする。
この場合、社長貸付の発生や社長借入の返済として処理します。

2.商売に関係ない支払いなので、何もしない。
この方法だと、何も経理処理をしませんので、現金2万円が手元に残っていることになります。しかし、実際には食材を買ってしまっていますから、帳面ではお金が残っているけれど、実際にはお金がないという状況になります。

3.事業経費に混ぜ込んでしまう。
この処理をすれば、事業上の経費として現金が減ったように処理されます。しかし、当然のことですが、この処理はいわゆる脱税行為(経費の捏造)に当たりますので、許されることではありません。

もちろん、この食材購入が事業に関係しているもの(例:取引先の社長を自宅に招いて、バーベキューパーティをしたなど)であれば、その限りではありません。

ここで注目したいのが、現金残高です。1や3の処理をした場合、現金が減少したという処理を行っているので、帳面上の現金残高と実際に手元にある現金にズレはありません。

一方、2の方法だと、帳面と手元現金にズレが出てきます。この2のような出来事が続くと、帳面上の現金残高がどんどん増えてきます。

小規模事業者の経理処理をしていると、手元現金の残高がとんでもないことになっていることがあります。極端な例だと、手許現金が数百万円になっているようなことも。当然ですが、実際に会社にある手許現金を調べても、数百万円もある可能性は限りなく低いでしょう。

これが何を意味しているかというと、

  • 社長が数百万円の現金を生活費に流用している。

こういうことを意味しています。ですので、決算書等をチェックして、現金残高が異様に多い場合には、「この社長は生活費の管理ができていないのだな」と判断される可能性があるということです。


他にもある現金管理の難しさ

これ以外にも、現金管理には難しさがあります。

例)飲食店を2店舗経営。本店Aは社長が切り盛りし、支店Bは社員が担当。毎日の現金売上について、翌営業日に銀行預金として入金するルールになっている。また、店舗ごとに経費の支払いをする場合、そのための資金は預金からピッタリの金額を引き出すことになっている。

上記のルールがしっかりと守られている限りにおいては、大きな問題にはならないと思います。しかし残念ながら、この手のルールが厳密に守られていないことが珍しくありません。

本店Aについては、上記のルールが守られず、帳面上の現金残高が妙に増えてきたとしても、それは「社長による生活費への流用」と考えられますので、ある種の自己責任です。

しかし支店Bに関しては、もし帳面上の現金残高が増えてきた場合、社員による現金の使い込みを疑わなければいけません。売上代金の一部を隠していたり、経費の支払時に多めに引き出してお金を抜いたりしているかもしれないためです。

このように、現金の管理というのは、簡単なようでいて案外と難しいのです。

これを解消するためには、現金の出入りを記入する現金出納帳(げんきんすいとうちょう)の作成が有効です。本来であれば、すべての自営業者には、事業用の現金出納帳をしっかりとつけて欲しいと思います。

しかし、実際には現金がそこまで厳密に管理されていないケースも多く、結果、多額の現金残高が計上されている決算書が生まれてしまいます。

昨今では、キャッシュレス決済が流行しています。現金管理のこういった手間ひまを考慮して、キャッシュレスを導入する事例も増えているようです。

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著者プロフィール

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髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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