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文章スキルを磨く 第5回 助詞の「へ」と「に」をどう使い分ける?

著者:   bizocean編集部

文章スキルを磨く 第5回 助詞の「へ」と「に」をどう使い分ける?

ビジネスでも私生活でも、読みやすく分かりやすい文章を書きたいものですね。

この連載では、昨日より少しだけ文筆を上達させるスキルや、日本語の豆知識をお伝えします。

今回は、使い分けに迷う助詞「へ」と「に」について考えてみましょう。


会社へ行く/会社に行く

いきなりですが、質問です。

1.会社行く。

2.会社行く。

この2つを、どう使い分けますか?

「特に使い分けないよ。どちらでもいいんじゃない?」と思うでしょう。

はい、その通りです。両者はほとんど同じ意味で、意識して使い分けることは滅多にありません。

しかし別の言葉である以上、「へ」と「に」には何らかの違いがあるはずです。

国語辞典では、このように説明されています。

「へ」は方向を、「に」は到達点を表す。

つまり、「会社へ行く」は「会社に向かっている」ことを言い、「会社に行く」は「会社に既に着いた」ことを指すのです。

しかし、どちらも会社を目指していることに相違はなく、意味の違いを厳密に意識する必要はありません。


出張へ行く/出張に行く

では、次の例文です。

3.出張行く。

4.出張行く。

もちろん、どちらでも構いません。

しかしここでは、「行く途中」よりも「着いた先での仕事」が重視されますから、どちらかと言えば「出張に行く」のほうがふさわしいように思えます。


旅行へ行く/旅行に行く

次の文は、いかがでしょうか?

5.旅行行く。

6.旅行行く。

これも、どちらでもOKです。目的地を定めた旅なら「旅行に行く」と言うのが一般的でしょう。

一方、「家を出た瞬間から旅は始まっている」と感じる人や、「車窓から富士山を眺めたい」と道中にも目的がある場合や、行程そのものを楽しむ船旅などでは、「旅行へ行く」を使うほうが、心情的にピッタリかもしれません。


駅へ着く/駅に着く

では、次の2つなら、どうでしょうか?

7.駅着く。

8.駅着く。

これはハッキリ違いますよ!「着く」と明言しているのですから、既に到着していますよね。

つまり、「駅に着く」が正しく、「駅へ着く」は誤りなのです。


前へ進め/前に進め

次の例文です。

9.前進め!

10.前進め!

この文では「進む」という動作にスポットが当たっていますから、「方向」を意味する「前へ進め!」のほうがふさわしいでしょう。

それでも「あまり違いがない」と感じる場合は、言葉を重ねて考えてみましょう。

11.前進め!

12.前進め!

こうすれば、「前へ前へ」のほうがしっくり来ることが分かりますね。


台風は北へ向かっている/台風は北に向かっている

では、次の2つはいかがですか?

13.台風は北向かっている。

14.台風は北向かっている。

ここでは、台風の最終的な到達場所(温帯低気圧に変わり、台風として消滅する地点)を問題にしているわけではありません。

それに、そもそも予報の段階で到達点は定まっていません。重要なのは台風の「進路」や「方向」ですから、「台風は北へ向かっている」と書くほうが良さそうです。


こちらへ住んで5年になる/こちらに住んで5年になる

次の例文を見てみましょう。

15.こちら住んで5年になる。

16.こちら住んで5年になる。

15は「移住してきた」、16は「すっかり定住した」というニュアンスですね。


東京へはようついていかん

BOROさんが1979年にリリースしてヒットした曲『大阪で生まれた女』には、こんな歌詞があります。

17.大阪で生まれた 女やさかい 東京は ようついていかん

「東京は」ではなく、「東京は」としたことで、距離感が強調されていますね。


机へ書類を置く/机に書類を置く

では、次の例文はいかがでしょうか?

18.机書類を置く。

19.机書類を置く。

「机へ」は、「持ち運ぶ」という動作に焦点が当たっています。

「机に」は、「置かれた書類」がクローズアップされています。


英語にも「へ」と「に」の使い分けがある

これと同様の使い分けが、英語にもあります。

20.He went for London.

21.He went to London.

どちらの文も「彼はロンドンに行った」ですが、前置詞が異なります。

「for」は方向を表し、「to」は到達点を指します。

つまり、日本語の「へ」と「に」の違いと同じなのです。

ただし、日本語の「へ」と「に」はあまり厳密に区別されないのに対し、英語の「for」と「to」を間違えると、誤用になってしまいます。

「He went to London.」なら既にロンドンに到着しています。

一方、「for」は「~に向かって」という意味を持つ単語で、到着したかどうかは考慮されません。

そのため、「He went for London.」の場合は、1時間前に出発したばかりで、まだ飛行機の中だということもあり得るのです。


山へ登る/山に登る/山を登る

ここで、ちょっと難しいクイズです。次の3つの文を、どう使い分けますか?

22.山登る。

23.山登る。

24.山登る。

22は「山へ向かっている」場合に使います。

まだ山のふもとにいて、登山は開始されていない状態です。

23の「山に登る」は、「到達点としての山」に焦点を当てた表現で、「山の頂上を目指す」ニュアンスがあります。あるいは「到着して、いま頂上にいる」とも考えられます。

24の「山を登る」は、「通過する場所としての山」を指し、頂上を目指しているとは限りません。

「山を登り、谷を下り、平地を歩く」といった、通過点のひとつなのです。

簡単に言えば、「山へ登る」は山の下、「山に登る」は山の上、「山を登る」は山の中にいる、というイメージです。

なお、「山を登る」という文に違和感を覚える人もいるようですが、誤用ではありません。

「ハーケンを使って岩山を登る」「単独行で冬山を登る」「はしごをのぼって屋根に上がる」のように少し長い文で考えると、誤りでないことが分かりますね。


鎌倉時代へ続く時代/鎌倉時代に続く時代

「へ」と「に」を、時間軸で使い分ける場合もあります。

ここで、もっと難しいクイズです。

25.鎌倉時代続くのは何時代?

26.鎌倉時代続くのは何時代?

25は、「と」を補って「鎌倉時代へと続くのは何時代?」と考えれば分かりやすいかもしれません。

答えは「平安時代」です。「○○へ続く」と言う時は、時間的に「○○」以前のものを示します。

26の答えは「室町時代」です。

「○○に続く」と言う場合は、時間的に「○○」以降のものを指すのですね。


知人に会いに新宿に行った

文章を書く上で、もうひとつ大事なポイントがあります。

27.知人会い新宿に行った。

この文では「に」という助詞が3つ続きます。

同じ文言が繰り返されると単調な印象になり、文章作法としてはイマイチなのです。

そこで、

28.知人会うため新宿行った。

と直せば、イマイチ感は解消します。


私たちは、ふだん文法を意識しながら日本語を話しているわけではありません。

しかし文章を書く時には、場面によってはこうしたニュアンスを考慮して、「この場合、『へ』か『に』か、どちらが適切かな?」と少し立ち止まって考えてみてはいかがでしょう?

あなたの文章スキルは、昨日より少しだけ上達するかもしれませんよ。

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