法定福利費とは? 種類や計算方法、福利厚生費との違いをわかりやすく解説
法定福利費と福利厚生費の違いを明確に説明できますか?
例えば、法定福利費がどのような費用で、どんな場面で必要になるのかを正確に理解していないと、見積もりやコスト管理で思わぬミスをしてしまうこともあります。
本記事では、法定福利費とは何か、福利厚生費との違い、法定福利費の計算方法などについてわかりやすく解説します。知識を深め、コスト管理の精度を高めるためにぜひお読みください。
法定福利費とは?
法定福利費とは、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労災保険料など、会社が負担することが法律で義務付けられている福利厚生費のことをいいます。つまり、会社が従業員のために、法律で強制的に負担しなければならないものです。
おもに、健康保険料は健康保険法、厚生年金保険料は厚生年金保険法、雇用保険は雇用保険法、労災保険料は労働者災害補償保険法などで定められています。
法定福利費と福利厚生費の違い
会社の決算書を見ると、法定福利費の他に福利厚生費という勘定科目がある場合が多いでしょう。
どちらも法人税法では経費にすることができますが、以下のように性質に違いがあるため、別々の勘定科目で処理する必要があります。
(法定福利費)
- 会社側が負担することを法律で義務付けされている
- 内容は決められている
(福利厚生費)
- 法律上の義務付けはない
- 内容は各会社が自由に設定できるが、全従業員が利用可能なものとする
(内容例:住宅手当、慶弔見舞金など)
法定福利費の種類
ここまでは、法定福利費と福利厚生費の違いについて細かく見てきました。では、法定福利費の種類にはどのようなものがあるのでしょうか。
【健康保険】
健康保険は、病気やけが、傷病による休業、出産や死亡といった事態に保険給付を受け取ることができる、公的な医療保険制度です。会社が加入する健康保険には2種類あり、協会けんぽと健康保険組合があります。
保険料は「標準報酬月額(標準賞与額)×健康保険料率」で算出され、会社と本人が半分ずつ負担する労使折半です。健康保険料率は、協会けんぽの場合は都道府県ごと(※)により変わり、健康保険組合の場合は組合独自で定められます。
※参考:全国健康保険協会|都道府県毎の保険料額表
【厚生年金保険】
厚生年金保険は、歳を重ねること・障害を負うことに対する備えです。
保険料は「標準報酬月額(標準賞与額)×厚生年金保険料率」で計算されます(※)。保険料率は平成29年9月に引き上げられてから18.3%で固定。会社と本人が半分ずつ負担する労使折半です。
※参考:日本年金機構|厚生年金保険の保険料
【介護保険】
介護保険は、介護を受けることに対する備えです※。
保険料は第1号保険者(65歳以上の方)、第2号保険者(40〜64歳の方)によって異なります。会社で支払う場合が多い第2号保険者の保険料は「標準報酬月額(標準賞与額)×介護保険料率」で計算されます。
介護保険料は健康保険料と一体的に徴収され、会社と本人が半分ずつ負担する労使折半です。
※参考:厚生労働省|介護保険制度について
【雇用保険】
雇用保険は、失業や雇用継続が困難となる事由が生じた場合に、失業等給付や育児休業給付が支給される保険です※。保険料は、「労働者に支払う賃金の総額×雇用保険料率」で計算されます。
※参考:厚生労働省|労働保険料の申告・納付
保険料は会社と本人の労使折半ではなく、事業の種類※(一般の事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業)によって会社と本人の負担割合が異なります。
※参考:厚生労働省|令和4年度雇用保険料率のご案内
【労災保険】
労災保険は、業務上の事由や通勤時の傷病等に対して必要な保険給付が支給される保険(※)です。保険料は、「労働者に支払う賃金の総額×労働保険料率」で計算されます。
※参考:厚生労働省|労働保険料の申告・納付
労働保険料率(※)は事業の種類ごとに決められており、保険料は全額会社負担になります。
※参考:厚生労働省|令和4年度の労災保険率について
【子ども・子育て拠出金】
子ども・子育て拠出金は、子育て支援に充てられる税金で、社会保険料ではありません。「児童手当拠出金」という名称から、平成27年4月に「子ども・子育て拠出金」へ変更されました。
保険料は「標準報酬月額(標準賞与額)×子ども・子育て拠出金率」で計算され、全額が会社負担となります。
法定福利費に関する注意点
建設産業においては、各工事の見積書だけでは、法廷福利費を適切に計算しないという会社もあるという背景があります。まずは注意点として、社会保険加入が必須になった経緯を説明します。
法定福利費として賃金の約15パーセントが差し引かれる
建設産業(※)においては、下請企業を中心に法定福利費を適切に負担しない会社があり、いざという時に公的保障が確保されず、若い労働者が減少する一員となっていました。
また、適切に法定福利費を負担している事業者のほうが見積もりが高くなり、法定福利費を適切に負担していない事業者のほうが仕事の依頼が増えるという、矛盾した状況もありました。
そのため、労働者の雇用環境を改善し、必要な人材を確保するとともに、公平で健全な競争環境を構築するために、社会保険加入を徹底することとなりました。
※参考:国土交通省|中央建設業審議会による提言について
法定福利費を建設業の見積書に明示するのは必須
建設産業では、就労環境の改善による必要な人材確保、公平で健全な競争環境を構築するための社会保険等の未加入対策に取り組んでいます。社会保険等に加入するためには、まず法定福利費の確保が大事です。
しかし、これまでの取引慣行では、トン単価などによる見積もりが一般的となり、法定福利費の取り扱いにはわかりにくい部分もありました。
そのため、事業者が社会保険等に加入する費用を確保するために、下請企業が元請企業に提出する見積書に法定福利費の内訳を明示することになりました(※)。
※参考:国土交通省|法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順
法定福利費を内訳表示した見積書の作り方
見積書を作成の場合、法定福利費は内訳を明らかにすることが必須であることをお伝えしました。では、実際に法定福利費の見積書の作り方について、順を追って説明します。
法定福利費の計算方法
法定福利費に含まれる保険料などの計算式を詳しく見ていきましょう。
健康保険 |
標準報酬月額(標準賞与額)×健康保険料率×1/2 |
厚生年金保険 |
標準報酬月額(標準賞与額)×厚生年金保険料率×1/2 |
介護保険 |
標準報酬月額(標準賞与額)×介護保険料率×1/2 |
雇用保険 |
労働者に支払う賃金の総額×雇用保険料率×該当する事業の負担割合 |
労災保険 |
労働者に支払う賃金の総額×労働保険料率 |
子ども・子育て拠出金 |
標準報酬月額(標準賞与額)×子ども・子育て拠出金率 |
労務費を計算
法定福利費は、作業する人の労務費を基に計算することになるため、まずは労務費がいくらになるか計算します。
労務費は、会社ごとにこれまでの実績などを基に算出します。具体的には、1つの工事に何人の人が必要で、日数は何日かかり、1人あたりの賃金はいくらになるかを検討する必要があります。
たとえば、工事に必要な人数が5人、必要な日数が10日、1日あたりの平均賃金が10,000円とすると、労務費は「5人×10日×10,000円=500,000円」になります。
法定福利費を算定
次に、法定福利費を算定します(※)。
法定福利費は基本的に「労務費総額×法定保険料率」で算出されます。自社の実績に基づくデータなどを基に工事費あたりの平均的な法定福利費の割合や、工事数量あたりの平均的な法定福利費を用いて算出する方法もあります。
※参考:国土交通省|法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順
また、健康保険料率や介護保険料率は、加入している協会けんぽのウェブサイトで確認したり、健康保険組合に問い合わせたりすることで確認できます。厚生年金保険料率や子ども・子育て拠出金率は日本年金機構のウェブサイトで、また、雇用保険料率は厚生労働省のウェブサイトで確認することが可能です。
見積書に記載する
見積書に内訳を明示する対象となる法定福利費は、健康保険料と介護保険料、厚生年金保険料と子ども・子育て拠出金、雇用保険料の事業主負担分になります。つまり、事業主が負担しない本人負担分は、基本的に記載しません。
料率部分は、保険料率に会社が負担する割合をかけ合わせたものを記載します。さらに、介護保険料については、被保険者の対象となる40〜64歳以下の割合をかけた比率にします。
(今回は便宜上、割合を50%としていますが、協会けんぽの事業年報などから確認できます。)
法定福利費事業主負担額 |
対象金額 |
料率 |
金額 |
---|---|---|---|
雇用保険料 |
500,000 |
0.85% |
4,250 |
健康保険料 |
500,000 |
4.905% |
24,525 |
介護保険料 |
500,000 |
0.41% |
2,050 |
厚生年金保険料(子ども・子育て拠出金含む) |
500,000 |
9.51% |
47,550 |
※参考:国土交通省|法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順
法定福利費についてのまとめ
法定福利費と福利厚生費の違いについて、理解を深めることはできたでしょうか。まとめると、以下の通りです。
- 法定福利費は、福利厚生費の中に含まれるものである
- 法定福利費は、会社側が負担するものである
- 法定福利費の内容は決められている
- 見積書には、法定福利費の内訳を明示しなければならない
各保険料の料率はそれぞれ違います。そのことに注意しながら、見積書を作成していきましょう。