決算賞与とは? 発生する税金や3つの支給要件について理解しよう
前年度の利益が出たら、従業員に還元したいと考える経営者は多いでしょう。実際に還元するかしないかは企業側で決めることではありますが、会社からいつもとは違う形で報酬があれば、従業員のやる気はアップします。
この記事では、決算賞与を検討している経営者や人事・総務担当者のために、決算賞与とは何かを紹介します。決算賞与を支給することでのメリットやデメリットなどもお伝えしますので、全体像を知る参考にしてください。
決算賞与とは?
では、まず決算賞与とは一般的にどのようなことをいうのかをみていきます。
決算賞与とは「臨時ボーナス」のこと
決算賞与とは、企業の事業年度の業績に応じて支給される賞与をいいます。決算賞与は法律上定義された名称ではないことから、企業によっては「臨時賞与」「年度末手当」「特別賞与」「業績連動賞与」など、組織によって呼び方はさまざまです。
また、決算賞与は組織・部署の利益額に応じて支給されるケースが多く、その利益は従業員の努力がある程度反映された結果であることから、従業員のモチベーションを高める役割があるといわれています。
決算賞与が支給される時期
決算賞与は、その事業年度の決算日の翌日から起算して1ヶ月以内に支給されるケースが一般的です。
つまり、3月決算の会社であれば、4月末までに支給されるケースが多いでしょう。
これは法人税法施行令に基づいており、決算日翌日から1ヶ月以内に支給することで、賞与額を当該決算年度における損金として計上できるからです。これにより、企業側は節税効果を得られるメリットがあるのです。
企業によって定められる決算賞与の支給対象
決算賞与は、一般的には正社員を対象に支給されるケースが多いでしょう。しかし、税法上は正社員に限定するようなものではなく、パート・アルバイト従業員に対しても支給されるケースがあります。
また、役員に対して決算賞与を支給することも可能ですが、役員に対して支給された決算賞与は税務上損金になりませんから、実務上役員に対して決算賞与が支給されるケースは少ないでしょう。
なお、賞与の支給がある場合には「就業規則」「雇用契約書」「労働条件通知書」などにその旨の記載があることが多いため、自社での賞与支給の有無を確認したい場合には、当該文書を参照してください。
通常賞与との違い
決算賞与は、通常賞与と比較すると次のような違いがあります。
通常賞与が夏と冬の年2回に支給されるケースが多いのに対し、決算賞与は決算後1ヶ月以内に支給されるケースが多いです。
通常賞与が「基本給の〇ヶ月分」または、能力・役職・職階に応じて支給されるのに対して、決算賞与は企業・部署の業績に連動するケースが多いです。
通常賞与・決算賞与は正社員だけでなく、パート・アルバイト従業員に対しても支給されるケースがあります。
表にすると以下のとおりです。
決算賞与 |
通常の賞与 |
|
---|---|---|
支給時期 |
一般的に決算後1ヶ月以内に支給するケースが多い |
一般的に夏・冬の年2回支給するケースが多い |
支給額 |
企業・部署の業績に連動しやすい |
「基本給の〇ヶ月分」、または能力・役職・職階などに応じる |
支給対象 |
正社員に対して支給するケースが一般的 |
正社員に対して支給するケースが一般的 |
決算賞与で発生する税金・保険料
決算賞与は通常の給料と同様に、税金と社会保険料が徴収され、残額が手取りとして支給されます。ここで徴収される税金は「所得税」を指し、社会保険料は健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料(40~64歳)等を指します。
ただし、通常の給料とは1つだけ異なるのが、税金のうち「住民税」は徴収されないという点です。なぜなら、住民税は毎月の給料から天引きされる仕組みであり、賞与からは天引きされないためです。
あくまで賞与からは天引きされないというだけであり、住民税の計算基礎になることから、将来給料から徴収されることになります(厳密には給与・賞与とで住民税の計算方法が異なることから、給与として支給された場合と賞与として支給された場合とで住民税の金額が異なります)。
決算賞与を損金として計上する3つの支給要件
決算賞与は損金として計上することができます。3つの要件がありますから、満たしているかきちんと確認しましょう。
1.決算賞与の支給金額を対象従業員に通知している
決算賞与の支給条件として、使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度において、その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知をしていることが必要です。
すなわち、決算賞与の支給を決定し、誰にどのように配分するかについて事業年度内に定め、通知する必要があります。
また、決算賞与に関して事前に通知したうえで、その後退職や離職をして支給されなかった従業員がいた場合は、全員分の決算賞与を損金に計上することは認められませんので、注意が必要です。
税務調査では通知の証明が求められることから、通知は「口頭」ではなく、「各人宛の書面」で行う必要があります。そのため、通知した全従業員から通知を受けた旨のサインや印鑑を受領し、保管しておくとよいでしょう。
※参考:国税庁|No.5350 使用人賞与の損金算入時期
2.決算日翌日から数えて1ヶ月以内に支給している
決算賞与は、決定した賞与金額を通知したすべての従業員に対し、当該決算日翌月から起算して1ヶ月以内に支払わなければなりません。
たとえば3月決算法人の場合、翌月の4月末までに、決算賞与の支給対象となる全従業員に対して決算賞与を支払わなければなりません。
税務調査で指摘された際の提出証憑(エビデンス)としては、銀行振込なら入出金明細が証憑となり、現金手渡しの場合は「領収書」が証憑となるため、徴収し保管しておく必要があるでしょう。
支給を通知した日と同年度内に損金経理している
決算賞与の支給においては、「支給額につき、通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること※」が必要になります。
すなわち、損金計上するためには会計上も費用として計上しておく必要があることから、具体的には次のような仕訳をすることになります。
<仕訳例> (借方)賞与 100万円 |(貸方)未払賞与 100万円 |
減価償却費や貸倒引当金等と同様に、決算賞与についても損金経理が要件となります。
※参考:国税庁|決算賞与金の税務上の取扱いについて
企業が決算賞与を支給するメリット
ここまでは、決算賞与についてとかかる税金について、損金として計上する要件などをお伝えしました。決算賞与を支給することで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
法人税の節税対策ができる
企業が決算賞与を支給すると、企業は法人税の節税を行うことができます。
すなわち、上記で解説した要件を満たすと、企業は決算賞与を税務上の損金として計上することができるのです。
具体的には、次のような流れで節税に繋がります。
- 法人税法上の「損金」が増える
- 益金から損金を差し引いた「課税所得」が減る
- 課税所得に法人税率を乗じた後の「法人税額」が減る
先述のとおり、決算賞与は一般に業績に連動して支給されることから、業績がよい場合に大きくなった課税所得を圧縮することで、法人税額を減らすことができるでしょう。
従業員のモチベーションアップに繋がる
一般的に、企業が支給する決算賞与は、従業員のモチベーションアップに繋がるといわれています。
労働者にとって価値のある外的報酬を与えることで「報酬を得るために仕事を頑張ろう」と労働意欲を高める効果があります。
すなわち、企業や部署の業績に連動しやすい決算賞与を支給することで、従業員は自らの報酬を高めるために頑張り、モチベーションに繋がるのです。
また、よりモチベーションを高めるためにも、内部規定等において決算賞与基準を明確にしておくのもよいでしょう。
企業が決算賞与を支給するデメリット
決算賞与を支給するメリットについてふれましたが、デメリットの可能性についてもみていきましょう。
キャッシュフローが悪化する可能性がある
決算賞与には節税効果がありますが、一方でキャッシュフローが悪化するというデメリットもあります。
すなわち、決算賞与の支給はキャッシュアウトフローであり、あくまでキャッシュアウトフローに対して節税効果があるだけです。
また、キャッシュアウトフローの結果、内部留保が減ることは、倒産リスクを引き上げることにもつながります。
内部留保とは、社内に残された資金(現金や預金等)をいいます。内部留保が減ることで、借入金の返済や利息の返済ができなくなると、最悪の場合、倒産してしまうこともあり得るのです。
決算賞与を出せない場合、従業員のモチベーションが低下する恐れがある
決算賞与を支給している企業では、逆に決算賞与を支給できなくなった年があると、従業員のモチベーションを下げてしまう恐れがあります。これは、毎年のように決算賞与をもらえていたことで、従業員の中に「もらえるのが当然」という意識が根付いてしまうからです。
このようなリスクを回避するためには、あらかじめ決算賞与の支給基準を明確化しておくとよいでしょう。
支給基準を明確にしておくことで、業績が支給基準に満たず決算賞与が支給されなかったとしても、従業員には納得感があり、また「翌年は頑張ろう」という意識が芽生える可能性があるからです。
決算賞与についてのまとめ
決算賞与についてお伝えしました。まとめると、以下のようになります。
- 決算賞与の名称は企業によりさまざま
- 決算賞与と通常賞与には、いくつか違いがある
- 決算賞与には税金や社会保険料がかかる
- 決算賞与を損金に計上するには3つの要件がある
- 決算賞与の支給には、メリットとデメリットがある
決算賞与を検討している経営者や経理担当者は、検討前にぜひ全体像を知っておきましょう。企業側が損をしない形で決算賞与を支給できるよう、役立ててください。