ピグマリオン効果とは? ビジネスでの活用方法や注意点を解説
ピグマリオン効果とは、他者から期待されることによって成績が向上する現象のことです。
教育心理学で使用される言葉ですが、ビジネスやマネジメントでも同様の効果があるとされており、人材教育にも活用されています。
本記事では、ビジネスやマネジメントにおけるピグマリオン効果の活用方法や注意点を解説します。
ピグマリオン効果について詳しく知りたいマネジメント層の方や、部下の育成方法にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
ピグマリオン効果とは
ピグマリオン効果とは、教育心理学で使用される言葉で、他者から期待されることによって成績が向上する現象のことをいいます。
教師から期待された生徒が、根拠の有無に関わらず成績を伸ばす効果と考えるとわかりやすいでしょう。逆に、期待されないことで成績が低下する現象を「ゴーレム効果」と呼びます。
企業の人材教育やマネジメントについても同様の効果が期待でき、実際に部下や後輩の育成、モチベーションの向上に活用されています。
ピグマリオン効果の起源と心理学実験の内容
ピグマリオン効果は、どのような背景で生まれたのでしょうか。ここでは、ピグマリオン効果の起源と心理学実験の内容を解説します。
1. ネズミを使った迷路の実験
ピグマリオン効果が初めて確認されたのは、「ネズミを使った迷路実験」だといわれています。
教師は生徒に、個体差のないネズミを渡しましたが、それぞれに「訓練された利口なネズミ」「のろまなネズミ」と伝えました。
その結果、「訓練された利口なネズミ」のほうが優秀な結果を示しました。
2. 小学校での知能テストの実験
成績が優秀な生徒と成績が悪い生徒を集めて、それぞれクラスを作りました。
成績が優秀な生徒を集めたクラスの担任教師には、「あなたのクラスの生徒は成績が悪い」「期待していない」と伝え、反対に、成績が悪い生徒を集めたクラスの担任教師には、「あなたのクラスの生徒は成績が良い」「期待している」と伝えました。
その結果、もともと成績が優秀な生徒たちのクラスの成績は下がり、もともと成績が悪かった生徒たちのクラスの成績は向上しました。
ピグマリオン効果をマネジメントで活かすポイント
ピグマリオン効果をマネジメントで活かすには、いくつかのポイントがあります。部下を抱えている方は、自身が普段行っているマネジメントの方法を振りかえりながら、ポイントを確認してみましょう。
1. 裁量権を与えて、余計な口出しはしない
部下に裁量権を与えて仕事を任せることで、部下は「期待されている」と感じ、ピグマリオン効果が働きやすくなります。
上司は、不慣れな部下が業務を行うことを不安に思い、つい手を差し伸べたくなるものです。しかし、上司が細かな指示を出すことによって、部下は自主的に業務を行う機会が奪われます。それが部下の成長を妨げることになるため、慎むべきといえるでしょう。
裁量権を与える際は、プロジェクトの予算や納期を具体的に示すことが大切です。それにより、部下が安心して仕事に取り組めます。
また、部下に与える業務が本人の能力より著しく高い場合は、やる気をなくす原因になるため、注意が必要です。
2. 部下への期待を言葉にして伝える
上司が自分の気持ちを言葉にして部下に伝えないと、部下は自分がどのように思われているのかわからず、仮に上司が期待していたとしても本人には伝わりません。この傾向は、特に昔気質の上司によく見られます。
部下への期待は、しっかりと言葉にして伝えましょう。その際に、ポジティブな言い回しを心がけることが大切です。部下が不安を感じているようなら、すでにできている部分を褒めて励まします。そして、「あなたならできる」と声をかけると良いでしょう。
部下が困っている時は、相手の主体性を尊重しつつ、さりげなく介入するのがポイントです。
3. 到達可能な目標設定で、モチベーションを維持する
部下の実力とかけ離れた高い目標を設定すると、到達する前にモチベーションが下がってしまう可能性があります。部下の成長を促すには、少し頑張れば到達できる目標を設定し、モチベーションを維持することが大切です。
「このくらいはできるだろう」と期待を込めて高い目標を与える上司もいますが、過剰な期待はかえって部下の重荷になり、モチベーションが下がる原因になります。
また、高い目標を設定したがために部下が独力で到達できず、結局、上司が手を貸す事態になっては逆効果です。相手の実力を見極め、適切な目標設定を行いましょう。
一方的に目標を押し付けるのではなく、本人が「絶対に到達したい」と思えるような目標設定をするのがポイントです。
ピグマリオン効果に再現性はあるのか
ピグマリオン効果は「効果がない」といわれることもあり、再現性について疑問視する声もあります。これには、主に2つの理由があると考えられます。
1つ目は、ピグマリオン効果によって期待される効果が明確化されていないことです。ゴールや評価基準が曖昧なままでは、到達できたかどうかの判断が難しくなります。それにより、「ピグマリオン効果は再現性がない」といわれている可能性があります。
2つ目は、実施方法に問題があるケースです。ピグマリオン効果が現れる前提として、マネジメントする側とされる側のベクトルが合っていることが挙げられます。
そもそも部下が設定されたゴールに否定的な意見を持っていたり、上司がなかなか成果を上げられない部下に対して怒りをぶつけてしまったりすると、ピグマリオン効果の再現性は上がりません。
目標を立てる際は、達成できたかどうかを客観的に判断できるようにしましょう。また、部下が目標に対して納得感を持って取り組めることも、ピグマリオン効果の再現性を高めるうえで重要なポイントです。
ピグマリオン効果を活用する際の注意点
ここでは、ピグマリオン効果を活用する際の注意点を見ていきましょう。ピグマリオン効果を活用する際は、上司と部下が目標に対して共通認識を持ち、ベクトルを合わせて進んでいくことが大切です。
1. 目標への理解が浅いまま進めない
目標は定量的に設定できる、わかりやすいものにしましょう。目標が明確になっていないと、部下は不安になり、十分にやる気も出ません。
また、目標への理解が深まらないまま取り組んでも、良い結果にはつながらないでしょう。上司と部下の双方が、「なぜその目標に取り組むのか」「それによってどのような成果が得られるのか」を正しく理解し、ベクトルを合わせて取り組むことが重要です。
部下が自ら立てた目標であれば、より主体的に取り組む姿勢が生まれます。ゴールと、そこにたどり着く手段が明確であり、さらに上司から期待されることでピグマリオン効果が発揮され、相乗効果につながるでしょう。
2. 目標が部下のインセンティブにつながっていることを確認する
目標を達成することでどのようなインセンティブがあるのか、部下が理解していることも重要です。具体的には、給料が上がる、同僚から褒められるなどの明確なメリットがインセンティブとして挙げられます。
マネジメント側には、インセンティブにつながる公正な評価制度を整え、部下が安心してチャレンジできる環境の整備が求められます。
また、部下が新しいスキルを修得したら、今度はそれを後輩に対して教えるフェーズに移ります。その際も、「教える側」としての新たな目標とインセンティブが必要です。上司は、部下が教える側に到達したことに対して労いの言葉をかけ、次のステップへとともに進んでいきましょう。
3. 褒め過ぎない
人は誰でも、褒められるとモチベーションが高まるものです。しかし、褒められてばかりいると、いつしかそれが当たり前になり、学習効率が上がりにくくなります。
現状に満足してしまえば、それ以上の向上は見込めず、次の行動を起こすことがなくなってしまいます。部下の様子を見ながら、常にコントロールしていくことを心がけましょう。相手の気質を考えながら適切な対応をするのも、マネジメントの大切な役割です。
部下が現状の目標に満足しているようであれば、目標を再設定するタイミングといえます。目標のレベルを上げ、気持ちを新たにすることで、ピグマリオン効果が高まりやすくなるでしょう。
ピグマリオン効果のまとめ
ビジネスやマネジメントにおける、ピグマリオン効果の活用方法や注意点を解説しました。
ピグマリオン効果は、部下のやる気を引き出し、期待以上のパフォーマンスにつながる可能性を秘めています。しかし、活用方法を間違えると、かえってやる気を失う原因になってしまいます。
目標に対して上司と部下が共通の理解を持ち、部下が迷わずゴールに向かっていけるようサポートしましょう。部下を信じて、見守る姿勢を持つことも大切です。
ピグマリオン効果がうまく働かないと感じたら、取り組み方が間違っている可能性があります。原因を探り、早めの軌道修正を心がけましょう。